その日は、どうしていいか分からないまま、
そのまま眠ることができた。
朝、家族には何も話さずに普通に会社へ出勤した。
こんなことがあったと誰かに言っただろうか?
よく憶えていない。
兎に角冴えない、何をやるにも脂汗が出てくるような、
不安感につきまとわれていた。
会議中には落ち着かず、昨晩の息苦しさがよみがえる。
手に汗がでて、溜息と深呼吸の混ざったような深い息を繰り返す。
たまらずトイレに立つ。
こんなこと誰にもいえない。
今までやっていた仕事ができない。
今日は定時まで何とかやり過ごすんだ。
ただそれだけで時間が過ぎるのを待つ。
何も手につかない、何も集中できない。何も頭に入ってこない。
ただ怯えている。
一体何に怯えているのか。
自分が自分でないような。
自分をコントロールできなくなるあの感覚が怖い。
少し気をゆるせば、あの不安の淵が迫ってきて
手招きする。そちらへは絶対に行かない。
深い溜息をして、心臓がひとつドンとなれば一瞬気が戻る。
その日からの自分の癖になった。それをやらなければ不安が止まらなかったのだ。
パソコンの画面を見ていても画面が小さくなっていく。
やっぱり自分が変になっている。
昨日の再来が怖い。
定時になり、頼まれる職場を振り払うようにして会社を飛び出し、
かかり付けの病院へ向かった。
その医者は十年来の内科医だった。私の体のことをよく知っている医者だった。
昨日からの状態を説明して出てきた回答は、
それはパニックという症状だよ。
”パニック映画”とか”パニクる”とは、普通に使う言葉であるが、
そのとき聞いたパニックという言葉は、今までのものとは別物として自分の中に
入ってきた。
経験した者にとってほんとに恐ろしい言葉なのである。
そして、あの恐ろしい事が今夜も起こってしまうのでしょうか。
どうしたら防げるのでしょうかと聞くと、
これを飲めば大丈夫だからと、薬をくれた、
家内にはこんな事は起こりませんかと聞くと、
大丈夫だよ。
と答えてくれた。