法律大好きのブログ(弁護士村田英幸) -193ページ目

法律大好きのブログ(弁護士村田英幸)

役に立つ裁判例の紹介、法律の本の書評です。弁護士経験32年。第二東京弁護士会所属21770

刑事訴訟法105条・押収拒絶権が行使されたにもかかわらず捜索が実施された違法性が争われた事例


損害賠償請求事件
【事件番号】    東京地方裁判所判決/令和2年(ワ)第32586号
【判決日付】    令和4年7月29日
【掲載誌】     LLI/DB 判例秘書登載



刑事訴訟法
第百五条 医師、歯科医師、助産師、看護師、弁護士(外国法事務弁護士を含む。)、弁理士、公証人、宗教の職に在る者又はこれらの職に在つた者は、業務上委託を受けたため、保管し、又は所持する物で他人の秘密に関するものについては、押収を拒むことができる。但し、本人が承諾した場合、押収の拒絶が被告人のためのみにする権利の濫用と認められる場合(被告人が本人である場合を除く。)その他裁判所の規則で定める事由がある場合は、この限りでない。

第二百二十二条1項 第九十九条第一項、第百条、第百二条から第百五条まで、第百十条から第百十二条まで、第百十四条、第百十五条及び第百十八条から第百二十四条までの規定は、検察官、検察事務官又は司法警察職員が第二百十八条、第二百二十条及び前条の規定によつてする押収又は捜索について、第百十条、第百十一条の二、第百十二条、第百十四条、第百十八条、第百二十九条、第百三十一条及び第百三十七条から第百四十条までの規定は、検察官、検察事務官又は司法警察職員が第二百十八条又は第二百二十条の規定によつてする検証についてこれを準用する。ただし、司法巡査は、第百二十二条から第百二十四条までに規定する処分をすることができない。


       主   文

 1 原告らの請求をいずれも棄却する。
 2 訴訟費用は、原告らの負担とする。

       事実及び理由

第1 請求
   被告は、原告らに対し、各33万円及びこれに対する令和2年1月29日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
   本件は、J(以下「J」という。)に対する出入国管理及び難民認定法(以下「入管法」という。)違反被疑事件等につき、令和2年1月29日午前10時10分頃から同日午後3時05分頃まで実施された原告I(以下「原告法人」という。)が設置する事務所(以下「本件事務所」という。)に対する捜索・差押え(以下「本件捜索等」という。)に際し、刑事訴訟法(以下「刑訴法」という。)222条1項において準用する同法105条に基づいて押収拒絶権を行使したにもかかわらず本件捜索等が実施されたとする原告らが、検察官及び検察事務官による本件事務所への立入り、本件捜索等及び本件事務所からの不退去(以下「本件各行為」という。)が違法であると主張して、被告に対し、国家賠償法1条1項に基づいて、原告1名につき各33万円の損害賠償金及びこれに対する本件捜索等が実施された日(違法行為の日)である令和2年1月29日から支払済みまでの平成29年法律第44号による改正前の民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
 1 前提事実(争いのない事実並びに掲記の各証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
  (1) 当事者及び関係者
   ア 原告A、原告B、原告C、原告D、原告E、原告F、原告G及び原告H(以下「原告弁護士ら」ということがある。)は、いずれも原告法人が設置する本件事務所に勤務する弁護士である。
   イ Jは、後記(2)及び(3)のとおり、金融商品取引法(以下「金商法」という。)違反及び会社法違反の被疑事実及び公訴事実により逮捕、勾留、起訴され、保釈中の令和元年12月29日、入国審査官から出国の確認を受けることなく、本邦から出国した者である。
     原告弁護士らは、令和2年1月16日に辞任するまで、上記被疑事実及び公訴事実について、Jの弁護人を務めていた。
   ウ K、L及びM(以下、3名を併せて「Kら」という。)は、上記イのJの出国に関与したことが疑われる者らである。
  (2) Jの逮捕、勾留、起訴及び保釈
   ア 検察官は、平成30年11月19日、金商法違反の被疑事実(平成22~26年度分の虚偽記載のある有価証券報告書の提出)によりJを逮捕し、裁判官による勾留を得て、同年12月10日、同事実につき東京地方裁判所に公訴を提起した。また、検察官は、同日、金商法違反の被疑事実(平成27~29年度分の虚偽記載のある有価証券報告書の提出)により同人を逮捕し、裁判官による勾留を得、同月21日、会社法違反の被疑事実(特別背任)により同人を逮捕し、裁判官による勾留を得て、平成31年1月11日、上記両事実につき東京地方裁判所に公訴を提起した。
   イ 東京地方裁判所は、平成31年3月5日、Jの保釈を許可する旨を決定し、同月6日、同人は釈放された(甲2、3)。
     Jは、会社法違反の被疑事実(特別背任)により同年4月4日に再逮捕され、その後勾留されたが、同月22日の公訴の提起後、東京地方裁判所は同月25日に同人の保釈を許可する旨を決定し、同日、同人は釈放された(甲4)。
   ウ 上記イの各保釈の許可に際し、東京地方裁判所は、次の条件を付した(甲2~4)。
    (ア) Jは、原告法人の事務所から貸与されたパーソナルコンピュータ(機種名:(以下省略。)。以下「本件PC」という。)のみを、平日午前9時から午後5時までの間、本件事務所内において使用し、それ以外の日時・場所で、パーソナルコンピュータを使用してはならない。また、Jは、本件PCのインターネットのログ記録を保存しておかなければならない。
    (イ) Jは、制限住居の内外を問わず、面会した相手の氏名(ただし、同人の妻、弁護人及び原告法人の事務員を除く。)、日時・場所を記録しておかなければならない。
    (ウ) Jは、弁護人を介して、上記(ア)のログ記録及び上記(イ)の面会記録を、それぞれ裁判所に提出しなければならない。
  (3) Jの出国
    Jは、保釈中の令和元年12月29日、入国審査官から出国の確認を受けずに関西国際空港から航空機に搭乗して離陸し、本邦から出国した。
  (4) 本件事務所に対する1回目の捜索の試み
    令和2年1月8日、東京地方検察庁の検察官及び検察事務官ら合計5名が本件事務所を訪れ、前記(3)の出国に係るJに対する入管法違反被疑事件等について本件事務所を捜索する旨を申し出たところ、原告弁護士らは、刑訴法222条1項において準用する同法105条に基づき押収拒絶権を行使し、捜索自体も拒絶する旨を述べた。上記検察官らは、1時間に及ぶ原告弁護士らとの問答の末、本件事務所から退去した(乙3)。
 

セゾン情報システムズ事件・株式会社が株主の提案する同社の株式の大規模買付行為に反対し、かつ、同株主に対して当該大規模買付行為の中止を要請することを承認する旨の株主総会決議の無効確認を求める同株主らの訴えの確認の利益の有無(消極)


株主総会決議無効確認請求事件
【事件番号】    東京地方裁判所判決/平成24年(ワ)第33014号
【判決日付】    平成26年11月20日
【判示事項】    株式会社が株主の提案する同社の株式の大規模買付行為に反対し、かつ、同株主に対して当該大規模買付行為の中止を要請することを承認する旨の株主総会決議の無効確認を求める同株主らの訴えの確認の利益の有無(消極)
【判決要旨】    株式会社が株主の提案する同社の株式の大規模買付行為に反対し、かつ、同株主に対して当該大規模買付行為の中止を要請することを承認する旨の株主総会決議の無効確認を求める同株主らの訴えは、当該決議が同社において当該大規模買付行為に対する対抗措置を発動するか否かを判断するに際して何ら効力があるとは認められない判示の事実関係の下においては、確認の利益がない。
【参照条文】    民事訴訟法134
          会社法830-2
【掲載誌】     金融・商事判例1457号52頁


民事訴訟法
(訴え提起の方式)
第百三十四条 訴えの提起は、訴状を裁判所に提出してしなければならない。
2 訴状には、次に掲げる事項を記載しなければならない。
一 当事者及び法定代理人
二 請求の趣旨及び原因


会社法
(株主総会等の決議の不存在又は無効の確認の訴え)
第八百三十条 株主総会若しくは種類株主総会又は創立総会若しくは種類創立総会(以下この節及び第九百三十七条第一項第一号トにおいて「株主総会等」という。)の決議については、決議が存在しないことの確認を、訴えをもって請求することができる。
2 株主総会等の決議については、決議の内容が法令に違反することを理由として、決議が無効であることの確認を、訴えをもって請求することができる。


 

既存通路が東京都建築安全条例第3条所定の幅員に欠ける場合と民法第210条の囲繞地通行権の成否

 

 

通行権確認事件

【事件番号】      最高裁判所第1小法廷判決/昭和34年(オ)第1132号

【判決日付】      昭和37年3月15日

【判示事項】      既存通路が東京都建築安全条例第3条所定の幅員に欠ける場合と民法第210条の囲繞地通行権の成否

【判決要旨】      土地が路地状部分で公路に通じており、既存建物所有により右土地の利用をするのになんらの支障がない場合、その路地状部分が東京都建築安全条例第3条所定の幅員に欠けるとの理由で増築につき建築基準適合の確認がして貰えないというだけでは、民法第210条の囲繞地通行権は成立しない。

【参照条文】      民法210

             建築基準法43

             東京都建築安全条例(昭和25年12月7日東京都条例第89号)3

【掲載誌】        最高裁判所民事判例集16巻3号556頁

 

 

民法

(公道に至るための他の土地の通行権)

第二百十条 他の土地に囲まれて公道に通じない土地の所有者は、公道に至るため、その土地を囲んでいる他の土地を通行することができる。

2 池沼、河川、水路若しくは海を通らなければ公道に至ることができないとき、又は崖がけがあって土地と公道とに著しい高低差があるときも、前項と同様とする。

第二百十一条 前条の場合には、通行の場所及び方法は、同条の規定による通行権を有する者のために必要であり、かつ、他の土地のために損害が最も少ないものを選ばなければならない。

2 前条の規定による通行権を有する者は、必要があるときは、通路を開設することができる。

第二百十二条 第二百十条の規定による通行権を有する者は、その通行する他の土地の損害に対して償金を支払わなければならない。ただし、通路の開設のために生じた損害に対するものを除き、一年ごとにその償金を支払うことができる。

第二百十三条 分割によって公道に通じない土地が生じたときは、その土地の所有者は、公道に至るため、他の分割者の所有地のみを通行することができる。この場合においては、償金を支払うことを要しない。

2 前項の規定は、土地の所有者がその土地の一部を譲り渡した場合について準用する。

 

 

建築基準法

(敷地等と道路との関係)

第四十三条 建築物の敷地は、道路(次に掲げるものを除く。第四十四条第一項を除き、以下同じ。)に二メートル以上接しなければならない。

一 自動車のみの交通の用に供する道路

二 地区計画の区域(地区整備計画が定められている区域のうち都市計画法第十二条の十一の規定により建築物その他の工作物の敷地として併せて利用すべき区域として定められている区域に限る。)内の道路

2 前項の規定は、次の各号のいずれかに該当する建築物については、適用しない。

一 その敷地が幅員四メートル以上の道(道路に該当するものを除き、避難及び通行の安全上必要な国土交通省令で定める基準に適合するものに限る。)に二メートル以上接する建築物のうち、利用者が少数であるものとしてその用途及び規模に関し国土交通省令で定める基準に適合するもので、特定行政庁が交通上、安全上、防火上及び衛生上支障がないと認めるもの

二 その敷地の周囲に広い空地を有する建築物その他の国土交通省令で定める基準に適合する建築物で、特定行政庁が交通上、安全上、防火上及び衛生上支障がないと認めて建築審査会の同意を得て許可したもの

3 地方公共団体は、次の各号のいずれかに該当する建築物について、その用途、規模又は位置の特殊性により、第一項の規定によつては避難又は通行の安全の目的を十分に達成することが困難であると認めるときは、条例で、その敷地が接しなければならない道路の幅員、その敷地が道路に接する部分の長さその他その敷地又は建築物と道路との関係に関して必要な制限を付加することができる。

一 特殊建築物

二 階数が三以上である建築物

三 政令で定める窓その他の開口部を有しない居室を有する建築物

四 延べ面積(同一敷地内に二以上の建築物がある場合にあつては、その延べ面積の合計。次号、第四節、第七節及び別表第三において同じ。)が千平方メートルを超える建築物

五 その敷地が袋路状道路(その一端のみが他の道路に接続したものをいう。)にのみ接する建築物で、延べ面積が百五十平方メートルを超えるもの(一戸建ての住宅を除く。)

 

四国電力事件・会社が従業員株主らを他の株主よりも先に株主総会の会場に入場させて株主席の前方に着席させたことにより株主が希望する席に座る機会を失ったとしても右株主の法的利益が侵害されたということにはできないという事例

 

 

損害賠償請求事件

【事件番号】      最高裁判所第3小法廷判決/平成5年(オ)第1747号

【判決日付】      平成8年11月12日

【判示事項】      会社が従業員株主らを他の株主よりも先に株主総会の会場に入場させて株主席の前方に着席させたことにより株主が希望する席に座る機会を失ったとしても右株主の法的利益が侵害されたということにはできないという事例

【判決要旨】      会社が従業員株式らを他の株主よりも先に株主総会の会場に入場させて株主席の前方に着席させたことにより、株主が希望する席に座る機会を失ったとしても、右株主が会場中央部付近に着席した上、議長からの指名を受けて動議を提出したという事実関係の下においては、右株主の法的利益が侵害されたということはできない。

【参照条文】      民法709

             商法237の4

【掲載誌】        最高裁判所裁判集民事180号671頁

             判例タイムズ936号216頁

             金融・商事判例1018号23頁

             判例時報1598号152頁

             商事法務資料版153号171頁

 

 

民法

(不法行為による損害賠償)

第七百九条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

 

 

会社法

(株主の平等)
第百九条 株式会社は、株主を、その有する株式の内容及び数に応じて、平等に取り扱わなければならない。
2 前項の規定にかかわらず、公開会社でない株式会社は、第百五条第一項各号に掲げる権利に関する事項について、株主ごとに異なる取扱いを行う旨を定款で定めることができる。
3 前項の規定による定款の定めがある場合には、同項の株主が有する株式を同項の権利に関する事項について内容の異なる種類の株式とみなして、この編及び第五編の規定を適用する。

 

(議長の権限)

第三百十五条 株主総会の議長は、当該株主総会の秩序を維持し、議事を整理する。

2 株主総会の議長は、その命令に従わない者その他当該株主総会の秩序を乱す者を退場させることができる。

 

 

雇用契約に基づく残業手当等の支払により労働基準法37条の割増賃金が支払われたものとした原審の判断に違法があるとされた事例

 

 

未払賃金等請求事件

【事件番号】      最高裁判所第2小法廷判決/令和4年(受)第1019号

【判決日付】      令和5年3月10日

【判示事項】      雇用契約に基づく残業手当等の支払により労働基準法37条の割増賃金が支払われたものとした原審の判断に違法があるとされた事例

【掲載誌】        LLI/DB 判例秘書登載

 

 

労働基準法

(時間外、休日及び深夜の割増賃金)

第三十七条 使用者が、第三十三条又は前条第一項の規定により労働時間を延長し、又は休日に労働させた場合においては、その時間又はその日の労働については、通常の労働時間又は労働日の賃金の計算額の二割五分以上五割以下の範囲内でそれぞれ政令で定める率以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。ただし、当該延長して労働させた時間が一箇月について六十時間を超えた場合においては、その超えた時間の労働については、通常の労働時間の賃金の計算額の五割以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。

② 前項の政令は、労働者の福祉、時間外又は休日の労働の動向その他の事情を考慮して定めるものとする。

③ 使用者が、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定により、第一項ただし書の規定により割増賃金を支払うべき労働者に対して、当該割増賃金の支払に代えて、通常の労働時間の賃金が支払われる休暇(第三十九条の規定による有給休暇を除く。)を厚生労働省令で定めるところにより与えることを定めた場合において、当該労働者が当該休暇を取得したときは、当該労働者の同項ただし書に規定する時間を超えた時間の労働のうち当該取得した休暇に対応するものとして厚生労働省令で定める時間の労働については、同項ただし書の規定による割増賃金を支払うことを要しない。

④ 使用者が、午後十時から午前五時まで(厚生労働大臣が必要であると認める場合においては、その定める地域又は期間については午後十一時から午前六時まで)の間において労働させた場合においては、その時間の労働については、通常の労働時間の賃金の計算額の二割五分以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。

⑤ 第一項及び前項の割増賃金の基礎となる賃金には、家族手当、通勤手当その他厚生労働省令で定める賃金は算入しない。

       主   文

 

 1 原判決中、1070万1572円及びうち813万1174円に対する令和3年8月7日から支払済みまで年14.6%の割合による金員並びに473万3030円及びこれに対する判決確定の日の翌日から支払済みまで年3%の割合による金員の各支払請求に係る部分を破棄する。

 2 前項の部分につき、本件を福岡高等裁判所に差し戻す。

 

       理   由

 

 上告代理人勝浦敦嗣の上告受理申立て理由(ただし、排除された部分を除く。)について

 1 本件は、被上告人に雇用され、トラック運転手として勤務していた上告人が、被上告人に対し、時間外労働、休日労働及び深夜労働(以下「時間外労働等」という。)に対する賃金並びに付加金等の支払を求める事案である。

 2 原審の確定した事実関係等の概要は、次のとおりである。

 (1) 上告人は、平成24年2月頃、一般貨物自動車運送事業等を営む被上告人との間で雇用契約を締結したが、契約書は作成されなかった。なお、上記雇用契約は、平成29年12月25日をもって終了した。

 被上告人においては、上記雇用契約締結当時、就業規則の定めにかかわらず、日々の業務内容等に応じて月ごとの賃金総額を決定した上で、その賃金総額から基本給と基本歩合給を差し引いた額を時間外手当とするとの賃金体系(以下「旧給与体系」という。)が採用されていた。

 (2)ア 被上告人は、平成27年5月、熊本労働基準監督署から適正な労働時間の管理を行うよう指導を受けたことを契機として、就業規則を変更した(以下、この変更後の就業規則を「平成27年就業規則」という。)。平成27年就業規則等に基づく新たな賃金体系(以下「新給与体系」という。)の主な内容は、次のとおりである。

 (ア) 基本給は、本人の経験、年齢、技能等を考慮して各人別に決定した額を支給する。

 (イ) 基本歩合給は、運転手に対し1日500円とし、実出勤した日数分を支給する。

 (ウ) 勤続手当は、出勤1日につき、勤続年数に応じて200~1000円を支給する。

 (エ) 残業手当、深夜割増手当及び休日割増手当(以下「本件時間外手当」と総称する。)並びに調整手当から成る割増賃金(以下「本件割増賃金」という。)を支給する。このうち本件時間外手当の額は、基本給、基本歩合給、勤続手当等(以下「基本給等」という。)を通常の労働時間の賃金として、労働基準法37条並びに政令及び厚生労働省令の関係規定(以下、これらの規定を「労働基準法37条等」という。)に定められた方法により算定した額であり、調整手当の額は、本件割増賃金の総額から本件時間外手当の額を差し引いた額である。本件割増賃金の総額の算定方法は平成27年就業規則に明記されていないものの、上記総額は、旧給与体系と同様の方法により業務内容等に応じて決定される月ごとの賃金総額から基本給等の合計額を差し引いたものである。

 イ 新給与体系の下において、上告人を含む被上告人の労働者の総労働時間やこれらの者に現に支払われた賃金総額は、旧給与体系の下におけるものとほとんど変わらなかったが、旧給与体系に比して基本給が増額された一方で基本歩合給が大幅に減額され、上記のとおり新たに調整手当が導入されることとなった。被上告人は、新給与体系の導入に当たり、上告人を含む労働者に対し、基本給の増額や調整手当の導入等につき一応の説明をしたところ、特に異論は出なかった。

 (3) 被上告人においては、平成27年12月からデジタルタコグラフを用いた労働時間の管理がされるようになったところ、同月から同29年12月までの期間における上告人の時間外労働等の状況は第1審判決別紙7のとおりであり、上記期間のうち上告人の勤務日がほとんどなかった期間を除く19か月間を通じ、1か月当たりの時間外労働等の時間は平均80時間弱であった。

 平成27年12月から同29年12月までの期間における被上告人から上告人に対する賃金の支給状況は、第1審判決別紙8のほか、同判決別紙7の「既払額」欄のとおりであり、上記19か月間を通じ、基本給の支給額は月額12万円、本件時間外手当の支給額は合計約170万円、調整手当の支給額は合計約203万円であった。

 (4) 被上告人は、令和3年8月6日、上告人に対し、第1審判決が認容した賃金額の全部(遅延損害金を含めて合計224万7013円)を支払った。

 3 原審は、上記事実関係等の下において、要旨次のとおり判断し、上記2(4)の弁済により賃金の未払はなくなったなどとして、上告人の各請求を棄却した。

 本件割増賃金のうち調整手当については、時間外労働等の時間数に応じて支給されていたものではないこと等から、その支払により労働基準法37条の割増賃金が支払われたということはできない。他方、本件時間外手当については、平成27年就業規則の定めに基づき基本給とは別途支給され、金額の計算自体は可能である以上、通常の労働時間の賃金に当たる部分と同条の割増賃金に当たる部分とを判別することができる上、新給与体系の導入に当たり、被上告人から労働者に対し、本件時間外手当や本件割増賃金についての一応の説明があったと考えられること等も考慮すると、時間外労働等の対価として支払われるものと認められるから、その支払により同条の割増賃金が支払われたということができる。

 4 しかしながら、原審の上記判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。

 (1) 労働基準法37条は、労働基準法37条等に定められた方法により算定された額を下回らない額の割増賃金を支払うことを義務付けるにとどまり、使用者は、労働者に対し、雇用契約に基づき、上記方法以外の方法により算定された手当を時間外労働等に対する対価として支払うことにより、同条の割増賃金を支払うことができる。そして、使用者が労働者に対して同条の割増賃金を支払ったものといえるためには、通常の労働時間の賃金に当たる部分と同条の割増賃金に当たる部分とを判別することができることが必要である。

 雇用契約において、ある手当が時間外労働等に対する対価として支払われるものとされているか否かは、雇用契約に係る契約書等の記載内容のほか、具体的事案に応じ、使用者の労働者に対する当該手当等に関する説明の内容、労働者の実際の労働時間等の勤務状況などの諸般の事情を考慮して判断すべきである。その判断に際しては、労働基準法37条が時間外労働等を抑制するとともに労働者への補償を実現しようとする趣旨による規定であることを踏まえた上で、当該手当の名称や算定方法だけでなく、当該雇用契約の定める賃金体系全体における当該手当の位置付け等にも留意して検討しなければならないというべきである(以上につき、最高裁平成29年(受)第842号同30年7月19日第一小法廷判決・裁判集民事259号77頁、最高裁同年(受)第908号令和2年3月30日第一小法廷判決・民集74巻3号549頁等参照)。

 (2)ア 前記事実関係等によれば、新給与体系の下においては、時間外労働等の有無やその多寡と直接関係なく決定される本件割増賃金の総額のうち、基本給等を通常の労働時間の賃金として労働基準法37条等に定められた方法により算定された額が本件時間外手当の額となり、その余の額が調整手当の額となるから、本件時間外手当と調整手当とは、前者の額が定まることにより当然に後者の額が定まるという関係にあり、両者が区別されていることについては、本件割増賃金の内訳として計算上区別された数額に、それぞれ名称が付されているという以上の意味を見いだすことができない。

 そうすると、本件時間外手当の支払により労働基準法37条の割増賃金が支払われたものといえるか否かを検討するに当たっては、本件時間外手当と調整手当から成る本件割増賃金が、全体として時間外労働等に対する対価として支払われるものとされているか否かを問題とすべきこととなる。

 イ(ア) 前記事実関係等によれば、被上告人は、労働基準監督署から適正な労働時間の管理を行うよう指導を受けたことを契機として新給与体系を導入するに当たり、賃金総額の算定については従前の取扱いを継続する一方で、旧給与体系の下において自身が通常の労働時間の賃金と位置付けていた基本歩合給の相当部分を新たに調整手当として支給するものとしたということができる。そうすると、旧給与体系の下においては、基本給及び基本歩合給のみが通常の労働時間の賃金であったとしても、上告人に係る通常の労働時間の賃金の額は、新給与体系の下における基本給等及び調整手当の合計に相当する額と大きく変わらない水準、具体的には1時間当たり平均1300~1400円程度であったことがうかがわれる(第1審判決別紙8参照)。一方、上記のような調整手当の導入の結果、新給与体系の下においては、基本給等のみが通常の労働時間の賃金であり本件割増賃金は時間外労働等に対する対価として支払われるものと仮定すると、上告人に係る通常の労働時間の賃金の額は、前記2(3)の19か月間を通じ、1時間当たり平均約840円となり、旧給与体系の下における水準から大きく減少することとなる。

 また、上告人については、上記19か月間を通じ、1か月当たりの時間外労働等は平均80時間弱であるところ、これを前提として算定される本件時間外手当をも上回る水準の調整手当が支払われていることからすれば、本件割増賃金が時間外労働等に対する対価として支払われるものと仮定すると、実際の勤務状況に照らして想定し難い程度の長時間の時間外労働等を見込んだ過大な割増賃金が支払われる賃金体系が導入されたこととなる。

 しかるところ、新給与体系の導入に当たり、被上告人から上告人を含む労働者に対しては、基本給の増額や調整手当の導入等に関する一応の説明がされたにとどまり、基本歩合給の相当部分を調整手当として支給するものとされたことに伴い上記のような変化が生ずることについて、十分な説明がされたともうかがわれない。

 (イ) 以上によれば、新給与体系は、その実質において、時間外労働等の有無やその多寡と直接関係なく決定される賃金総額を超えて労働基準法37条の割増賃金が生じないようにすべく、旧給与体系の下においては通常の労働時間の賃金に当たる基本歩合給として支払われていた賃金の一部につき、名目のみを本件割増賃金に置き換えて支払うことを内容とする賃金体系であるというべきである。そうすると、本件割増賃金は、その一部に時間外労働等に対する対価として支払われているものを含むとしても、通常の労働時間の賃金として支払われるべき部分をも相当程度含んでいるものと解さざるを得ない。

 ウ そして、前記事実関係等を総合しても、本件割増賃金のうちどの部分が時間外労働等に対する対価に当たるかが明確になっているといった事情もうかがわれない以上、本件割増賃金につき、通常の労働時間の賃金に当たる部分と労働基準法37条の割増賃金に当たる部分とを判別することはできないこととなるから、被上告人の上告人に対する本件割増賃金の支払により、同条の割増賃金が支払われたものということはできない。

 エ したがって、被上告人の上告人に対する本件時間外手当の支払により労働基準法37条の割増賃金が支払われたものとした原審の判断には、割増賃金に関する法令の解釈適用を誤った違法がある。

 5 以上のとおり、原審の上記判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨はこの趣旨をいうものとして理由があり、原判決中、不服申立ての範囲である本判決主文第1項記載の部分は破棄を免れない。そして、上告人に支払われるべき賃金の額、付加金の支払を命ずることの当否及びその額等について更に審理を尽くさせるため、上記部分につき、本件を原審に差し戻すこととする。

 よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。なお、裁判官草野耕一の補足意見がある。

 裁判官草野耕一の補足意見は、次のとおりである。

 私は法廷意見に賛同するものであるが、そこで述べられている理由に関して、あるいは、次のような疑念を抱く者がいるかもしれない。すなわち、労働者が、使用者の個別の了解を得ることなく時間外労働等を行い得る労働環境においては、実際の時間外労働等の時間数にかかわらず一定額の割増賃金を支払う雇用契約上の仕組み(以下、本補足意見において、これを「固定残業代制度」といい、そこで支払われる金員ないしはその金額のことを「固定残業代」という。)を利用することには経済合理性があり、かかる制度の下にあっては、実際の時間外労働等の総量が合理的な範囲内に抑制されており、かつ、全体として適正な水準の賃金が支払われていると認め得るのであれば、当該固定残業代の支払を労働基準法37条の割増賃金(以下、本補足意見においては「法定割増賃金」という。)の支払として認めてもよいのではないか、という疑念である。そこで、以下、この疑念に対する私の見解を詳らかとし、もって法廷意見に対する私の補足意見としたい(なお、法定割増賃金の支払対象となる労働には時間外労働、休日労働及び深夜労働の三つがあるが、その間の異同は本件事案の争点とは直接関係がないので、以下においては、記述をより簡単なものとするべく、法定割増賃金の対象となる労働は時間外労働だけであるものとして論を進める。)。

 1 労働基準法37条は、時間外労働を時間内労働に比して割高な役務とするものである。その結果、同条に時間外労働を抑制する機能があることは疑いをいれないが、同時に、同条があることによって、労働者が使用者の個別の了解を得ずとも時間外労働を行い得る労働環境においては、労働者の限界生産性が時間外労働に対する対価を下回ってもなお、労働者が更に時間外労働を行おうとする事態が生じやすいことも否めないところであり(以下、かかる事態の下でなされる時間外労働を「非生産的な時間外労働」という。)、この事態を回避するために使用者が固定残業代制度を利用しようとすることは、経済合理的な行動として理解し得る。

 2 しかしながら、労働基準法37条は強行法規であるから、たとえ固定残業代制度が導入された場合であっても、労働者が雇用契約に基づいて行った時間外労働の総時間に対する法定割増賃金の金額が固定残業代を超過するときには、使用者は超過分を労働者に対して支払わなければならない。このことを踏まえて労働者のインセンティブを考慮するならば、前記の労働環境の下において、非生産的な時間外労働に対する賃金の発生をできるだけ抑止するという目的のために固定残業代制度を機能させるためには、固定残業代を(1時間当たりの)法定割増賃金の額で除して得られる時間数(以下、この時間数を「想定残業時間」という。)を、非生産的な時間外労働には至らないと使用者が認識する時間外労働の総時間数(以下、これを「生産的残業時間」という。)よりもある程度長いものとした上で、実際の時間外労働として見込まれる時間が想定残業時間を下回るようにすることが必要となる(なお、ここにいう生産的残業時間は、あくまでも使用者の認識する数値であって、この数値が訴訟上の立証の対象となることは想定されない。)。もっとも、この場合には、使用者にとって、想定残業時間が生産的残業時間を上回ることによる損失が生ずることにもなるため、使用者が、固定残業代制度を導入する機会などに、通常の労働時間に対する賃金の水準をある程度抑制しようとすることも、経済合理的な行動として理解し得るところであり、このこと自体をもって、労働基準法37条の趣旨を潜脱するものであると評価することは相当でない。

 3 しかしながら、以上の点を全て斟酌してもなお、(まさに本件においてそうであるように)固定残業代制度の下で、その実質においては通常の労働時間の賃金として支払われるべき金額が、名目上は時間外労働に対する対価として支払われる金額に含まれているという脱法的事態が現出するに至っては、当該固定残業代制度の下で支払われる固定残業代(本件に即していえば、本件割増賃金がこれに該当する。)の支払をもって法定割増賃金の支払として認めるべきではない。なぜならば、仮にそれが認められるとすれば、

 (1) 使用者は、通常の労働時間の賃金とこれに基づいて計算される法定割増賃金を大きく引き下げることによって、賃金総額を引き上げることなしに、想定残業時間を極めて長いものとすることが可能となり、

 (2) (周知のとおり労働市場は常に競争的であるとはいえない以上)使用者は、上記のようにして作り出された固定残業代制度の存在を奇貨として、適宜に、それまでの平均的な時間外労働時間を大幅に上回るレベルの時間外労働を、追加の対価を支払うことなく行わせる事態を現出させ得ることとなるが、

 (3) そのような事態が現実に発生してからでなくては労働者が司法的救済を得られないとすれば、労働基準法37条の趣旨の効率的な達成は期待し難いからである(なお、労働者が使用者の個別の了解を得ることなく時間外労働を延長し得る労働環境であることと、使用者が雇用契約に抵触することなく時間外労働を延長させ得る労働環境であることは排反的関係に立つものではない。)。

 もとより、所与の労働環境において、使用者が固定残業代制度という手段のみによって非生産的な時間外労働の発生を抑止するためには上記のような脱法的事態を現出させざるを得ないという状況もあり得るのかもしれないが、そのことをもって、以上の理が左右されるべきものではなく、そのような状況下にある使用者は、固定残業代制度以外の施策を用いて非生産的な時間外労働の抑止を図るよりほかはない。

 4 以上の理由から、私は、法廷意見の理由及び結論の全てに賛同する次第である。

うどんすき事件・うどんすきは普通名称化した

 

 

審決取消請求事件

【事件番号】      東京高等裁判所判決/平成9年(行ケ)第62号

【判決日付】      平成9年11月27日

【判示事項】      「杵屋うどんすき」なる文字を横書きしてなる登録商標と「□□□」「□□□」「□□□」なる既存の登録商標とが、類似しないとされた事例

【判決要旨】      「杵屋うどんすき」なる文字を横書きしてなる登録商標と「□□□」「□□□」「□□□」なる既存の登録商標との類否につき、特定の商品に付された造語であっても、その語が長年使用されることにより取引者、需要者に商品の一般名称として認識されるに至った場合は普通名称化したものと認められるとした上、「うどんすき」なる語は、個人の創作料理の名称として考案された造語であるが、「杵屋うどんすき」なる前記登録商標の登録査定当時には、一般の需要者はもとより、専門的な加工販売業者等取引者の間でも「うどんを主材料とし魚介類、鶏肉、野菜類等の各種の具を合わせて食べる鍋料理」を意味する語として広く認識されていたから、普通名称化しており、その指定商品との関係では自他商品の識別機能を有しないとして、前記登録商標と「□□□」「□□□」「□□□」なる前記既存の登録商標とは外観、称呼、観念において類似しないとした事例

【参照条文】      商標法3-1

【掲載誌】        知的財産権関係民事・行政裁判例集29巻4号1290頁

             判例時報1638号146頁

 

 

商標法

(商標登録の要件)

第三条 自己の業務に係る商品又は役務について使用をする商標については、次に掲げる商標を除き、商標登録を受けることができる。

一 その商品又は役務の普通名称を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標

二 その商品又は役務について慣用されている商標

三 その商品の産地、販売地、品質、原材料、効能、用途、形状(包装の形状を含む。第二十六条第一項第二号及び第三号において同じ。)、生産若しくは使用の方法若しくは時期その他の特徴、数量若しくは価格又はその役務の提供の場所、質、提供の用に供する物、効能、用途、態様、提供の方法若しくは時期その他の特徴、数量若しくは価格を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標

四 ありふれた氏又は名称を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標

五 極めて簡単で、かつ、ありふれた標章のみからなる商標

六 前各号に掲げるもののほか、需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができない商標

2 前項第三号から第五号までに該当する商標であつても、使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができるものについては、同項の規定にかかわらず、商標登録を受けることができる。

 

 

LIXIL事件・株主総会において、株主が委任状や議決権行使書面を提出する際に錯誤が生じるおそれがあることを理由に、特定の取扱いをあらかじめ差し止めることを求めた仮処分命令申立てを棄却した原決定に対する抗告が棄却された事例

 

 

違法行為差止仮処分命令申立却下決定に対する抗告事件

【事件番号】      東京高等裁判所決定/令和元年(ラ)第1134号

【判決日付】      令和元年6月21日

【判示事項】      株主総会において、株主が委任状や議決権行使書面を提出する際に錯誤が生じるおそれがあることを理由に、特定の取扱いをあらかじめ差し止めることを求めた仮処分命令申立てを棄却した原決定に対する抗告が棄却された事例

【判決要旨】      株主が議決権を行使するに際して、委任状や議決権行使書面につき錯誤が生じるおそれがあり、その結果、株主の意思に反する結果をもたらしかねないとの理由をもって、株主総会に先立ちあらかじめその可能性のある行為や取扱いにつき、一律に法令に違反するものであるとして差止めを求めることは、法が予定するものではなく、相当でない。

【参照条文】      会社法402-3

             会社法422-1

             会社法831-1

             民事保全法23

【掲載誌】        金融法務事情2129号78頁

【評釈論文】      金融・商事判例1602号2頁

             ジュリスト1553号103頁

 

 

会社法

(執行役の選任等)

第四百二条 指名委員会等設置会社には、一人又は二人以上の執行役を置かなければならない。

2 執行役は、取締役会の決議によって選任する。

3 指名委員会等設置会社と執行役との関係は、委任に関する規定に従う。

4 第三百三十一条第一項及び第三百三十一条の二の規定は、執行役について準用する。

5 株式会社は、執行役が株主でなければならない旨を定款で定めることができない。ただし、公開会社でない指名委員会等設置会社については、この限りでない。

6 執行役は、取締役を兼ねることができる。

7 執行役の任期は、選任後一年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結後最初に招集される取締役会の終結の時までとする。ただし、定款によって、その任期を短縮することを妨げない。

8 前項の規定にかかわらず、指名委員会等設置会社が指名委員会等を置く旨の定款の定めを廃止する定款の変更をした場合には、執行役の任期は、当該定款の変更の効力が生じた時に満了する。

 

(株主による執行役の行為の差止め)

第四百二十二条 六箇月(これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては、その期間)前から引き続き株式を有する株主は、執行役が指名委員会等設置会社の目的の範囲外の行為その他法令若しくは定款に違反する行為をし、又はこれらの行為をするおそれがある場合において、当該行為によって当該指名委員会等設置会社に回復することができない損害が生ずるおそれがあるときは、当該執行役に対し、当該行為をやめることを請求することができる。

2 公開会社でない指名委員会等設置会社における前項の規定の適用については、同項中「六箇月(これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては、その期間)前から引き続き株式を有する株主」とあるのは、「株主」とする。

 

(株主総会等の決議の取消しの訴え)

第八百三十一条 次の各号に掲げる場合には、株主等(当該各号の株主総会等が創立総会又は種類創立総会である場合にあっては、株主等、設立時株主、設立時取締役又は設立時監査役)は、株主総会等の決議の日から三箇月以内に、訴えをもって当該決議の取消しを請求することができる。当該決議の取消しにより株主(当該決議が創立総会の決議である場合にあっては、設立時株主)又は取締役(監査等委員会設置会社にあっては、監査等委員である取締役又はそれ以外の取締役。以下この項において同じ。)、監査役若しくは清算人(当該決議が株主総会又は種類株主総会の決議である場合にあっては第三百四十六条第一項(第四百七十九条第四項において準用する場合を含む。)の規定により取締役、監査役又は清算人としての権利義務を有する者を含み、当該決議が創立総会又は種類創立総会の決議である場合にあっては設立時取締役(設立しようとする株式会社が監査等委員会設置会社である場合にあっては、設立時監査等委員である設立時取締役又はそれ以外の設立時取締役)又は設立時監査役を含む。)となる者も、同様とする。

一 株主総会等の招集の手続又は決議の方法が法令若しくは定款に違反し、又は著しく不公正なとき。

二 株主総会等の決議の内容が定款に違反するとき。

三 株主総会等の決議について特別の利害関係を有する者が議決権を行使したことによって、著しく不当な決議がされたとき。

2 前項の訴えの提起があった場合において、株主総会等の招集の手続又は決議の方法が法令又は定款に違反するときであっても、裁判所は、その違反する事実が重大でなく、かつ、決議に影響を及ぼさないものであると認めるときは、同項の規定による請求を棄却することができる。

 

 

民事保全法

(仮処分命令の必要性等)

第二十三条 係争物に関する仮処分命令は、その現状の変更により、債権者が権利を実行することができなくなるおそれがあるとき、又は権利を実行するのに著しい困難を生ずるおそれがあるときに発することができる。

2 仮の地位を定める仮処分命令は、争いがある権利関係について債権者に生ずる著しい損害又は急迫の危険を避けるためこれを必要とするときに発することができる。

3 第二十条第二項の規定は、仮処分命令について準用する。

4 第二項の仮処分命令は、口頭弁論又は債務者が立ち会うことができる審尋の期日を経なければ、これを発することができない。ただし、その期日を経ることにより仮処分命令の申立ての目的を達することができない事情があるときは、この限りでない。

 

 

ビジネス法務2023年6月号 中央経済社

定価:1,800円(税込)

 

発行日:2023/04/20

 

紙版を購入

送料について

本の紹介

より詳しい内容を、本誌ウェブサイト(https://www.chuokeizai.co.jp/bjh/)にて紹介しています。

 

【特集1】

許諾対象別

ライセンス契約の手引き

 「ライセンス契約」と聞いて,何を思い浮かべるでしょうか。特許,商標,ノウハウ……いずれもライセンス許諾対象の主たるものですが,近年デジタル化の流れをくみ,新たなライセンス形態が次々に登場。AI・データを扱うユースケースの増加,フリーソフトウェア(OSS)の活用拡大,サブカルチャーの盛況などを背景に,産業ごとの個別論点も浮かび上がっています。

 本特集では,トラブルケースを想定したライセンス契約の基本,そして一歩進んだ応用テクニックまでを集約し,知財を最大限に生かすための法務戦略を提示します。

 

【特集2】

株主総会直前対策

 2023年度6月株主総会を迎えるにあたり,総会資料の電子提供はもちろんのこと,総会に関する取扱事項の増加には注意が必要です。コロナ禍においてイレギュラーな対応に追われたのも束の間,株主提案の影響力が増し,そのうえ「変化球」ともとれる質疑を繰り広げる株主への対応など,総会運営は依然,一筋縄ではいきません。

 詳細な実務動向は本年3月号で解説しているため,本特集ではもう1つアクセントをつけて,現場感満載の総会実務に迫ります。

 

【特別企画】

日本企業が知っておきたいEUビジネス法

 強大な影響力が「ブリュッセル効果」と評されるなど,その主体である欧州の法改正・ルールメイキングの動向は日本企業であっても必ず押さえておくべきでしょう。とりわけ人権・サステナビリティ分野におけるDD指令案やデジタルプラットフォーマー規制に関しては,現地子会社のみならず,サプライチェーンとしての対応が求められる場合があります。

 実務対応に迫られなくとも,「うちはドメスティックな企業だから関係ない」と見過ごすのではなく,EU法に学ぶ意義は大きいです。

 

【新連載】

・考える法務――基本と初心とささやかな試み

・IPO準備における会社法の基礎

・ストーリーでわかる 労働審判の基本

 

【特別収録】

・第52回ビジネス実務法務検定試験Ⓡ 1級 本試験問題

 

 

コメント

やさしいライセンス契約の解説、令和元年会社法改正、EU法など、勉強になりました。

 

限定提供データとは

 

不正競争防止法2条7項において「限定提供データ」とは、業として特定の者に提供する情報として電磁的方法(電子的方法、磁気的方法その他人の知覚によっては認識することができない方法をいう。次項において同じ。)により相当量蓄積され、及び管理されている技術上又は営業上の情報(秘密として管理されているものを除く。)をいう。

 

(定義)

第二条1項 この法律において「不正競争」とは、次に掲げるものをいう。

十一 窃取、詐欺、強迫その他の不正の手段により限定提供データを取得する行為(以下「限定提供データ不正取得行為」という。)又は限定提供データ不正取得行為により取得した限定提供データを使用し、若しくは開示する行為

十二 その限定提供データについて限定提供データ不正取得行為が介在したことを知って限定提供データを取得し、又はその取得した限定提供データを使用し、若しくは開示する行為

十三 その取得した後にその限定提供データについて限定提供データ不正取得行為が介在したことを知ってその取得した限定提供データを開示する行為

十四 限定提供データを保有する事業者(以下「限定提供データ保有者」という。)からその限定提供データを示された場合において、不正の利益を得る目的で、又はその限定提供データ保有者に損害を加える目的で、その限定提供データを使用する行為(その限定提供データの管理に係る任務に違反して行うものに限る。)又は開示する行為

十五 その限定提供データについて限定提供データ不正開示行為(前号に規定する場合において同号に規定する目的でその限定提供データを開示する行為をいう。以下同じ。)であること若しくはその限定提供データについて限定提供データ不正開示行為が介在したことを知って限定提供データを取得し、又はその取得した限定提供データを使用し、若しくは開示する行為

十六 その取得した後にその限定提供データについて限定提供データ不正開示行為があったこと又はその限定提供データについて限定提供データ不正開示行為が介在したことを知ってその取得した限定提供データを開示する行為

7 この法律において「限定提供データ」とは、業として特定の者に提供する情報として電磁的方法(電子的方法、磁気的方法その他人の知覚によっては認識することができない方法をいう。次項において同じ。)により相当量蓄積され、及び管理されている技術上又は営業上の情報(秘密として管理されているものを除く。)をいう。

 

(差止請求権)

第三条 不正競争によって営業上の利益を侵害され、又は侵害されるおそれがある者は、その営業上の利益を侵害する者又は侵害するおそれがある者に対し、その侵害の停止又は予防を請求することができる。

2 不正競争によって営業上の利益を侵害され、又は侵害されるおそれがある者は、前項の規定による請求をするに際し、侵害の行為を組成した物(侵害の行為により生じた物を含む。第五条第一項において同じ。)の廃棄、侵害の行為に供した設備の除却その他の侵害の停止又は予防に必要な行為を請求することができる。

(損害賠償)

第四条 故意又は過失により不正競争を行って他人の営業上の利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責めに任ずる。ただし、第十五条の規定により同条に規定する権利が消滅した後にその営業秘密又は限定提供データを使用する行為によって生じた損害については、この限りでない。

(損害の額の推定等)

第五条 第二条第一項第一号から第十六号まで又は第二十二号に掲げる不正競争(同項第四号から第九号までに掲げるものにあっては、技術上の秘密に関するものに限る。)によって営業上の利益を侵害された者(以下この項において「被侵害者」という。)が故意又は過失により自己の営業上の利益を侵害した者に対しその侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合において、その者がその侵害の行為を組成した物を譲渡したときは、その譲渡した物の数量(以下この項において「譲渡数量」という。)に、被侵害者がその侵害の行為がなければ販売することができた物の単位数量当たりの利益の額を乗じて得た額を、被侵害者の当該物に係る販売その他の行為を行う能力に応じた額を超えない限度において、被侵害者が受けた損害の額とすることができる。ただし、譲渡数量の全部又は一部に相当する数量を被侵害者が販売することができないとする事情があるときは、当該事情に相当する数量に応じた額を控除するものとする。

2 不正競争によって営業上の利益を侵害された者が故意又は過失により自己の営業上の利益を侵害した者に対しその侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合において、その者がその侵害の行為により利益を受けているときは、その利益の額は、その営業上の利益を侵害された者が受けた損害の額と推定する。

3 第二条第一項第一号から第九号まで、第十一号から第十六号まで、第十九号又は第二十二号に掲げる不正競争によって営業上の利益を侵害された者は、故意又は過失により自己の営業上の利益を侵害した者に対し、次の各号に掲げる不正競争の区分に応じて当該各号に定める行為に対し受けるべき金銭の額に相当する額の金銭を、自己が受けた損害の額としてその賠償を請求することができる。

一 第二条第一項第一号又は第二号に掲げる不正競争 当該侵害に係る商品等表示の使用

二 第二条第一項第三号に掲げる不正競争 当該侵害に係る商品の形態の使用

三 第二条第一項第四号から第九号までに掲げる不正競争 当該侵害に係る営業秘密の使用

四 第二条第一項第十一号から第十六号までに掲げる不正競争 当該侵害に係る限定提供データの使用

五 第二条第一項第十九号に掲げる不正競争 当該侵害に係るドメイン名の使用

六 第二条第一項第二十二号に掲げる不正競争 当該侵害に係る商標の使用

4 前項の規定は、同項に規定する金額を超える損害の賠償の請求を妨げない。この場合において、その営業上の利益を侵害した者に故意又は重大な過失がなかったときは、裁判所は、損害の賠償の額を定めるについて、これを参酌することができる。

 

 

(適用除外等)

第十九条 第三条から第十五条まで、第二十一条(第二項第七号に係る部分を除く。)及び第二十二条の規定は、次の各号に掲げる不正競争の区分に応じて当該各号に定める行為については、適用しない。

八 第二条第一項第十一号から第十六号までに掲げる不正競争 次のいずれかに掲げる行為

イ 取引によって限定提供データを取得した者(その取得した時にその限定提供データについて限定提供データ不正開示行為であること又はその限定提供データについて限定提供データ不正取得行為若しくは限定提供データ不正開示行為が介在したことを知らない者に限る。)がその取引によって取得した権原の範囲内においてその限定提供データを開示する行為

ロ その相当量蓄積されている情報が無償で公衆に利用可能となっている情報と同一の限定提供データを取得し、又はその取得した限定提供データを使用し、若しくは開示する行為

『令和4年度重要判例解説』有斐閣

 

新しくて大切な判例を学ぼう

ジュリスト臨時増刊 2023年4月10日号(1583号)

 

2023年04月13日発売

B5判並製 , 292ページ

定価 3,520円(本体 3,200円)

ISBN 978-4-641-11597-2

 

例年好評を博している『重要判例解説』の最新版。令和4年度1年間の判例を概観する「判例の動き」と,厳選した重要判例についての的確でわかりやすい「個別解説」で,最新判例を広く深く学べる一冊。

 

 

コメント

新しい論点が多く、勉強になりました。

 

 

目次      

■詳細内容はこちら

 

〔憲法〕10件

判例の動き=松本和彦

 ツイッター記事削除請求事件 在外邦人の最高裁裁判官国民審査権ほか

〔行政法〕10件

判例の動き=野呂充

 津波による原子力発電所事故防止のための規制権限の不行使と国家賠償責任 ほか

〔民法〕5件

判例の動き=山下純司

 不法行為に基づく損害賠償義務の遅延損害金と民法405条 ほか

〔商法〕10件

判例の動き=伊藤靖史

 人傷一括払により損害賠償請求権の額から控除できる範囲 ほか

〔民事訴訟法〕10件

判例の動き=鶴田滋

 ハーグ条約実施法134条に基づく間接強制の方法による子の返還の強制執行の許否 ほか

〔刑法〕8件

判例の動き=上嶌一高

 外国公務員等に対する不正の利益の供与という不正競争防止法違反の罪についての共謀の成否 ほか

〔刑事訴訟法〕7件

判例の動き=堀江慎司

 強制採尿令状発付の違法と尿鑑定書等の証拠能力 ほか

〔租税法〕6件

判例の動き=渋谷雅弘

 法人税法132条1項にいう税負担の不当な減少の意義――ユニバーサルミュージック事件最高裁判決 ほか

〔労働法〕10件

判例の動き=土田道夫

 労使間合意成立の見込みがない団体交渉事項に関する誠実交渉命令の適法性 ――山形大学事件 ほか

〔経済法〕9件

判例・審決の動き=武田邦宣

 価格カルテルに関する意思の連絡と競争の実質的制限 ほか

〔知的財産法〕6件

判例の動き=宮脇正晴

 音楽教室における演奏の主体 ほか

〔国際法〕5件

判例の動き=西村 弓

 人種差別撤廃条約の国内実施 ほか

〔国際私法〕6件

判例の動き=横溝 大

 監護権侵害に基づく損害賠償請求と準拠法 ほか

計115件