1. 曾利式土器の時期・標識遺跡・分布
- 時期;縄文中期後葉の土器様式。
- 標識遺跡;曽利遺跡(井戸尻考古館は曽利遺跡内に建っている)
- 分布;山梨県甲府盆地を中心に八ケ岳製南麓から富士川下流域、伊豆地方、西関東が主な分布域。 房総半島からも出土。
2. 曽利式土器の形式
- 器種構成は、長胴甕・小甕・X把手甕・深鉢(籠目文様型・つなぎ弧文類型・肥厚帯類型)・浅鉢・鉢・壺・釣手土器・台形土器・ミニチュア土器。
- 大型土器(長胴甕・X把手甕)・煮沸用深鉢・把手付鉢・浅鉢が基本器種。
- 長胴甕:口縁部が内湾し、胴部が筒状の器形をしたもの。 口縁部無文化を基本とするが、渦巻文・W字状文などが見られることもある。地文は半我竹管内皮による半隆起状あるいは棒状工具 (半我竹管外皮を含む)による縦位の条線。櫛原氏は内湾する国縁部の上部に外側に直線的に開くものを勝坂式の型式内容を色濃く残すものとして長胴甕 bと区別している。また、口縁部が内湾せず、胴部からほぼ直線的に開くものがある。
- X把手甕:頸部もしくは胴部上半部に横位S字状の文様を横位に展開し把手部がX字状となるキャリパー形の器形をした大型深鉢。
- 小甕:器形は大型長胴甕と類似する小型なものと、大型長胴甕とは異なるものがある。北巨摩地域の北側にあたる八ケ岳西麓から諏訪湖周辺では中期後半に大型よりも小型な土器が主体を占めている。大型と小型の区別は主観的。
- 大型把手付(水煙文): 深鉢口縁部に2ないし4単位の中空の大型把手がつくもの。
- 口縁重弧文(斜行文)土器: 口縁斜行文土器と同一器形であるが、口縁部文様が重弧文もしくは褶曲文となるものである。褶曲文は井戸尻式からの系譜が考えられる(重弧文がその系譜上にあるかは不明)。
- 口縁肥厚帯土器: 器形はキャリパー形であり、口縁部が立体的に肥厚するもの。肥厚帯の一部が突起状となり口縁部が波状 を呈するものと平縁のものがある。胴部文様は、渦巻文と区画文の場合が多い。地文には棒状工具による刺突文や櫛歯状工具による条線文が多く見られる。
3. 曽利式土器 編年;
- 標識試料;長野県富士見町曽利遺跡出土品を1964年に設定。
- 井戸尻式土器を母胎に、前半では従位条線地文と懸垂文を特徴とし、後半から週末までは加曽利E式の影響を強く受け退嬰的(新しいことなどになかなか手を出したがらないさま)な変化を遂げる。
- 曽利 I ~ IV式を各2細分、V式を3細分の計11細分(今福2005を指標)。
今福2005b,曽利式土器大形甕の施文技法 -甲府盆地釈迦堂遺跡出土事例を中心に-:Ia式≒1類(2紐)、Ib式≒2類(1本棒状工具)、IIa/IIb式≒3類(半裁竹管内面)、IIIa式≒4類(2紐の両側を棒状工具で)、IIIb式≒5類(2紐の両側を指で)、IVa式≒6類(1本紐の両脇を指で)、IVb式≒7類(1本紐全体を指で)
- 無文ないしは簡略的な文様をもつ口縁部の長胴甕が主体。地文は半我竹管内皮による半隆起状の条線文ないしは棒状工具による条線文が主。胴部文様には隆線が用いられ、隆線上に刻みが入ることが 多い。
- 社口遺跡31号住居の事例より、勝坂式終末(井戸尻期)の土器と共伴する。 また、曽利式土器(特に曽利 Ia式期)とはいえ勝坂式的要素が含まれるものが多い。
la式期 :
- 口縁部;渦巻文やW字状文などがつくものがある。
- 頸部;交互刺突文・多段工字状文・橋状把手・横位波状粘土紐文などが見られる。
- 胴部;筒状もしくは胴部下半でやや膨らむ器形。 隆線上は刻み目の入る場合が多い。 胴部地文は半裁竹管内皮による半隆起状のものや外皮を用いやや深いものが多い。
- 胴部文様;勝坂式の流れを汲む人体文など前型式の文様が残る。胴部地文施文部と非施文部が明確に区別されている場合が多 く (非施文部は横削りにより傾斜が変化)、 この点も前型式の文様帯との関係が続いていることを示している。
曽利 Ia式 長胴甕 (井戸尻考古館) 2単位の緩やかな波状口縁。波頂下に隆線による渦巻文とW字状文が貼付される。その直下の頸部に橋状把手が付けられる。胴部にはU字状文と垂直懸垂文。
曽利 Ia式 長胴甕 (井戸尻考古館)
曽利 Ia式 長胴甕(甲ッ原遺跡 北杜市大泉町) 胴部人体文 ※ 山梨考古博物館で見分@2022/7/08
曽利 Ia式 長胴甕(駒飼場遺跡 @北杜市明野町 北杜市考古資料館) 無文口縁。胴部に人体文。地文は1本棒状工具による従位条線。
曽利 Ia式 長胴甕(岩窪遺跡 @北杜市小淵沢町 北杜市考古資料館) 頸部に工字状文と橋状把手。胴部地文として半裁竹管内面による半隆起状の従位線文。
曽利 Ia式 長胴甕(社口遺跡 @北杜市高根町 北杜市考古資料館) 口縁部は一度括れてから外へ開く器形。頸部に4単位の橋状把手。胴部に人体文、ト字状懸垂文。隆線上には連続爪形文。
曽利 Ia式 長胴甕(山崎第4遺跡@北杜市大泉町 北杜市考古資料館) 口縁は丸く内彎し、1単位の緩やかな波状口縁をもち、その直下に太紐線で渦巻文が波状粘土紐に左右と下方を囲まれて貼付される。さらにその左右に3本の太紐線文が付く。渦巻文下の頸部には眼鏡状突起が配され、爪形文が入れられた3本の太紐線文が頸部を巡る。頸部の眼鏡状突起から刻み目が入った太紐線の逆『ト』字状の懸垂文が胴部基底付近までおろされる。 胴部には3類の従位線が施され、連結したU字状懸垂文と垂直懸垂文が加飾される。
lb式期 :
- 口縁部;無文となる。内湾するものと直線的に開くものの二者がある。
- 頸部;前段階と同じ文様が残るが、横位波状粘土紐文が多くなる。 隆線上には半裁竹管内皮による連続押引文ないしは刺突文が見られるようになる。
- 胴部文様;前段階から変化した端部渦巻U字状文などが見られる。幅広の粘土帯を貼付けた後、半裁竹管内皮により数条の隆線貼付け状にするものがある。また、粘土帯脇に波状粘土紐を貼付するものも見られる。
- 胴部地文;前段階のものに櫛歯状工具による条線が見られるようになる。
- 口縁部に文様の施文される場合とされない場合がある。大型長胴甕に比して、口縁部文様帯全体にわたり文様の施文されるものがある(↑11~ 13)。
- 胴部文様の隆線は1本づつ貼り付けられ、隆線間の幅は一定せず、器面との間に隙間の見られる場合がある。
曽利 Ia式 小甕(山崎第4遺跡@大泉町北杜市)
曽利 Ia式 小甕(社口遺跡31住 @北杜市高根町)
- 口縁部文様はなくなる。
- 頸部の横位波状粘土紐文の多段化。
- 胴部がやや膨らむ筒形の器形を持つ前段階に加え、タル形の器形が出現。
- 頸部文様帯;変形工字状文や半我竹管内皮による連続爪形文などが施文。
- 頸部以下の胴部;X字状把手がつく。
- 地文は半我竹管内皮による半隆起状沈線や縄文。
- 口縁部;内湾する(↑1&2)。
- ↑3は、地文が曽利 Ⅱ式の特徴 とされる結節縄文であるが、 胴部文様にX字状把手が含 まれていることや頸部・胴部文様の隆線上に半我竹管内皮による連続爪形文が施文されていることなど古い要素が多いので、 II式期とする特徴とは区別すべきとして I式期に含めることとした。
- 把手部がドーム状となる。↓甲ッ原A遺跡土坑156のように胴部地文に梯子状沈線文が施文されることもある。
曽利 Ia式 水煙文土器 (甲ッ原A遺跡土坑156 @北杜市大泉町) 胴部に梯子状沈線。
曽利 Ia式 水煙文土器(竹宇1遺跡@北杜市大泉町 北杜市考古資料館) 2単位の大型水煙突起。胴部に梯子状沈線。
lb式期:大型把手付(水煙文)深鉢
- ドーム状に加えて、S宇状文を立体化したものが新たに加わる (↑2・ 3など)。 次期まで残存形態が残る可能性もあるが、基本的に本期をもって消滅。
- 口縁斜行文土器と同一器形であるが、口縁部文様が重弧文もしくは褶曲文となるものである。褶曲文は井戸尻式からの系譜が考えられる。
la式期:
- ↑1・ 2は各々共伴する土器が la式期であることからこの段階に位置づけた。
- 器形は井戸尻式期に見られたものに類似し、重弧文の中心部に変形渦巻文などが施文される。
曽利 Ia式 口縁重弧文土器(石之坪192住 @韮崎市)
曽利 Ia式 口縁重弧文土器(石之坪127住 @韮崎市) 中信唐草文系土器 第1段階および下伊那唐草文系土器 第1段階の褶曲文に文様・次期ともに一致。
曽利 Ia式 口縁重弧文(大深山遺跡@川上村 川上村文化センター)
lb式期 ~ IIa式期:
- 器形は胴部下半の膨らみがなくなりキャリパー形を呈する。
- 重弧文は半裁竹管内皮により施文されるが、 ↑4・ 6のように半隆起状とならない平行沈線で表現されるものがある。
- ↑3・ 6の胴・頸部の隆線上は半載竹管内皮による押引きされている。 ↑3の地文が縄文であることからIIa式期の可能性もある。また、↑5の頸部文様のように横位直線文の多段化は1期に多く見られるが器形はII式期。
曽利 Ib~IIa式 口縁重弧文土器(向原遺跡9住 井戸尻考古館)頸部に横位波状粘土紐を貼付。胴部地文に棒状工具による従位沈線が施文される。
- 北巨摩地域の曽利式土器編年表; 北巨摩市町村文化財担当者会(2004) 北巨摩地域の曽利式土器 (後篇)