溝井裕一氏の『動物園の文化史』(勉誠出版,2014年)の第7章ベルリンの〈ジュラシックパーク〉を読む。ナチスがヨーロッパバイソンの再繁殖を計画していた話が出てきた。もう1年前になるがシャーマの本に関連してブログで書いた。

 

 

 

 

 ジュラシックパークは映画だけの話ではなかった。ベルリン動物園の園長ルッツ・ヘックらは太古の「ゲルマン的自然」を甦らせようと言う目論んだ。ヘックはヘルマン・ゲーリンクと親交を持ってゲーリングの支援のもと「絶滅動物復元計画」を進めていく。自然を支配し管理する。生態系も彼らの支配の対象。1924年当時ヨーロッパバイソンは絶滅寸前28頭に減少していた。そこでヘックらは、ヨーロッパバイソンと近縁種のアメリカバイソンと交配を続けて「混血バイソン」を作った。しかしビャウォヴィエジャの森にいた貴重な純血の個体はヘックらの杜撰な管理で栄養不足や病気で弱ったり死んだりした。またゲーリングの狩で殺された。さらにこの森にヒグマを放つこともした。そしてこの森で約200人のポーランド人が殺されたと見られる。(p270)

 

この短い要約だけでは、この本を汲み尽くすことはできないが「動物園は,それぞれの時代の自然観だけでなく政治理念からも自由ではいられない。」(p251)とある。

動物園についての考察は読んだことがなかったので,ナチスの目論見の恐ろしさを感じたし,なかなか興味深かった。とはいえ今現在ならナチスを,その思想を批判できるけれど,当時それができただろうか?

つまり,今疑いもなく考えていることも,現在の政治理念や支配的な考え方,差別感から無縁ではいられないと言う事を肝に銘じておきたい。当たり前と思っていることが実はそうではないという事を。古くから,動物の虐待や見世物,さらには人間の見世物まであったわけだが,メディアやテクノロジーが発達すると,生態系まで改造しようなどと,大掛かりにまたあからさまにも,そして同時に人間の虐殺も動物の虐殺も行われていくということを思うと暗澹たる気持ちになる。この本はそんなことをいろいろと考えさせてくれた。

 

 

Wisents (Bison bonasus) in wood Almindingen on island Bornholm photo by 

ThomasLendt

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