サザエさん―傘(15)

 

雨の中の人探しは、難しいものです。

 

朝日文庫版13巻〔77頁〕・昭和30年

『お父さんの退社時に、突然の雨でした。お父さんは、傘を持っていなかったので、濡れて帰ったのです。ソフト帽とコートから雨水を垂らして玄関に入ると、お母さんが、直ぐに玄関に現れ、「あらこどもがむかえにいったんですよ」と気の毒そうに言いました』

『サザエさんが、レインコートを着て、レインシューズを履き、お母さんが忙しそうに「はやくいってよんどいで」と言うのを背に、コウモリ傘を開いて、玄関を飛び出しました』

『雨水で濡れたレインコートを着たカツオ君が、畳んだコウモリ傘を小脇に挟んで、息せき切って玄関に立っています。玄関に出てきたお母さんが、「お姉さんにあわなかった?」と不審そうに聞くと、カツオ君は「いいや」と答えています』

『ガッカリとくたびれた様な顔をしたサザエさんが、玄関のあがりまちに腰かけて、雨水が流れ落ちるコウモリ傘を横に、前屈みになってレインシューズを脱いでいます。そこへ、カツオ君が、雨に濡れた頭をタオルで拭いながら現われると、「いまお母さんがよびにいったよ」と教えてくれました』

 

突然、雨が降り出した時、手違いがあると、忙しくなります。

 

お母さんが、この忙しさを仕切っているようですから、追ってみました。

 

1.お母さん「カツオ、雨が降り出したわ!今日、お父さんは傘を持って行かなかったから、駅まで迎えに行って」

カツオ君:迎えに行きましたが、お父さんとは、往き交こともなく、駅にもいません。

「少し待ってみるか!」

お父さん:誰も迎えに来ていない。

「待っても誰も来ないだろう。濡れて走って帰るか!」

 

2.お父さんが、雨にぬれて帰ってきました。

 お母さん:「お父さん濡れて走ったの?カツオが迎えにいったわよ!」

お父さん「エエッ!カツオには逢わなかったぞ!何をしているのだろう」

 

3.お母さん「サザエ!夕食の準備、一寸止めて、お父さんが、カツオに会えずに帰って来たの。カツオが駅で待っていると可哀そうだから、早く呼んで来て頂戴」 

サザエさん:「あらそ~お、急いで行ってくるわ」

 

4.その頃、

駅にいたカツオ君:「おかしいな!もう大分長い時間待ったような気がするが、お父さん、まだ帰ってこない。何だか変だ。駅の売店を一寸見ていた時に、通り過ぎたのかな。そうだそうにきまった。もう帰ろう」

カツオ君に知らせに向かったサザエさん:「嫌な雨だわ!夕食の準備もまだ大分残っているわ。急がなくちゃ。あそこの八百屋さんに人参有るかしら、一寸だけ見てみよう。あら!ないわ」

 

5.家に帰り着いたカツオ君を出向会えたお母さん:「カツオ!駄目じゃないの!お父さんは濡れて帰って来たわよ」

それを聞いたカツオ君:「何だって、帰っていたのか。マア!仕方ない」

カツオ君が、出て行ったサザエさんと合わなかったのか不審に思ったお母さん:「カツオ、お姉さんと合わなかった?お父さんはもう帰ってきたから、あんたを呼びに行ったのよ」。

お姉さんと合わなかったカツオ君:「いいや、合わなかったよ」

カツオ君と会えなかったサザエさんが心配になったお母さん;「カツオ!お姉ちゃんが、あんたを探しまわっていたら可哀そうだから、お母さんが、お姉さんを呼びに行ってくるわ!濡れた体は風邪を引かないようによく拭くのよ」

サザエさんを呼びに行く途中、サザエさんが覗きこんでいた八百屋さんに大根があるか、店に入って探したお母さん:「アラないわ!仕方ない駅まで急がなくっちゃ」 

 

.駅まで行って、カツオを探しても見つからないサザエさん:「どこにもいないわ。八百屋さんを、よそ見した時に往き違ったのかしら!もう帰っているに違いない。私も帰ろう」

 

7.サザエさんは、これで終わりと急いで家に帰りました。

濡れたレインシューズを脱いでいるとき、濡れた頭をタオルでふきふき現われたカツオ君:「お姉さん、お母さんが呼びに行ったよ」

これに驚いたサザエさん:「えっ!また呼びに行ったの!切りがないわ。もう私は、夕飯の支度をしないといけないから、もう行かないわ!カツオ!もう一度、お母さんを呼びに行って!確りと前を見て歩くのよ!よそ見したらだめよ!」

 

8.サザエさんは、呼びに来たお母さんと合えていなかったのでした。

 

9.可哀そうなカツオ君は、折角、濡れた頭を拭いたのに、また、雨の中をお母さんを呼びに出かけることになりました。

今度こそ、お母さんを捕まえるんだよ!!

 

この行き違いに傘は、何本必要だったでしょう??

2本あれば、いいようです。勿論、2人で1本の傘を使います。

 

サザエさんが持っている傘。

カツオ君とお母さんが持っていた傘。

サザエさん―傘(14)

 

雨の中、着物を着て、レインシューズを履き、着物の裾を持ち上げ、コウモリ傘をさして歩くのは、どんな気分なのでしょう?

 

朝日文庫版11巻〔62頁〕・昭和28年

『火鉢の傍で、カツオ君がタラちゃんと一緒に絵本を見ていると、お母さんがやって来て「カツオおねえさんにカサをもっておむかえにいってよ」と頼みました。カツオ君は、お母さんを振り返って「ハーイ」と素直に引き受けました』

『カツオ君は、直ぐ、玄関に行き、コウモリ傘を持つと、下駄箱を開き「オットながぐつ!」と言って、下駄箱から長靴を取り出しています。お母さんは「よく気がきくこと」と褒めています』

『カツオ君は、都電(と思います)の停留所で待っていると、電車が来ました。止まった電車から、和服姿で、草履を履いたサザエさんが飛び出して来ました。そんなお姉さんの格好を見て、コウモリ傘とレインシューズを、持ってきていたカツオ君は、唖然としています』

『サザエさんは、草履を、カツオ君が持って来てくれたレインシューズに履き替え、着物の裾を持ち上げると、カツオ君が持ってきた傘をさして、何やら不機嫌な顔をしてスタスタと歩いて行きました。カツオ君は、お姉さんの草履を手にし、悲しげに後をついて行きました』

 

サザエさんは、何も怒ることはないと思います。

カツオ君は、気を利かして、コウモリ傘の外、レインシューズも持ってきてくれたのですから。

 

カツオ君が、レインシューズを持って来てくれなかったら、お洒落着用の草履は、雨にぬれてしまい、台無しになってしまったでしょう。

 

カツオ君は、多分、お姉さんは、洋服を着て外出していると、思っていたのに、電車を降りてくる、和服を着て、草履を履いているお姉さんの姿に、ビックリしたようです。

サザエさんは、怒らずに

「カツオ、ありがとう。レインシューズがあれば、、雨の中を颯爽と着物姿で歩けるわ」

とでもお礼を言うべきです。

 

実際、レインシューズを履いて、着物の裾を持ち上げ、コウモリ傘をさして、雨の中を歩くのは、どんな気分なのでしょう?

 

決して爽快な気分ではないと思いますが、気になります。

サザエさん―傘(13)

 

コウモリ傘は、地面に突けば刺さってしまいます、抜けないかもしれません。

 

朝日文庫版11巻〔38頁〕・昭和28年

『スーツを着た、顔の細い、鼻が高く、チョビヒゲを生やしたオジサンが、カンカン帽を被って、雨も降っていないのに、コウモリ傘を持ち、田舎の川幅の狭い小川の川辺を散歩していました。突然、突風が吹いてきました。その時オジサンは、慌てて両手を頭の方に上げ、カンカン帽を押さえようとしましたが、押さえることができず、帽子は、遠くへ飛んで行きました』

『川を挟んだ野原にいたワカメちゃんが、カンカン帽を拾い上げ、オジサンに大きな声で<拾ったよ>と叫んでいるようです。オジサンは、「ありがとう」と大声で応えています』

『オジサンは、コウモリ傘を地面に突いて、小川を飛び越えました』

『コウモリ傘は、其処の地面に突き刺さり、小川を飛び越えることができたオジサンは、ワカメちゃんと並んで立って、向こう側に残ったままの地面に突き刺さったままのコウモリ傘を見ています』

 

コウモリ傘も使いようですね。

前方へできるだけ遠くに飛ぶ立ち幅跳びも、コウモリ傘を支柱にすれば、より遠くまで飛ぶことができるのでしょう。

 

オジサンは、そう思っていました。

川向うのワカメちゃんが拾ってくれたカンカン帽を取りに行くには、この小川を飛び越えなければならない。

 

これくらいの幅だったらギリギリだなと思ったでしょう。

しかし、チョット危ないな、飛び越えられずに、川にチャポンするかもしれない。

 

そうだ、僕にはコウモリ傘がある。

これを支柱に使えば、この川飛び越えられるゾ!

そう確信が持てたので、コウモリ傘を地面に突き立てて、思いっきり小川を飛び越えることにしました。

思った通り、見事に飛び越えることが出来ました。

多分、見ていたワカメちゃんは、拍手喝采したでしょう。

 

しかし、コウモリ傘が地面に突き刺さり、元の場所に残っています。

 

「お嬢ちゃんありがとう」

とカンカン帽は貰ったものの、コウモリ傘は向こう岸に残っています。

 

傘を向こう岸に残したままでは帰れない!

と思うが、

この川を飛び越えられたのはコウモリ傘を支柱にしたからだ。

向こう岸に残したままの、コウモリ傘が無ければ、この川を飛び越えることができない。

 

オジサンは、どうしたでしょう?

高価なコウモリ傘を残したままでは帰れない。

立ち幅跳びでは、小川を飛び越えられないのは明らかですから、

オジサンは、多分、ワカメちゃんから受け取ったカンカン帽を被り、ズボンの裾を膝上までまくり上げ、

ワカメちゃんに

「カンカン帽拾ってくれた有難う、でも私のコウモリ傘があそこに突き刺さったままだから、川に浸かって川を渡り、傘を持って帰る。ありがとうお嬢ちゃん」

と言って別れた、優しい可哀そうな、紳士のオジサンでした。

 

サザエさん―傘(12)

 

をさして雨に濡れないようにしてあげるアルバイトは、稼げる夏休み限定の学生アルバイトとして、実際にあったのかもしれません。

 

朝日文庫版9巻〔106頁〕・昭和27年

『サザエさんのお父さんは、会社帰りににわか雨に会いました。降りしきる雨の中、ソフト帽を深く被り、スーツの襟を立て、その襟を左手でしっかりと押さえ、襟口から雨水が入らないようにしています。右手にはカバンを持っています。ズボンの裾は膝下まで折り上げています』

『濡れたまま歩いていると、前の方から、青年がコウモリ傘をさして、近づいてきました。そして、傘を差し出すと「おはいんなさい」と声をかけてきました。お父さんは、これは幸いと、傘を差し出した青年の方に、嬉しそうに駆けて行きました』

『青年は、お父さんを傘の中に入れ、「イソノ」の表札が掛かっている門の前まで送ってくれました。お父さんは、フト帽のツバの縁にしたたる雨水を右手で払いながら、「すみませんたすかりました」とお礼を言っています』

『すると、青年は、ポケットから大学生帽を取り出して被ると、それを手で指し示しながら、「すみません夏やすみアルバイトです」と言いました。お父さんは仕方なく、呆れて口をあんぐりと開けたまま、100円札を3枚渡しています』

 

サザエさんのお父さんの会社帰りに、雨が降ってきました。

傘を持っていなかったお父さんは、仕方なく濡れたまま歩いていました。

しかし、濡れたくはありません。

 

困っていると、青年が傘をさして近づいてきて、

「入りませんか?」

 

お父さんは助かったと、入れてもらいました。

青年は、お父さんを家まで送ってくれました。

 

門の前まで送ってくれた青年は、

「夏休みのアルバイト」

だと言って、アルバイト料を請求し、稼いでいたのです。

 

本当に、こんなアルバイトはあったのでしょうか?

 

以前、サザエさんの作品の中に

「大学受験の合格発表を見に来た受験生が合格したのを、胴上げして祝うアルバイト」

が紹介されていました。

このアルバイトは、実際に行われているようです。

 

しかし、傘をさして雨に濡れないようにしてあげるアルバイトは、聞いたことはありません。

稼げる夏休み限定の学生アルバイトとして、実際にあったのかもしれません。

サザエさん―傘(11)

 

傘が無くても、知恵次第で、雨に濡れずに帰ることが出来る。

 

朝日文庫版9巻〔91頁〕・昭和27年

『電車の中です。昔の都電だと思いますが、その中で、会社帰りらしいマスオさんが、カバンを持って吊革を持って立っています。直ぐ傍に、風呂敷に包んだ大きな菓子箱を下げ、コウモリ傘を小脇に挟んだ、ソフト帽を被り紳士風のデカイ鼻の下にチョビヒゲを生やしたオジサンが、車中の車掌さんに「つぎでおります」と言ってキップを買っています。車掌さんは、制服制帽の男の車掌さんで、バッグの中からキップを取り出しハサミで切って、オジサンに渡していました』

『マスオさんは、その紳士に、「わたくしもつぎでおります おもちしましょう」と風呂敷包みの方に手を差し伸べました。オジサンは、「これはすみません」と頭を下げています』

『マスオさんは、カバンを手にしたまま、大きな風呂敷包みを捧げ持ち、車内を歩いています。マスオさんの後を歩きながら、オジサンは、コウモリ傘を小脇に挟み、「ありがとう」とお礼を言っています。マスオさんは「いやいや」と何でもなさそうです』

『2人は電車を降りました。オジサンが、コウモリ傘を開き、その中にマスオさんが大きな風呂敷包みを捧げ持ち、歩いています、マスオさんは、ニッコリ笑顔で、怪訝そうな顔をしたオジサンを振り返っています』

 

雨が降ってきました。

電車に乗っていたマスオさんは、傘を持っていません。

どうしようかと思っていたら、傍に、コウモリ傘を持ち、大きな風呂敷包みを持って乗っている人がいました。

その人が、車掌さんに次で降りると、キップを買っています。

 

次で降りるマスオさんが、その人をよく見ると顔見知りの人で、近所の人です。

傘を持っている!重そうな大きな風呂敷包みを持っている。

 

マスオさんは、咄嗟に知恵を働かしたようです。

 

あの大きな風呂敷包みを持ってあげると、その人の傘の中で濡れずに家に帰れました。

サザエさん―傘(10)

 

下駄の鼻緒を直して貰った上に、傘まで持って行ったら駄目です。

 

朝日文庫版9巻〔58頁〕・昭和27年

『エプロン姿のサザエさんは、買い物帰りににわか雨に会いました。急に降り出した雨に、傘を持っていなかったので、走り出しました。すると、下駄の鼻緒がプツンと切れてしまいました。あら、まずいと思った所を、傘をさした見知らぬ奥さんが見ていました』

『奥さんは、直ぐ、サザエさんのところに駆け寄ると、サザエさんに自分の傘を持たせ、座り込んで下駄の緒を直して呉れています。サザエさんは、片足を片足の上に重ねて立ち、奥さんの傘を、奥さんが雨に濡れないように持ち、「ごしんせつにあいすみません」とお礼を言っています』

『奥さんは、下駄の鼻緒を付け直してくれました。サザエさんは、傘をさして「ありがとうございました」とお礼を言い、奥さんも、いいえと言って頭を下げ、互いに別れていきました』

『その後、奥さんは「あのかさ」と手を差し出してサザエさんを追っかけています。サザエさんは、持っている傘を見てあそうだと赤面しています』

 

また、物忘れの話です。

雨の降る中、親切な他所の奥さんが、切れた下駄の鼻緒を直してくれました。

サザエさんは、傘も持たずに買い物に出かけ、にわか雨にあったのです。

にわか雨を避けようと走り出した。

ところが下駄の鼻緒が切れてしまった。

 

世の中には、親切な人がいます。

そんなサザエさんを見て、走りより、かがみこんで鼻緒を直してくれるんです。

奥さんは、多分こう言ったのでしょう。

「あら奥さん、下駄の緒が切れましたね。この傘を持ってて頂戴、直ぐ治してあげるから」

サザエさんは、そんな奥さんに、

「ごしんせつにあいすみません」

と言い、鼻緒を直してもらうと

「ありがとうございました」

と、お礼は、チャンと言っています。

 

そして、持っていた奥さんの傘を、そのまま持って行こうとしたのです。

 

この傘は、いくら雨が降り続いていても、

「ありがとうございます」

と持ち帰ることは出来ません。

奥さんも、自分の傘を持って行こうとするサザエさんに

「あの傘」

と少し怒っているように見えます。

 

サザエさん!それはあなたの傘ではありません。

傘を持っていなかったことを忘れてはいけません。

 

サザエさん―傘(9)

 

壊れたコウモリ傘は修理しますから、置いて行って下さい。

 

朝日文庫版8巻〔114頁〕・昭和27年

『普段着の上に前掛けをしたサザエさんが、郵便局の方に走っています。郵便局から出てきた、コウモリ傘を持って、着物の上にエプロンをかけた近所の奥さんとすれ違いました。サザエさんは、すれ違った近所の奥さんを振り返り、「カサおきわすれちゃった」と言っています。奥さんは、畳んだ傘を持っていて、「あたしぜったいにおきわすれないわ」と得意げに言っています』

『街の一角にコウモリ傘のしゅうぜん屋さんがあり、店先に、ハッピを着て、丸い大きなダンゴっ鼻の上に縁なしメガネをかけたオジサンが、腰掛けています。近所の奥さんが、持って来たコウモリ傘を突き出して、「これおねがいするわヨ」と近づいてきます。しゅうぜん屋のオジサンは、ニコニコと「ヘイヘイ」と引き受けています』

『近所の奥さんは、しゅうぜん屋さんの店先でオジサンの傍に腰かけ、互いに「ぺちゃくちゃ」とお喋りを始めました。長話になって、オジサンは、キセルを取り出し、煙草をふかしています』

『長話も終わったのか、近所の奥さんは、立ち上がり、「じゃさよなら」と言って帰って行きました。奥さんは、手に、修繕を頼んだコウモリ傘をしっかりと持っていました。オジサンは、唖然としています』

 

近所の奥さんの物忘れは、サザエさんより酷いようです。

サザエさんは、持って帰らねばならないのを忘れた。

近所の奥さんは、持って帰ったらいけないことを忘れた。

 

奥さんは、日頃、

「コウモリ傘を持って行った時は、絶対置き忘れしてはいけない」

と誓っていたのでしょう。

 

昔、コウモリ傘は、頑丈で、大切に使っていました。

 

小さい頃、コウモリ傘は、強く壊れにくいものと理解していました。

番傘も頑丈ですが、強い風に壊されたら、骨がバラバラに解きほぐされたようになってしまいます。

 

傘のしゅうぜん屋さんが、傘を修繕するためだけで店を構えていた時があったようです。

そんな店には、壊れた傘を持って行き、

「おじさん、ここが折れてしまったから修理して」

と頼みます。

[よろしくね]

[ようがす]

傘を置いて帰ります

 

しかし、物忘れが始まったと思っている奥様方は、お喋りに注意しなければなりません。

物忘れに深く入ってしまうと、お喋りを始めた直前のことを、例え、私は物忘れしない人と思っていても、忘れることがあるのです。

こんな物忘れは、年老いるほど酷くなりますが、サザエさんの近所の奥さんは齢の所為だけでなく、性格的にも物忘れする質だったようです。

 

おしゃべり前に済ましたことは、すっかり忘れ、

『それではおじゃまします』

と本来の「置き忘れしない性格」を発揮させ、コウモリ傘を持って

『じゃさよなら』

と帰ってしまったのです。

 

オジサンは、サンザン喋って、商売のことはそっちのけで、コウモリ傘を持って帰った奥さんに呆れています。

 

サザエさん―面白い落ち(174)

 

これは面白い、サザエさんの父さんは、頭の天辺には、一本しか髪の毛が残っていないけど、耳の上には、まだ伸びる髪の毛が残っているので床屋に行くのです。

 

朝日文庫版8巻〔21頁〕・昭和27年

『サザエさんのお父さんが、着物に、羽織りを羽織って、お店の入口にサインポールがグルグル回っている床屋に向かっています』

『お父さんは、お店の中に入りました。お店のオジサンが、一人でお客の頭を散髪しています。ソファには4人の男性が腰掛けて順番を待っていました。お父さんは、座る場所もなく、「こんでるなァ」とぼやいています。それを聞いて、散髪中のお店のおオジサンが振り返って、マスクを取ると、お父さんをしみじみと見ています。ソファで待っている4人の男性は、待ちくたびれたような堅い表情です』

『オジサンは、散髪中の手も休めずに、お父さんの方に首を伸ばすと、「なぐさみでさんぱつするのはまたにしてくださいな」と頼んでいます。ソファで待っている4人の男性は、少しだけ、表情を緩めています』

『お父さんは、顔を赤らめてお店の入口から出てきました。お父さんは顔を赤くし悲しそうな表情です』

 

サザエさんのお父さんが、何となく可哀そうで、面白い出来事でした。

お父さんは、ハゲ頭の天辺に一本しか髪の毛が残っていないのですから、鏡を見て、伸びすぎて、垂れていて、ミットもないと思えば、鏡を見ながら、伸びすぎただけ、ハサミでチョンときれば済むと思います。

 

しかし、頭の天辺には1本しかないハゲ頭は、皆さんもご存じのように、耳の上数センチの頭の周りには、髪の毛はまだ残っていることが多いのです。

サザエさんのお父さんがそうです。

この髪の毛も伸びます。

そうなると、頭の上のお皿がデカイ河童のようになってしまいますから、耳の周りの伸びた髪の毛をキレイに調髪してもらわないといけません。

 

この調髪は、天辺の伸びた髪の毛を少しだけハサミで切るのとは比べ物にならないほど難しいのです。

自分で、鏡を見て切る、と言うわけにはゆきません。

やはり床屋さんにお願いしなければなりません。

お店が混雑していない時は、オジサンは

「いらっしゃい、耳の上の毛が大分伸びましたね。綺麗に整えてサッパリいたしましょう。天辺の一本も少し伸びすぎていますから、調髪しておきましょう」

と気持ちよく散髪くれるのですけれど、今日は混んでいました。

オジサンは

「このお店は、私が一人でやっているから、この人達を済ますのは相当時間が掛かるゾ」

と思っていた。

 

そんな時、ハゲ頭の刈るところもあまりないお客は、冷やかしにしか見えないのです。

オジサンは、

「失礼とは思うんですけど、なぐさみ散髪するのは、またにしてくれないかな」

と思う。

 

(ここから床屋のオジサンの言い分)

そんなハゲ頭の客が来て

「今日は混むなぁ」

と言うものだから、

混んでイライラしていた私は、

「なぐさみでさんぱつするのはまたにしてくださいな」

と、刈る所がほとんどないお客のハゲ頭を見ていたら

つい失礼なことを言ってしまいました。

 

言われたお客さんは、可哀そうでした。

顔を赤くして、帰って行きました。

(大変申し訳ない事をしてしまいました)

サザエさん―傘(8)

 

雨が激しく降った時、コウモリ傘は、長靴と一緒に使うものです。

 

朝日文庫版6巻〔103頁〕・昭和26年

『マスオさんが、電車を降ると、雨がザアザアと振っていました。マスオさんは、電車を降りて、傘をさし、長靴を踏みしめて歩いています。マスオさんのあとから電車を降りたサラリーマンは、ズボンのスソを膝の直ぐ下まで上げています。彼には、奥さんが傘を持って迎えに来ていました』

『マスオさんは、左手にカバンを下げ、右手でコウモリ傘をさし、黒い長靴を履いて、雨の中を颯爽と歩いています。マスオさんの数歩あとの離れたところをズボンのスソを上げたサラリーマンと、着物を着て裾を上げた奥さんが、仲良く傘をさして歩いています。奥さんがサラリーマンに、「ナガグツがあるといいわね」と言うとサラリーマンは、「かいたいもんだね」と可哀そうな顔をして言いました』

『マスオさんは、家に帰り着きました。傘を畳むと玄関に入り、「ただいまー」と言うと、サザエさんが迎えに出て「たいへんでしたわね」とねぎらっています』

『玄関に降り立ったサザエさんが、マスオさんが脱いだ長靴を逆さにすると、長靴からザーッと雨水が流れ出ました。サザエさんは、驚いて「はやく新しいのが買いたいわねエ!」と悲しそうです。マスオさんは、濡れた足を雑巾で、悲しそうに拭いています』

 

雨が激しく降った時、コウモリ傘は、長靴と一緒に使うものです。

マスオさんは、コウモリ傘と長靴を使っていました。

しかし、マスオさんは、見栄でコウモリ傘と長靴を使っていたようです。

 

古い話です。昭和25年の頃。

長靴は必要であっても、容易に手に入らない、買うことができない時代だったのでしょう。

長靴が買えないと、雨の中、ズボンのスソを上げて雨の中歩いていました。

こんな時、マスオさんは、コウモリ傘と長靴を使っていました。

 

ところが、マスオさんの長靴は、雨水が入りこむ、何処が破れた長靴でした。

 

新しく買いたくても、容易に買えなかったようです。

今は、欲しい時すぐ買えるでしょう。

サザエさん―傘(7)

 

カツオ君は、傘を持っていて、皆に頼りにされました。

 

朝日文庫版6巻〔86頁〕・昭和26年

『カツオ君の教室です。外の生徒は誰もいない教室で、カツオ君は先生の前で首をうな垂れて立っています。肥満の先生が、カツオ君に「もうかえってよろしい」と言っています』

『カツオ君は、学童帽を被り、ランドセルを背負って、校舎の出口まで行くと、下駄箱の前で、学童帽を被り、ランドセルを背負った3人の友達がニコニコ顔て待っていました。カツオ君の顔を見ると「カツオくんまっていたよ」と声を揃えて言いました。カツオ君は、先生に叱られている間に皆帰ったと思っていたので、自分を待つてくれている3人の友達にビックリしました』

『カツオ君がコウモリ傘を脇に抑えて持ち、出口に行くと、3人の友達は、カツオ君を取り囲むように近づいてきました。カツオ君は、友達を見回して「まっててくれたの!ありがとおう」とニコニコしています

『カツオ君が、外に出て、コウモリ傘を開くと、3人の友達は、「みんなかさがないんだ」と言ってカツオ君の開い傘の中に入ってきました』

 

皆傘が無いんだ!

持っていない訳ではなく、雨は降らないものと思って持ってきていなかったのです。

そんな中で、カツオ君だけ傘を持って来ていたのですね!

 

雨が降り出して、帰れない3人は、

「叱られて、まだ居残りされているカツオ君が、傘持ってきているよ。もうソロソロ許されるだろう。皆で彼の傘に入って帰ろうよ」

と待つことになったのでしょう。

 

そんなことなのに、カツオ君は

「僕が先生に叱られたから、心配して待っていてくれたのだ」

と勘違いしたのですね。

 

3人の友達に囲まれて家に帰れて嬉しかったのではないでしょうか?