--前回までのあらすじ--
ある日突然、地球の滅亡を宣告され、つまりは24時間後に人間全員が死亡するということを聞かされる。あまりの突然の事に状況が全くつかめないのだが、とにかく24時間後に自分は死ぬのだ。それだけで頭が一杯だ。
余命24時間。何をどう過ごすべきなのか。そもそも何が原因で地球が滅亡するのか、ここまで時間がなくなると考えることすらままらない。それにしても、あまりにも突然すぎる出来事に、この事態を隠していた政府に対し猛烈な怒りがこみ上げて来るのだった。


Season1-AM0:20-地球滅亡まで残り23時間40分 「理解」

AM0:25

首相から残された11時間あまりの過ごし方などについて説明がなされた。
まず、厳戒令が敷かれ国民全員、AM4:00までには自宅に戻るようにという説明がなされた。AM4:00以降はどのような理由があろうと、警備の為の自衛隊、警察関係者を除いて,外出している者は全員射殺」という衝撃的な説明もなされていた。

俺は耳を疑った。

法治国家である日本で、こんな脅迫的なしかも自由を拘束する命令が、政府の、しかも首相の口から出たことが信じられなかった。

理由は至って簡単な理由だった。

残り人生があと十数時間となれば、間違いなく人間の理性が破壊され、「何を始めるかわからないからだ」

日ごろ鬱憤(うっぷん)の溜まった人間なら、その鬱憤を晴らそうと「快楽殺人」に走ることだってある。どうせ、死刑も裁判も関係ないとなれば十分ありえる話だ。
裁かれる事がないとない世界となれば、まさに人間界は『魔界』である。

ルールが無くなることの恐ろしさをまざまざと感じた。
動物の世界と全く一緒だ。
強いものだけが生き残れる。そんな世界なのだから。

女性などは格好のターゲットであろう。動物としての「雄」と「雌」という関係になってしまえば、力の弱い女性は「レイプ」という、動物の本能である欲求(性欲)のはけ口になってしまうだろう。

「人が死ぬことを恐れなくなる」

「社会集団生活」というルールの中で生きている時には考えもしなかった「『死』を恐れない」を考えると本当に恐ろしくなる。

首相の発表からわずか30分の間に、人間というものについて全て理解した気がした。
人は「ルール」があるからこそ、集団生活が出きる。
そして安心感のある生活がおくれているのであると。。


AM0:30

つまり首相があまりに衝撃的な発表(AM4:00以降に外出しているものは全て射殺)をした背景には、人間が最後まで安心できる居場所を個人が確保できるようにということからであった。

そこには非常に残酷な内容も含まれていた。

病気やケガ、そういったものをAM4:00以降になった方は、いずれすぐに全員死亡するのだからと、治療は諦めて欲しいということだった。
人が最後の最後の瞬間まで『安全』にいられる為には、若干の犠牲は許して欲しいということだったのだ。

無論、それは首相の本意ではないだろう。
ケガ人、病人が出れば治療してしかるべきなのだ。しかし、あえてそれをさせないという判断をしなくてはならなかった首相は非常に悩んだことであろう。
それは、発表をしている首相の顔を見ればすぐにわかった。

AM0:35--

たった数分の間に、「人間」というものについて色々考えさせられ、猛烈なスピードで理解出来ていく。考えた瞬間に答えがわかる・・・そんな感じなのだ。

ふと思った。
これから生まれようとしていた赤ちゃんたちだ。
もし、今、まさにこの瞬間生まれてきた赤ちゃんは、生まれたと同時に死のカウントダウンが始まっているのである。
しかも、たった23時間あまりのカウントダウン。

ママのオッパイを何度か吸っただけで人生を終えるのだろうか。

何とも言いようの無い悲しさがこみ上げて来る。

こんな状況の場合どうなのだろうか。親として、母親の胎内から外の世界に出てその瞬間がくるまでを過ごすのが良いのか。
それとも、薬を使ってまで分娩しないよう最後の最後まで、母親の胎内でその時を向かえ、地獄を見せないままその時を向かえるのが良いのか。

それぞれが、突然の発表に驚き、

人それぞれの今の状況を理解し、これから残りの時間に対しどうするのか考え始めているのであった。

AM0:40

俺はたまたま新宿の歌舞伎町でこのニュースを見ていた。
街のあちらこちらで、悲しみに泣くもの、気がふれたかのように道路で暴れ廻るもの、誰かまわず喧嘩を売りはじめるもの、、、
裏路地からは「銃声」も聞こえる。

もう、ここはAM0:00までの歌舞伎町ではない。
歌舞伎町に拘わらず、どこでも同じような光景が繰り広げられているのだろう。

ただ不思議な事が一つだけある。

それは『お金』だ。

喧嘩や銃声は聞こえるが、なぜか『お金』にかかわる『強盗』の類のものは起きていない。喧嘩の内容も、これから『地球が滅ぶ』ということを聞かされ、納得がいかない気持ちを『喧嘩』という形で表しているようなのだ。

そう、死ぬとなれば『お金』なんて何の価値もないのだ。
単なる紙切れなのだ。
これからあと23時間ちょっとで『死』を宣告されたものにとっては、お金なんて何の興味もなくなるのであろう。

『お金を奪う』という発想よりも、全てのものがタダの状態なのだ。

店の店主なども、好きなもの、欲しいものは『欲しいだけもっていけ』という状態なのだ。これまで商品としてあったものが全て誰もが欲しいものだけを持っていくという世界に変わっているのである。

たった40分程度の間にこれほどまでに世界が変わってしまうとは。

俺はというと、コマ劇の前の生垣に腰を降ろし、「ショートホープ」をふかし、ジョージアの無糖コーヒーを飲みながら周りの喧騒を見物し、これから23時間ちょっと何をするのが最高の死を迎えられるのかを考えているのであった。

「おばちゃん」悪いけど、ショートホープ3カートンほど貰って行くよ!
するとおばちゃんも、「あいよ!好きなだけもっておいき!」と快く“タダ”でくれるのであった。

これだけの量があれば、これから23時間、好きなタバコを吸って満足できるだろう。
満足な量のタバコをゲットし俺は、新宿を去ることにした。


AM0:45

JR新宿、中央線ホームに俺はたっていた。

地球滅亡まであと23時間15分。 TO BE CONTINUE