『幽玄F』その1 概略  佐藤 究 | ミステリ好き村昌の本好き通信

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 『幽玄F』 その1   佐藤 究    概略

 

 (ストーリーを大まかにまとめてみました。レビューは次回に)

 

 一人の少年がいた。易永透(やすなが とおる)という少年だ。彼は飛行機が大好きで、いつも、飛行機を追いかけて走っている少年だった。夕暮れの空の彼方へと飛んでいく飛行機を‥‥

 本作は飛行機(ジェット機)に魅せられ、数奇な運命をたどり、そして無となった男の人生を描いた作品である。

 

 少年時代の、初めて飛行機に乗った(旅客機)体験。

 両親が離婚し、祖父(真言宗の寺の住職)にひきとられ、寺で生活しつつも、パイロットになるための努力をした中学生の透。 

 高校に進学し、溝口という、ジェット機好きの少年と知り合い、ジェットパイロットへの興味が、ますます高まる透。

 大学には進学せず、自衛隊航空学生になり、ひたすら自分の夢の実現にまい進し、学生寮生活を送る透。

 二年間の航空学校生活を学生宿舎で過ごし、パイロットとなる教育課程を修了し、飛行幹部候補生となり、35週間に及ぶF15ジェット戦闘機の操縦訓練に臨んだ透は、トップクラスの適正            能力をを有していると賞賛され、その能力を認められた。

 ジェットパイロット志願者中トップの成績で、F15のパイロットになり、その後最新鋭のジェット機F35のパイロットにもなれたのである。その時透は26才だった。

 

 F35のパイロットになった透は、海外のパイロットとの合同訓練を通して、その力量をどんどん上げていく。が、ついにそれは、透の脳内にも表れたのである。

 それは、バーティゴ(パイロットがめまいをおこし、方向を客観的に、とらえられなくなる状態)である。超音速で飛ぶジェット機を操縦すると、人によって発症する。透の場合は、アメリカでの合同飛行訓練中の、米軍機の事故=(バーティゴによる墜落事故)に遭遇したのが原因らしい。

 

 1カ月後、帰国して三沢基地での訓練中に、彼はバーティゴを発症するが、検査では異常なしで、心因性のものではないかといわれる。

 やがて、透の(いつかまた起こるのでは)という不安は的中した。               

  訓練中のことで、辛くも墜落は免れたが、九死に一生という状態で助かった彼は、戦闘機部隊の隊員リストから、除外されてしまう。

 

 ジェット戦闘機に乗れないならと、彼は自衛隊を依願退職し、タイのバンコクにある航空スクールに勤務して、新たな生き方をしようと考える。

 1年後彼は、バンコクで生活しているが、パイロットの仕事は全くなく、勤務先の社長の友人たちの観光ガイドをして生計を立てていた。が、パイロット指導ができないまま、その会社を退職し、バングラデッシュのローカル航空会社に就職した。

 出発真近のある日、日本から彼宛に郵便が届いた。祖父の寺に住み込みでいる僧からの手紙で、祖父の逝去を知らせる手紙だった。彼は日本に帰国することなく、バングラデッシュへ向かった。

 

 三年の月日が過ぎた。バングラディシュのチッタゴンの航空会社でプロペラ機のパイロットをしていた透は、ニューランズという新しく採用されたパイロットと、市場で体重計を元手に、日銭を稼いでいる、ショフィクルという11,2歳の少年と知り合った。

 ある日ショフィクルが透とニューランズの所にきて、チッタゴン丘陵地帯の友人から、相談された内容を二人に話した。

 ある日、空に現れたUFOから出てきた宇宙人を、友人が殺してしまったという話なのだ。

 透は最初相手にしなかったが、そのUFOはジェット戦闘機ではないかと考えた。

 透はニューランドと共に、ジェット戦闘機の墜落事故の記憶をたどり、それが、2年前の5月に、実際起こった事故である事を突き止めた。

 二人はPCで、その墜落事故のデータを集め、透は現地調査に乗り出す。

 

 ある日透はカグラチョという町まで、トラックに乗せてもらい、ショフィクルの友人、UFOを見た(宇宙人を殺した)メルドンドに逢い、その場所に案内してもらうと、それは思った通り、ジェット戦闘機が不時着しており、しかもその飛行機が、F35Bであることを確認した。

 

 透は、このF35Bを修理して、再び空を飛べるようにすることを目標に、そのためにはどうすればよいかを考えた。

 彼は、そのジェット戦闘機が搭載していたミサイルをゲリラに売り、その金で機体の修理と、滑走路を造ろうと考えた。

 交渉は思いのほかうまく運び、滑走路作りも始まり、ニューランズの協力で、F35Bの修理も順調にできた。

 

 滑走路があと20メートルで完成するというある日、透はついにF35Bをジャックして、夜の大空に飛び出した。マッハ1・7までスピードを出し、思う存分飛び回った彼は、スクランブル発進したタイ空軍機のミサイル攻撃で、空中爆発した。透はF35と共に無になった。

 

 ニューランズが、チッタゴンを去る日、彼はショフィクルをよび、別れを告げながら、「16歳になったら、ニューランズのいる場所にメールをするように」と言い、町を離れた。

 16歳になったショフィクルがメールをすると、彼の口座にニューランズが、1万ドルを送金してくれた。

 ショフィクルは、チッタゴンを離れ、ダッカに行き、紙飛行機を作って売るようになった。

 

 彼の紙飛行機はたいへんよくできており、いつまでも風に漂って空を舞っていた。