ねえミッキー 酷く久しぶりだね

きみは相変わらず元気かい? 僕は正直取り乱しているよ


アリスをこの街で見掛けてから 本当にきがきじゃない
あるいは ただのみまちがいだったのかもなんてね そう思い込もうとした
だけどねミッキー

僕はアリスのことを間違えたりしない
彼女は 本物の アリス だ


最近たくさん酒を飲むようになったよ
家にいるニセアリスと顔を合わせるのが辛くてね
僕がアリスなんて名前をつけたけど とても後悔してるよ

アリスを見てから 一度もニセアリスとは寝てない
それが 僕が彼女にできる唯一の誠実な態度だからさ

ニセアリスはアヒルを失い 僕のことも失うことになるだろう



僕は眠っている彼女に すまない と短く言ったんだ
そしたら彼女は 目を閉じたまま

いいのよ 誰も悪くないもの

といった
起きてたんだね



彼女は優しい 彼女の世界には悪者がいない
だから僕はなにか悪者をつくらなくてはいけないと思った

彼女も 僕も そいつを憎めばいいんだ

例えばピーナッツ
例えば高級な傘
例えばラジオ

なんでもいいんだ

なんでも構わないんだ
ねえミッキー

仕事が終わって 僕は家に帰ろうとしたんだ

ようやくビールにもありつけてね 朝から少し酔って歩いていた

そうしたらね シャッターの閉まったブックショップの前で 誰とすれちがったと思う?


アリス だよ



あのアリスじゃない



本物のアリスさ



ねえミッキー

僕はいま街の小さなホテルに泊まって仕事をしてる
うちにいるとアリスがいて仕事にならないからね 少し一人になるのも悪くないよ

ビリーホリディをiPodで聴きながら仕事だ
もう少し賑やかな曲も持ってくればよかったかな

このホテルは火山をみにきた観光客(物好きめ!)でやかましいよ
あのタワーホテルではなくて 汚くて狭いここを選ぶ連中だ
マナーのほどは想像がつくだろう?


僕はビールを我慢して 優等生みたいに仕事をしてる
出版社の連中にも もう迷惑はかけたくないしね

ねえミッキー

僕はまともな人間に近付いてるみたいだ
めでたいことだろ? ジョークにもならないがね


火山から煙が出てる
この部屋の窓からよく見える
雨はやんだままだ
住人はうさんくさげに空を見ながら レインコートをゴミ袋につっこんでる


きっと風向きが変わったんだよ

これから吹く風は 良い風なのか 悪い風なのか
ミッキー きみにはわかるかい?