久しぶりに近所の神社に伺う。

 

 この神社は住宅街の中にありながら、鬱蒼とした木々が生い茂り、ちょっとした秘境のようになっている。

 

 鳥居をくぐると、左右には耳の欠けた狛犬ならぬ狛狐がいる。

 拝殿は古くて小さいが、由緒ありそうな場所なので、気分転換にたまに行くのである。

 

 すると、社務所から女性の宮司さん(この神社の娘さん)が飛び出してきた。

 そして宮司宅に向かうと、玄関先で、

 

「キツネ水が出た! キツネ水が出た」

 

 と叫んだ。

 

(キツネ水? なんだ、それは)

 

 後で宮司さんに会ったら、キツネ水について話を聞いてみようと思い、拝殿に向かった。

 しかし、宮司さんは家の中から出てこなかったので、キツネ水について伺うことが出来なかった。

 

 もしかしたら、秋田県にある涙を流す木彫のマリア像のように、社務所に安置されたキツネ像から水が流れ出るのだろうか、とか社務所の壁からいきなり水が吹き出すのではないか、などと妄想してみた。

 

 家に帰って、キツネ水について調べてみたが、「怪異・妖怪伝承データベース」には載っていない。民間伝承的なものではないのだろうか。

 すると、「まんが日本昔ばなし」の中のいちエピソードに、「キツネ水」の話があった。

 

 昔、熊本のある村では水の便が悪く、村人はたいそう困っていた。

 その村には、笛のうまい伊助という男が住んでいた。

 ある日、伊助が笛を吹いていると、そこに1匹の狐が現れた。

 狐は「今度、息子が嫁をもらうので、嫁入りの時にその笛を吹いてくれないか」と頼んできた。

 伊助は快くその申し出に応じ、キツネの結婚式で笛を披露した。

 式で出された酒に酔った伊助が目を覚ますと、そこは彼の家であった。

 喉が渇いたので水甕の蓋を開けると、甕の水面にキツネの姿が映っていた。

 そしてキツネは、山中の水が出る場所を教えてくれる。

 伊助が教えられた場所を掘ると、そこから水が溢れ出した。

 それから、その村では水に困ることがなく作物が育ち、干ばつでも水が干上がることがなかった……。

 

 という話が、熊本県の婢方に伝わっているそうだ。

 

 この話と神社のキツネ水とは関連があるのだろうか。

 

 ただ、当日は朝から雨が降っていたので、それと関係があるのかもしれない。