経営陣の目利きが収益の差となってでてくる | マクロ経済のブログ

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株式市場で注目されそうな経済のニュースを取り上げています。個人的な独断が多少入っていますが(^^)




図書館で1985年の日経新聞を読んでいて、気になる話がありました。

表は2013年の世界の医薬品売上の上位10傑です。10製品のうち黄色で囲んだ7つが抗体医薬品となっています。抗体医薬品の成分のモノクローナル抗体は1975年に2名の研究者により作製方法が発明され、80年代になると米国をバイオベンチャーを中心に医薬品開発が盛んになりました。

発明者の2名は1984年にノーベル生理学・医学賞を受賞しています。

薬剤の開発は困難を極め多くのバイオベンチャーが志半ばで断念しましたが、1997年にジェンテック社がリツキサンの上市にこぎつけて以降は相次いで登場、現在ではブロックバスターの多くを占めるまでになりました。

その結果、米国のアムジェン社とジェンテック社は、起業してから20年ほどで日本の最大手、武田薬品(4502)を上回る収益を上げるまで成長しました。ジェンテック社は現在ロシュの傘下となっています。

前置きが長くなりましたが、米国に比べ日本の製薬メーカーによる抗体医薬品の開発がほとんどありません。協和発酵キリン(4151)が地道に開発を行っている程度です。

ところが1985年当時は、多くの製薬・食品企業がモノクローナル抗体の開発に取り掛かる記事が紙面をにぎわし、株価が踊ることが多々ありました。

例えば、旭化成(3407)はヒト腫瘍壊死因子(TFN)の開発で、ジェンテックを超えたとか、武田薬品はがんの診断・治療用にモノクローナル抗体の量産化技術を確立、対がんミサイル療法に道とありました

ミサイルって(笑)

「当社の技術は世界で最も先行している」、武田の森田桂取締役は当時豪語していました

他にも、協和発酵、三菱化成、味の素、明治製菓、サントリー等が開発に着手しているとありました。

日本を代表する医薬・食品企業が人とカネをつぎ込んだものの、収益を生まなかった理由ですが、バブル崩壊後に多くの企業が緊縮予算を組んで、モノになるには何年もかかる技術開発から相次いで撤退したと考えられます。

アステラス製薬(4503)はモノクローナル抗体を培養するための実験プラントに50億円かかるために、2004年に開発を断念した経緯があります。

医薬品ではありませんが、パイロットコーポレーション(7846)は消せるボールペン、フリクションを開発し年間2億本以上を売り上げる大ヒットとなりましたが、消せるインクの開発にたどり着くまでに30年以上かかりました。

その間、開発費の持ち出しが続き、開発陣は社内でも肩身が狭いと言ってましたが、将来モノになる技術だから開発を続けろと言われ続けたそうです。

現在、IPS細胞を使った再生医療などが将来大きなビジネスになると期待されていますね。モノクローナル抗体と同じように経営陣が、目先の数字合わせに固執し開発を躊躇すれば、あっと言う間に海外企業に収益を奪われることも考えられます。

将来を見据えた経営陣のかじ取りが、大きな収益の差となることがよくわかりました。

▼抗体医薬品とは 人間の免疫機能を活用した薬剤。病気を引き起こす異物(抗原)が体内に入った際、たんぱく質の一種が異物を排除する抗原抗体反応を利用する。リウマチやがんの治療薬として研究開発や製品化が進んでいる。特定の抗原を狙う免疫の仕組みを生かしているため、従来の化学合成した薬に比べ副作用が少ないメリットがある。