購読している北海道新聞には、中高生向けの記事がある。

今朝の新聞の記事に共感したので、転載します。

 

<生きる力に わたしたちの授業>教育社会学者 本田由紀さん

 全国の中学生に、さまざまな分野で活躍する人が語る「授業」の「社会」の先生は、教育社会学者で東大教授の本田由紀さん。「社会科は世の中の仕組みを知り、より良くするための教科。日本を持続させるには多様性や異質性を尊重する国にする必要がある」と話す。

■仕組み知り社会と向き合う

 小学生の時は変な行動で受けをねらういたずらっ子でした。集合写真で変顔をするような。好きな漫画は「がきデカ」。下品で変な格好の「少年警察官」が「死刑!」なんて言う作品です。良識をひっくり返すのが面白かった。当時から反権力的だったかもしれない。

 

 両親が教員で漫画をきらう母の目を盗んで夢中になりました。高松市の実家周辺は田んぼで娯楽がなく、本だけはたくさん買ってもらえたから児童文学も読みあさった。

 中学校に進むと型にはめられる感じで、受験勉強の圧力を意識しました。学校には反発が強く、授業中もノートや机に漫画を描いていました。

 「何で授業を聞かないの」と若い女性の先生に言われ「成績はいいから放っておいて」と反論すると先生が泣いてしまった。扱いづらい子でしたが、「机に描くなよ」という感じで紙をすっと置いてくれた年配の男性の先生もいて、見守ってもらえていたのでしょう。

 卓球部に入ったものの、クラスでは友達に違和感があり、徐々にぽつんと一人に。つらかったけど、理由が分からなかった。みっともなくても何とかやってきたのは、その時々で好きなものがあったからかもしれない。

 

 高校入学後、模擬試験でたまたま香川県内1位になり、私はさらにおかしくなります。成績を下げられないと思い、夜中にガリ勉をして学校では寝ていました。一方で友達と話しても何を言うのが正解か、笑うのが正解か、と常に「正解」を意識し、感情がわかず、雑談もできなくなりました。

 母が医者を勧めて理系コースを選んだけど、やはり文系へ、と思い、記憶機能が壊れるほど日本史や世界史の知識を詰め込みました。ロボットのように覚え、自分が何者か分からないような状態で東大に合格しました。

 順調な経歴に見えるでしょうが、自己肯定感は低いまま。でも、高校の美術部で文化祭のポスターを描くなど活躍したと同窓会で言われ、自己評価と違って意外でした。

 

 大学卒業のころは女子の就職が厳しく、研究の道を選びました。教育を軸に日本を調べ、「教育、仕事、家族」の関係の変化を研究しています。

 社会科は世の中の仕組みを知り、より良い世の中に変えるための教科です。地理も歴史も公民も、大人になると「知っておくべきだった」と思う大事なことが教科書に詰まっている。暗記科目だと思うでしょうが、世の中に出て経験すると分かります。例えば「民主主義」や「三権分立」は人類の歩みの中で必要だからつくられ、皆さんは社会の仕組みでできていると言っていいほどです。

 

 私は小さい時から違和感を覚えてきました。やがて自分だけでなく、世の中がおかしいと考えるようになり、それが生きる力になりました。

 今の日本は人口が減り、少子化なのに子どもの自殺もいじめや不登校も増えている。貧困率は高く、男女格差もすごく大きい。でも、他国のあり方から別の可能性を探れるというのが私の研究です。そんなことを考える基礎を学ぶのが社会科。社会科に限らず、学ぶこと、知ることは生きるための基本になります。

 

 戦後の日本は学校を出て会社に勤め、家族を養うという循環がうまくいき、発展したように見えました。でも、実は長時間労働で無理を重ねただけで、それが崩れた今は厳しい。日本を持続させるには過去を美化せず、新しい手法で変える必要がある。私はそのための提案をしています。

 

 いい大学から大企業に進めば勝ちという価値観でなく、多様性や異質性を尊重し、意外性や自由を認め、変わった人でも大丈夫だと受け入れる国にする必要があります。

 私の原動力は怒り。何かに怒りをぶつける間は自分を追い込みすぎないからでもありますが、今の日本がおかしいと思う理由を説明し、より良く暮らせる国にしたい。

 

 皆さんもやりたいことを続けてほしいし、いやなことはなぜいやなのか考えてほしい。学校がつらいなら休んでいいから、外に出ていろいろ試そう。とにかく「つらくても死なないで」と言いたい。私もいまだに失った感情を回復する途中ですが、生きていれば回復の道があることに懸けませんか、と伝えたいです。

 

 <略歴>ほんだ・ゆき 1964年徳島市生まれ、高松市育ち。東大教育学部卒、東大で博士号を取得。日本労働研究機構(現在は労働政策研究・研修機構)を経て東大教育学研究科教授。同科の学校教育高度化・効果検証センター長。「『日本』ってどんな国?」「『東大卒』の研究」などの本を書いている。