--前回までのあらすじ--
「科学の進歩が人類を破滅に追い込んでしまった」。解明不可能とされていた最後の遺伝子解明に成功し、「神」の制裁を受けることとなってしまった人類。
科学者の勝手な研究のおかげで俺は“死”を向かえる羽目となってしまった。俺ばかりでない。人類全てが“死”を迎える。こんな最後が人類の進化に待ち受けていようとは・・・“死”の理由がはっきりとしたのだった。


Season1-AM1:15-地球滅亡まで残り22時間45分 「俺」

AM1:13

俺には名前がない。現在30歳。
そして過去の記憶がない。戸籍すらない。
自分自身の生い立ちが全くわからないのだ。

分かっていることは、

俺はコードネームで呼ばれているということ。コードネームは「フォックス」。
俺が購入したわけではないのだが、住むためのマンションを持っているということ。
マンションの所有者名義は当然俺だ。
「山田太郎」という名義の銀行口座を持っており、自分の記憶ある時点から毎月100万円が
振り込まれてくるということ。
携帯電話を持っており、コードネームらしいが「ウルフ」という人物から定期連絡が来る。

この4点だけが俺が自分でわかっている事だ。


俺は特に仕事をしているわけではない。
いや、「ウルフ」から仕事はするな。と命令されている。
その代わり生活費として毎月100万を渡されているようなものだ。この100万円をどう使おうが全くの自由なのだ。

しかし俺には過去の記憶がないからだろうか。欲求というものがない。
物欲も性欲もギャンブル欲も特にない。だから100万円も全く必要がないのだ。
使うものといえば、飯代とタバコ代ぐらいだ。酒は飲まない。

記憶がないにも関わらず、タバコだけは好きなのだ。
好きな銘柄も決まっている。“ショートホープ”だけだ。それ以外はうけつけない。
このタバコだけは、俺の記憶の始まった時点から自然と口にしていたのを覚えている。何か俺の過去に結びつくものがあるのだろうか?そんなことを考えながらタバコを吸っているのだ。


実は俺は仕事をするなとウルフから命令されているのだが、ウルフの仕事だけは“命令”としてやらなくてはならない。仕事は“狙撃手”だ。つまり“ヒットマン”だ。
政治家から、実業家、ジャンルを問わずウルフに命令された人物を狙撃している。
年間に3名ほど狙撃する程度だ。
狙撃の腕は100発100中。狙った獲物は決して外さない。狙撃はいつも標的から1.5Km、時には2Km離れた位置からの狙撃だ。決して警察などに捕まることは無い。
標的からの距離があるので、狙撃地点を割り出される間に俺はもう遠く離れてしまうからだ。


愛用の狙撃用ライフルは “HSプレシジョンのスナイパーライフル”を改造したものだ。
http://www.fareast-gun.co.jp/column/images/sniper/fbicutmodel.jpgオリジナルの2倍近く性能があるものだ。
実弾は http://taka25th.cathand.com/hs8b.jpg


ウルフからの数ヶ月に1度の狙撃命令だけをただロボットのようにこなすだけが俺の仕事だ。
俺には感情がないからだろうか。
人を殺めているという罪悪感は全くない。俺は単なるロボットと同じなのだ。

これが俺の全てであるが、普段は街中で人々の喧騒をタバコをふかしながら眺めて毎日を送っている。

ただ!感情がないのではあるが、一つだけ納得できないことがある。

それは俺は誰から生まれ、どのようにして生きてきたのか。
そして何故、ウルフなる人物から命令を受けているのか。
俺は何の為に存在しているのか。

この3つだ。これを考えると非常に苛立つのだ!そして怒りを覚えるのだ。

恐らく誰かは俺の抱く疑問を解決できる人物がいる。

俺に生きている目的があるとすれば、その人物と接触するこだけである。ウルフと繋がっていればいつかわかってくるのではないか?そんな理由から俺はウルフに従っている。

ところがだ!
「人類は滅ぶ」という昨日の首相会見だ!
俺の唯一、生きる目的としてやってきたここ数年を全て無駄にしようという話だ!

感情がないにせよ、自分のルーツ、存在意義がわからなないまま死ぬということだけはどうしても許せないのだ!

AM1:20

人類滅亡まで残り22時間40分。
あと22時間ちょっとの時間で俺は俺の目的を達成できるのだろうか・・・
TO BE CONTINUE
--前回までのあらすじ-
全くもって突然の宣告に愕然とした俺だが、以外にも「もう駄目なのか」と死を覚悟した途端になぜか冷静に「人間」の真髄を色々考え、そして理解していた。普段全くそんな哲学的なことを考えた事はなかったがこんな状況が真剣にそんな事を考えさせていた。しかし、なぜ24時間後に「死にます」と宣告されなければならないのだ!怒りを覚えた俺であった。理由は何なんだ!死ぬとわかっていても理由ぐらい知りたいものだ。怒りと共にいろいろ想像だけが駆け巡るのだった。


Season1-AM0:45-地球滅亡まで残り23時間15分 「消滅の理由」

中央線ホームにいる時だった。

俺は携帯でTVを見ていた。0:45過ぎだろうか。
各局の特別報道番組が一斉にまた首相官邸からのニュースに切り替わった。

AM0:47

皆様、地球が24時間後に消滅するというお知らせをしましたが、その詳細については発表する予定はありませんでしたが、予定を変更しその理由についてご説明させて頂きます。

「地球は消滅するわけではありません」

衝撃的な言葉だった。
じゃあ助かるのか?俺は淡い期待をして次の言葉を待った。

「正確には、地球が消滅というよりは、人類が消滅する」のです。

俺は全く意味がわからなかった。
テロリストによってしかけられた核か何かが爆発するのか!
それじゃまるで「24h-セカンドシーズン」じゃねえか!
じゃあ、細菌兵器でも使われるのが止められなかったのか!

想像だけが駆け巡る。

「皆さん。聞いて下さい」。首相が話し始めた。

「人類の科学は大幅に進歩しました。今や遺伝子の一つ一つが持つ情報も99%が解明されています。我々の技術を持ってすればコピー人間を作ることも、永久に死なない不老不死の人間を作り出すことも可能になりました。」

しかし、これまで残り1%の遺伝子について解明することが出来ませんでした。
それは人間の生命体そのものが解明されるのを拒むかのように、解明をしようとすると遺伝子そのものが消滅してしまうのです。
この1%の遺伝子の解明に我々は全力を尽くしてきました。

この最後の遺伝子の解明がもたらすもの。それが何なのか。
人類が大きく進化することが可能な秘密が隠されているのではないか。
様々な憶測で我々はこの1%の遺伝子の解明に全力を注いできたのですが、それが・・・

首相の言葉はここで詰まってしまった。

AM0:55

しばらくの沈黙の後、首相は続きを話しはじめました。

「実は昨日、この残り1%の遺伝子の持つ情報の解明に成功しました。」

この成功が我々の遺伝子学の進歩に繋がるどころか、我々を破滅させる情報だったことが判明しました。我々は神が創ったこの肉体の触れてはならない部分を見てしまったのです。

また不気味な沈黙が数分続いた。・・・・

AM1:00

この解明不能であった遺伝子の秘密を解明したことによって、解明後24時間後に皆さんの肉体の遺伝子が壊死(エシ)していくような情報が含まれていたのです。

まさに、神の業としか言いようがありません。

「まさか、この解明が人類全体の肉体の破壊に影響を及ぼすとは・・・」
研究者自身も予測できない事でした。

簡単に言ってしまえば、この決して解明してはいけない遺伝子を、解明した瞬間から24時間後、「人間」は全て死亡するということになります。
それは、今生まれたばかりの「赤ちゃん」であろうと、100年生きたご老人であろうと、「人」であるものは解明後24時間で全て、死亡します。
皆様に今更お詫びを申し上げても我々にはどうすることも出来ません。
現在も研究者が必死に人類が死亡しない為の対策を研究しておりますが、今のところ有効な手段は見つかっておりません。

AM1:07

そ・・・そんな・・
じゃあ、、俺たちは単なる巻き添えで死ぬってことかよ!
俺は猛烈な怒りを覚えた。
科学者どもの勝手な研究の結果で、死ななきゃならないなんて!

今起きている現実が本当に信じられなかった。

AM1:10

中央線ホームに、「高尾」行きの各駅列車が入線してきた。
ヤケになって飛び込み自殺を防止するためだろうか。入線してくる電車の速度は歩くほどの速度で入ってきた。


人類滅亡まであと、22時間50分。
TO BE CONTINUE
--前回までのあらすじ--
ある日突然、地球の滅亡を宣告され、つまりは24時間後に人間全員が死亡するということを聞かされる。あまりの突然の事に状況が全くつかめないのだが、とにかく24時間後に自分は死ぬのだ。それだけで頭が一杯だ。
余命24時間。何をどう過ごすべきなのか。そもそも何が原因で地球が滅亡するのか、ここまで時間がなくなると考えることすらままらない。それにしても、あまりにも突然すぎる出来事に、この事態を隠していた政府に対し猛烈な怒りがこみ上げて来るのだった。


Season1-AM0:20-地球滅亡まで残り23時間40分 「理解」

AM0:25

首相から残された11時間あまりの過ごし方などについて説明がなされた。
まず、厳戒令が敷かれ国民全員、AM4:00までには自宅に戻るようにという説明がなされた。AM4:00以降はどのような理由があろうと、警備の為の自衛隊、警察関係者を除いて,外出している者は全員射殺」という衝撃的な説明もなされていた。

俺は耳を疑った。

法治国家である日本で、こんな脅迫的なしかも自由を拘束する命令が、政府の、しかも首相の口から出たことが信じられなかった。

理由は至って簡単な理由だった。

残り人生があと十数時間となれば、間違いなく人間の理性が破壊され、「何を始めるかわからないからだ」

日ごろ鬱憤(うっぷん)の溜まった人間なら、その鬱憤を晴らそうと「快楽殺人」に走ることだってある。どうせ、死刑も裁判も関係ないとなれば十分ありえる話だ。
裁かれる事がないとない世界となれば、まさに人間界は『魔界』である。

ルールが無くなることの恐ろしさをまざまざと感じた。
動物の世界と全く一緒だ。
強いものだけが生き残れる。そんな世界なのだから。

女性などは格好のターゲットであろう。動物としての「雄」と「雌」という関係になってしまえば、力の弱い女性は「レイプ」という、動物の本能である欲求(性欲)のはけ口になってしまうだろう。

「人が死ぬことを恐れなくなる」

「社会集団生活」というルールの中で生きている時には考えもしなかった「『死』を恐れない」を考えると本当に恐ろしくなる。

首相の発表からわずか30分の間に、人間というものについて全て理解した気がした。
人は「ルール」があるからこそ、集団生活が出きる。
そして安心感のある生活がおくれているのであると。。


AM0:30

つまり首相があまりに衝撃的な発表(AM4:00以降に外出しているものは全て射殺)をした背景には、人間が最後まで安心できる居場所を個人が確保できるようにということからであった。

そこには非常に残酷な内容も含まれていた。

病気やケガ、そういったものをAM4:00以降になった方は、いずれすぐに全員死亡するのだからと、治療は諦めて欲しいということだった。
人が最後の最後の瞬間まで『安全』にいられる為には、若干の犠牲は許して欲しいということだったのだ。

無論、それは首相の本意ではないだろう。
ケガ人、病人が出れば治療してしかるべきなのだ。しかし、あえてそれをさせないという判断をしなくてはならなかった首相は非常に悩んだことであろう。
それは、発表をしている首相の顔を見ればすぐにわかった。

AM0:35--

たった数分の間に、「人間」というものについて色々考えさせられ、猛烈なスピードで理解出来ていく。考えた瞬間に答えがわかる・・・そんな感じなのだ。

ふと思った。
これから生まれようとしていた赤ちゃんたちだ。
もし、今、まさにこの瞬間生まれてきた赤ちゃんは、生まれたと同時に死のカウントダウンが始まっているのである。
しかも、たった23時間あまりのカウントダウン。

ママのオッパイを何度か吸っただけで人生を終えるのだろうか。

何とも言いようの無い悲しさがこみ上げて来る。

こんな状況の場合どうなのだろうか。親として、母親の胎内から外の世界に出てその瞬間がくるまでを過ごすのが良いのか。
それとも、薬を使ってまで分娩しないよう最後の最後まで、母親の胎内でその時を向かえ、地獄を見せないままその時を向かえるのが良いのか。

それぞれが、突然の発表に驚き、

人それぞれの今の状況を理解し、これから残りの時間に対しどうするのか考え始めているのであった。

AM0:40

俺はたまたま新宿の歌舞伎町でこのニュースを見ていた。
街のあちらこちらで、悲しみに泣くもの、気がふれたかのように道路で暴れ廻るもの、誰かまわず喧嘩を売りはじめるもの、、、
裏路地からは「銃声」も聞こえる。

もう、ここはAM0:00までの歌舞伎町ではない。
歌舞伎町に拘わらず、どこでも同じような光景が繰り広げられているのだろう。

ただ不思議な事が一つだけある。

それは『お金』だ。

喧嘩や銃声は聞こえるが、なぜか『お金』にかかわる『強盗』の類のものは起きていない。喧嘩の内容も、これから『地球が滅ぶ』ということを聞かされ、納得がいかない気持ちを『喧嘩』という形で表しているようなのだ。

そう、死ぬとなれば『お金』なんて何の価値もないのだ。
単なる紙切れなのだ。
これからあと23時間ちょっとで『死』を宣告されたものにとっては、お金なんて何の興味もなくなるのであろう。

『お金を奪う』という発想よりも、全てのものがタダの状態なのだ。

店の店主なども、好きなもの、欲しいものは『欲しいだけもっていけ』という状態なのだ。これまで商品としてあったものが全て誰もが欲しいものだけを持っていくという世界に変わっているのである。

たった40分程度の間にこれほどまでに世界が変わってしまうとは。

俺はというと、コマ劇の前の生垣に腰を降ろし、「ショートホープ」をふかし、ジョージアの無糖コーヒーを飲みながら周りの喧騒を見物し、これから23時間ちょっと何をするのが最高の死を迎えられるのかを考えているのであった。

「おばちゃん」悪いけど、ショートホープ3カートンほど貰って行くよ!
するとおばちゃんも、「あいよ!好きなだけもっておいき!」と快く“タダ”でくれるのであった。

これだけの量があれば、これから23時間、好きなタバコを吸って満足できるだろう。
満足な量のタバコをゲットし俺は、新宿を去ることにした。


AM0:45

JR新宿、中央線ホームに俺はたっていた。

地球滅亡まであと23時間15分。 TO BE CONTINUE