四神の旗  馳星周 | ミステリ好き村昌の本好き通信

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 四神の旗  馳星周

 

 直木賞受賞以来、ノワールの作家馳星周は、歴史小説の分野に、踏み込んだような気がする。そう感じさせる本作である。

 舞台は8世紀の日本である。さて、当時の日本はどんな政治形態で、誰が中心となって国を動かしていたのか?

 大仏開眼、律令制度の確立、藤原氏の台頭など、いわゆる奈良時代と呼ばれていた時代である。(710年~794年)

 

本作は、奈良時代の中でも一番大きな政変(平安時代に栄華を極めた藤原氏が、朝廷の主導権を握る契機となった『長屋王の変』)と、藤原氏一族の運命を描いた作品である。

 律令制度を完成させ、朝廷第一の実力者となった藤原不比等の死後、不比等の直系の息子たち(武智麻呂、房前、宇合、麻呂)と、皇族の子息(長屋王)との権力闘争が、さながら舞台劇の脚本(戯曲)のように会話中心の文体でテンポよく展開する。

 

 長屋王と藤原四兄弟の対比、及び各人の人となりと、各人の野望と生き様が、カットバック的に、わかりやすく書かれている。

 特に藤原四兄弟の一人一人の思いが、皇太子誕生を機に、自分の若き日の理想や希望、考え方が変化していく様子を丁寧に描いていて、興味深い。

 会話中心の文体が、物語の迫真力を高めている。