さて、どんな制限をかけてくるか❓
日本経済新聞より。
認知症新薬誕生、
介護から医療へ
待ち受ける
3つの課題
認知症は病気なのか、それとも深刻な加齢現象なのか。実はいまでも議論がわかれるところだ。実際、「患者」という言葉を使うことに抵抗を示す人も少なくない。たとえ診断がついてもその後、決め手となる治療法がなく、介護の対象になってしまう。
米バイオジェンとエーザイが共同開発した新薬を米食品医薬品局(FDA)が承認した。このニュースはアルツハイマー型認知症に対し、医学の力を借りて医療が正面から向き合う時代にようやく入ったことを意味する。
アルツハイマー型は医学的には神経変性疾患の一種。その医薬品の開発は抗がん剤以上に困難な領域とされる。
認知機能を失った状態を実験動物で忠実に再現するのが難しく、実際、開発途中の試験でその効果を確認するのも至難だった。
過去十数年近く、いくつものメガファーマ(巨大製薬企業)が挑戦したがことごとく失敗、現代医学によって解決策を見つけるのは不可能ではないかともいわれてきた。
バイオジェンとエーザイはそこに光明をもたらした。米当局がアルツハイマー型認知症の治療薬を承認するのは実に18年ぶりという。
新薬はバイオ医薬品の代表格である抗体医薬というタイプで、1カ月に1回のペースで認知症患者に点滴投与し、脳内に沈着するたんぱく質「アミロイドベータ」を取り除く。これによって、「今がいつ」で「ここがどこ」かが分からなくなる認知機能の低下に待ったをかけるという。
🔵治療対象、発症前後患者に限定の見通し
もちろんこれでアルツハイマー型を中心とする認知症が一気に「不治の病」でなくなると考えるのは早計だ。
課題は多い。
まず、FDAは今回、新薬の対象者について言及していない。ただ、審査・承認の前提になった臨床試験(治験)が軽度認知障害(MCI)と早期段階の患者だったことを考えると、発症前後の人たち向けに使われることになるだろう。
症状が進行し、徘徊(はいかい)したり攻撃的になったりするといった周辺症状が表れた人にも効果が期待できるものではない。
また、いったん死滅した脳細胞が復活することもない。認知症の根治薬では決してないということである。
FDAは、販売後にも検証試験を実施しデータを提出することを企業側に求めた。場合によっては承認を取り消す可能性も示唆した。
米国では患者団体から画期的な認知症薬への期待とニーズが大きかった。長年、治療法がないなか、ベネフィット(利益)とリスクをてんびんにかけ、承認に踏み切ったともいえる。
🔵年間約610万円の治療費
次に注目すべきなのは新薬の値段だ。バイオジェンは7日、年間治療費が5万6000㌦(約610万円)になると公表した。米国は民間保険が主流で、この高額医療を実際に受けられるかどうかは加入する保険会社が判断する。金額からして一部の高所得者層になる見通しで「医療格差」がまた広がる。
国内に目を転じると、今後承認された場合、医療財政を逼迫する大きな要因になるのは間違いない。日本では医薬品承認に合わせて原則として薬価が決まり、保険収載され国民皆保険の対象となる。認知症の高齢者数は推計およそ600万人(2020年)で、ほかにMCIも400万人ほどいる(12年)。
仮に50万人が治療対象になったとすると、その医療費は単純計算では3兆円にものぼる。
🔵診断手法にもハードル
もう一つ、MCIや初期の認知症をどう診断するかも今後の課題だ。画像技術の進歩によってアミロイドベータの沈着状態を計測できるようになったが、検査費用は1回20万~30万円ぐらいかかる。血液検査のような簡便な方法で確定診断がつかないと、患者を絞り込むのも難しい。
一方で、認知症にかかる社会的コストを考えると、介護費が医療費の3倍強になるとの試算もある。
介護から医療に軸足が移ることで、介護現場の負担も大きく軽減されるだろう。バイオジェンとエーザイは国内については20年12月に承認申請済み。米国のケースとは違い通常審査のため、結論が出るのは22年以降になる。
高齢化社会をリードする日本は世界でも有数の「認知症先進国」。新薬登場によって今後医療としてどう向き合っていくかをきちんと今から決めておく必要がある。