『深夜の博覧会』(昭和12年の探偵小説) 辻 真先
日本ミステリ界のレジェンドであり、今年卒寿を超えてなお、旺盛な作家活動にまい進している、辻真先氏の作品である。
昭和から現在までの、日本という国の姿に、自分自身の人生を重ね合わせたともいえる、作品集の第1作である。
本作はタイトル通り、昭和12年の日本を舞台にした作品である。
主人公は那珂一平(なか いっぺい=作者の分身)は十代半ばの、銀座で似顔絵書きを仕事にしている少年である。
彼はその年に日本で開催された『名古屋汎太平洋平和博覧会(万博のようなイベント)』を取材する機会に恵まれた。
その場所で見聞きする、当時のモダン都市名古屋の様子と、そこで起きた殺人事件の顛末を描いた作品である。
読後感を思いつくままに列挙してみる。
今まで知らなかった名古屋の、平和博覧会の華やかさ、また当時の名古屋の、大都市らしさがよくわかる情景描写も、素晴らしい。
また、太平洋戦争突入前の日本の様子、社会情勢がよくわかり、かなりモダンな日本の様子がイメージできてよかった。
殺人事件の中心人物となる宗像伯爵の「慈王羅馬館(ジオラマ館)」が、江戸川乱歩の「パノラマ島奇談」をイメージしていることも興味深かった。
殺人の動機とトリックに、当時としては、モダンな部類に入るものが、利用されていることも、おもしろかった。
強く感じたことは、戦争に突入していく、日本という国に対する、作者の悲しみと怒り。
犠牲になった人々に対する鎮魂の気持ちや空しさなどである。
ノスタルジーと悔恨(かいこん)の気持ちが交錯した、青春小説ともいえると思う。
作者が真摯な思いで書いた作品である。