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法律大好きのブログ(弁護士村田英幸)

役に立つ裁判例の紹介、法律の本の書評です。弁護士経験32年。第二東京弁護士会所属21770

ユニキューブ事件・商標権侵害に基づく損害賠償請求訴訟において,損害額の算定に当たり,商標法38条2項の適用を否定した事例

 

 

損害賠償請求事件

【事件番号】      大阪地方裁判所判決/平成21年(ワ)第13559号

【判決日付】      平成24年12月13日

【判示事項】     商標権侵害に基づく損害賠償請求訴訟において,損害額の算定に当たり,商標法38条2項の適用を否定した事例

【参照条文】      商標法38-2

             商標法38-3

【掲載誌】        判例タイムズ1399号226頁

             判例時報2208号116頁

             LLI/DB 判例秘書登載

【評釈論文】      知財ぷりずむ141号25頁

 

 

商標法

(損害の額の推定等)

第三十八条 商標権者又は専用使用権者が故意又は過失により自己の商標権又は専用使用権を侵害した者に対しその侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合において、その者がその侵害の行為を組成した商品を譲渡したときは、次の各号に掲げる額の合計額を、商標権者又は専用使用権者が受けた損害の額とすることができる。

一 商標権者又は専用使用権者がその侵害の行為がなければ販売することができた商品の単位数量当たりの利益の額に、自己の商標権又は専用使用権を侵害した者が譲渡した商品の数量(次号において「譲渡数量」という。)のうち当該商標権者又は専用使用権者の使用の能力に応じた数量(同号において「使用相応数量」という。)を超えない部分(その全部又は一部に相当する数量を当該商標権者又は専用使用権者が販売することができないとする事情があるときは、当該事情に相当する数量(同号において「特定数量」という。)を控除した数量)を乗じて得た額

二 譲渡数量のうち使用相応数量を超える数量又は特定数量がある場合(商標権者又は専用使用権者が、当該商標権者の商標権についての専用使用権の設定若しくは通常使用権の許諾又は当該専用使用権者の専用使用権についての通常使用権の許諾をし得たと認められない場合を除く。)におけるこれらの数量に応じた当該商標権又は専用使用権に係る登録商標の使用に対し受けるべき金銭の額に相当する額

2 商標権者又は専用使用権者が故意又は過失により自己の商標権又は専用使用権を侵害した者に対しその侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合において、その者がその侵害の行為により利益を受けているときは、その利益の額は、商標権者又は専用使用権者が受けた損害の額と推定する。

3 商標権者又は専用使用権者は、故意又は過失により自己の商標権又は専用使用権を侵害した者に対し、その登録商標の使用に対し受けるべき金銭の額に相当する額の金銭を、自己が受けた損害の額としてその賠償を請求することができる。

4 裁判所は、第一項第二号及び前項に規定する登録商標の使用に対し受けるべき金銭の額に相当する額を認定するに当たつては、商標権者又は専用使用権者が、自己の商標権又は専用使用権に係る登録商標の使用の対価について、当該商標権又は専用使用権の侵害があつたことを前提として当該商標権又は専用使用権を侵害した者との間で合意をするとしたならば、当該商標権者又は専用使用権者が得ることとなるその対価を考慮することができる。

5 商標権者又は専用使用権者が故意又は過失により自己の商標権又は専用使用権を侵害した者に対しその侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合において、その侵害が指定商品又は指定役務についての登録商標(書体のみに変更を加えた同一の文字からなる商標、平仮名、片仮名及びローマ字の文字の表示を相互に変更するものであつて同一の称呼及び観念を生ずる商標、外観において同視される図形からなる商標その他の当該登録商標と社会通念上同一と認められる商標を含む。第五十条において同じ。)の使用によるものであるときは、その商標権の取得及び維持に通常要する費用に相当する額を、商標権者又は専用使用権者が受けた損害の額とすることができる。

6 第三項及び前項の規定は、これらの規定に規定する金額を超える損害の賠償の請求を妨げない。この場合において、商標権又は専用使用権を侵害した者に故意又は重大な過失がなかつたときは、裁判所は、損害の賠償の額を定めるについて、これを参酌することができる。

 

 

       主   文

 

 1 被告は,原告に対し,金836万円及びこれに対する平成21年2月15日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

 2 原告のその余の請求を棄却する。

 3 訴訟費用はこれを50分し,その1を被告の負担とし,その余を原告の負担とする。

 4 本判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。

 

       事実及び理由

 

第1 請求

   被告は,原告に対し,金4億0528万1000円及びこれに対する平成21年2月15日から支払済みに至るまで年分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要等

 1 事案の概要

   本件は,後記本件商標権の商標権者であり,デザイナーズ戸建賃貸住宅のブランド「ユニキューブ」の設計・施工事業(以下「ユニキューブ事業」という。)に必要な設計・施工・営業のマニュアル等を提供している原告が,ユニキューブ事業を営む被告に対し,①デコスドライ工法を採用しない建物の工事請負契約に後記本件商標を使用したことは,本件販売契約に基づく商標使用許諾の範囲外であると主張して,商標権侵害又は債務不履行に基づく損害賠償請求をすると共に,②デコスドライ工法を採用しない建物に原告が提供した後記本件情報を使用したことは,本件販売契約に基づくノウハウ使用許諾の範囲外であると主張して,債務不履行又は不正競争防止法(営業秘密の不正使用)に基づく損害賠償請求をする事案である(なお,上記①と②の各請求の関係は単純併合であり,上記①の商標権侵害に基づく請求と債務不履行に基づく請求,上記②の債務不履行に基づく請求と不正競争防止法に基づく請求の関係は,いずれも重なり合う限度で選択的併合である。)。

 2 判断の基礎となる事実

   以下の各事実は,当事者間に争いがないか,又は掲記の各証拠及び弁論の全趣旨により容易に認定することができる。

  (1) 当事者

    原告及び被告は,いずれも土木,建築の設計,施工,監理等を営業の目的とする株式会社である。

  (2) 原告の商標権

    原告は,以下の商標権(以下「本件商標権」といい,その登録商標を「本件商標」という。)を有している(甲1)。

   ① 登録番号 第4912272号

   ② 出願日  平成17年4月28日

   ③ 登録日  平成17年12月2日

   ④ 商品及び役務の区分 第36類

   ⑤ 登録商標 別紙商標目録のとおり

  (3) デコスドライ工法

    デコスドライ工法は,建物の断熱・防音工法の一つであり,天然の木質繊維であるセルロースファイバーを用いる点に特徴がある(甲3,29)。同工法については,特許権設定登録がされており,原告の子会社である株式会社デコス(以下「デコス社」という。)がその特許権者である(甲20)。

    デコス社は,平成8年9月以降,デコスドライ工法についての施工代理店契約事業を実施している(乙35)。また,平成12年5月に,デコスドライ工法の施工技術の確立と普及を図ることを目的とした日本セルロースファイバー断熱施工協会が設立され,会長に原告の代表者,事務局長にデコス社の取締役が就いている(乙37)。

  (4) 本件販売契約の締結

   ア ユニキューブ事業

     原告は,訴外ハイアス・アンド・カンパニー株式会社(以下「訴外ハイアス」という。)と共同して,平成17年から,工務店等と「ユニキューブ・パッケージ販売契約」を締結して(以下,契約の相手方である工務店等を「加盟店」ともいう。),原告安成が開発したデザイナーズ戸建賃貸住宅のブランド「ユニキューブ」の設計・施工事業(「ユニキューブ事業」)に必要な設計・施工・営業のマニュアル等を提供する事業を行っている。

   イ 本件販売契約

    (ア) 原告及び訴外ハイアスは,平成17年9月7日,被告との間で,ユニキューブ・パッケージ販売契約を締結した(甲4。以下「本件販売契約」という。)。

    (イ) 同契約において,「ユニキューブ」,「ユニキューブ・パッケージ」,「ユニキューブ事業」について,以下のとおり定義されている(本件販売契約1条)。

     a 「ユニキューブ」

       原告が開発した設計・施工ノウハウにより建築される建築物で,キューブ型の外観デザインを持ち,かつ,デコスドライ工法によるセルロースファイバー断熱を標準採用した建物(同契約1条1項)。

     b 「ユニキューブ・パッケージ」

       原告が自ら開発したユニキューブの設計・施工・営業ノウハウと,訴外ハイアスから提供を受けた顧客獲得のための営業ノウハウとを,訴外ハイアスの支援のもと有機的に組み合わせたもの(同2項)。

     c 「ユニキューブ事業」

       ユニキューブ・パッケージに含まれるノウハウを用いてユニキューブの設計・施工を行う事業(同3項)。

    (ウ) 同契約において,原告は,被告に対し,徳島県を中心に,ユニキューブ事業を行う非独占的な権利を与え(同2条2項),建物の外観及び間取りに関する別紙本件情報記載の情報(以下「本件情報」という。)等が記載された設計・施工マニュアル及び営業マニュアル一式(以下「原告マニュアル」という。乙12)を引き渡した(同4項)。

      また,被告は,原告が有する「ユニキューブ」,「UNICUBE」,「unicube」等のユニキューブ建物に関する商標・ロゴ・サービスマーク(登録の有無を問わない。)を,ユニキューブ事業にのみ使用することができるとされた(同4条1項)。

  (5) 被告の行為

   ア 被告は,ユニキューブ事業を開始した後,本件情報を使用したキューブ型外観を有し,デコスドライ工法が採用された建物の建築工事請負をしたが(以下,このような建物を「ユニキューブ物件」という。),他方で,建築工事請負契約書,見積書,見積内訳書,仕様書,図面等に本件商標を使用した上で,本件情報を使用したキューブ型の外観を有するもののデコスドライ工法が採用されていない建物の建築工事請負もしていた(以下,このような建物を「本件対象物件」という。)。

     なお,被告は,遅くとも平成19年4月以降においては,施主にデコスドライ工法についての説明をすることなく,本件対象物件の建築工事請負をしていた(弁論の全趣旨)。

   イ また,被告は,本件対象物件についても,自己のウェブサイト上において,ユニキューブの施工実績として紹介していた(甲10の1・2)。

 3 争点

  (1) 本件商標の不正使用についての損害賠償請求

   ア 商標権侵害に基づく請求(争点1)

    (ア) 本件対象物件の工事請負は,本件商標の指定役務とは類似するか(争点1-1)

    (イ) 本件対象物件に本件商標を使用することは,本件販売契約による使用許諾の範囲内か(争点1-2)

   イ 債務不履行に基づく請求

     被告は,本件販売契約に基づき,本件対象物件には本件商標を使用しない義務を負っていたか(争点2)

  (2) 本件情報の不正使用についての損害賠償請求

   ア 債務不履行に基づく請求

     被告は,本件販売契約に基づき,本件対象物件には本件情報を使用しない義務を負っていたか(争点3)

   イ 不正競争防止法2条1項7号該当を理由とする請求(争点4)

    (ア) 本件情報の営業秘密性(争点4-1)

    (イ) 本件対象物件の本件情報を使用することは,本件販売契約による使用許諾の範囲内か(争点4-2)

  (3) 本件商標の使用,本件情報の使用について,原告による黙示の許諾が認められるか(争点5)

  (4) 原告の損害額(争点6)

第3 争点に関する当事者の主張

 1 本件商標の不正使用についての損害賠償請求について

 

『基礎からわかる「ビジネスと人権」の法務』中央経済社

福原 あゆみ 著

定価:3,080円(税込)

 

発行日:2023/04/11

A5判 / 224頁

 

本の紹介

事業会社の法務・コンプラ、CSR担当者、実務家に向けて、人権DDを含め「ビジネスと人権」に係る対応をわかりやすく解説。各国の法令・ガイダンスなど最新情報もフォロー。

 

 

コメント

人権デューデリジェンスは、法律と、政治。経済が深く結びついている。

アメリカは中国が標的だ。

EUは、域内でのアメリカ企業が標的のようでもある。

本書は、そこまで検討していないが。

 

 

目次

はじめに

第1章 「ビジネスと人権」をめぐるグローバルの潮流

 1 なぜ今「ビジネスと人権」への取組みが求められるのか

 2 「人権」とは何か

 3 人権リスクの要点

 4 「人権リスク」の発現する場面

 5 人権に関する国際的なフレームワーク

 6 その他の国際的なフレームワーク

 7 SDGsと人権

 8 日本における人権への取組み

 

第2章 企業に求められる取組み

 1 概観

 2 人権方針の策定

 3 人権デュー・ディリジェンス

 4 負の影響への対処

 5 人権リスクの対応に関する情報開示

 6 ステークホルダーとの対話(ステークホルダー・エンゲージメント)

 7 追跡調査

 8 グリーバンス・メカニズム(申告窓口)の整備

 9 人権リスクに対する是正・救済

 10 人権リスクとサプライヤー管理

 11 業種別の人権リスク

 12 AIと人権

 13 広告・マーケティングと人権

 14 人権リスクの特定・発現に関連した企業の留意事項

 15 企業内で「ビジネスと人権」を根付かせるには

 

第3章 人権デュー・ディリジェンスに関する主な法令

 1 概要

 2 英国現代奴隷法

 3 オーストラリア現代奴隷法

 4 フランス企業注意義務法

 5 ドイツサプライチェーン・デュー・ディリジェンス法

 6 オランダ児童労働デュー・ディリジェンス法

 7 米国カリフォルニア州サプライチェーン透明法

 8 EU

 9 紛争鉱物等に関する規制

 10 公共調達に関する規制

 

第4章 人権侵害に対する制裁

 1 人権侵害に対する各国の制裁の概要と対抗措置

 2 米国

 3 英国

 4 EU

 5 日本

 

 

野村ホールディングス対日本IBM事件

 

 

              損害賠償請求本訴,報酬等請求反訴控訴事件

【事件番号】      東京高等裁判所判決/平成31年(ネ)第1616号

【判決日付】      令和3年4月21日

【判示事項】      システム開発が頓挫した責は発注者である証券会社側にあり、開発業者には賠償責任はないとした事例

【参照条文】      民法第1編総則第5章法律行為第1節総則

             民法521

             民法412の2

             民法542

             民法543

【掲載誌】        判例タイムズ1491号20頁

             LLI/DB 判例秘書登載

 

 

民法

(契約の締結及び内容の自由)

第五百二十一条 何人も、法令に特別の定めがある場合を除き、契約をするかどうかを自由に決定することができる。

2 契約の当事者は、法令の制限内において、契約の内容を自由に決定することができる。

 

(履行不能)

第四百十二条の二 債務の履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして不能であるときは、債権者は、その債務の履行を請求することができない。

2 契約に基づく債務の履行がその契約の成立の時に不能であったことは、第四百十五条の規定によりその履行の不能によって生じた損害の賠償を請求することを妨げない。

 

(催告によらない解除)

第五百四十二条 次に掲げる場合には、債権者は、前条の催告をすることなく、直ちに契約の解除をすることができる。

一 債務の全部の履行が不能であるとき。

二 債務者がその債務の全部の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき。

三 債務の一部の履行が不能である場合又は債務者がその債務の一部の履行を拒絶する意思を明確に表示した場合において、残存する部分のみでは契約をした目的を達することができないとき。

四 契約の性質又は当事者の意思表示により、特定の日時又は一定の期間内に履行をしなければ契約をした目的を達することができない場合において、債務者が履行をしないでその時期を経過したとき。

五 前各号に掲げる場合のほか、債務者がその債務の履行をせず、債権者が前条の催告をしても契約をした目的を達するのに足りる履行がされる見込みがないことが明らかであるとき。

2 次に掲げる場合には、債権者は、前条の催告をすることなく、直ちに契約の一部の解除をすることができる。

一 債務の一部の履行が不能であるとき。

二 債務者がその債務の一部の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき。

 

(債権者の責めに帰すべき事由による場合)

第五百四十三条 債務の不履行が債権者の責めに帰すべき事由によるものであるときは、債権者は、前二条の規定による契約の解除をすることができない。

 

 

 

       主   文

 

 1 IBMの控訴に基づき,原判決を次のとおり変更する。

  (1) 本訴事件における野村HD及び野村証券の請求を棄却する。

  (2) 反訴事件に基づき,野村HDは,IBMに対し,1億1224万5000円及びこれに対する平成24年10月1日から支払済みまで年6%の割合による金員を支払え。

  (3) 反訴事件におけるIBMのその余の請求を棄却する。

 2 野村HD及び野村証券の控訴を棄却する。

 3 訴訟の総費用は,これを10分し,その1をIBMの負担とし,その1を野村証券の負担とし,その余を野村HDの負担とする。

 4 この判決の第1項(2)は,仮に執行することができる。

 

       事   実

 

第1 当事者の申立て

 1 野村HD及び野村証券(以下「野村HDら」という。)

  (1) 原判決を次のとおり変更する。

  (2) IBMは,野村HDに対し,損害賠償金34億3533万0570円及びこれに対する平成25年6月13日から支払済みまで商事法定利率(本件に適用されるもの。以下同じ。)年6%の割合による遅延損害金を支払え。

  (3) IBMは,野村証券に対し,損害賠償金1億8157万8159円及びこれに対する平成24年11月2日から支払済みまで民事法定利率(本件に適用されるもの。以下同じ。)年5%の割合による遅延損害金を支払え。

  (4) IBMの反訴事件における請求を棄却する。

 2 IBM

  (1) 原判決を次のとおり変更する。

  (2) 本訴事件における野村HDらの請求をいずれも棄却する。

  (3) 野村HDは,IBMに対し,報酬金3億9049万5000円及びうち1億1224万5000円に対する平成24年10月1日から,うち9030万円に対する同年11月1日から,うち1億0605万円に対する同月10日から,うち6300万円に対する同年12月1日から,うち1890万円に対する同月31日から,各支払済みまで商事法定利率年6%の割合による遅延損害金を支払え。

  (4) 野村HDらは,IBMに対し,連帯して報酬金又は損害賠償金1億7253万4759円及びこれに対する平成26年4月19日から支払済みまで商事法定利率年6%の割合による遅延損害金を支払え。

第2 事案の概要

 1 略語の使用について

   本判決においては,本判決別紙1の各号に掲げる略語を,当該各号に定める意味を有するものとして使用する。

 2 事案の概要及び訴訟の経過

  (1) IBMは,野村HDとの間で,野村証券(野村HDの完全子会社)のSMAFW業務のためのコンピュータシステムについて,パッケージソフト(WM)を利用した開発業務支援等の委託を受ける内容の,開発段階ごとの複数の契約(原判決別紙1の1記載の契約・本件各個別契約)を締結した。本件開発業務は,平成25年1月4日のシステム稼働開始を目標として,平成22年後半から平成24年後半まで継続されたが,目標時期における稼働開始実現にリスクがあると判断されたことから,平成24年8月下旬に一時中断され,同年11月に野村HDが開発を断念した。

    本訴事件において,野村HDはIBMに本件各個別契約の債務不履行があったと主張し,野村HDらはIBMに本件開発業務に関する不法行為があったと主張して,IBMに対して総額約36億円の損害賠償を請求する。

    反訴事件において,IBMは,野村HDに対して本件個別契約13から15までの未払報酬の支払を請求し,野村HDらに対して個別の合意(本件各個別契約に含まれないもの)や商法512条などを根拠に契約書に記載のない作業報酬を請求する。反訴事件におけるIBMの請求総額は,約5億6000万円である。

  (2) 野村HDとIBM間の本件各個別契約は,開発の段階ごとの複数の多段階契約である。その内容は,主に当該開発段階の業務支援を野村HDがIBMに委託するものである。IBMが各開発段階の作業を遂行する債務のほかに,システムを最終的に完成させる債務を負うかどうかが,一つの争点である。

    また,パッケージソフト(WM)を利用したシステム開発であるのに,パッケージの標準装備機能で本件システムの機能の大部分をまかなう開発とならず,カスタマイズ量が想定外に増加して,本件開発業務が遅延し,成果物のテスト結果が不良であったことが,野村HDによる本件開発業務断念の誘因となっている。このことについてIBMに債務不履行責任や不法行為責任が発生するかどうかが,一つの争点である。

    その他にも,次の第3以下に記載のとおり,多数の争点がある。

  (3) 原判決は,不法行為の成立は否定したが,本件各個別契約の一部(本件個別契約13から15まで)がIBMの帰責事由により履行不能になったと判断した。その結果,本訴事件のうち野村HDの請求を16億2078万円の限度で認容し,野村HDのその余の請求及び野村証券の全部の請求を棄却した。また,反訴事件におけるIBMの請求の全部を棄却した。当事者の全員が,各敗訴部分の全部(ただし,附帯請求棄却部分の一部を除く。)を不服として控訴したのが本件である。

資力を有するが急迫の事情により職権で保護が開始され多額の医療扶助費を含む保護費が支給された者に対し,生活保護法63条に基づき支給額全額の返還を求めた決定が,後期高齢者医療の被保険者であれば負担を要しなかった範囲の保護費の返還を求める部分は著しく衡平を失しており,裁量権の範囲を逸脱した違法があるとして取り消された事例


    生活保護法63条の規定に基づく費用返還請求処分取消等請求控訴事件
【事件番号】    東京高等裁判所判決/令和元年(行コ)第227号
【判決日付】    令和2年6月8日
【判示事項】    資力を有するが急迫の事情により職権で保護が開始され多額の医療扶助費を含む保護費が支給された者に対し,生活保護法63条に基づき支給額全額の返還を求めた決定が,後期高齢者医療の被保険者であれば負担を要しなかった範囲の保護費の返還を求める部分は著しく衡平を失しており,裁量権の範囲を逸脱した違法があるとして取り消された事例
【参照条文】    生活保護法63
【掲載誌】     判例タイムズ1478号31頁


生活保護法
(費用返還義務)
第六十三条 被保護者が、急迫の場合等において資力があるにもかかわらず、保護を受けたときは、保護に要する費用を支弁した都道府県又は市町村に対して、すみやかに、その受けた保護金品に相当する金額の範囲内において保護の実施機関の定める額を返還しなければならない。


       主   文

 1 原判決を取り消す。
 2 処分行政庁が平成26年5月15日付けでZに対してした生活保護法63条の規定に基づく費用返還請求処分(26板志祉生第4721号の44)を取り消す。
 3 訴訟費用は第1,2審を通じて被控訴人の負担とする。

       事実及び理由

 第1 控訴の趣旨
 主文同旨
 第2 事案の概要
 1(1) Z(以下「Z」という。)は生活保護法25条に基づき職権で保護の開始決定を受け,平成25年9月分から平成26年3月分までの保護費として586万4070円(うち医療扶助費489万7724円)の支給を受けていたところ,Zが急迫の場合等において資力があるにもかかわらず保護を受けたものであったことから,処分行政庁は,Zに対し,同年5月15日付けで,同法63条に基づき支給した費用の全額の返還を求める旨の決定(本件返還決定)をした。
 (2) 本件は,Z(平成26年11月*日死亡)の相続人である控訴人らが,保護を受けたZは後期高齢者医療や国民健康保険の被保険者から除外された結果,その間に支出した医療費が全額自己負担となるところ,保護を受けないで被保険者として医療を受けた場合の自己負担分等の限度でしか出費を免れておらず利得を得ていないのに,その利得を超えて支給した費用の全額の返還を求めた本件返還決定には,裁量権の範囲を逸脱し,又はこれを濫用した違法があるなどとして,その取消しを求める事案である。
 

産休・育休取得後に復職した労働者に対する配転が争われた事例・大阪府板金工業組合事件

 

 

地位確認等請求事件

【事件番号】      大阪地方裁判所判決/平成20年(ワ)第8528号

【判決日付】      平成22年5月21日

【判示事項】      1 賃金規程に「賞与は,組合の業績および業界の動向,職員の業務遂行能力,勤務成績等を考慮し,原則として毎年7月と12月に措定の金額を支払うものとする」,「経済状況等によりやむを得ない場合,賞与を支給しない場合がある」との規定があり,これらに沿った賞与の算定が行われていた場合に,入社時に賞与の算定方法についての説明・合意があったというX1らの主張を退けて,個別具体的な賞与の算定方法,支給額,支給条件が労働契約の内容になっているとは認められないとして,差額賞与の支払請求が認められなかった例

             2 事務局長代理から経理主任への降格を行う人事権は,労働契約上,使用者の権限として当然に予定されているものであり,その権限行使については使用者に広範な裁量権があり,このような人事権行使に裁量権の逸脱または濫用があるか否かを判断するに当たっては,使用者側における業務上・組織上の必要性の有無およびその程度,能力,適性の欠如等の労働者側の帰責性の有無およびその程度,労働者の受ける不利益の性質およびその程度等諸般の事情を総合考慮するのが相当であるとされた例

             3 2に掲記の判断枠組みに基づいて,X1が事務局長代理としての能力を備えており,その適性を欠いていたとは認めがたいこと,X1が休暇を取得することによって事務局長代理としての職責を十分に果たすことができなかったとも認めがたく,本件降格後,Y組合では事務局長代理の地位に就いた者はいないことにかんがみると,本件降格は人事権を濫用したものであるとして,X1が事務局長代理としての地位にあることを確認するとともに,手当の減額分の支払いが認められた例

             4 経理部から資材部への異動を命じる配転命令および資材部から経理部への異動を命じる配転命令は,業務上の必要性がないのに行われた場合,それが他の不当な動機ないし目的をもって行われた場合,または,X1らに対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものである場合など,特段の事情がある場合には,権利の濫用として許されないとされた例

             5 4掲記の判断枠組みに基づいて,資材部所属の職員が病気入院したことを契機としてY組合(使用者)事務局の担当職務を変更する必要性が生じたことから,職務上の必要性はあり,配転命令がX1らを退職に追い込もうと嫌がらせ目的で行われたとまでは認められないことから,不当な目的はなく,配転命令は濫用に当たらないとされた例

             6 Y組合(使用者)のX1らに対する不利益取扱い(賞与・賃金減額,本件降格,本件配転命令)が既婚女性従業員への差別であるとの主張について,5掲記の配転命令には業務上の必要性があったと認められ,他方,不当な動機目的があったとは認められないこと,Y組合事務局にはX1らの他にも女性従業員が在籍しているが,特にこれらの者から同様の苦情等が出ているとはうかがわれないことなどからすると,Y組合のX1らに対する不利益取扱いが既婚女性従業員への差別であるとまでは認められないとされた例

【掲載誌】        労働判例1015号48頁

             労働経済判例速報2084号3頁

 

 

育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律

(不利益取扱いの禁止)

第十条 事業主は、労働者が育児休業申出等(育児休業申出及び出生時育児休業申出をいう。以下同じ。)をし、若しくは育児休業をしたこと又は第九条の五第二項の規定による申出若しくは同条第四項の同意をしなかったことその他の同条第二項から第五項までの規定に関する事由であって厚生労働省令で定めるものを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。

 

 

事件の概要

 本件は,被告Y組合の従業員である原告X1および原告X2が,Y組合に対して,X1らが減額されたと主張する賞与および賃金の支払い,X1が降格前の地位(事務局長代理)にあることの確認およびそれに伴って減額された手当の支払い,X1らが配転後の地位または部署で勤務する義務のないことの確認,およびX1らが女性差別であると主張する取扱いに対する損害賠償の支払いを求めた事案である。

 X1は平成8年7月にY組合に正社員として採用され,10年4月に経理主任に,15年4月に局長代理に就任した。X1は15年4月に結婚し,16年4月に第1子を出産し産休を取得し,17年10月に第2子を出産し,産休および育休を取得している。X2は平成14年10月にY組合に正社員として採用され,16年4月に第1子を出産し産休および育休を取得し,18年2月に第2子を出産し産休および育休を取得し,21年6月に第3子を出産し産前産後休暇および育児休暇を取得している。

 平成19年12月,Y組合はX1に対し,局長代理から経理主任に降格する旨通知した(以下,「本件降格」)。本件降格の理由についてY組合は,X1が平日に年次有給休暇等を取得したり欠勤すること,監事会等重要な会議の日に休暇を取得すること等が,事務局長代理に相応しくないと主張している。

 本件降格により,X1の手当は月額3万2000円減少した。

 降格について判決は,判旨2のように述べて,本件においては,X1が事務局長代理としての能力を備えていたこと,年次有給休暇を取得すること自体はX1が責められるべき事由とはいえないこと,X1が休暇を取得することによってY組合の業務に支障が生じたわけではないこと,本件降格によりX1は3万2000円賃金が減少したこと,本件降格後に事務局長代理の地位に就いた者はいないことにかんがみると,本件降格は人事権を濫用したものであるとした。そして,X1が事務局長代理としての地位にあることを確認するとともに,手当の減額分の支払いを命じた。

 

 

 

公立高等学校に在学中退学処分を受けたまま大学に入学しもはや高等学校に復帰する意思を有しない者に退学処分取消の訴の利益が肯認された事例

 

 

退学処分取消請求控訴事件

【事件番号】      東京高等裁判所判決/昭和48年(行コ)第74号

【判決日付】      昭和52年3月8日

【判示事項】      1、公立高等学校に在学中退学処分を受けたまま大学に入学しもはや高等学校に復帰する意思を有しない者に退学処分取消の訴の利益が肯認された事例

             2、公立高等学校の生徒の政治的活動に対する規制の合理性

             3、公立高等学校の生徒に対する退学処分の効力が肯認された事例

【参照条文】      行政事件訴訟法9

             学校教育法11

             学校教育法施行規則13

【掲載誌】        判例時報856号26頁

 

 

行政事件訴訟法

(原告適格)

第九条 処分の取消しの訴え及び裁決の取消しの訴え(以下「取消訴訟」という。)は、当該処分又は裁決の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者(処分又は裁決の効果が期間の経過その他の理由によりなくなつた後においてもなお処分又は裁決の取消しによつて回復すべき法律上の利益を有する者を含む。)に限り、提起することができる。

2 裁判所は、処分又は裁決の相手方以外の者について前項に規定する法律上の利益の有無を判断するに当たつては、当該処分又は裁決の根拠となる法令の規定の文言のみによることなく、当該法令の趣旨及び目的並びに当該処分において考慮されるべき利益の内容及び性質を考慮するものとする。この場合において、当該法令の趣旨及び目的を考慮するに当たつては、当該法令と目的を共通にする関係法令があるときはその趣旨及び目的をも参酌するものとし、当該利益の内容及び性質を考慮するに当たつては、当該処分又は裁決がその根拠となる法令に違反してされた場合に害されることとなる利益の内容及び性質並びにこれが害される態様及び程度をも勘案するものとする。

 

 

学校教育法

第十一条 校長及び教員は、教育上必要があると認めるときは、文部科学大臣の定めるところにより、児童、生徒及び学生に懲戒を加えることができる。ただし、体罰を加えることはできない。

 

 

学校教育法施行規則

第二十六条 校長及び教員が児童等に懲戒を加えるに当つては、児童等の心身の発達に応ずる等教育上必要な配慮をしなければならない。

② 懲戒のうち、退学、停学及び訓告の処分は、校長(大学にあつては、学長の委任を受けた学部長を含む。)が行う。

③ 前項の退学は、市町村立の小学校、中学校(学校教育法第七十一条の規定により高等学校における教育と一貫した教育を施すもの(以下「併設型中学校」という。)を除く。)若しくは義務教育学校又は公立の特別支援学校に在学する学齢児童又は学齢生徒を除き、次の各号のいずれかに該当する児童等に対して行うことができる。

一 性行不良で改善の見込がないと認められる者

二 学力劣等で成業の見込がないと認められる者

三 正当の理由がなくて出席常でない者

四 学校の秩序を乱し、その他学生又は生徒としての本分に反した者

④ 第二項の停学は、学齢児童又は学齢生徒に対しては、行うことができない。

⑤ 学長は、学生に対する第二項の退学、停学及び訓告の処分の手続を定めなければならない。

ブラコー事件・招集株主によるクオカード贈与の表明と招集手続の法令違反

 

 

              株主総会開催禁止仮処分命令申立却下決定に対する抗告事件

【事件番号】      東京高等裁判所決定/令和2年(ラ)第1851号

【判決日付】      令和2年11月2日

【判示事項】      1 招集株主によるクオカード贈与の表明と招集手続の法令違反

             2 株主総会開催禁止の仮処分申立てにおいて保全の必要性が認められなかった事例

【判決要旨】      1 株主総会の招集株主による他の株主に対するクオカードの贈与の表明は、株主総会の招集手続またはその一部として行われたものではなく、これによって、当該株主総会の招集手続それ自体が直ちに違法になり得るものとは認められない。

             2 当該事案では、クオカードの贈与の表明によって臨時株主総会の招集または決議の方法に瑕疵が生じるとしても救済手段に欠けるところはなく、クオカードの贈与の表明によって会社に回復困難な重大な損害を被らせるとの疎明があったとは認められず、保全の必要性は認められない。

【参照条文】      会社法831

             民事保全法23-1

【掲載誌】        金融・商事判例1607号38頁

 

 

会社法

(株主等の権利の行使に関する利益の供与)

第百二十条 株式会社は、何人に対しても、株主の権利、当該株式会社に係る適格旧株主(第八百四十七条の二第九項に規定する適格旧株主をいう。)の権利又は当該株式会社の最終完全親会社等(第八百四十七条の三第一項に規定する最終完全親会社等をいう。)の株主の権利の行使に関し、財産上の利益の供与(当該株式会社又はその子会社の計算においてするものに限る。以下この条において同じ。)をしてはならない。

2 株式会社が特定の株主に対して無償で財産上の利益の供与をしたときは、当該株式会社は、株主の権利の行使に関し、財産上の利益の供与をしたものと推定する。株式会社が特定の株主に対して有償で財産上の利益の供与をした場合において、当該株式会社又はその子会社の受けた利益が当該財産上の利益に比して著しく少ないときも、同様とする。

3 株式会社が第一項の規定に違反して財産上の利益の供与をしたときは、当該利益の供与を受けた者は、これを当該株式会社又はその子会社に返還しなければならない。この場合において、当該利益の供与を受けた者は、当該株式会社又はその子会社に対して当該利益と引換えに給付をしたものがあるときは、その返還を受けることができる。

4 株式会社が第一項の規定に違反して財産上の利益の供与をしたときは、当該利益の供与をすることに関与した取締役(指名委員会等設置会社にあっては、執行役を含む。以下この項において同じ。)として法務省令で定める者は、当該株式会社に対して、連帯して、供与した利益の価額に相当する額を支払う義務を負う。ただし、その者(当該利益の供与をした取締役を除く。)がその職務を行うについて注意を怠らなかったことを証明した場合は、この限りでない。

5 前項の義務は、総株主の同意がなければ、免除することができない。

 

(監査役による取締役の行為の差止め)

第三百八十五条 監査役は、取締役が監査役設置会社の目的の範囲外の行為その他法令若しくは定款に違反する行為をし、又はこれらの行為をするおそれがある場合において、当該行為によって当該監査役設置会社に著しい損害が生ずるおそれがあるときは、当該取締役に対し、当該行為をやめることを請求することができる。

2 前項の場合において、裁判所が仮処分をもって同項の取締役に対し、その行為をやめることを命ずるときは、担保を立てさせないものとする。

 

(株主総会等の決議の取消しの訴え)

第八百三十一条 次の各号に掲げる場合には、株主等(当該各号の株主総会等が創立総会又は種類創立総会である場合にあっては、株主等、設立時株主、設立時取締役又は設立時監査役)は、株主総会等の決議の日から三箇月以内に、訴えをもって当該決議の取消しを請求することができる。当該決議の取消しにより株主(当該決議が創立総会の決議である場合にあっては、設立時株主)又は取締役(監査等委員会設置会社にあっては、監査等委員である取締役又はそれ以外の取締役。以下この項において同じ。)、監査役若しくは清算人(当該決議が株主総会又は種類株主総会の決議である場合にあっては第三百四十六条第一項(第四百七十九条第四項において準用する場合を含む。)の規定により取締役、監査役又は清算人としての権利義務を有する者を含み、当該決議が創立総会又は種類創立総会の決議である場合にあっては設立時取締役(設立しようとする株式会社が監査等委員会設置会社である場合にあっては、設立時監査等委員である設立時取締役又はそれ以外の設立時取締役)又は設立時監査役を含む。)となる者も、同様とする。

一 株主総会等の招集の手続又は決議の方法が法令若しくは定款に違反し、又は著しく不公正なとき。

二 株主総会等の決議の内容が定款に違反するとき。

三 株主総会等の決議について特別の利害関係を有する者が議決権を行使したことによって、著しく不当な決議がされたとき。

2 前項の訴えの提起があった場合において、株主総会等の招集の手続又は決議の方法が法令又は定款に違反するときであっても、裁判所は、その違反する事実が重大でなく、かつ、決議に影響を及ぼさないものであると認めるときは、同項の規定による請求を棄却することができる。

 

 

民事保全法

(仮処分命令の必要性等)

第二十三条 係争物に関する仮処分命令は、その現状の変更により、債権者が権利を実行することができなくなるおそれがあるとき、又は権利を実行するのに著しい困難を生ずるおそれがあるときに発することができる。

2 仮の地位を定める仮処分命令は、争いがある権利関係について債権者に生ずる著しい損害又は急迫の危険を避けるためこれを必要とするときに発することができる。

3 第二十条第二項の規定は、仮処分命令について準用する。

4 第二項の仮処分命令は、口頭弁論又は債務者が立ち会うことができる審尋の期日を経なければ、これを発することができない。ただし、その期日を経ることにより仮処分命令の申立ての目的を達することができない事情があるときは、この限りでない。

 

 

       主   文

 

 1 本件抗告を棄却する。

 2 抗告費用は、抗告人の負担とする。

 

       理   由

 

第1 抗告の趣旨

 「即時抗告申立書」の「第2 抗告の趣旨」に記載のとおりであるから、これを引用する。

第2 事案の概要

1 本件は、株式会社A(以下「A」という。本店所在地・さいたま市〈略〉)の監査役である抗告人(原審債権者)が、Aの株主である相手方(原審債務者)が裁判所の招集許可決定に基づいて総会開催日時を令和2年11月6日午前11時からとして招集した臨時株主総会(以下「本件臨時株主総会」という。)の開催には違法があるなどと主張して、会社法(以下「法」という。)385条類推適用による監査役の招集株主に対する違法行為差止請求権に基づき、本件臨時株主総会の開催の禁止を求める旨の訴えを本案として、本件臨時株主総会の開催を禁止する旨の仮処分命令を求める事案である。

2 本件の争点及び争点に関する各当事者の主張は、原決定8頁16行目(本誌本号47頁右段15行目)の「クオカードの提供」を「クオカードの贈与の表明」と改めるほか、原決定の「理由」第2・3及び4(原決定8頁3行目から21行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。

3 原審は、本件臨時株主総会の招集の手続や決議の方法について、これらが法令若しくは定款に違反し、又はそのおそれがあるものとは認められず、被保全権利を認めることができないとして、抗告人の申立てを却下する旨の決定をした。

4 抗告人は、これを不服として本件抗告を提起した。

期間の定めのない建物賃貸借と民法第395条

 

 

敷金返還請求事件

【事件番号】      最高裁判所第2小法廷判決/昭和36年(オ)第28号

【判決日付】      昭和39年6月19日

【判示事項】      期間の定めのない建物賃貸借と民法第395条

【判決要旨】      期間の定めのない建物賃貸借は、民法第395条の短期賃貸借に該当すると解するのが相当である。(意見がある)

【参照条文】      民法395

             民法602

             借家法1の2

【掲載誌】        最高裁判所民事判例集18巻5号795頁

 

 

民法

(抵当建物使用者の引渡しの猶予)

第三百九十五条 抵当権者に対抗することができない賃貸借により抵当権の目的である建物の使用又は収益をする者であって次に掲げるもの(次項において「抵当建物使用者」という。)は、その建物の競売における買受人の買受けの時から六箇月を経過するまでは、その建物を買受人に引き渡すことを要しない。

一 競売手続の開始前から使用又は収益をする者

二 強制管理又は担保不動産収益執行の管理人が競売手続の開始後にした賃貸借により使用又は収益をする者

2 前項の規定は、買受人の買受けの時より後に同項の建物の使用をしたことの対価について、買受人が抵当建物使用者に対し相当の期間を定めてその一箇月分以上の支払の催告をし、その相当の期間内に履行がない場合には、適用しない。

 

(短期賃貸借)

第六百二条 処分の権限を有しない者が賃貸借をする場合には、次の各号に掲げる賃貸借は、それぞれ当該各号に定める期間を超えることができない。契約でこれより長い期間を定めたときであっても、その期間は、当該各号に定める期間とする。

一 樹木の栽植又は伐採を目的とする山林の賃貸借 十年

二 前号に掲げる賃貸借以外の土地の賃貸借 五年

三 建物の賃貸借 三年

四 動産の賃貸借 六箇月

 

 

平成三年法律第九十号

借地借家法

(建物賃貸借の対抗力)

第三十一条 建物の賃貸借は、その登記がなくても、建物の引渡しがあったときは、その後その建物について物権を取得した者に対し、その効力を生ずる。

 

(建物賃貸借契約の更新拒絶等の要件)

第二十八条 建物の賃貸人による第二十六条第一項の通知又は建物の賃貸借の解約の申入れは、建物の賃貸人及び賃借人(転借人を含む。以下この条において同じ。)が建物の使用を必要とする事情のほか、建物の賃貸借に関する従前の経過、建物の利用状況及び建物の現況並びに建物の賃貸人が建物の明渡しの条件として又は建物の明渡しと引換えに建物の賃借人に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出を考慮して、正当の事由があると認められる場合でなければ、することができない。

 

自動改札機を使用したいわゆるキセル乗車について,電子計算機使用詐欺罪の成立を肯定した事例

 

 

各電子計算機使用詐欺被告事件

【事件番号】      東京地方裁判所判決/平成23年(刑わ)第3121号

【判決日付】      平成24年6月25日

【判示事項】      自動改札機を使用したいわゆるキセル乗車について,電子計算機使用詐欺罪の成立を肯定した事例

【参照条文】      刑法246の2

【掲載誌】        判例タイムズ1384号363頁

 

 

刑法

(電子計算機使用詐欺)

第二百四十六条の二 前条に規定するもののほか、人の事務処理に使用する電子計算機に虚偽の情報若しくは不正な指令を与えて財産権の得喪若しくは変更に係る不実の電磁的記録を作り、又は財産権の得喪若しくは変更に係る虚偽の電磁的記録を人の事務処理の用に供して、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者は、十年以下の懲役に処する。

 

メーデーのための皇居外苑使用不許可処分の取消を求める訴の、5月1日後の法律上の利益

 

 

皇居外苑使用不許可処分取消請求事件

【事件番号】      最高裁判所大法廷判決/昭和27年(オ)第1150号

【判決日付】      昭和28年12月23日

【判示事項】      メーデーのための皇居外苑使用不許可処分の取消を求める訴の、5月1日後の法律上の利益

【判決要旨】      メーデーのたの皇居外苑使用不許可処分の取消を求める訴は、5月1日の経過により、判決を求める法律上の地益を喪失したものといわなければならない。

【掲載誌】        最高裁判所民事判例集7巻13号1561頁

 

 

行政事件訴訟法

(原告適格)

第九条 処分の取消しの訴え及び裁決の取消しの訴え(以下「取消訴訟」という。)は、当該処分又は裁決の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者(処分又は裁決の効果が期間の経過その他の理由によりなくなつた後においてもなお処分又は裁決の取消しによつて回復すべき法律上の利益を有する者を含む。)に限り、提起することができる。

2 裁判所は、処分又は裁決の相手方以外の者について前項に規定する法律上の利益の有無を判断するに当たつては、当該処分又は裁決の根拠となる法令の規定の文言のみによることなく、当該法令の趣旨及び目的並びに当該処分において考慮されるべき利益の内容及び性質を考慮するものとする。この場合において、当該法令の趣旨及び目的を考慮するに当たつては、当該法令と目的を共通にする関係法令があるときはその趣旨及び目的をも参酌するものとし、当該利益の内容及び性質を考慮するに当たつては、当該処分又は裁決がその根拠となる法令に違反してされた場合に害されることとなる利益の内容及び性質並びにこれが害される態様及び程度をも勘案するものとする。

 

 

 

 

       主   文

 

 本件上告を棄却する。

 上告費用は上告人の負担とする。

 

       理   由

 

 上告代理人弁護士小林直人、同原則雄の上告趣意について。

 上告人の原審における本訴請求の趣旨は、上告人の昭和二六年一一月一〇日附「昭和二七年五月一日メーデーのための皇居外苑使用許可申請」に対して被上告人が同年三月一三日になした不許可処分は違法であるから、これが取消を求めるというのである。そして、実体法が訴訟上行使しなければならないものとして認めた形成権に基ずくいわゆる狭義の形成訴訟の場合にあつては、法律がかかる形成権を認めるに際して当然訴訟上保護の利益あるようその内容を規定しているのであるから、抽象的には所論のごとくその権利発生の法定要件を充たす限り一応その訴は保護の利益あるものといい得るであろう。しかし、狭義の形成訴訟の場合においても、形成権発生後の事情の変動により具体的に保護の利益なきに至ることあるべきは多言を要しないところである。(例えば離婚の訴提起後協議離婚の成立した場合の如きである。)また、被上告人は同年五月一日における皇居外苑の使用を許可しなかつただけで、上告人に対して将来に亘り使用を禁じたものでないことも明白である。されば、上告人の本訴請求は、同日の経過により判決を求める法律上の利益を喪失したものといわなければならない。そして、原判決は、上告人の本訴請求を権利保護の利益なきものとして棄却の裁判をしたものであつて、裁判そのものを拒否したものではなく、憲法三二条に違反したものとはいえない。また、原判決は、本訴のごとき訴は、所期の日時までに確定判決を受けることも不可能ではないと判断したものであるから、憲法七六条二項の保障に反したものともいえない。されば、原判決は正当であつて、所論はその理由がない。

 (なお、念のため、本件不許可処分の適否に関する当裁判所の意見を附加する。本件皇居外苑は国有財産法三条二項二号にいう公共福祉用財産に該当するものであること、被上告人厚生大臣は同法五条及び厚生省設置法八条一七号によりこれが管理を担当するものであること、本件不許可処分が厚生大臣において右管理のため制定した厚生省令国民公園管理規則四条に基きなされたものであることは、いずれも明らかである。そして、国有財産法によれば、公共福祉用財産は、国が直接公共の用に供した財産であつて、国民は、その供用された目的に従つて均しくこれを利用しうるものであり、この点において、公共福祉用財産は、普通財産と異ることは勿論他の行政財産ともその性質を異にするものである。しかし、公共福祉用財産には多くの種類があり、それが公共の用に供せられる目的は財産の種類によつて異なり、また、それが公共の用に供せられる態様及び程度も、財産の規模、施設のいかんによつて異なるもののあることは当然である。従つて、上述のごとく公共福祉用財産は、国民が均しくこれを利用しうるものである点に特色があるけれども、国民がこれを利用しうるのは、当該公共福祉用財産か公共の用に供せられる目的に副い、且つ公共の用に供せられる態様、程度に応じ、その範囲内においてなしうるのであつて、これは、皇居外苑の利用についても同様である。また国有財産の管理権は、国有財産法五条により、各省各庁の長に属せしめられており、公共福祉用財産をいかなる態様及び程度において国民に利用せしめるかは右管理権の内容であるが、勿論その利用の許否は、その利用が公共福祉用財産の、公共の用に供せられる目的に副うものである限り、管理権者の単なる自由裁量に属するものではなく、管理権者は、当該公共福祉用財産の種類に応じ、また、その規模、施設を勘案し、その公共福祉用財産としての使命を十分達成せしめるよう適正にその管理権を行使すべきであり、若しその行使を誤り、国民の利用を妨げるにおいては、違法たるを免れないと解さなければならない。これは、皇居外苑の管理についても同様であつて、その管理権の根拠規定たる国有財産法五条、厚生省設置法八条一七号及び厚生大臣がその管理権に基いて定めた国民公園管理規則には、皇居外苑を使用せしめることの許否につき具体的方針は特に定められていないけれども、国民公園を本来の目的に副うて使用するのでなく利用する同規則三条のような場合は別として、国民が同公園に集合しその広場を利用することは、一応同公園が公共の用に供せられている目的に副う使用の範囲内のことであり、唯本件のようにそれが集会又は示威行進のためにするものである場合に、同公園の管理上の必要から、これを厚生大臣の許可にかからしめたものであるから、その許否は管理権者の単なる自由裁量に委ねられた趣旨と解すべきでなく、管理権者たる厚生大臣は、皇居外苑の公共福祉用財産たる性質に鑑み、また、皇居外苑の規模と施設とを勘案し、その公園としての使命を十分達成せしめるよう考慮を払つた上、その許否を決しなければならないのである。いま、本件厚生大臣の不許可処分についてみるに、弁論の全趣旨によれば、被上告人厚生大臣は、皇居外苑を旧皇室苑地という由緒を持つ外、現在もなお皇居の前庭であるという特殊性を持つた公園であるとし、この皇居外苑の特性と公園本来の趣旨に照らしてこれが管理については、速に原状回復をはかり、常に美観を保持し、静穏を保持し、国民一般の散策、休息、観賞及び観光に供し、その休養慰楽、厚生に資し、もつてできるだけ広く国民の福祉に寄与することを基本方針としていることが認められ、また、本件不許可処分は、許可申請の趣旨がその申請書によれば昭和二七年五月一日メーデーのために、参加人員約五十万人の予定で午前九時から午后五時まで二重橋皇居外苑の全域を使用することの許可を求めるというにあつて、二重橋前の外苑全域の面積の中国民一般の立入を禁止している緑地を除いた残部の人員収容能力は右参加予定員数の約半数に止まるから、若し本件申請を許可すれば、立入禁止区域をも含めた外苑全域に約五十万人が長時間充満することとなり、尨大な人数、長い使用時間からいつて、当然公園自体が著しい損壊を受けることを予想せねばならず、かくて公園の管理保存に著しい支障を蒙むるのみならず、長時間に亘り一般国民の公園としての本来の利用が全く阻害されることになる等を理由としてなされたことが認められる。これらを勘案すると本件不許可処分は、それが管理権を逸脱した不法のものであると認むべき事情のあらわれていない本件においては、厚生大臣は国民公園管理規則四条の適用につき勘案すべき諸点を十分考慮の上、その公園としての使命を達成せしめようとする立場に立つて、不許可処分をしたものであつて、決して単なる自由裁量によつたものでなく管理権の適正な運用を誤つたものとは認めうれない。次に、国民公園管理規則一条には、「皇居外苑…の利用に関してはこの規則の定めるところによる。」とあるから、同規則四条による許可又は不許可は、国民公園の利用に関する許可又は不許可であり、厚生大臣の有する国民公園の管理権の範囲内のことであつて、元来厚生大臣の権限とされていない集会を催し又は示威運動を行うことの許可又は不許可でないことは明白である。されば同条に基いた本件不許可処分は、厚生大臣がその管理権の範囲内に属する国民公園の管理上の必要から、本件メーデーのための集会及び示威行進に皇居外苑を使用することを許可しなかつたのであつて、何ら表現の自由又は団体行動権自体を制限することを目的としたものでないことは明らかである。ただ、厚生大臣が管理権の行使として本件不許可処分をした場合でも、管理権に名を籍り、実質上表現の自由又は団体行動権を制限するの目的に出でた場合は勿論、管理権の適正な行使を誤り、ために実質上これらの基本的人権を侵害したと認められうるに至つた場合には、違憲の問題が生じうるけれども、本件不許可処分は、既に述べたとおり、管理権の適正な運用を誤つたものとは認められないし、また、管理権に名を籍りて実質上表現の自由又は団体行動権を制限することを目的としたものとも認められないのであつて、そうである限り、これによつて、たとえ皇居前広場が本件集会及び示威行進に使用することができなくなつたとしても、本件不許可処分が憲法二一条及び二八条違反であるということはできない。以上述べたところにより、本件不許可処分には所論のような違法は認められない。)

 よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条により主文のとおり判決する。

 この判決は裁判官栗山茂の意見を除く外裁判官全員一致の意見によるものである。

 裁判官栗山茂の意見は次のとおりである。

 私は多数説には同調できない。私の意見は、公共用物の使用許可の中には往々にして管理本来の作用と併せて警察許可の性質を帯びているものがある。そうして厚生大臣は本件規則四条(昭和二四、五、三一、厚生省令一九号国民公園管理規則。昭和二五、六、二四、改正同令三三号を指す。以下規則という)によつてかような警察許可の性質を有する許可を規定したものであるから、法律に特別の定を必要とするものである。それ故法律に特別の定なくして規定された右規則四条は違法であつて、それに基いてなされた本訴不許可処分もまた違法たるを免れないというのである。

 元来公共用物の管理の作用には単に積極的な保全(維持及び保存)の作用ばかりでなく、使用者が公共用物を損かいする等その用途に有害な行為を除去し又は防止する消極的な作用も含まれていることについては疑の余地がない。しかしかゝる除去又は防止のためにする公共用物の利用の規制の中には単に管理の作用ばかりでなく警察の作用の性質をも帯びるものがある。例えば橋の管理を例にとれば、一定重量以上の車輌を通過させると橋か損かいすれば管理者は管理の作用としてこの種の車輌の通過を禁止できるし又その通過を許可にかからしめることもできるのである。しかしさういう車輌の通過の規制ばかりでなく、車輌の通過が通行人の利用に危険を及ぼすこともあるとして凡ての車輌による橋の利用を許可にかからしめるときは、その許可の性質は単なる管理の作用による使用の許可ではなく警察許可の性質を帯びているものである。それ故道路法とか、河川法には公共用物の使用については管理の必要ばかりでなく警察の目的をも併せて特別の許可にかからしめて、便宜上管理者をして許可権を行使せしめている場合がある。例えば道路の管理者は一定の場合に、道路の構造を保全し、又は交通の危険を防止するため、区間を定めて、道路の通行を禁止し、又は制限することができるとし、(道路法四六条)又河川については流水の方向、清潔等に影響を及ぼす虞ある工事ばかりでなく、営業その他の行為は命令を以て之を禁止若は制限し又は管理者たる地方行政庁の許可にかからしめることを得としている(河川法一九条)のもその一例であろう。ところで本件について見るに、被上告人の答弁書は本件許可申請によれば「午前九時から午後五時までの長時間五十万人という多数人が、外苑を使用して集合、行進するとすれば、その間一般国民の普通使用は殆ど不能かもしくは著しく妨げられるし又……外苑自体が普通以上に著しく損傷を受けることが必然であつて、到底公園の普通使用の範ちうに属するということはできない。」と述べている。皇居外苑の管理者は外苑の保全のため、集会や示威行進という目的のためでなくても、運動会を催すための集合や宗教上の行事を行う目的のための行進でるつても、皇居外苑の立入禁止区域内にまではいり込んで、その施設を損傷する程度の使用は公共用物の用途を阻害する行為であるから之を禁止し又は制限できるのは管理の当然の作用であることは明である。しかし規則四条はかような管理に有害な使用ばかりを規制しているものではなく、広く「国民公園において集会を催し又は示威行進を行おうとする者は、厚生大臣の許可を受けなければならない」と定めている。そうして被上告人は答弁書で、この規則は「集会又は示威行進というような目的のための使用」を許可にかからしめたもので「決して集会や示威行進の自由そのものを制限するものではない。」とし、多数説も規則一条には「皇居外苑……の利用に関してはこの規則の定めるところによる。」とあるから利用に関する許可又は不許可であり、厚生大臣の有する国民公園の管理権の範囲内のことであつて、元来厚生大臣の権限とされていない集会を催し又は示威行進を行うことの許可又は不許可でないことは明白であると言つている。しかしながら公共用物の使用又は利用(以下利用という)の規制は使用者又は利用者の行動を規制する効果を生ずることは明である。例えば橋の利用を許可にかからしむれば実質的には橋の利用者の行動即ち通過が許可にかからしめられる結果になるから、たゞ橋の利用の許可又は不許可だといいさえすれば通過の許可又は不許可にならないと強弁しているわけにはいかないと思う。かように皇居外苑の利用の規制によつて利用者の行動が規制される結果を生ずるから、その行動が集会の自由の行使にあたるものとすれば、それは利用の規制によつて集会の自由が干渉されることになるのは明である。しかし又他方皇居外苑の利用者がたとい集会の自由にあたる行動をするからといつても公共用物を損かいしたり交通を阻害したり公安を害するような行動をすれば、それは集会の自由の濫用に外ならないであろう。ところで皇居外苑の管理者がかかる集会の自由の濫用になるような行動が同時にその保全の作用にも有害であるからとしてその利用を管理者の特別の許可にかからしむれば、その許可は同時に警察許可の性質をも帯びることは明である、そうして、被上告人は答弁書で「特別使用の許可処分は、何等相手方に対し義務を課し又は権利を制限するものでないから、その限りにおいて特にその条件を定める法令の規定が存しない以上、かかる使用を許すと否とは全く行政庁の自由に決しうるところであり云々」と言うけれども、仮りに規則四条の許可が相手方に対し義務を課し又は権利を制限するものでなくても、管理者たる行政庁が管理に必要だからといつても本来は警察許可の性質を帯びている規制はその権限のなかには存しないものであるからそれを行使しようとするには特に法律の定を必要とすることは明である。河川とか道路とかについては公園と等しく国において直接公共の用に供する財産であるが、警察許可の性質を有する特別の許可については夫々法律に定があつて管理者にその権限を与えていること前段説明したとおりである。この理は公園たる皇居外苑の管理者に付ても異るところがない。なぜならば法の支配を指導原理とする日本国憲法の下では、権力を行使する者の意思決定は予め定められている法規(法律又は法律に基く命令)の適用でなければ、専断な官僚の権力行使とされるからである。厚生省設置法五条は厚生大臣の所管事務をかかげると共に「その権限の行使は法律(これに基く命令を含む)に従つてなされなければならない。」と規定しているのはこの趣旨に出ているものである。それ故厚生大臣が管理を担当する国有財産である公園については、国有財産法一条が、国有財産の管理については他の法律に特別の定のある場合を除く外同法の定めるところによると規定しているだけでは、警察許可の性質を帯びている許可まで当然管理の作用に含まれていると解すべきものではない。以上説明したように本件規則四条は法律に定がなければ当然には厚生大臣の権限に属しない行為であるから、それに基いてなされた本訴不許可の処分もまた違法たるを免れないものである。尤も規則四条の違法性については上告人において争がないのである。そして上告人の「昭和二七年五月一日メーデーのための皇居外苑使用許可申請」に対して被上告人がした不許可の処分の違法性の存否については、たとい上述したように右処分が違法なものであつても、既に同日の経過によりその審判を求める法律上の利益は喪失されたものとすべきことについては、私も多数説と同じ意見である。

     最高裁判所大法廷