近所にある花屋さんの前を通ると、店頭のバケツに入れられた水仙の花が目に留まった。
3本ずつ輪ゴムでとめられ、少し寂しそうに見えた。
お手頃な価格だったので、金魚すくいの金魚のようにビニール袋に入れてもらい、家に持ち帰った。
花瓶に活けると早速、部屋中に水仙の香りが漂って来た。
水仙の甘い香りは、ちょっと柑橘系を思わす。
花被片が黄色いので、ラッパスイセンだろうか。
水仙に関する逸話で有名なものは、ギリシャ神話の「ナルキッソス」の話であろう。
森の妖精エコーは、女神へーラーの怒りを買い、相手の言葉しか繰り返せない罰を受けた。
そんなエコーが、美少年のナルキッソスに恋をした。
しかし、ナルキッソスの言葉を繰り返すことしかできないエコーを、ナルキッソスは相手にしなかった。
エコーは悲しみのあまり、声だけが残って森の木霊になってしまった。
そしてナルキッソスは、水面に映る我が姿に見とれ、自分だけしか愛せなくなった。
そんなナルキッソスに罰を与えるため、女神ネメシスは彼を水仙の姿に変えてしまった。
なんだか不気味にも映る話なのだが、水仙のことを学名「ナルキッソス」「ナルシス」と言うのはこの逸話からきている。
そういえば、花屋さんの店頭にあった水仙は、目を惹くにも関わらず、擬人化すればどこか居心地が悪そうに横を向いたり、よそ見をしたり、落ち着きなさげに感じた。
だから気になって、手に取ってしまったのだろうか。
もしかしたら、水仙と化したナルキッソスは、いまだに木霊となったエコーの声を聴き続けているのかもしれない。