【純愛と狂気の中で】

   なかなかヘビーで刺激の強い物語。
   中村 文則さんの2004年発表作で、初期の作品に当たります。

   大学生である主人公の男は最愛の恋人を事故で失い、彼女の死体から奪った手の指一本を瓶に入れて持ち歩き、喪失感を埋めるかのように狂気的な結末へと進んでいきます。
   男は虚言癖であり、恋人が未だ生きているかのように死を隠し続け、自分が何者かということも破滅的になっていきます。

   中村さんの小説はテーマは暗いですが淡々とした文章で読みやすく、恐ろしいほどに物語に引き込まれます。
   この小説は一人称で書かれていますが、怖いのは、主人公の彼に共感できる場面が多いことです。
   外から見たら異常と思われる性質が、克明にわかりやすく表現されていて、どんな人でも少しは共感できる点があるのではないでしょうか。

   この物語で描かれるものは「純愛」か「狂気」か。
   恐らく両方でしょう。
   その中でもがいて生まれる青白い熱が、得体の知れない大きな存在として感じられ、胸に迫るものがあります。
   ここまで体験として、何かに揺さぶられると感じる小説は少ないと思います。