【彼岸花について】
猛暑だった夏もようやく落ち着き、過ごしやすい秋の訪れを感じると、田んぼのあぜ道や、墓地近くなどで、彼岸花が咲いている景色が見受けられます。
その鮮やかな赤色は、遠くからでも目を引き、この独特な形状から英語では「Spider Lily(クモユリ)」とも呼ばれています。
日本の文化や文学作品でも、彼岸花は特別な存在として扱われ、多くの詩歌や小説で、秋の風景や人生の無常を象徴する花として描かれ、その美しさと儚さは、日本人の美意識と深く結びついているのかもしれません。
美しさを感じる反面、どこか怖い印象を持つ人が多い花ですが、なぜ彼岸花が怖いイメージを持たれやすい理由には、強い毒性があることで有名ですが、触れるだけでは毒は付着せず、花弁・茎・球根などすべてに毒を持つ全草有毒植物という事になり、彼岸花を口にすると、彼岸花が持つ毒を体内に入れることになります。
毒の主成分は「リコリン」というアルカロイドで、嘔吐、下痢、呼吸困難などの症状を引き起こす可能性があり、およそ彼岸花丸1本×667本分が致死量なので、人間が死ぬほどの量を摂取することは実質不可能毒ですが、実際に毒が含まれている為、人々に不安や恐れを抱かせる要因となり、昔はこの毒性を利用して、米の害虫対策に彼岸花の球根を使用していた事は、自然の力を巧みに活用した先人の知恵には、頭が下がります。
彼岸花が植えられている場所は、お墓やお寺など、死を連想させる場所であることが多い為、真っ赤な花弁は、血を連想させる描写としてアニメや漫画、小説などで使われており、不気味な印象になった様です。
墓地に彼岸花を植えているのは、日本が土葬だった頃、動物などが遺体に近寄らないよう、毒がある彼岸花を植えた歴史的背景が、彼岸花と死との結びつきを強めている様です。
彼岸花は「お彼岸」の時期に咲くことから、先祖供養の文化とも深く結びつき、この時期に咲く花として、日本人の心に特別な意味を持つようになったのでしょう。
彼岸花には、1000種類以上もの別名があり、その中に不吉で怖いイメージをするものが多く、彼岸花に対する人々の恐れや不安を反映し、死に遭遇する場面が多い花だったことが、これらの別名の由来になった事が考えられる一方で、「曼珠沙華(まんじゅしゃげ)」という美しい別名もあり、仏教用語で「天上の花」という意味を持ち、彼岸花の神秘的な一面を表しています。
悪いイメージが多い様ですが、赤い彼岸花の花言葉には、前向きな意味がある一方で、物悲しい意味も含まれているのには、彼岸花の持つ二面性を表しているようで興味深いかぎりです。
皆さんも、彼岸花を見かけたときは、怖いイメージだけでなく、その多面的な魅力に目を向け、生命の不思議さや季節の移ろい、日本の文化や歴史に思いを巡らせるのも贅沢な時間の使い方かもしれませんね。