2021年10月12日午前3時30頃、甲府市在住の井上盛司さん(55宅に侵入、同50分までの間に、就寝中だった井上さんと妻の章恵さんに鉈で切りつけ、ナイフで刺して失血死させた。さらに次女の頭をたたき約1週間のけがを負わせた。そして、ライターオイルをまい火を点け、住宅を全焼させた。住宅の焼け跡から井上さん夫婦のが遺体で見つかったこの事件は容疑者となった少年が少年法改正後に初めて特定少年として起訴された上に実名報道された

 

山梨県警が防犯カメラの映像をもとに、少年を特定して行方を追っていたところ、12日夜甲府市の藤裕喜(19出頭してきた。遠藤は被害者の井上さん夫婦の長女と同じ山梨県立中央高校の定時制に通う生徒だった。遠藤は長女に一方的に好意を抱いたが、「思い通りにならないので侵入しようと思った」「見つかれば家族全員を殺害するつもりだった」遠藤供述し、一家を殺害するつもりで、刃物も複数持参し、ライターオイル用意するなど計画性があった。

 

井上さんの長女は女優の広瀬すずに似た目鼻立ちのハッキリした少女との証言もあるほど可愛らしい少女で、地元でも評判の少女だった。彼女は将棋部や演劇サークルに所属し生徒会役員も務めていたその容姿と性格の良さから好意を寄せる同級生男子はを絶たなかったという。遠藤は生徒会長を務めており、長女と接点があった。遠藤はこの頃から急に髪型をツーブロックに刈り上げ、眉や髪型に気を遣い始めた。長女が「かっこいいね」褒めることもあったという。

 

ここまでなら、思春期の少年の女性に対する淡い想いであろうが、遠藤は学生らしからぬ行動に出る。長女は友人に「ティファニーなどのブランド品を勝手に家に送り付けてくる人がいて困っている」と話していいた。この長女のいう『困った人』とは、もちろん遠藤のことであった。おそらくそうした遠藤の行為に異常性を感じた長女が遠藤と距離を取り始めたことは想像に固くない。そして、遠藤にとって恋焦がれる長女との唯一の連絡手段だったLINEをブロックされ、明確に拒否された。

 

事件の前の10月ふたりが通う中央高校の学園祭があり、生徒会を含む学園祭実行委員会に先生たちから菓子のうまい棒が配られた。この際、遠藤が自分のうまい棒を長女にプレゼントした。だが、理由は分からないが、長女から「いらない」突き返されてしったことから、その後それまで皆勤だった遠藤は学校に来なくなっ警察の取り調べに遠藤は長女に「LINEをブロックされてムカついた」と供述しており、これが引き金になって犯行に及んだと見られる

 

遠藤は小学年生の頃から数年間は両親と山梨県中央市の一軒家で過ごし、兄弟はおらずひとりっ子として育った。この家の表札は「渡辺」であり、これは遠藤の父親の姓であった。ところが、201011月、電線工事関係の仕事をしていた父親が配管工事会社の資材置き場にあった中古の家庭用給湯器を台盗み、窃盗罪で逮捕されたこのことが原因となり、2013年に遠藤の両親は離婚し、母親と遠藤が家を出ていった。こうしたころから、遠藤は不登校気味になった

 

母親と遠藤はその後、甲府市で暮らし始めた。引っ越してから1年後に遠藤裕喜の母親が再婚し、母子は裕福な生活を送るようになる。当時の同級生らからは「小学生なのに、i-phoneを持っていて使いこなしていた」「i-phoneでパズドラをしていた」「新しい父親がビリヤードのキューを買ってくれたと言っていた」など、母親再婚後の裕福な暮らしぶりが窺える証言がある。そして、遠藤が年生の時には、異父誕生。この頃には、犯罪者の息子と後ろ指もさされなくなっていた。

 

小学校を卒業した遠藤は甲府市内の公立中学校に入学したが、目立たない生徒だった。中学校入学後、遠藤はソフトテニス部に入ったが、顧問の教師から厳しく叱責されたことが原因で間もなく退部している。学校自体も年生の夏にあった林間学校に参加して以降、不登校になってしまった。そのため中学の同級生はまったく遠藤のことを覚えておらず、マスコミの取材に対しても「誰のことか分からない」「全然、印象に残ってない」というような類の回答しか返ってこなかったという

 

遠藤は高校に進むと中学時代とは打って代わり明るくなった。そして、2021年の月末に行われた生徒会選挙で会長に立候補し、在校生による投票の結果、生徒会長に選出されている。遠藤は無遅刻無欠席皆勤で授業態度も真面目であったため、教師からは問題のある生徒とは思われていなかった。だが、授業中はびっしりノートをとっているのに、成績が悪く、テストはいつも赤点ギリギリだった。担任は「理解力が乏しいのかな?」という印象を受けた話している。

 

また高校の同級生によると遠藤は生徒会長ではあったが奇行が目立ちブツブツ独り言を呟いていたかと思えば、いきなり腹を抱え大笑することがあり、何がそんなにおかしいの?尋ねると、「思い出し笑いだよ」と答えていたという。別の同級生ニヤニヤしながら花壇の砂をずっとイジており、何を考えているのかさっぱり分からず不気味だった」と証言している。さらに、「学園祭実行委員会が催された際、遠藤はひとりでダーツのような折り紙を黙々と織っていた」という証言がある

 

 

甲府市放火事件で実名報道され話題になった遠藤の生い立ちは父が窃盗で逮捕され、母親がその後再婚して異父妹があり裕福ではあったが、不登校を経て定時制高校に通っていた。そして、思いを寄せる少女に”ラインをブロックされた”ことに逆上し、少女の両親を殺害したうえ、家に放火している。小学校時代の卒業文集にあげた好きなアニメ「デスノート」がどこか遠藤の人格に関わっているようにも思える。この犯行には、生い立ちの闇が深く関わっているといえそうだ。