薄い蛍光灯の明かり、油と喧噪の匂い。
改札口から流れ出る雑踏から少し外れた場所に立っている女。
男が小走りに駆けよる。
「ごめん、のぶ子ちゃん、お待たせしちゃって」
「遅いわよ、好男さん。私、もう6分も待っちゃったわよ」
「ごめん、ごめん。今日は僕がおごるからさ」
怒っている風でもない女、顔の半分で笑いながら、
残りの半分で怒って見せる。
男も口だけは申し訳なさそうにゆがめているもののその上の部分では
やっぱり笑っている。
誰も見ているわけでもないのに、ちょっと痛い小芝居。小学生の学芸会に
紛れ込んだ特別出演の先生のてい
「今日はどこの店に食べに行こうか」
小首を傾げるのぶ子、しばらく考えた後に言う。
「老齢基礎年金なんかいいわね。私けっこう好きなんだ。振替加算もあるし、
支給の繰り上げや繰下げなんかもあって、助かるのよね」
困った顔をする好男
「でも今日は、あれじゃないかな。確か定休日だった気がするよ。
それに配偶者と子に係る加算額もないし」
「どうしても国民年金法がイイって言うなら付加年金なんかどうかな。
支給事由も老齢で同じだし」
「うーん、でも付加年金って第1号被保険者の独自給付でしょ、それに付加給付って言ったら、
やっぱり老齢基礎年金とセットじゃないと」
「じゃあ、たまには気分を変えて老齢厚生年金なんて、どうかな。けっこうボリュームあるよ。
特別支給とか原則支給とか。それに老齢厚生年金だったら配偶者と子に係る加給年金もあるしね」
「ごめんなさい、今日のお昼が雇用保険給付だったから、それはちょっと調整しないといけないのよね」
「それと、老齢厚生年金は報酬比例とか定額部分とか経過的加算額で年金額を計算するのが
ちょっとめんどくさいわ」
「そうだね、僕も本当のことを言うと、在職老齢年金がちょっと苦手なんだ。
だいたい被保険者でもない70歳以上の者の年金も調整するなんさ」
「少し、歩きながら考えましょうか。まだ時間も早いことだし」
好男の返事を待つことなく、歩き出すのぶ子。あわてて後を追う好男。
安っぽい七夕飾り取り残された電信柱をかすめ、賑やかしい、店の並びに
二人は歩いていく。