翌日の午後2時過ぎ。
公務の空き時間に山際がやって来た。
場所は彰が暴行を受けた潮騒公園の噴水広場である。
小百合を見つけた山際は、あからさまに面倒臭そうな顔をし、小百合に言った。
「こんな遠くまで呼び出して、いったい何の用ですか?...手短にお願いしますよ。忙しいのでね。」
その言葉からは微塵も誠意が感じられなかった。
「山際さん...昨日の昼間、この場所で私の交際相手、青空田 彰さんが覆面をした集団から暴行を受け、重傷を負いました。彼は、事前に私の弟だと名乗る者から、相談があるのでここに来るよう呼び出され、襲撃されたのです。...私には弟はおらず、彰さんの携帯番号を知るのは私だけのはず。...」
小百合がそう言うと山際は、煙草を取り出し咥えながら言った。
「つまり...この俺が、怪しい。...そう言いたいのかね?」
小百合は、じっと睨みながら「その通りです。」と答えた。
「いい加減にしろ。...あんたの被害妄想に付き合っている暇などない。...現職の刑事が担当被疑者の元妻に目をつけ、その交際相手の男が邪魔なので襲撃させたとでも言いたいのか?」
山際が語気を強め、そう言うと、小百合は笑いながら言った。
「私が言おうとしたこと、全部言ってくれましたね。...正直に白状して頂き助かります。」
「ふっ。...そんな安っぽい動機で犯罪に手を染めるほど、バカじゃない。...あんた勝手に自惚れているようだが、俺は、あんたを女として見たことなど、一度もないよ。」
山際は、そう言うと、さらに付け加えた。
「武藤な。...来月には起訴されて年末には刑が確定する見込みだ。...2度目の逮捕だから実刑になるだろう。...せいぜい今の恋人を大切にすることだな。...以上だ。それじゃ俺は帰る。」
山際がそう言って帰ろうとした時、小百合が言った。
「ならば、彰さんは、誰の指示で何のために襲撃されたのですか?」
その問いかけに、山際は背を向けたまま立ち止まり、暫し沈黙していた。
そして顔だけ横に向けると、重たい口を開いた。
「おそらく、あんたの恋人をやったのは、武藤の仲間だろう。...よ~く思い出してみな。...俺も何か分かったら、あんたに知らせる。」
そう言うと、山際は「その彰さんっていう方の一日も早い快復を祈ってます。」と言い、去っていった。
「いったい、誰を信じたらいいの?...」
やり場のない怒りが、小百合の心に渦巻いていた。
【次回に続く】
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