ネットに次の書評が載っていた。紹介する。
 

 “【伊古田俊夫(脳神経外科医)】書評
 若い世代の間で、「生きづらさ」を感じる人、不幸感を抱く人が増えているという。SNS上では人を傷つける言葉が飛び交い、闇バイトに誘う罠(わな)が仕掛けられ、暗い世相が広がっている。この国に「幸せの青い鳥」はいなくなってしまったのだろうか。
 そのような折、アラン「幸福論」が再刊された。アランは人が不幸に陥る仕組みを、「情念」を用いて説明した。情念とは理性で抑えきれない激しい感情や思い込みのことだ。これにとらわれると、現実を冷静に見られなくなり、不安や恐怖に支配されていく。昂(たかぶ)ると、絶望や怒りが暴走しかねない。アランはそれを「情念の罠」と呼んだ。
 「生きづらさ」や不安は、深刻な苦しみを引き起こす。その辛(つら)さは他者にはなかなか分からないが、苦しみの背後には情念から生まれた「不幸感」が潜んでいることもあるのではないか。また、SNSで見た断片的な情報に過剰に反応して、怒りを募らせ、他人を傷つけるという行動も、情念の罠に影響された行動と考えられる。現代社会を見つめる時、アランの「情念論」は有益な示唆を与えてくれるように思われた。
 情念の罠から抜け出すにはどうしたらいいのだろう。アランは、勉強や経験を重ねて「別の視点」をもつこと、足元だけではなく「遠くを見る」ことが大切だと強調する。苦労をいとわず学び「本物の知恵」を身につけていくことが幸せにつながる。これをアランは「幸福の公式」と呼んだ。また適切な運動、体操が心に良い影響を与えるとして、微笑(ほほえ)み、首や肩の運動、伸び、深呼吸、リラックスなどの大切さを述べている。これは、心の不安や固着を和らげるうえで、身体活動が有用だとする今日のメンタルヘルスに通じている。(後略)”
 

 年齢や性別を超えて、共感できる内容が見つかるような気がした。「青い鳥」の羽ばたきが聞こえてほしい。