ショートストーリー321 | 丸次郎 「ショート・ストーリー」
「組織の指示のもとで、成果を挙げようと忠実に実行した事が、逆に自分の首を絞める結果になるとは思ってもいなかっただろうなぁ~。指示した組織は、この忠実な兵隊をトカゲのシッポのごとく切り捨てて終わり。。。そして、また同じことを繰り返す。この単純なワンパターンには、いい加減あきたな」

シゲオは、そう言いながらノートパソコンを閉じると携帯を取り出し、学生時代からの友人マサキに電話を掛けた。

「ああ、俺。今、大丈夫か?あのな、今週末、例の事件で動きがありそうなんだ。それで、今から黄昏町の喫茶店で打ち合わせをしたいんだが、いいかな?」

話を終えると、シゲオは上着を羽織ってガレージに向かった。。。

シゲオは、この春まで大手新聞社で記者をやっていたが、利権集団の一味に成り下がり、真実と異なる記事を書かせられることに嫌気が差し、退職したのだった。。。

そして、どの権力にも属さない小さな出版社で編集長をしているマサキのもとに、転がり込んだのだった。


「雲行きが怪しくなってきたなぁ。。。」
$丸次郎「ショートストーリー」

シゲオは、灰色の雲に覆われ始めた空を見上げながら、そう呟くと、旧式のスカイラインに乗りこみ、小雨がぱらつく薄暗い街を走り抜け、ものの10分で喫茶店に到着した。

ドアを開けると、薄暗い店内の一番奥にマサキはいた。「よっ!」手を挙げて合図をするマサキの顔には、相当疲れが溜まっているように見えた。


「悪かったな、急に呼び出したりして。。。とにかく一刻を争う情報戦だからな。大手が記事に出来ない真実を、ドカ~ンと記事にしてやろうと思っているんだ」

シゲオは、いつになく目を輝かせながら、マサキに言った。

「ご注文は?」

「ブラックひとつ」

ウェイトレスにオーダーを言い終えると、シゲオは年季の入った革製カバンを開けて、数枚のレポート用紙をマサキに手渡した。決してテーブルに置いたりしないのは、誰かに原稿を写されないようにという、異様なまでのシゲオの用心深さからであった。


「なるほどね~、こりゃ~、大変なこったな。。。今まで公表がタブーとされていた権力の腐敗構造が白日の下に晒されることになるわけだ。。。」

マサキは、レポートに素早く目を通しながら、時折シゲオの顔を見て言った。

「ただ、長年の間、利権構造の中で手を組んできた奴らだから、そう簡単には悪事を認めないだろう」
そう言いながらも、シゲオの顔には、どこか自信めいた笑みが浮かんでいた。。。

「で、俺達Aチームと、シゲオのBチームが総力をあげて週末、裏を取リに行くって訳だな?」
目を通し終わったマサキが、レポート用紙を素早くカバンに仕舞いこむと、子供のように嬉しそうな表情で、そう言った。

シゲオは、ボーダーシャツの胸ポケットから潰れかけたショートホープの箱を取り出し、口に運ぶと一本くわえて、大きく頷いた。

「ちぇっ、ライター忘れたぜ、おねえさん!灰皿と火、ちょうだい」シゲオが、手を挙げてウェイトレスに言うと、ウェイトレスは、「当店は、全席禁煙でございます!」と、大きな声で答えたのだった。


「はいはい、了解。。。今や喫茶店も世知辛くなったもんだ。。。画一的な世界が嫌なら、自由を金で買えってか」
くわえた煙草を、箱に戻しながら、シゲオは苦笑いを浮かべて呟いた。

「まぁ、この国のことを、ある外国では、特殊な社会主義国なんて呼んでいるらしいからな...当たらずとも遠からず、、、と言った感じだな」
カップに残っていたココアを、一口で飲み込むと、そうマサキは言った。


まだ夜も明けきらない週末の早朝、約束したホテルの前に、シゲオとマサキを中心とした編集部全員が集まっていた。。。。

「いよいよ、これから前代未聞の一大疑獄事件が明らかにされるんだな!」シゲオが、冷静な表情ながらも気迫に満ちた声で、そう言った。

「ああ。。。長年信用してきた国民の目から、鱗が落ちる驚愕の事実が、もうじき明かされる。。。」
マサキも、いつになく真剣な目つきで、そう答えた。

「利権という汚れた手枷足枷によって、公正と正義を失った大メディアに変わって、俺達が真実を暴き出し、国民に知らしめるんだ!」

「おう!」

シゲオの掛け声に、集まった仲間達は皆、拳をあげて賛同の声を発したのだった。



この計画を、事前にシゲオから聞かされていた元政治家の銀山は、自宅のリビングでくつろぎながら、壁時計を見つめ言った。

「ようやく、この国も正義面した権力組織のメッキが剥がされる時が来た。。。奴らから見たら、少人数の、ちっぽけなシゲオ達が、正義という名の細い針で、腐った巨大権力に穴を開ける。。。すると、目には見えないほどの小さな穴から、少しずつドロドロの膿が流れ出てくる。。。やがて巨大権力は、己の体内から溢れ出た膿に足元をさらわれて、倒れることになるだろうよ。。。」


利権に群がる権力組織によって、抹殺された過去をもつ銀山は、シゲオらが暴露記事を発表後、最後の詰めを自分がすることによって、自分を貶めた権力組織に対し「仇を恩で報いる」ことに決めているのだった。。。。





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