自家用自動車保険契約の更新にあたり保険代理店に保険募集の取締に関する法律16条1項1号所定の告知義務の違反があつたとはいえないとされた事例
保険金請求控訴事件
【事件番号】 東京高等裁判所判決/昭和57年(ネ)第885号
【判決日付】 昭和57年11月30日
【判示事項】 自家用自動車保険契約の更新にあたり保険代理店に保険募集の取締に関する法律16条1項1号所定の告知義務の違反があつたとはいえないとされた事例
【判決要旨】 損害保険代理店の使用人が自動車損害保険契約の締結に関し「運転者年齢二六歳未満不担保」の特約を口頭で具体的に告知しなくても、保険募集の段階において二六歳未満不担保の特約が付されることの記載がある「自動車保険ご継続のご案内」と題されたはがきを保険申込者に送付し、右特約の明記された「自動車保険更改申込書」を申込者の閲覧に供し最終的な契約内容の確認を促すなどの手続をとり、右各文書の記載によれば、特約の内容は分かり易く、文字等も単純明確であって、なんらかの誤解を与えるおそれもないなど判示の事情があるときは、保険募集を行う者につき右特約の告知義務違反があったとはいえない。
【参照条文】 保険募集取締法律11
保険募集取締法律16-1
【掲載誌】 判例タイムズ490号152頁
金融・商事判例671号45頁
保険業法
(情報の提供)
第二百九十四条 保険会社等若しくは外国保険会社等、これらの役員(保険募集人である者を除く。)、保険募集人又は保険仲立人若しくはその役員若しくは使用人は、保険契約の締結、保険募集又は自らが締結した若しくは保険募集を行った団体保険(団体又はその代表者を保険契約者とし、当該団体に所属する者を被保険者とする保険をいう。次条、第二百九十四条の三第一項及び第三百条第一項において同じ。)に係る保険契約に加入することを勧誘する行為その他の当該保険契約に加入させるための行為(当該団体保険に係る保険契約の保険募集を行った者以外の者が行う当該加入させるための行為を含み、当該団体保険に係る保険契約者又は当該保険契約者と内閣府令で定める特殊の関係のある者が当該加入させるための行為を行う場合であって、当該保険契約者から当該団体保険に係る保険契約に加入する者に対して必要な情報が適切に提供されることが期待できると認められるときとして内閣府令で定めるときにおける当該加入させるための行為を除く。次条及び第三百条第一項において同じ。)に関し、保険契約者等の保護に資するため、内閣府令で定めるところにより、保険契約の内容その他保険契約者等に参考となるべき情報の提供を行わなければならない。ただし、保険契約者等の保護に欠けるおそれがないものとして内閣府令で定める場合は、この限りでない。
2 前項の規定は、第三百条の二に規定する特定保険契約の締結又はその代理若しくは媒介に関しては、適用しない。
3 保険募集人は、保険募集を行おうとするときは、あらかじめ、顧客に対し次に掲げる事項を明らかにしなければならない。
一 所属保険会社等の商号、名称又は氏名
二 自己が所属保険会社等の代理人として保険契約を締結するか、又は保険契約の締結を媒介するかの別
三 その他内閣府令で定める事項
4 保険仲立人は、保険契約の締結の媒介を行おうとするときは、内閣府令で定めるところにより、次に掲げる事項を記載した書面を顧客に交付しなければならない。
一 保険仲立人の商号、名称又は氏名及び住所
二 保険仲立人の権限に関する事項
三 保険仲立人の損害賠償に関する事項
四 その他内閣府令で定める事項
5 保険仲立人は、前項の規定による書面の交付に代えて、政令で定めるところにより、当該顧客の承諾を得て、当該書面に記載すべき事項を電子情報処理組織を使用する方法その他の情報通信の技術を利用する方法であって内閣府令で定めるものにより提供することができる。この場合において、当該保険仲立人は、当該書面を交付したものとみなす。
(保険契約の締結等に関する禁止行為)
第三百条 保険会社等若しくは外国保険会社等、これらの役員(保険募集人である者を除く。)、保険募集人又は保険仲立人若しくはその役員若しくは使用人は、保険契約の締結、保険募集又は自らが締結した若しくは保険募集を行った団体保険に係る保険契約に加入することを勧誘する行為その他の当該保険契約に加入させるための行為に関して、次に掲げる行為(自らが締結した又は保険募集を行った団体保険に係る保険契約に加入することを勧誘する行為その他の当該保険契約に加入させるための行為に関しては第一号に掲げる行為(被保険者に対するものに限る。)に限り、次条に規定する特定保険契約の締結又はその代理若しくは媒介に関しては同号に規定する保険契約の契約条項のうち保険契約者又は被保険者の判断に影響を及ぼすこととなる重要な事項を告げない行為及び第九号に掲げる行為を除く。)をしてはならない。ただし、第二百九十四条第一項ただし書に規定する保険契約者等の保護に欠けるおそれがないものとして内閣府令で定める場合における第一号に規定する保険契約の契約条項のうち保険契約者又は被保険者の判断に影響を及ぼすこととなる重要な事項を告げない行為については、この限りでない。
一 保険契約者又は被保険者に対して、虚偽のことを告げ、又は保険契約の契約条項のうち保険契約者又は被保険者の判断に影響を及ぼすこととなる重要な事項を告げない行為
二 保険契約者又は被保険者が保険会社等又は外国保険会社等に対して重要な事項につき虚偽のことを告げることを勧める行為
三 保険契約者又は被保険者が保険会社等又は外国保険会社等に対して重要な事実を告げるのを妨げ、又は告げないことを勧める行為
四 保険契約者又は被保険者に対して、不利益となるべき事実を告げずに、既に成立している保険契約を消滅させて新たな保険契約の申込みをさせ、又は新たな保険契約の申込みをさせて既に成立している保険契約を消滅させる行為
五 保険契約者又は被保険者に対して、保険料の割引、割戻しその他特別の利益の提供を約し、又は提供する行為
六 保険契約者若しくは被保険者又は不特定の者に対して、一の保険契約の契約内容につき他の保険契約の契約内容と比較した事項であって誤解させるおそれのあるものを告げ、又は表示する行為
七 保険契約者若しくは被保険者又は不特定の者に対して、将来における契約者配当又は社員に対する剰余金の分配その他将来における金額が不確実な事項として内閣府令で定めるものについて、断定的判断を示し、又は確実であると誤解させるおそれのあることを告げ、若しくは表示する行為
八 保険契約者又は被保険者に対して、当該保険契約者又は被保険者に当該保険会社等又は外国保険会社等の特定関係者(第百条の三(第二百七十二条の十三第二項において準用する場合を含む。第三百一条において同じ。)に規定する特定関係者及び第百九十四条に規定する特殊関係者のうち、当該保険会社等又は外国保険会社等を子会社とする保険持株会社及び少額短期保険持株会社(以下この条及び第三百一条の二において「保険持株会社等」という。)、当該保険持株会社等の子会社(保険会社等及び外国保険会社等を除く。)並びに保険業を行う者以外の者をいう。)が特別の利益の供与を約し、又は提供していることを知りながら、当該保険契約の申込みをさせる行為
九 前各号に定めるもののほか、保険契約者等の保護に欠けるおそれがあるものとして内閣府令で定める行為
2 前項第五号の規定は、保険会社等又は外国保険会社等が第四条第二項各号、第百八十七条第三項各号又は第二百七十二条の二第二項各号に掲げる書類に基づいて行う場合には、適用しない。
【判旨】
控訴人は、被控訴人の損害保険代理店の使用人である訴外直四郎が、本件保険契約の締結に先立ち、控訴人に対し「運転者年齢二六歳未満不担保」の特約を告知すべき義務があるのに、これを怠り、このために控訴人は自己の利益に適合する保険契約を締結すること又は締結した保険契約の内容を事後に自己の利益に適合するものに変更することができなかつた旨主張する。
そこで訴外直四郎につき右特約の告知義務違反があるかどうかについて次に検討を加える。
(一) 保険募集取締法一六条一項一号が代理店等保険を募集する者に対し保険契約の契約条項のうち重要な事項を告知すべき義務を課するゆえんは、主として、保険契約者の利益の保護にあるものと解される。このような立法の趣旨からすると、本件のように保険期間が一年間である保険契約を毎年更新する場合にも、保険募集を行なう者は原則としてその都度重要事項の告知を保険契約者(となるべき保険申込者)に対してなすべきであり、かつ、その告知は、相手方が実際にそれによつて当該事項の内容を改めて認識することができるような態様で行なわれなければならないものと解される。しかし、その方法としては、文書と口頭とではそれぞれ長短所があるので、専らそのいずれかによるべきものとはいえず、また、必ずしも両者を併用しなければならないものということもできない。
(二) 運転者年齢二六歳未満不担保の特約は、保険契約の内容として担保範囲を著しく縮小させるものであるから、契約の重要事項にあたり、保険募集を行なう者は募集につきこれを告知しなければならない。
(三) 前記認定の事実によれば、訴外直四郎は本件保険契約につき保険募集の段階において二六歳未満不担保の特約が付されることの記載がある「自動車保険ご継続のご案内」と題されたはがきを控訴人に送付し、次いで電話で「前年通りでいいですか、変つたことはありませんか。」と保険契約の内容全般にわたり確認を行なつた後、右特約の明記された「自動車保険更改申込書」を控訴人の閲覧に供し最終的な契約内容の確認を促すなどの手続をとつている。右口頭でなされたような保険契約の内容に関する抽象的、一般的な言及は、前に送付されたはがきないしは後で渡された申込書と一体となつて始めて特約に関する告知としての意味をもちうるにすぎないというべきであるから、右各文書による告知の明確性、実質性がさらに究明される必要があるところ、〈証拠〉によれば、右はがきの下方の「おすすめの保険料は次の条件で計算しています。」という欄の中の年齢条件欄には「26才未満不担保」と記載があつてその下にタイプにより当該条件によることを示す○印が打刻されていたと認められ、この記載によれば、特約の内容は分り易く、文字等も単純明確であつて、不明瞭な点はなく、なんらかの誤解を与える危険もない。また、〈証拠〉によれば、右自動車保険更改申込書には中央に近い部分に「特約」欄があり、「26才以上担保」の文章の箇所に右同様のタイプによる○印が打刻されてあることが認められ、この記載も同様に単純明確であつて、書面全体の様式から見ても誤解を与える虞れはない。したがつて、文書による右特約の告知は実質的にみても正当な表現、方法によつてなされているものと認められる(なお、〈証拠〉によれば、被控訴人が控訴人に送付した保険証券及び自動車保険ご契約カードにはそれぞれ運転者の年齢条件の記載があることが認められ、また、〈証拠〉によれば、右保険証券と共に送付された「自家用自動車保険普通保険約款および特約条項」と題する小冊子には、右二六歳末満不担保の特約につき大きな文字と見易い文章による説明と注意書きが印刷されていること(同冊子一頁)が認められる。これらは、契約締結後の送付文書であるから、契約締結に対する関係では告知義務の履行としての意味をもつものということはできないが、控訴人主張の契約変更に関する法的利益に対する関係では告知義務の履行たる意味を有するものということができる。)。
(四) 右のような本件保険契約締結の前後の経緯と、前記のように右契約締結当時訴外直四郎が本件自動車を将来運転する者が控訴人でなく三澤一雄であるとの明確な認識を有しなかつた事実とに照らすと、訴外直四郎が前記特約につき更に口頭で具体的に告知しなくても、同人に告知義務違反があつたということはできない。したがつて、右義務違反のあることを前提とする本訴予備的請求も理由がない。
(倉田卓次 下郡山信夫 加茂紀久男)
【判例番号】 L03720676
保険金請求控訴事件
【事件番号】 東京高等裁判所判決/昭和57年(ネ)第885号
【判決日付】 昭和57年11月30日
【出 典】 金融・商事判例671号45頁
一、本判決は、第一審判決を大部分引用しているので事案の内容が明らかではないが、推察するところ、自動車損害保険契約を締結したX(原告・控訴人)が保険会社Y(被告・被控訴人)に対し保険金の請求をしたところ、保険会社は「運転者年齢二六歳未満不担保」の特約の適用を主張し、契約者は右特約の効力を争った事案のようである。
二、本件の争点は、保険代理店の使用人が右特約の告知義務違反を行ったかどうかの点にある。ところで、保険募集の取締に関する法律一六条一項一号によれば、損害保険会社の使用人等は、保険契約の締結又は募集に関しては、保険契約者に対して保険契約の契約条項のうち重要な事項を告知すべき義務を課している。これはもちろん、保険契約者の利益の保護を目的として設けられた規定であるから、本件のような特約については、保険契約の内容としての担保範囲を著しく縮小させるものであるから、当然に告知すべき重要な事項といってよかろう。
この告知の方法はもちろん文書でも差支えないのであるが、口頭で明言する場合ならともかく、文書での告知となるととかく形式的に流れ易く明確性に欠けるうらみが生じ問題を生じ易い。本件においては、「自動車保険ご継続のご案内」と題するはがき、「自動車保険更改申込書」と題する書面中の記載によって告知されたが、本判決は、その記載の方法、内容等についてこれを具体的にとりあげ、文書による本件特約の告知は、実質的にみても正当な表現、方法によってなされているものと認められるとして、有効な告知がされたものと判断している。
三、周知のように保険契約の締結にあたっては、保険契約者は保険者に対して告知義務を負うものとされている(損害保険につき商法六四四条、生命保険につき同法六七八条)。この告知義務制度の根拠についてはいろいろの角度から論ぜられてはいるが、つまるところは、保険契約の特質から要請される契約当事者間の衡平の原則を根拠とするものと解されよう(大森・保険法一一八頁)。そうだとすれば、このような告知義務は保険契約者側にのみ課せられるいわれはなく保険者側にも同様な義務を負わせて当然であろう。保険募集の取締に関する法律一六条は、保険者に対し告知義務を負わせた規定である。尤も、同法に違反してした契約であっても、罰則(同法二二条)の適用を受けることは格別、私法上当然に無効となるものではない、との見解もある(大森・前掲書三三一頁。なお、大森教授は右規定を保険者側の告知義務を定めたものとは解しておられないようである。同書一二一頁)。しかし、強行法規違反の行為となるから無効原因ないしは解除事由として構成する余地もあろうかと思われる。
本判決は有効な告知があったとされたものであるから、右の問題点については触れられるに至らなかった。有効な告知方法の一事例を示したものとして興味のある判決である。