米証券訴訟乱発に歯止め、連邦最高裁が開示違反に新ルール | マクロ経済のブログ

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 世界の株式市場を主導する米国で、企業を虚偽開示で訴える証券訴訟の潮流が変わりそうだ。連邦最高裁は6月、株価に影響しない開示については、株主による集団訴訟(クラスアクション)を制限する新ルールを打ち出し、乱訴に一定の歯止めをかける姿勢を鮮明にした。

 投資家保護と乱訴防止のバランスに配慮した最高裁判断は、米国上場の日本企業にも影響を与えそうだ。

 「四半世紀も続いた証券訴訟の乱発に待ったをかけた」。6月下旬、米メディアは連邦最高裁の判決を一斉に報じた。投資ファンドなどが米資源開発サービス大手のハリバートンを訴えた集団訴訟に絡み、最高裁がついに新しい判断を示したからだ。

 ハリバートン訴訟で原告側は、会社が収益予想などについて楽観的な見通しを開示し、後でそれを修正したために株価下落の被害を受けたと主張していた。

 証券訴訟では原告一人ひとりの賠償請求額が小さいため、一般に個人で訴えるよりも集団訴訟制度を使って1人あたりの訴訟コストを下げる手法が使われる。

仕組みを利用するにはまず、共通の被害を受けた原告たちが、裁判所の審査を受け集団訴訟を行うことを認めてもらう。クラス認定という手続きだ。

 これまで虚偽開示などの証券詐欺の場合、裁判所がこの認定をほぼ自動的に認めてきた。最高裁が1988年に出した「ベーシック判決」と呼ばれる判例が根拠で、訴訟のハードルを下げ投資家を保護する狙いがある。

 ただ一方で副作用もある。集団訴訟が認められれば「企業は敗訴時の賠償リスクが大きすぎ、結局和解以外に実質的な選択肢がなくなる。結果的に和解金目当ての訴訟が増えたとの批判もあった」(米国法に詳しい増田英次弁護士)という。

 ハリバートンは今回、集団訴訟を入り口で阻止する戦術をとった。集団訴訟増加の原因となったベーシック判決を破棄するよう求めた。

 証券訴訟では通常、企業の虚偽開示の内容を自分が信じていたことなどを原告側が立証する必要がある。この負担を軽くしたのがベーシック判決だった。

 具体的には「問題となる開示が公表され、開示情報を適切に反映できる株式市場で取引をした」という事実があれば、投資家全員が開示内容を信じていたと裁判所が推定し、集団訴訟を自動的に認めた。この推定方法だと企業側に反論する機会は事実上なかった。

 今回、最高裁は「ベーシック判決を見直すことはない」と明言した一方で、企業側に一定の配慮を示し、審理を下級審に差し戻した。その配慮とは「開示により株価が影響を受けたかどうか」だ。

 つまり、株価に影響がなければ「開示情報を適切に株価に反映する株式市場」というベーシック判決が求める前提が崩れるわけだ。最高裁はこうした考え方を提示し、株価に影響がなかったと企業側が立証すれば、集団訴訟のクラス認定を防げるとした。

 早稲田大の黒沼悦郎教授は「本当に虚偽開示に当たるか微妙な訴訟が多かったが、今後そうした事案で集団訴訟を起こすことは実質的に難しくなるだろう」と話す。

一橋大大学院の小川宏幸准教授は「投資家保護の姿勢を堅持する一方、集団訴訟の前段階で企業に反論の機会を保証して制度の公平性を図った」と分析する。

 今回の判決は、米国上場の日本企業にも影響を与えそうだ。リコールを巡って投資家から訴えられたトヨタ自動車(7203)など、日本企業も証券訴訟の被告になるケースがあり「まずは正しい開示をすることが大前提だが、企業側の防御手段に大きな選択肢ができた」(自動車メーカー幹部)との声が目立つ。

 日本でも90年代以降、山一証券の破綻や西武鉄道の虚偽記載を機に、虚偽記載があれば過失や悪意の有無を問わずに企業に賠償責任を負わせる「無過失責任」を定めた。だが、「企業のリスクが大きくなりすぎる」という経済界からの声を受け、賠償範囲を限定的にする改正金商法が近く施行される。

 日米で、まずは企業に一定の防御手段が与えられたが、今後はどのような根拠を示せば賠償責任を回避できるかが焦点になりそうだ。投資家を保護しつつ乱訴も防ぐにはどうすべきか、試行錯誤は続いている。

▼証券詐欺とは 米証券取引法では虚偽開示やインサイダー取引など、証券の売買における不正を「証券詐欺」として包括的に禁じている。相場操縦や公開買い付け時の詐欺的行為などは別に規定がある。日本でも金融商品取引法で、重要な事項について虚偽開示をした場合には民事・刑事両方の責任が問われる。