水不足が国家間の争いや企業の業績・株価に影響 | マクロ経済のブログ

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株式市場で注目されそうな経済のニュースを取り上げています。個人的な独断が多少入っていますが(^^)

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チベット自治区を源流として、インド北東部を流れ、バングラデシュでガンジス川に合流しインド洋へと流れ込むブラマプトラ川。この全長2900キロメートルの国際河川を巡り中国とインドとの間に紛争の火種が生じている。

きっかけは1月、中国が上流に水力発電ダム3基を増設する計画を明らかにしたため。ダムの完成により流れがせき止められれば、インドやバングラデシュなどの中下流域に広がる肥沃な功績平野で水が不足し、農作物生産に深刻な影響が及ぶとみられる。

インド紙によると、3月下旬に南アフリカで開かれた主要新興5か国のBRICS首脳会議の際、インドのシン首相は、中国の習近平国家主席に対して、ダム建設への懸念を表明した。

ブラマプトラ川を巡ってインドと中国が争ったことは過去にもあって2011年には、中国が河川の流れを領土内で人工的に変えるという構想が表面化。インドの強い反発で分水は実施されなかったが、インドの警戒感は根強い。

中国が領土とするチベット高原(チベット人は中国からの独立を主張)には多くの国際河川の源流があり、周辺の国々に向かって流れている。中国政府は、「下流域の国々の利益も考慮している」と説明するが、水の利用をめぐる国家間の協定は整備されていない。

上流に位置する優位性を持つ中国が、強引な取水に動くのではという懸念は周辺国で根強い。

図で示すように中国とインド以外でも河川の上流・下流で利用を巡る対立は多い。世界最大の国際河川であるナイル川の水利権を巡っては上流のエチオピアと下流のエジプトが激しく対立。

人口の急増による電力不足を解消しようとエチオピアが、アフリカ大陸最大規模の発電用ダム建設に着工。これに対して、国土の大半が砂漠で覆われ、水需要の9割以上をナイル川に依存するエジプトが反発を強めている。

「世界的な水不足が、国家間対立の原因になる恐れがある」。米国の国家情報長官室が12年3月にまとめた報告にこう記されている。水資源をめぐって戦争が起きるリスクを分析するよう米国務省から指示を受けて作成した。

報告書は「戦争が10年以内に起こる可能性は低い」としながらも、40年までに世界の水は足りなくなり、経済成長に悪影響を与えると警告する。

都市への人口集中、食糧増産に伴う農業用水の需要増などにより、世界の水需要は今後、逼迫していくと予想される。水源は「世界的に地域ごとの偏りが大きい」(東大生産技術研究所の沖教授)。水が豊かな国から乏しい国に運ぶにも、コストの問題が立ちふさがる。

水を巡る争いは国家間だけの問題ではない。インドのケララ州では2000年代前半、米コカ・コーラなどが工場で使うために地下水を大量に組み上げているとして問題になり、水質悪化を危惧した地元住民が抗議活動を起こした。水は生活の基盤だけに、住民が企業に向ける目は厳しい。

06年には、「ウォーターバロンズ」の1社、仏スエズがアルゼンチンの一部都市で運営に参加していた水道の民営化事業で、撤退に追い込まれた。水道料金を唐突に値上げしたとして市民から反発を招いた。米ベクテルも、ボリビアで同様のトラブルにぶつかっている。

英国の国際的な非営利組織CDPは2月、日本企業を含む国際的な企業約600社に対して、質問状を送った。水問題が深刻な地域に事業所があるか、過去5年間で水が絡んだ問題は起きてないかといった内容。

こうしたCDPの活動は、カリフォルニア州職員退職年金基金(カルパース)やノルウェー政府年金基金など、世界有数の機関投資家が支援する。水に関する事業リスクは、業績や株価にも悪影響を及ぼしかねない。支援する投資家の運用額は50兆ドルにも及ぶ。投資判断の1基準として水リスクを重視している。

過去に水問題によって事業を制約された企業があるだけにリスクは無視できない。CDPの森沢みちよジャパンディレクターは「2014年から、各企業の回答を点数化して、投資家が比較しやすくする」という。投資家の利用が広がれば、グローバル企業の間で水問題に対する意識はさらに高まりそうだ。