バスのフロントガラスに雨が激しく当たり、ワイパーが全身でそれに抗っていた。秀男はいつものようにバスの最前列の席に座って雨がフロントガラスから弾き飛ばされるのを見ていた。風も強くなってきたようだった。
秀男は、バスから降りるとそこかしこのくぼみにできた水溜りを避けて歩いた。水島くんと二人ならこんな雨の中でも肩を組みながらズカズカと水溜りを踏みつけて大騒ぎするだろうと思うと自然と楽しくなった。こんな雨の日は、校庭には出られないから、今日は水島くんは何をして遊んでくれるのだろうか等と思いながら秀男は沸き上がる微笑みを隠しもせず、ワクワクしながら校門をくぐった。
教室に入ると水島くんは既に登校して自分の席の近くに立っていた。秀男はいつもそうするように駆けて行って、右腕を水島くんの肩に回してちょっと弾みながら肩を組もうとした。
その時だった。水島くんの長い足が水平に回されて秀男の腹にくい込んだ。秀男はお腹を抱えてその場に転げこんでしまった。
秀男は訳がわからなくて呆然としていた。お腹の鈍い痛みよりも胸の底がキリキリと傷んだ。涙に溢れる目で水島くんを見上げていた。
水島くんは今までに見せたこともないような乾いた表情で
「お前、もう、ええかげん、うるさいんじゃ」
と言って顔をそむけた。
やがて先生が入ってきて1時限めの授業が始まったが、秀男はただただ、悲しくて教科書で顔を覆って涙を流し続けながらも、時折、水島くんの方を伺った。水島くんも教科書から顔を上げることはなかった。
1時限めの授業が終わる頃、突然、水島くんのお母さんがやってきて、先生と何かを話した後で水島くんを家に連れて帰ってしまった。
秀男は自分の席でただただ石のように固まっていた。
