『返事はいらない』
そう書かれたあとに、続けて文章が並んでいました。
『でも一つだけ伝えたい』
わたしは思わず画面を開きます。
『俺、もう一回ななとやり直したい』
その一文を見た瞬間、心臓が大きく跳ねました。
さらに続きます。
『今さら最低なのは分かってる
でも、なな以上に好きになれる人なんてやっぱり居ないんだよ
毎日後悔してた
だから一回だけでいい
会って話を聞いてほしい』
スマホを持つ手に力が入りました。
やめて。
そんなこと言わないで。
今さら言われても困る。
そう思うのに。
心は静かに揺れていました。
その時でした。
「⋯⋯なな?」
突然名前を呼ばれ、わたしは慌ててスマホを伏せました。
聞き覚えのある声。
ゆっくり振り返ると、そこに立っていたのは、本社から店舗巡回で来ていたFさんでした。
「⋯⋯え?」
思わず言葉を失います。
Fさん。
前に付き合っていた元彼です。
別れてから、一度も会っていませんでした。
仕事は同じ会社でも、本社と店舗。
顔を合わせることなんてありません。
だから
まさか今日、ここで会うなんて思ってもいませんでした。
「久しぶり」
Fさんは少し照れくさそうに笑います。
「巡回で来てるんだ」
「そうだったんだ」
それだけ返すのが精一杯でした。
お互い少し気まずくて、数秒沈黙が流れます。
するとFさんが、小さく笑って言ったんです。
「なんか緊張するね」
その一言で、思わずわたしも笑ってしまいました。
「だね」
ようやく少し空気が和らぎます。
「元気だった?」
「うん、Fさんは?」
「何とかね」
本当に他愛もない会話。
でも、別れてから会って初めて交わす言葉だからか、不思議な感じがしました。
そんな時でした。
Fさんがわたしの顔をじっと見つめます。
「⋯⋯なな」
「なんか疲れた顔してるけど、大丈夫?」
その一言に、ドキッとしました。
「え?」
「体調悪そうっていうより⋯何かあった?」
図星でした。
昨日からずっと
裕太。
佐藤さん。
二人のことで頭がいっぱいだったからです。
「そんなに顔に出てる?」
苦笑いすると、Fさんも苦笑いしました。
「付き合ってた頃もそうだったけど、ななって悩み事あると、すぐ顔に出るから」
その言葉に、一瞬だけ昔を思い出しました。
そういえば、この人には隠し事ができなかったな。
「まあ⋯色々あるよ」
そう笑ってごまかすと、Fさんは深く聞いてきませんでした。
代わりに
「久しぶりだし、良かったら仕事終わり飲みに行かない?話したら少しスッキリするかもしれないよ」
そう誘ってくれたんです。
少しだけ迷いました。
でも、この時のFさんは元彼というより、昔からわたしを知っている一人の人として声を掛けてくれているように感じました。
「じゃあ⋯⋯明日はどうですか」
そう答えると、
「よかった、うん、明日いいよ」
Fさんは安心したように笑いました。
まさか
別れてから一度も会わなかった元彼と、こんな形で再会するなんて。
Fさんと別れてから初めて交わした会話。
少しだけ懐かしくて、少しだけ不思議な時間でした。
明日の仕事終わり、久しぶりにゆっくり話す約束をして、わたしは午後の仕事へ戻ったんです。
次回へ続きます。
⬇こんな暑い日は外になるべく出ず室内で過ごしたい☀
