ユニキューブ事件・商標権侵害に基づく損害賠償請求訴訟において,損害額の算定に当たり,商標法38条2項の適用を否定した事例
損害賠償請求事件
【事件番号】 大阪地方裁判所判決/平成21年(ワ)第13559号
【判決日付】 平成24年12月13日
【判示事項】 商標権侵害に基づく損害賠償請求訴訟において,損害額の算定に当たり,商標法38条2項の適用を否定した事例
【参照条文】 商標法38-2
商標法38-3
【掲載誌】 判例タイムズ1399号226頁
判例時報2208号116頁
LLI/DB 判例秘書登載
【評釈論文】 知財ぷりずむ141号25頁
商標法
(損害の額の推定等)
第三十八条 商標権者又は専用使用権者が故意又は過失により自己の商標権又は専用使用権を侵害した者に対しその侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合において、その者がその侵害の行為を組成した商品を譲渡したときは、次の各号に掲げる額の合計額を、商標権者又は専用使用権者が受けた損害の額とすることができる。
一 商標権者又は専用使用権者がその侵害の行為がなければ販売することができた商品の単位数量当たりの利益の額に、自己の商標権又は専用使用権を侵害した者が譲渡した商品の数量(次号において「譲渡数量」という。)のうち当該商標権者又は専用使用権者の使用の能力に応じた数量(同号において「使用相応数量」という。)を超えない部分(その全部又は一部に相当する数量を当該商標権者又は専用使用権者が販売することができないとする事情があるときは、当該事情に相当する数量(同号において「特定数量」という。)を控除した数量)を乗じて得た額
二 譲渡数量のうち使用相応数量を超える数量又は特定数量がある場合(商標権者又は専用使用権者が、当該商標権者の商標権についての専用使用権の設定若しくは通常使用権の許諾又は当該専用使用権者の専用使用権についての通常使用権の許諾をし得たと認められない場合を除く。)におけるこれらの数量に応じた当該商標権又は専用使用権に係る登録商標の使用に対し受けるべき金銭の額に相当する額
2 商標権者又は専用使用権者が故意又は過失により自己の商標権又は専用使用権を侵害した者に対しその侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合において、その者がその侵害の行為により利益を受けているときは、その利益の額は、商標権者又は専用使用権者が受けた損害の額と推定する。
3 商標権者又は専用使用権者は、故意又は過失により自己の商標権又は専用使用権を侵害した者に対し、その登録商標の使用に対し受けるべき金銭の額に相当する額の金銭を、自己が受けた損害の額としてその賠償を請求することができる。
4 裁判所は、第一項第二号及び前項に規定する登録商標の使用に対し受けるべき金銭の額に相当する額を認定するに当たつては、商標権者又は専用使用権者が、自己の商標権又は専用使用権に係る登録商標の使用の対価について、当該商標権又は専用使用権の侵害があつたことを前提として当該商標権又は専用使用権を侵害した者との間で合意をするとしたならば、当該商標権者又は専用使用権者が得ることとなるその対価を考慮することができる。
5 商標権者又は専用使用権者が故意又は過失により自己の商標権又は専用使用権を侵害した者に対しその侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合において、その侵害が指定商品又は指定役務についての登録商標(書体のみに変更を加えた同一の文字からなる商標、平仮名、片仮名及びローマ字の文字の表示を相互に変更するものであつて同一の称呼及び観念を生ずる商標、外観において同視される図形からなる商標その他の当該登録商標と社会通念上同一と認められる商標を含む。第五十条において同じ。)の使用によるものであるときは、その商標権の取得及び維持に通常要する費用に相当する額を、商標権者又は専用使用権者が受けた損害の額とすることができる。
6 第三項及び前項の規定は、これらの規定に規定する金額を超える損害の賠償の請求を妨げない。この場合において、商標権又は専用使用権を侵害した者に故意又は重大な過失がなかつたときは、裁判所は、損害の賠償の額を定めるについて、これを参酌することができる。
主 文
1 被告は,原告に対し,金836万円及びこれに対する平成21年2月15日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用はこれを50分し,その1を被告の負担とし,その余を原告の負担とする。
4 本判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1 請求
被告は,原告に対し,金4億0528万1000円及びこれに対する平成21年2月15日から支払済みに至るまで年分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要等
1 事案の概要
本件は,後記本件商標権の商標権者であり,デザイナーズ戸建賃貸住宅のブランド「ユニキューブ」の設計・施工事業(以下「ユニキューブ事業」という。)に必要な設計・施工・営業のマニュアル等を提供している原告が,ユニキューブ事業を営む被告に対し,①デコスドライ工法を採用しない建物の工事請負契約に後記本件商標を使用したことは,本件販売契約に基づく商標使用許諾の範囲外であると主張して,商標権侵害又は債務不履行に基づく損害賠償請求をすると共に,②デコスドライ工法を採用しない建物に原告が提供した後記本件情報を使用したことは,本件販売契約に基づくノウハウ使用許諾の範囲外であると主張して,債務不履行又は不正競争防止法(営業秘密の不正使用)に基づく損害賠償請求をする事案である(なお,上記①と②の各請求の関係は単純併合であり,上記①の商標権侵害に基づく請求と債務不履行に基づく請求,上記②の債務不履行に基づく請求と不正競争防止法に基づく請求の関係は,いずれも重なり合う限度で選択的併合である。)。
2 判断の基礎となる事実
以下の各事実は,当事者間に争いがないか,又は掲記の各証拠及び弁論の全趣旨により容易に認定することができる。
(1) 当事者
原告及び被告は,いずれも土木,建築の設計,施工,監理等を営業の目的とする株式会社である。
(2) 原告の商標権
原告は,以下の商標権(以下「本件商標権」といい,その登録商標を「本件商標」という。)を有している(甲1)。
① 登録番号 第4912272号
② 出願日 平成17年4月28日
③ 登録日 平成17年12月2日
④ 商品及び役務の区分 第36類
⑤ 登録商標 別紙商標目録のとおり
(3) デコスドライ工法
デコスドライ工法は,建物の断熱・防音工法の一つであり,天然の木質繊維であるセルロースファイバーを用いる点に特徴がある(甲3,29)。同工法については,特許権設定登録がされており,原告の子会社である株式会社デコス(以下「デコス社」という。)がその特許権者である(甲20)。
デコス社は,平成8年9月以降,デコスドライ工法についての施工代理店契約事業を実施している(乙35)。また,平成12年5月に,デコスドライ工法の施工技術の確立と普及を図ることを目的とした日本セルロースファイバー断熱施工協会が設立され,会長に原告の代表者,事務局長にデコス社の取締役が就いている(乙37)。
(4) 本件販売契約の締結
ア ユニキューブ事業
原告は,訴外ハイアス・アンド・カンパニー株式会社(以下「訴外ハイアス」という。)と共同して,平成17年から,工務店等と「ユニキューブ・パッケージ販売契約」を締結して(以下,契約の相手方である工務店等を「加盟店」ともいう。),原告安成が開発したデザイナーズ戸建賃貸住宅のブランド「ユニキューブ」の設計・施工事業(「ユニキューブ事業」)に必要な設計・施工・営業のマニュアル等を提供する事業を行っている。
イ 本件販売契約
(ア) 原告及び訴外ハイアスは,平成17年9月7日,被告との間で,ユニキューブ・パッケージ販売契約を締結した(甲4。以下「本件販売契約」という。)。
(イ) 同契約において,「ユニキューブ」,「ユニキューブ・パッケージ」,「ユニキューブ事業」について,以下のとおり定義されている(本件販売契約1条)。
a 「ユニキューブ」
原告が開発した設計・施工ノウハウにより建築される建築物で,キューブ型の外観デザインを持ち,かつ,デコスドライ工法によるセルロースファイバー断熱を標準採用した建物(同契約1条1項)。
b 「ユニキューブ・パッケージ」
原告が自ら開発したユニキューブの設計・施工・営業ノウハウと,訴外ハイアスから提供を受けた顧客獲得のための営業ノウハウとを,訴外ハイアスの支援のもと有機的に組み合わせたもの(同2項)。
c 「ユニキューブ事業」
ユニキューブ・パッケージに含まれるノウハウを用いてユニキューブの設計・施工を行う事業(同3項)。
(ウ) 同契約において,原告は,被告に対し,徳島県を中心に,ユニキューブ事業を行う非独占的な権利を与え(同2条2項),建物の外観及び間取りに関する別紙本件情報記載の情報(以下「本件情報」という。)等が記載された設計・施工マニュアル及び営業マニュアル一式(以下「原告マニュアル」という。乙12)を引き渡した(同4項)。
また,被告は,原告が有する「ユニキューブ」,「UNICUBE」,「unicube」等のユニキューブ建物に関する商標・ロゴ・サービスマーク(登録の有無を問わない。)を,ユニキューブ事業にのみ使用することができるとされた(同4条1項)。
(5) 被告の行為
ア 被告は,ユニキューブ事業を開始した後,本件情報を使用したキューブ型外観を有し,デコスドライ工法が採用された建物の建築工事請負をしたが(以下,このような建物を「ユニキューブ物件」という。),他方で,建築工事請負契約書,見積書,見積内訳書,仕様書,図面等に本件商標を使用した上で,本件情報を使用したキューブ型の外観を有するもののデコスドライ工法が採用されていない建物の建築工事請負もしていた(以下,このような建物を「本件対象物件」という。)。
なお,被告は,遅くとも平成19年4月以降においては,施主にデコスドライ工法についての説明をすることなく,本件対象物件の建築工事請負をしていた(弁論の全趣旨)。
イ また,被告は,本件対象物件についても,自己のウェブサイト上において,ユニキューブの施工実績として紹介していた(甲10の1・2)。
3 争点
(1) 本件商標の不正使用についての損害賠償請求
ア 商標権侵害に基づく請求(争点1)
(ア) 本件対象物件の工事請負は,本件商標の指定役務とは類似するか(争点1-1)
(イ) 本件対象物件に本件商標を使用することは,本件販売契約による使用許諾の範囲内か(争点1-2)
イ 債務不履行に基づく請求
被告は,本件販売契約に基づき,本件対象物件には本件商標を使用しない義務を負っていたか(争点2)
(2) 本件情報の不正使用についての損害賠償請求
ア 債務不履行に基づく請求
被告は,本件販売契約に基づき,本件対象物件には本件情報を使用しない義務を負っていたか(争点3)
イ 不正競争防止法2条1項7号該当を理由とする請求(争点4)
(ア) 本件情報の営業秘密性(争点4-1)
(イ) 本件対象物件の本件情報を使用することは,本件販売契約による使用許諾の範囲内か(争点4-2)
(3) 本件商標の使用,本件情報の使用について,原告による黙示の許諾が認められるか(争点5)
(4) 原告の損害額(争点6)
第3 争点に関する当事者の主張
1 本件商標の不正使用についての損害賠償請求について