先日、大久保正陽調教師(元)が逝去された。ナリタブライアン(南井克己)をクラシック三冠+有馬記念馬に育てた名伯楽だ。
また、引退を決めた福永祐一騎手が父洋一と共に、お世話になった方でもある。
私が忘れられない管理馬は、エリモジョージだ。千鳥ではないが、稀代の癖馬と呼ばれるほど、”クセがすごい”馬だった。気まぐれジョージと呼ばれ、440キロながら、斤量や馬場状態に関係なく、走る時は走り、走らない時は全く走らない、天才福永洋一をしても、「本番でスタートを切るまでわからない」と言わしめた馬だった。
とにかく、気分良く逃げれば、決してバテない馬で、その気分が調教師も騎手にもわからなかったのだ。
特に印象に残っているレースが二つある。
一つ目は、76年の天皇賞春は12番人気で迎えた。淀の3000メートル(芝不良)を、コクサイプリンス(井高淳一)やロングホーク(武邦彦)、イシノアラシ(加賀武見)を従え、3馬身ほどの差をつけ、淡々と逃げた。それでも4コーナーではロングホークに1馬身に詰め寄られる。が、福永の鞭に応え、二の足を繰り出し、猛追してきたロングホークを首差退けた。
二つ目は、78年の宝塚記念(二番人気)。共に三強と呼ばれたグリーングラス(岡部幸雄)ホクトボーイ(久保敏文)をあざ笑うように、10馬身以上の差をつけ、大逃げを図った。これがまんまと嵌り、4馬身差で勝ったのだ。まさに痛快な競馬だった。
これら2レースは、天才と気まぐれが、見事に共鳴し合い、まさに、人馬一体となった、福永洋一騎手にも、エリモジョージにとっても会心のレースだった。
その福永洋一騎手も、落馬事故で復活ならずも、息子の祐一が跡を継いだ。大久保正陽は息子龍志が調教師となり、孫友雅は騎手になった。
一方のエリモジョージは、引退式で池添兼雄を振り落とすという曲者ぶりを発揮した。その後、種牡馬となり、三代前がハイペリオンとネアルコという良血だったが、目立った産駒は出せず、引退した。
主戦騎手池添兼雄は、その後調教師となり今も現役で、長男謙一は騎手、次男学は同じく調教師としてそれぞれ活躍中だ。
ライバルだったロングホークの主戦騎手武邦彦(その後調教師から解説者)の三男は言わずと知れた豊、四男幸四郎は騎手から調教師という、父と同じ道を辿っている。
ブラッドスポーツと呼ばれる競馬だが、それは馬だけではないことがわかる。