世界で水不足が深刻な問題 | マクロ経済のブログ

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日々の生活や経済活動に欠かせない水。中国をはじめ世界の多くの国では深刻な水不足に直面しています。一方、日本では水道などのインフラの老朽化が問題になっている。日経ヴェリタスから関連企業の動向です

中国は海水を水源

北京から車で4時間、河北省唐山市に面した渤海湾。製鉄所の一角に、鈍い銀色をした直方体の巨大タンクが4基ならんでいる。正体は海水から塩分を取り除いて工業用水を作る「海水淡水化プラント」だ。

製鉄所から出る排熱を利用して海水を沸騰させ、タンク内で蒸留。中国鉄鋼6位の首都鉄鋼集団の子会社が運営している。製鉄所では設備や製品を冷却・洗浄するたえに大量の淡水が必要。

それを賄うために建設されたのが同プラントだ。同施設では毎日フル操業で日量5万トンの海水を淡水化、製鉄所で必要な水の半分を供給している。

中国にとって海水の淡水化は、工業用水だけではなく生活用水を確保するための国家的な事業となっている。中国国家発展改革委員会は昨年末、海水淡水化の能力を、2015年までに現在の3~4倍(日量220万~260万トン)に高める計画だ。それによって1500万人の生活用水を確保する。

万里の長城に匹敵する大型工事

背景には深刻水不足がある。中国の地表水(河川や湖沼など)と地下水を合わせた水資源の総量はブラジルやロシアなどに次いで世界5位。しかし人口が13億人なので1人当たりでは2100立方メートルとなり世界平均の4分の1。国連開発計画(UNDP)が定める「水ストレス状態」に迫る。

平均降水量は日本の3分の1程度。地表水が豊富な水源は南部に偏り、北京市や天津市、河北省など、人口が密集して工業も盛んな北部の主要地域では慢性的な水不足にある。

中国政府はここ十数年、国運をかけて、ある事業に取り組んできた。南部を流れる揚子江などから水をくみ上げ、運河やパイプラインで、北部の天津市などに輸送する「南水北調プロジェクト」だ。

中国政府によるとこれまでの総投資額は2000億元(約3兆円)。13年7~9月ごろに一部ルートが江蘇省や山東省との間で通水。14年には北京市や河南省、天津市でも、揚子江からの水を飲めるようになる。

しかし水不足の解消は難しい。水資源の乏しい北京市や上海市などでは、生活・工業用水の一部を地下水のくみ上げに頼ってきた。その結果、日本でも起きたことだが地盤沈下の問題が表面化。排水による河川や地下水の汚染も深刻で、水源の一部を、海に求めるしかなくなっている。

中国の水問題は、世界の水関連企業の大きなビジネスチャンスとして注目されています。だが軌道に乗せるのは容易ではない。

例えば天津市の浜海新区。石油化学工場が林立する地域の一角に、海水淡水化で世界有数企業のハイフラックス(シンガポール)が、日本の日揮(1963)とともに共同出資したプラント「天津大港新泉海水淡水化」がある。

日経新聞の記者が3月18日に訪問した時にはプラントは門が閉ざされ、門衛も含めて人影は見当たらない。公表された資料によれば、淡水の生産能力は日量10万トン。当初は11年までに能力を15万トンまで引き上げる計画だったが、道半ば。日揮によれば日量15万トンレベルまで需要が伸びていないとの説明。

海水も汚染

天津市には複数の淡水化プラントがあるが、「海水を引く渤海湾の汚染が難点」と、日本の水関連企業の技術者は見る。高度な水処理技術が必要でコストがかさむ。「商業ベースで採算を合わせるのは難しい」(チャイナ・ウォーター・リサーチの内藤代表)といった指摘も出ている。

今年1月、青島市で海水淡水化プラントが動き始めた。50万人の市民に生活用水を供給。建設から運営までを任されているのはスペインのアベンゴア。水のろ過に使う逆浸透膜は東レ(3402)が供給。「下排水の処理膜も伸びている」(東レ)という。

水不足は中国に限らずアジア共通の課題だ。アジア開発銀行の調査では、中国やインドなどアジアの8割の国で、水を巡る環境は危機的な状況。環境改善には1300億ドルもの資金が必要との試算もある。

世界の水ビジネス市場は、2025年には87兆円程度(07年は36兆円)まで急拡大する(経済産業省試算)。現在は上水・下水が主だが今後は海水淡水化やリサイクル事業が伸びる見通し。企業間で受注競争も激化している。

「インド・中東・北アフリカなど世界各地で様々な入札機会がある」とハイフラックスのオリビア・ラムCEOは話す。同社はシンガポールの国策として水処理技術の研究・開発に力を入れており、それを基盤に海外展開している。

韓国も国が技術開発に巨費を投じて淡水化事業の海外展開を計画。サムスングループは昨年、膜処理ビジネスへの参入を発表した。中国勢では、香港に上場する北控水務集団(0371)が3月に、仏水道大手ヴェオリア関連の水処理企業を買収した。

一方で採算悪化により撤退を余儀なくされる例もある。M&Aを通じて水処理事業を拡大してきた独シーメンスは昨年11月、事業売却を決めて業界関係者を驚かせた。