演技と認知症介護は似ている | フレイルも認知症も減らない日本

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ウイルスと戦争の世紀で人生を終えることになるとは・・・まさに第三次世界大戦前夜の状況ですからね しかも本日は日本の金融市場はトリプル安

介護は長時間の厳しい演技と
同義ですか・・・。



朝日新聞より。



認知症の妻の言葉、
正さず「演技」
で受け入れて・・・


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昨年12月の朝、岡山市に住む岡田忠雄(ただお)さん(90)が、自宅ベッドで横になる妻郁子(いくこ)さん(90)に顔を拭くタオルを渡しながら尋ねた。

「30歳です」。

郁子さんは認知症だ。

忠雄さんが「ははは。生年月日は?」と笑顔で続けると「大正12年」。「よう覚えとる」とほめると、郁子さんは穏やかな表情になった。

夫妻はともに大正15年生まれ。

忠雄さんは「以前なら90歳だろ、と言ってケンカになった。でも、今は正さない。だから平静でいられる」。

亡くなったきょうだいが今も生きているという郁子さんに話をあわせる時も。

忠雄さんは、それを「演技」と呼ぶ。

郁子さんは介護の必要度が最も高い要介護5。夫妻に子どもはおらず、約40年前に建てた一軒家に2人で暮らす。

デイサービスなどを利用する日以外は、忠雄さんが自宅で介護している。

異変は約15年前から。

タンス貯金を忠雄さんに
盗まれたと疑った。

7、8年前から徘徊(はいかい)
が始まり、夫を認識できなくなった。

「家に帰る」と言う郁子さんに、
「ここが家!わしが主人だろ」
と怒鳴った。

しかし妻は首を振った。

ボケババア。
殺してやろうかと身がふるへた――。

長年つける日記に、激しい言葉が目立った。忠雄さんが体を壊して入院することもあり、体力も追いつめられていった。

2年半前、ある新聞記事に目をとめた。

認知症の人の言動を正さず、「演技」で受け入れることを体験する講座のお知らせ。

参加して「大事な考えだ」と思ったが、
講師は介護福祉士。
接する時間が
限られる仕事
だからできるんだ」。

家族の介護には通用しない、と思った。

だがある夜、郁子さんが「帰る」と言った時、「タクシーを呼ばないかん」と電話するふりをしてみた。

「じゃあ待ってる」。

さらに忠雄さんが「弟さんが迎えにくるって」と伝えると落ち着いた。

演じても郁子さんの頑固な言動でケンカになる時もあったが、忠雄さんは演技をして話をあわせれば、お互い穏やかに過ごせることを少しずつ実感していった。

 
「私も郁子もパニックにならなくて済む」。日記から後ろ向きな言葉は消えていった。ただ、夫を忘れてしまったかのような妻を前に、悲しさは残る。

「介護は終わりが見えない。つらさを紛らわせるために『演技』は必要。だいぶ、救われています」


■認知症介護と演技は似ている


忠雄さんが参加した体験型講座は、当時、岡山県内の特別養護老人ホームで働いていた介護福祉士の菅原直樹さん(33)が開いたものだ。

菅原さんは大卒後、アルバイトをしながら、平田オリザさん主宰の劇団「青年団」などで舞台俳優として活動。

結婚を機に介護の求人を見た時、高校時代に一緒に暮らした認知症の祖母を思い出した。

「タンスの中に人がいる。食事をあげたい」。そんな言動を聞いては、どう接すればいいのか迷った。仕事を通じて、あの悩みと向き合おうと思った。

介護施設で働き始めて、
演技と認知症介護は似ていると感じた。

菅原さんを「息子」や「夫」と思い込む認知症のお年寄りに話をあわせると、笑顔になった。

「言動を正せばストレスを与えてしまう。逆に相手の世界を受け入れて、時には別人になる。これは『演技』だと思った」と話す。

認知症介護では、
相手の感情に寄り添うことが大切、
とされる。

しかし、「介護の専門知識がない人は、どう接すればいいのか、悩むこともある。『演技』を通じて、接し方をわかりやすく伝えたい」

2年半前から体験型講座を開催。

今は岡山県奈義町の一般社団法人の職員として町づくりに関わりつつ、東京や大阪など各地を回る。介護施設からの依頼も入る。

講座では認知症の人の役や介護者役を演じ、とっぴな言動を受け入れてくれた時、否定された時、それぞれの気持ちを実感してもらう。

大半の人が、受け入れてくれた時の方が「心地良い」と答える。

菅原さんは言う。

認知症が進んでも、感情は皆さんと同じく残っている。認知症の人の言葉や行動を演技で受け入れることで、介護する人も穏やかに過ごせることを知ってほしい


■取材後記

 日常生活で「演技」という言葉は、ウソをついたり、本音を隠したり、といった意味合いで使われることもある。だが、菅原さんの活動を取材し、認知症の人と穏やかに過ごすためのヒントになりえる言葉だと思った。

 相手の言動を否定しない言葉遣い。そこから生み出される優しい表情や声。「演じる」という考え方は、相手の感情に寄り添うための実践的なアドバイスだと思った。

 もちろん演技で解決できない問題もある。岡田さんのように葛藤や悩みを抱えながら向き合っている人もいる。介護生活は長い。それゆえに家族の負担を少しでも軽くしたい、と願う菅原さんの思いを感じた。