円の実力、変動相場制移行後の最低水準に | マクロ経済のブログ

マクロ経済のブログ

株式市場で注目されそうな経済のニュースを取り上げています。個人的な独断が多少入っていますが(^^)








 円相場が急落している。日銀によると、日本の貿易相手国通貨に対する円の総合的な価値を示す実質実効為替相場は1973年1月以来、約42年ぶりの弱さになっている。

当時の円相場は1ドル=約300円で、73年2月の変動相場制移行後で最低となる。対ドルやユーロ、アジア通貨も含めた円相場の歴史的な全面安といえ、輸出には近年ない好条件となる半面、輸入や海外への旅行には強い逆風となりそうだ。

 円相場は10月末の日銀の追加金融緩和以来、下がり続けている。5日のニューヨーク市場で一時1ドル=121円69銭まで売られ、約7年4カ月ぶりの安値をつけた。2010年を100とした円の実質実効相場も11月中旬時点で70.88で、73年1月の68.88以来の低い水準だ。その後の円安の進行でさらに弱くなっているとみられる。

 対ドルの円相場の見かけ以上に実質実効相場が安いのは「貿易関係が強まる中国をはじめとしたアジアの通貨価値が高まっていることを反映している」(学習院大の清水順子教授)ためだ。名目の相場は投機的に動きやすいという面もある。

 世界の通貨をみわたすと、ドルと連動性の強い中国の人民元も上昇している。日本との貿易関係が強い米国や中国の通貨の価値が高まると円の実効相場を押し下げる。

 円の「実力」の低下は何を意味しているのか。

 輸出企業にとっては円安や低インフレで海外との競争条件が歴史的にも有利なことを示す。それでも輸出が伸び悩むのは日本企業の海外での現地生産比率の高まりなどの構造要因とみられる。

 日本への外国人旅行者はこのところ急激に増えており、高額品の消費などを積極化している。円安に物価の違いを加味すると、外国人が日本で買い物するには過去四十余年で最も有利といえる。

 原材料などを輸入する企業にとっては負担の重さを示す。足元の対ドルの円相場は07年ごろとほぼ同水準だが「当時よりも円安の負担は実感として強まっている」(みずほ銀行の唐鎌大輔氏)。東大の伊藤元重教授は「実質実効相場を見ると輸入環境は歴史的にも悪い。海外から原材料を輸入する業界には特に厳しい動きだ」と指摘する。

 実質実効相場が歴史的な安値でも、円が底値に近いとは必ずしもいえない。「日米の金融政策の違いや、日本の貿易赤字転落など円を取り巻く構造が大きく変化しており、円安は一段と進む」(三菱UFJモルガン・スタンレー証券の植野大作氏)との見方が多い。

 行き過ぎた円安もいずれは円高方向に巻き戻すとみられる。東大の伊藤教授は「実質実効相場も名目の円相場の反転や物価の上昇によって、いずれ上向きに調整するはずだ」と予想している。


▼実質実効為替相場とは 通貨の貿易上の対外競争力を示す指標。数値が小さいほど輸出に有利となる。物価の変化を消費者物価指数などで「実質化」し、対ドルや対ユーロ、対人民元など様々な通貨との交換レートを貿易額に比例するようにウエート付けして平均し「実効化」する。

 例えば、日本製品の価格が変わらないのに米国製品が値上がりすれば日本の競争力が増すので円の実質相場は下落する。輸出に占めるアジアとの貿易の割合が増えれば実効相場はアジア通貨の影響を受けやすくなる。

 国際決済銀行(BIS)が集計し、日銀も円の指標を公表している。

▼変動相場制とは 交換レートを固定しないで、外国為替市場で行われる実際の取引を通じて決める制度。「フロート制」とも呼ばれ、市場の需要と供給に応じて為替レートが決まる半面、投機筋などの動きで相場が乱高下するリスクもある。このため、新興国など通貨価値が不安定な国は為替レートを固定、または小さい変動幅で抑える「固定相場制」を採用することが多い。

第2次世界大戦以降の国際通貨体制は、ドルの強力な信認を背景にした固定相場制だった。ドルだけが金と交換され、国際通貨基金(IMF)の参加国の通貨はドルを中心に交換比率が決まっていた。ただ、1960年代ころから米国では国際収支の赤字からドルの信認が低下し、ドルの価値は経済実態とかけ離れたものになっていた。このため、1971年に当時のニクソン大統領はドルと金の交換を停止。先進各国はそれをきっかけに73年に変動相場制へ移行した。

固定相場制では各国は為替相場の安定を優先した金融・財政政策の運営を求められ、インフレなどの弊害も生じたが、変動相場下では国内経済に専念しやすくなった。日本でも、固定相場採用時は1ドル=360円で為替レートが固定されていた。73年の変動相場制への移行で円相場は上昇を続け、東日本大震災後の2011年10月には1ドル=75円32銭の史上最高値をつけた。