毎日新聞さまより、
「価値の低い医療」
とのお言葉を頂きました。
いやはや、
認知症専門医の先生方の
ご健闘を、
只々、
祈るばかりです。
当院は、
自立喪失回避、健康寿命の延伸
に
邁進してまいります。
毎日新聞より。
価値の低い医療
認知症高齢患者
の
幻覚や妄想
向精神薬、
効果は限定的
副作用深刻 ストレス除去が優先
インターネットなどメディアを通じて医療情報が手に入れやすくなる中、エビデンス(医学的証拠)に基づく確かな医療を賢く選択することが求められている。
控えた方が良いとされる治療や薬の服用など価値の低い医療行為について、3回にわたって報告する。
1回目は、認知症の高齢患者に表れやすい幻覚や妄想、不安などへの対処法について取り上げる。
東京都内に住む認知症の女性(76)は、家族にあらぬ妄想を訴えたり、興奮したりするようになったため、かかりつけの主治医から抗精神病薬を出された。
服用後、症状は治まったが、表情はうつろで、眠気を訴え、体の動きが鈍くなった。
食事も取らなくなり、心配した家族が都内の大学病院の精神科に相談した。
診断結果は
「抗精神病薬の副作用による影響」。
とりあえず服用の中断を優先することになった。
しばらくすると女性は笑顔を取り戻し、表情も明るくなるなど症状が改善していった。
認知症を患うお年寄りが増えている。
厚生労働省の研究班によると、2012年の患者数は462万人。25年には700万人、5人に1人になると推計されている。
認知症患者の介護で家族や介護者の大きな負担になっているのが「行動・心理症状」(BPSD)だ。
幻覚や妄想、抑うつ、不安、不眠など症状はさまざま。
認知症の進行によって9割以上の患者に何らかの症状が出るとされ、人によって表れ方はまるで違う。
BPSDを治めようと、抗精神病薬や抗不安薬など向精神薬を使うケースは少なくない。
だが、効果は限定的で、東京慈恵会医大の繁田雅弘教授(精神医学)は「薬を使わず、まずはBPSDの原因を突き止めて解決することが重要だ」と強調する。
厚労省研究班が作成したガイドライン(指針)では、BPSDの治療手順として最優先に「薬を使わない方法」を挙げている。
BPSDは認知症患者の環境の変化やストレスなどが背景にあることが多く、原因を突き止めて取り除かなければ根本的な解決につながらないからだ。
過剰医療をなくそうと70以上もの専門学会が参加している米国のキャンペーン「Choosing Wisely(賢い選択)」でも、認知症の専門である米国老年医学会が「(治療法として)向精神薬を初めから選んではいけない」と注意を呼び掛けている。
死亡率上昇も
向精神薬を使う治療法が選択肢となるのは、それでもBPSDが改善しない場合だ。
幻覚や妄想、抑うつ症状、不安など症状に応じて薬を使い分けなければならず、筑波大の水上勝義教授(精神医学)は「薬の危険性を慎重に見極めながら、安全性に細心の注意を払う必要がある」と訴える。
日本老年医学会などの指針によると、BPSDのうち、幻覚や妄想など精神症状や、興奮や攻撃性には効果が期待できる抗精神病薬があるが、その効果は大きいとはいえないという。
一方、
認知症患者が抗精神病薬を服用すると、死亡率が1・6~1・7倍高くなるとの報告がある。
転倒や骨折の危険性もあるという。
そのため指針では、
使う場合でも少量から始め、
少しずつ増やすよう求めている。
特に注意すべきは、向精神薬を使う期間だ。
日本老年精神医学会の研究チームによる認知症患者約1万人を対象にした調査によると、BPSDのため抗精神病薬を新たに服用した患者は、開始11~24週で死亡率が上がり、服用しなかった患者の3・9倍になった。
「BPSDが非薬物療法で改善せず、向精神薬を使う場合でも、服用開始から3~4カ月で減量が可能か検討すべきだ」と水上教授。
BPSDの治療における抗精神病薬は、国の承認を受けていない「適応外」として使われる。
その意味でも極めて慎重に取り扱わねばならず、米食品医薬品局(FDA)は05年、抗精神病薬の死亡リスクに関する情報を添付文書に記載するよう製薬企業に要請した。
その前後で、イギリスや米国では抗精神病薬の処方が減ったが、日本では変化がみられなかった。
精神科が専門でない医師が処方箋を出すケースが少なくないとみられる。
水上教授は「BPSDの治療のため抗精神病薬が必要な患者は、専門の精神科医に紹介するか、かかりつけの主治医が精神科医と協力して治療に当たることが求められる」と指摘する。
症状数値化、ケアに活用 減薬の効果も
向精神薬になるべく頼らず、BPSDに対処しようとする試みも出てきた。
有料老人ホームを運営する「SOMPOケアネクスト」(東京都品川区)もその一つ。
BPSDの表れ方を数値で表し、ケアの改善につなげる取り組みを2年ほど前から実践している。
スウェーデンの先行事例を参考に開発。BPSDの出た認知症の入所者に対し、妄想や攻撃性、介護拒否など17項目について、頻度(0~4点)と深刻度(1~3点)を職員が点数化し、それらを掛け合わせる。
点数の高さからどの症状に注意すべきかを職員間で共有し、ケアのあり方の見直しに生かしている。
取り組みを始めてから入所者が使う向精神薬が減った事例も出てきた。
開発に携わった岩瀬美菜子さんは「入居者の困っている原因が分からないまま薬を使うと、かえってケアが難しくなるケースがある」と話す。
東京都医学総合研究所のチームも、BPSDの頻度や重症度を数値やグラフで「見える化」するプログラムを開発した。
東京都医学総合研究所が開発したプログラムのパソコン表示画面
訪問介護など45事業所の認知症の283人を対象に検証すると、プログラムを使ったグループは半年後に症状が大幅に改善したが、そうでないグループはほとんど変化しなかった。
今年度、都内6区市町村でプログラムを導入する予定だ。
在宅や施設で介護サービスを受ける認知症患者の約2割が、抗精神病薬を使用しているとの報告もある。
開発者の中西三春主席研究員(精神保健看護学)は「薬物療法も、患者の体を動かなくする身体拘束の一種。減薬につなげていくため、主治医らとの連携が重要だ」と指摘する。