長かった雨が終わり、ようやく秋らしい気分になってきた。

 

 少しずつ夜の時間が長くなり、露が冷えて朝晩は肌寒くなる。

 

 そんな頃を、二十四節気で「寒露」というらしいが、いまがまさにその季節である。

 

 

 昨晩は寒かったので、外出から戻った後は久しぶりの日本酒を熱燗でいただいた。

 

 お湯の湧いた鍋に、錫製のちろりを入れて日本酒を注ぐ。

 

 このちろりは30年以上前、北海道に旅したとき、寂れた商店街にあった骨董店で手に入れたものだ。

 

 へこみがあり表面も擦り切れ、かなり年季の入ったものであるのは間違いなかった。

 

 それは、すでに何十年と使い込まれてきたもののように思えた。

 

 しかしウェーブの利いた把手が気に入り、数百円だかで購入したものであった。

 

 それを今でも使っている。

 

 

 もしかしたら、どこかの炭鉱町にあった居酒屋が閉業し、そこから流れてきたものかもしれない、そんなことを想像してみた。

 

 それは自分の生まれる前から、多くの人の体と心を温めてきたものに違いない。

 

 そんな気がして、仕方なかった。

 

 

 温まった甘口の日本酒は、ちょうどいい塩梅の喉ごし。

 

 自分は、田舎町に向かう峠の湧き水を口にした旅の香具師のように、「ああ、甘露甘露」と心で唱えてみた。