Nuts(ナッツ)
─ ポーカーにおける、各局面において予想される最高手(ベストハンド)のこと─



2009年 4月 

(渋谷、スクランブル交差点)

この人混み、僕にはただの雑踏にしか見えない。

彼はそこにいた。何かを見つけ、人混みをすり抜けるように彼女の横につけると軽く口を開いた。

3倍速で動いているような、いや、この街をスケートリンクにしてしまったような淀みのない動き。

二言、三言、彼が話すと突然彼女が笑った。一体なにが起きているのだろう?

仲の良いカップルにしか見えない。
これがナンパ?

ものの2~3分で彼は彼女と店に消えていった。

僕には今起きていることが理解できなかった。

ものの5分前まで彼と彼女は

・・・・・・
見ず知らずの他人だったのだ。






ー僕の名前は須藤悠人(はると)

この春、25歳になった。
社会人になり3年。

平日は会社と家の往復、休みの日は大学時代の友人とも疎遠になり一人で過ごすことが多くなっていた。


大学時代に付き合っていた同い年の彼女とは半年前に別れた。

恥ずかしい話だが、安心しきっていた。付き合って3年半、このまま行けば来年あたり結婚するのかなあと思っていた矢先、別れを告げられた。


「悠人は優しい人だけど、ずっと違う気がしてて。お互いの為だと思う。」


別れてすぐに彼氏が出来たと共通の友人から噂で聞いた。年上の彼らしい。

信じたくないことだが…アイツは長い間僕と二股をかけていたのだった。



僕がここに立っているのはアイツのせいだ─そんな風に考え、目の前で女を連れた彼に、アイツの新しい男の姿を重ねていた。








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吸血鬼の店で学生時代の友人と飲み。彼らは非ナンパ師だ。


23:15~
解散となり駅へ向かう。
1人、2人、いい女が通り過ぎる。
今日は声をかけちゃダメだ…帰るんだ…

─3人目、身体が勝手に動いてしまった。


目鼻立ちのスッキリした娘、地元が福岡との事で共通点アリ。
軽く和み連れ出し確定。

しかし、駅からいつものテリトリーと逆に歩いてきてしまいお店が全くわからない。

歩き回り3軒回るも、どの店も終わっている。

「もういいよ、なんかみじめだし。」

この一言はめちゃくちゃショックだった。せっかくテンションがあがった所をエスコートできずに台無しにしてしまった。

番ゲをして別れても良かったが、見苦しいのでアッサリ別れた。

こんな事はナンパ史上初めて。
本当にタイミングが悪かったとしかいえないが、反省すべき材料はあった。

すぐにフィードバックして次に生かせば、失敗が生きてくる。




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こんな事を言うと驚かれるかもしれないが、根本的に俺は女が嫌いだった。

特にキスをしている間のウットリした顔。あの醜い顔を見る度に寂しくなる。

笑顔や可愛い素振りは大好きだ。
なぜなら化粧をしているから。

しかし、化粧を剥いだ後の生々しさだけは慣れることが出来ない。

昔、身体の関係で縛り優越感に浸っていた時期があった。

誰にでも手を出し、自分さえ良ければいいと本当に考えていた。

子供も三度おろした。
金も借りた。友情も捨てた。
心を食って生きてきた。

この一年、俺はセックスレスに等しい。もはや女との共通言語を忘れてしまったかのようだ。

今は好きも嫌いも特に感じてはいない。人生に少しでも触れる喜びと、
一から築ける能力にただ感謝している。

「茶色い瞳の奥にある黒いところで
僕は 君の顔を見てるんだ

ゆっくり静かに足を広げてゆくのは
一体どうしてなんだい?」







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