元号が平成から令和に変わった2019年5月1日。インスタグラムでイタリア映画『幸福なラザロ』のポスターを投稿したら、作品に出演していたアーティスト、ルカ・チコヴァーニに「thank you」とかわいい絵文字付きでコメントをもらって驚きました。日本からの小さな声も素早くキャッチしてくれるなんて、さすがYoutubeチャンネル、SNSで人気の新世代アーティスト。映画で主人公のラザロを演じたアドリアーノ・タルディオーロがレンブラントやゴッホ、ルドンなど多くの画家が描いた「キリストによるラザロ復活」の絵画から出てきたような、独特の(中世の時代からふらりとやってきたような)雰囲気を持っているのに対して、タンクレディ役のルカ・チコヴァーニはYoutubeの動画がきっかけで注目され、本作で映画デビューを飾るラザロとまさに対照的な存在です。最新のツールを使いこなす、最新のファッションが似合う、誰もが「かっこいい」と思う青年がタンクレディ。
一方、本作の主人公ラザロは誰よりも働き者で善良だけど、お人好しすぎて仲間から軽んじられ、仕事を押し付けられているけれど、不満を感じたりしません。疑わないし、怒らないし、損得の概念さえ持ち合わせていません。物語は20世紀後半のイタリアにある小さな村。純朴なラザロと村人たちは小作制度の廃止を隠蔽する公爵夫人に騙されて、社会と隔絶した生活を強いられていました。領主が外の世界を知らない村人たちを搾取し、村人がラザロを搾取する構図が出来上がっていたのです。
そこに領主である公爵夫人の美しい息子タンクレディ(ルカ・チコヴァーニ)が町からやってきます。暇を持て余したタンクレディは母親に反抗するためラザロを仲間に引き入れて自身の誘拐騒ぎを演出。タンクレディがラザロに「俺たちは兄弟だ」と言ったことで、2人は強い絆で結ばれるようになります。このタンクレディが起こした誘拐騒ぎがきっかけとなり、隔離された村の存在が大規模な労働搾取の事件現場として世間に知られ、村人たちは初めて外の世界に出て行くことになります。ところが、ラザロにはある事件が起きていて……。
本作は、アリーチェ・ロルヴァケル監督が1980年代初頭にイタリアで実際にあった詐欺事件を知ったときの驚きがもとで生まれたといいます。実際にあった詐欺事件と現代における搾取の問題。目を背けられない現実について描きながら、主人公のラザロはほかの登場人物が変化するなかでずっと穏やかで無垢な存在であり続けます。野生のオオカミによって谷底から目を覚ましたラザロは、やはり聖人のように清らかなまま。
ラザロというのは、ヨハネ福音書に登場する人物で、キリストの奇跡によって死後4日目に蘇生した聖人のこと。作品の中で象徴的に登場する野生のオオカミもキリスト教では異端者を意味します。搾取がはびこる世界をありのままに見つめるラザロの瞳があまりにも美しくて衝撃を受けるとともに、神の使いであるオオカミが警告を発しているように私は感じました。
■作品情報『幸福なラザロ』
監督・脚本:アリーチェ・ロルヴァケル
出演:アドリアーノ・タルディオーロ、アニェーゼ・グラツィアーニ、アルバ・ロルヴァケル、ルカ・チコヴァーニ、トンマーゾ・ラーニョ、セルジ・ロペス、ニコラッタ・ブラスキ
原題:Lazzaro Felice
英題:Happy As Lazzaro
配給:キノフィルムズ/木下グループ
公式サイト:www.lazzaro.jp
ルカ・チコヴァーニ Luca Chikovaniのインスタグラム






