ねえミッキー


アヒル野郎のお見舞いにいってきたよ

腕から細いチューブを出していてね 少しかわいそうだったな

僕がいくと 憎まれ口を叩いたけど なにを言っているのかは わからなかった

舌が痺れて うまく話すことができないみたいだった

それから僕はアヒルの彼女と一緒に 敷地内の食堂で簡単な食事をしたよ

彼女は ほとほとアヒルの野郎に愛想を尽かしているみたいだった

でもねミッキー

僕は彼女に 別れるべきじゃないよ って言ったんだ

おかしいだろ? この前僕は 彼女と寝たいと思っていたのに

彼女は不思議そうな顔をして「あたしと寝たくないの?」って言ったんだ

昼間のね そうだな 三時過ぎの病院で そんな会話ってないよね

僕は正直に言ったよ きみとは寝たい でも アヒルとは別れるべきじゃない


「あなた それって都合が良すぎるわよ」

「そうかな でも本心だ」

「それって 寝ることだけが目的で あたしのことなんて必要ないみたい」

「そういうことじゃないよ 誰だっていいわけじゃない」

「嘘よ あなたがゴルフ場にいったら グリーンで下着を脱ぎそうだもの」

「いや違う そんなことはないさ きみが いいんだ」

「でも あたしじゃなくてもいいんでしょう?」


僕は黙ってしまった さらに彼女は こんなことも言ったよ


「あたしが誰かさんに似てるから 寝たいんでしょ?」


ねえミッキー これは嘘じゃないんだ 本当に僕は

そんなことを意識していなかった

だけどね 確かに言われてみれば 彼女は 僕が失った あの子に

少しだけ 似てた


「いいわよ 寝てあげる」


彼女はそう言った 僕たちはコロンビアの近くのホテルで 寝た

その後で彼女はスリップを着ながら言ったんだ


「あなたが言うのなら あたしは彼と別れないことにするわ」


「だって あなたのことが好きだもの だから言われた通りにするわ」


「いいこでしょ?」


「ガアガア」


彼女はそう言って笑った アヒルの真似をして ガアガアって 笑ったんだ

ねえ ミッキー


仕事の合間に仮眠を取ろうと思ったんだけど

いつも僕はぐっすり寝てしまうんだ

危機感が足りないんだろうか よくないことだよね


危機感と言えば 例のアヒルのことだけど うん

彼女と別れ話になって手首を切ったそうだよ

ねえ 手首を切るってどんな気分なんだろう

手首を切る人は 死にたいから切るんじゃない

そんな言い方をよくするよね

発作的に 衝動的に切ってしまうんだろうか

アヒルは睡眠薬をすり鉢で粉々にしてから

ヨーグルトに混ぜてたっぷり食べていたらしいよ


きみはしたことはないだろうけど 薬物を大量摂取するとね

胃の洗浄をしなければいけないんだ これが結構つらい

僕はね たった一度だけしたことがあるよ


僕はね 手首は切らなかった そのかわり ドクターに

出されていた薬を冬がくるリスみたいに ポケットの中にたくさんためてね

それで ウイスキーと一緒に飲んだんだ


覚えているだろう? あの子が死んだちょうど三ヵ月後だよ

僕はあの日に あらゆるものを失ってしまった気がするんだ

それからの僕は 自分が自分じゃないみたいに思える

ねえミッキー きみもあの子のことは好きでいてくれただろ?

結婚はいつなんだ なんてからかっていたものね


僕は恋人も失って そしてきみも失おうとしている


今日はコロンビアで少し飲んだあと 例の火山を見ながら

少し一人でゆっくりとしていたんだ


その時に どこかの店からにぎやかなバンドの音楽がきこえてきてね

あの子が好きだった曲を演奏していたよ


僕は泣かなかった


ねえミッキー 果たしてこれは 成長なのかい? 

ねえミッキー


僕らが「人魚」って呼んでいた女の子がいただろ? ほら 交通事故で両脚を無くした彼女さ

駅前のスーパーで買い物をしていたら 彼女と偶然出会ったんだ

ねえ 彼女ったらどうしていたと思う?

ベイビーを抱えて車椅子で買い物していたのさ!


僕らが彼女と知り合った時は まだきれいな両脚がきちんとそろっていたよね

クラスでも人気で 僕も(それにきみだって!)彼女に恋をしたものだよ

だけど事故以来 彼女は塞ぎこんでしまって 学校にもこなくなった

そうしているうちに僕たちは 彼女のことを忘れてしまった


彼女がここに住んでるなんて驚きだ! 話しかけようとしたけど

なんて声をかけていいか わからなかったから それはしないことにしたよ

彼女は昔と変わりなく 美しかったよ それに 行儀の良さそうな義足だってつけてた

なにも知らないやつが彼女を見たら なんで車椅子なんかに乗っているんだろう

って思うだろうね 人魚は相変わらずセクシーだったんだから

彼女はパーティーのためか フォークを二十個ほど買ってたよ

でも もう人魚は 二度と 自分の脚で 歩くことも 立つこともできないんだ


だけどね 本当に幸せそうだった


僕には両脚があるけど こんなに不幸せだっていうのにね


(ミッキー きみ 本当は彼女とデートしたことあるんだろう?

だってほら 僕は知ってるぜ おそろいのキーホルダーを

つけてたものね コカコーラのやつだ

僕はそういうのを見つけるのが上手いんだ)