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法律大好きのブログ(弁護士村田英幸)

役に立つ裁判例の紹介、法律の本の書評です。弁護士経験32年。第二東京弁護士会所属21770

金融機関が民事訴訟において訴訟外の第三者として開示を求められた顧客情報について,当該顧客自身が当該民事訴訟の当事者として開示義務を負う場合に,同情報は,民訴法197条1項3号にいう職業の秘密として保護されるか

 

 

              文書提出命令に対する抗告審の取消決定に対する許可抗告事件

【事件番号】      最高裁判所第3小法廷決定/平成19年(許)第23号

【判決日付】      平成19年12月11日

【判示事項】      1 金融機関が民事訴訟において訴訟外の第三者として開示を求められた顧客情報について,当該顧客自身が当該民事訴訟の当事者として開示義務を負う場合に,同情報は,民訴法197条1項3号にいう職業の秘密として保護されるか

             2 金融機関と顧客との取引履歴が記載された明細表が,民訴法197条1項3号にいう職業の秘密として保護されるべき情報が記載された文書とはいえないとして,同法220条4号ハ所定の文書に該当しないとされた事例

【判決要旨】      1 金融機関が民事訴訟において訴訟外の第三者として開示を求められた顧客情報について,当該顧客自身が当該民事訴訟の当事者として開示義務を負う場合には,同情報は,金融機関がこれにつき職業の秘密として保護に値する独自の利益を有するときは別として,民訴法197条1項3号にいう職業の秘密として保護されない。

             2 A,Bを当事者とする民事訴訟の手続の中で,Aが金融機関Cを相手方としてBとCとの間の取引履歴が記載された明細表を対象文書とする文書提出命令を申し立てた場合において,Bが上記明細表を所持しているとすれば民訴法220条4号所定の事由のいずれにも該当せず提出義務が認められること,Cがその取引履歴を秘匿する独自の利益を有するものとはいえないことなど判示の事情の下では,上記明細表は,同法197条1項3号にいう職業の秘密として保護されるべき情報が記載された文書とはいえず,同法220条4号ハ所定の文書に該当しない。

             (1,2につき補足意見がある。)

【参照条文】      民事訴訟法197-1

             民事訴訟法220

【掲載誌】        最高裁判所民事判例集61巻9号3364頁

 

 

民事訴訟法

第百九十七条 次に掲げる場合には、証人は、証言を拒むことができる。

一 第百九十一条第一項の場合

二 医師、歯科医師、薬剤師、医薬品販売業者、助産師、弁護士(外国法事務弁護士を含む。)、弁理士、弁護人、公証人、宗教、祈祷とう若しくは祭祀しの職にある者又はこれらの職にあった者が職務上知り得た事実で黙秘すべきものについて尋問を受ける場合

三 技術又は職業の秘密に関する事項について尋問を受ける場合

2 前項の規定は、証人が黙秘の義務を免除された場合には、適用しない。

 

(文書提出義務)

第二百二十条 次に掲げる場合には、文書の所持者は、その提出を拒むことができない。

一 当事者が訴訟において引用した文書を自ら所持するとき。

二 挙証者が文書の所持者に対しその引渡し又は閲覧を求めることができるとき。

三 文書が挙証者の利益のために作成され、又は挙証者と文書の所持者との間の法律関係について作成されたとき。

四 前三号に掲げる場合のほか、文書が次に掲げるもののいずれにも該当しないとき。

イ 文書の所持者又は文書の所持者と第百九十六条各号に掲げる関係を有する者についての同条に規定する事項が記載されている文書

ロ 公務員の職務上の秘密に関する文書でその提出により公共の利益を害し、又は公務の遂行に著しい支障を生ずるおそれがあるもの

ハ 第百九十七条第一項第二号に規定する事実又は同項第三号に規定する事項で、黙秘の義務が免除されていないものが記載されている文書

ニ 専ら文書の所持者の利用に供するための文書(国又は地方公共団体が所持する文書にあっては、公務員が組織的に用いるものを除く。)

ホ 刑事事件に係る訴訟に関する書類若しくは少年の保護事件の記録又はこれらの事件において押収されている文書

 

 

 

帰属清算型の譲渡担保における清算金の有無及びその額の確定時期

 

 

所有権移転請求権仮登記の抹消登記手続請求事件

【事件番号】      最高裁判所第1小法廷判決/昭和60年(オ)第568号

【判決日付】      昭和62年2月12日

【判示事項】      帰属清算型の譲渡担保における清算金の有無及びその額の確定時期

【判決要旨】      債務者所有の不動産に設定された譲渡担保が帰属清算型である場合、債権者の支払うべき清算金の有無及びその額は、債権者が債務者に対し清算金の支払若しくはその提供をした時若しくは目的不動産の適正評価額が債務額(評価に要した担当費用等の額を含む。)を上回らない旨の通知をした時、又は債権者において目的不動産を第三者に売却等をした時を基準として、確定されるべきである。

【参照条文】      民法369

【掲載誌】        最高裁判所民事判例集41巻1号67頁

 

 

民法

(抵当権の内容)

第三百六十九条 抵当権者は、債務者又は第三者が占有を移転しないで債務の担保に供した不動産について、他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受ける権利を有する。

2 地上権及び永小作権も、抵当権の目的とすることができる。この場合においては、この章の規定を準用する。

 

 

取締役と会社との取引が株主全員の合意によってされた場合と取締役会の承認

 

 

会社解散請求事件

【事件番号】      最高裁判所第1小法廷判決/昭和47年(オ)第1225号

【判決日付】      昭和49年9月26日

【判示事項】      取締役と会社との取引が株主全員の合意によってされた場合と取締役会の承認

【判決要旨】      取締役と会社との取引が株主全員の合意によってされた場合には、右取引につき取締役会の承認を要しない。

【参照条文】      商法265

【掲載誌】        最高裁判所民事判例集28巻6号1306頁

 

 

会社法

(競業及び利益相反取引の制限)

第三百五十六条 取締役は、次に掲げる場合には、株主総会において、当該取引につき重要な事実を開示し、その承認を受けなければならない。

一 取締役が自己又は第三者のために株式会社の事業の部類に属する取引をしようとするとき。

二 取締役が自己又は第三者のために株式会社と取引をしようとするとき。

三 株式会社が取締役の債務を保証することその他取締役以外の者との間において株式会社と当該取締役との利益が相反する取引をしようとするとき。

2 民法第百八条の規定は、前項の承認を受けた同項第二号又は第三号の取引については、適用しない。

 

差別的行使条件付新株予約権の無償割当ての差止めが認められなかった事例

富士興産事件

 

 

新株予約権無償割当差止仮処分命令申立却下決定に対する抗告事件

【事件番号】      東京高等裁判所決定/令和3年(ラ)第1593号

【判決日付】      令和3年8月10日

【判示事項】      差別的行使条件付新株予約権の無償割当ての差止めが認められなかった事例

【判決要旨】      定時株主総会において、対応方針の導入およびこれに基づく対抗措置の発動としての差別的行使条件付かつ差別的取得条項付新株予約権無償割当てにつき株主の承認が得られなければ、当該新株予約権無償割当てを撤回することを予定していたなどの事実関係の下で、当該新株予約権無償割当てが会社の取締役等またはこれを支持する特定の株主の経営支配権を維持することを主たる目的としてされたものと推認することはできず、また、会社法109条1項に定める株主平等の原則の趣旨は、新株予約権無償割当ての場合についても及ぶが、当該事案の事実関係の下では、当該新株予約権無償割当てが、衡平の理念に反し、相当性を欠くものとは認められないとされた事例

【参照条文】      会社法247

【掲載誌】        金融・商事判例1630号16頁

【評釈論文】      商事法務2275号36頁

             税務事例54巻8号104頁

 

 

会社法

(株主の平等)

第百九条 株式会社は、株主を、その有する株式の内容及び数に応じて、平等に取り扱わなければならない。

2 前項の規定にかかわらず、公開会社でない株式会社は、第百五条第一項各号に掲げる権利に関する事項について、株主ごとに異なる取扱いを行う旨を定款で定めることができる。

3 前項の規定による定款の定めがある場合には、同項の株主が有する株式を同項の権利に関する事項について内容の異なる種類の株式とみなして、この編及び第五編の規定を適用する。

 

第四款 募集新株予約権の発行をやめることの請求

第二百四十七条 次に掲げる場合において、株主が不利益を受けるおそれがあるときは、株主は、株式会社に対し、第二百三十八条第一項の募集に係る新株予約権の発行をやめることを請求することができる。

一 当該新株予約権の発行が法令又は定款に違反する場合

二 当該新株予約権の発行が著しく不公正な方法により行われる場合

 

内国法人が支配力を有していなかった外国子会社の事業年度の当期純利益から算出された適用対象金額の全額について、租税特別措置法施行令39条の16第1項、2項(タックス・ヘイブン対策税制)を適用して内国法人の所得に合算して課税したことが違法であるとされた事例

 

 

法人税更正処分等取消請求控訴事件

【事件番号】      東京高等裁判所判決/令和3年(行コ)第96号

【判決日付】      令和4年3月10日

【判示事項】      1 タックス・ヘイブン対策税制における内国法人に係る特定外国子会社等の留保金額の益金算入に係る利益の判定の基準時

             2 内国法人が支配力を有していなかった外国子会社の事業年度の当期純利益から算出された適用対象金額の全額について、租税特別措置法施行令39条の16第1項、2項を適用して内国法人の所得に合算して課税したことが違法であるとされた事例

【判決要旨】      1 租税特別措置法施行令(平成29年政令第114号による改正前のもの)39条の16第2項1号が剰余金の配当等の割合から請求権勘案保有株式等を計算すべき場合として定める「外国法人が請求権の内容が異なる株式等を発行している場合」に該当するか否かの判定は、特定外国子会社等の事業年度終了の時の状況によるべきである。

             2 ①優先出資証券の発行およびこれにより調達した資金を原資として劣後ローンによる資金調達のスキームが利用された経緯、目的、仕組みから、内国法人である銀行が外国子会社の当期純利益から剰余金の配当等を受け得ることが想定されていないこと、②外国子会社当期純利益を上回る金額が期中に持株SPCに配当され、事業年度全体を通じてみても、期末時点についてみても、銀行が上記当期純利益に対して支配力を有していたとは認められないこと、③上記資金調達スキームにおける処理に租税回避の目的があることも、客観的に租税回避の事態が生じていると評価すべき事情も認められないことなど判示の事情の下では、租税特別措置法施行令39条の16第1項、2項の規定を形式的に適用し、銀行が支配力を有していなかった外国子会社の同事業年度の当期純利益から算出された適用対象金額の全額を銀行の所得に合算したことは、法の趣旨ないしタックス・ヘイブン対策税制の基本的な制度趣旨や理念に反する。

【参照条文】      租税特別措置法(平成28年法律第15号による改正前のもの)66の6-1

           租税特別措置法施行令(平成29年政令第114号による改正前のもの)39の16-1

           租税特別措置法施行令(平成29年政令第114号による改正前のもの)39の16-2

【掲載誌】        金融・商事判例1649号34頁

 

 

租税特別措置法

第一款 内国法人の外国関係会社に係る所得の課税の特例

第六十六条の六第1項 次に掲げる内国法人に係る外国関係会社のうち、特定外国関係会社又は対象外国関係会社に該当するものが、昭和五十三年四月一日以後に開始する各事業年度において適用対象金額を有する場合には、その適用対象金額のうちその内国法人が直接及び間接に有する当該特定外国関係会社又は対象外国関係会社の株式等(株式又は出資をいう。以下この条において同じ。)の数又は金額につきその請求権(剰余金の配当等(法人税法第二十三条第一項第一号に規定する剰余金の配当、利益の配当又は剰余金の分配をいう。以下この項及び次項において同じ。)を請求する権利をいう。以下この条において同じ。)の内容を勘案した数又は金額並びにその内国法人と当該特定外国関係会社又は対象外国関係会社との間の実質支配関係の状況を勘案して政令で定めるところにより計算した金額(次条及び第六十六条の八において「課税対象金額」という。)に相当する金額は、その内国法人の収益の額とみなして当該各事業年度終了の日の翌日から二月を経過する日を含むその内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、益金の額に算入する。

一 内国法人の外国関係会社に係る次に掲げる割合のいずれかが百分の十以上である場合における当該内国法人

イ その有する外国関係会社の株式等の数又は金額(当該外国関係会社と居住者(第二条第一項第一号の二に規定する居住者をいう。以下この項及び次項において同じ。)又は内国法人との間に実質支配関係がある場合には、零)及び他の外国法人を通じて間接に有するものとして政令で定める当該外国関係会社の株式等の数又は金額の合計数又は合計額が当該外国関係会社の発行済株式又は出資(自己が有する自己の株式等を除く。同項、第六項及び第八項において「発行済株式等」という。)の総数又は総額のうちに占める割合

ロ その有する外国関係会社の議決権(剰余金の配当等に関する決議に係るものに限る。ロ及び次項第一号イ(2)において同じ。)の数(当該外国関係会社と居住者又は内国法人との間に実質支配関係がある場合には、零)及び他の外国法人を通じて間接に有するものとして政令で定める当該外国関係会社の議決権の数の合計数が当該外国関係会社の議決権の総数のうちに占める割合

ハ その有する外国関係会社の株式等の請求権に基づき受けることができる剰余金の配当等の額(当該外国関係会社と居住者又は内国法人との間に実質支配関係がある場合には、零)及び他の外国法人を通じて間接に有する当該外国関係会社の株式等の請求権に基づき受けることができる剰余金の配当等の額として政令で定めるものの合計額が当該外国関係会社の株式等の請求権に基づき受けることができる剰余金の配当等の総額のうちに占める割合

二 外国関係会社との間に実質支配関係がある内国法人

三 外国関係会社(内国法人との間に実質支配関係があるものに限る。)の他の外国関係会社に係る第一号イからハまでに掲げる割合のいずれかが百分の十以上である場合における当該内国法人(同号に掲げる内国法人を除く。)

四 外国関係会社に係る第一号イからハまでに掲げる割合のいずれかが百分の十以上である一の同族株主グループ(外国関係会社の株式等を直接又は間接に有する者及び当該株式等を直接又は間接に有する者との間に実質支配関係がある者(当該株式等を直接又は間接に有する者を除く。)のうち、一の居住者又は内国法人、当該一の居住者又は内国法人との間に実質支配関係がある者及び当該一の居住者又は内国法人と政令で定める特殊の関係のある者(外国法人を除く。)をいう。)に属する内国法人(外国関係会社に係る同号イからハまでに掲げる割合又は他の外国関係会社(内国法人との間に実質支配関係があるものに限る。)の当該外国関係会社に係る同号イからハまでに掲げる割合のいずれかが零を超えるものに限るものとし、同号及び前号に掲げる内国法人を除く。)

 

 

租税特別措置法施行令

(実質支配関係の判定)

第三十九条の十六 法第六十六条の六第二項第五号に規定する政令で定める関係は、居住者又は内国法人(以下この項において「居住者等」という。)と外国法人との間に次に掲げる事実その他これに類する事実が存在する場合(当該外国法人の行う事業から生ずる利益のおおむね全部が剰余金の配当、利益の配当、剰余金の分配その他の経済的な利益の給付として当該居住者等(当該居住者等と特殊の関係のある者を含む。)以外の者に対して金銭その他の資産により交付されることとなつている場合を除く。)における当該居住者等と当該外国法人との間の関係(当該関係がないものとして同条第二項第一号(イに係る部分に限る。)の規定を適用した場合に居住者及び内国法人並びに同号イに規定する特殊関係非居住者と当該外国法人との間に同号イ(1)から(3)までに掲げる割合のいずれかが百分の五十を超える関係がある場合における当該居住者等と当該外国法人との間の関係を除く。)とする。

一 居住者等が外国法人の残余財産のおおむね全部について分配を請求する権利を有していること。

二 居住者等が外国法人の財産の処分の方針のおおむね全部を決定することができる旨の契約その他の取決めが存在すること(当該外国法人につき前号に掲げる事実が存在する場合を除く。)。

2 前項に規定する特殊の関係とは、次に掲げる関係をいう。

一 一方の者と他方の者との間に当該他方の者が次に掲げるものに該当する関係がある場合における当該関係

イ 当該一方の者の親族

ロ 当該一方の

者と婚姻の届出をしていないが事実上婚姻関係と同様の事情にある者

ハ 当該一方の者の使用人又は雇主

ニ イからハまでに掲げる者以外の者で当該一方の者から受ける金銭その他の資産によつて生計を維持しているもの

ホ ロからニまでに掲げる者と生計を一にするこれらの者の親族

二 一方の者と他方の者との間に当該他方の者が次に掲げる法人に該当する関係がある場合における当該関係(次号及び第四号に掲げる関係に該当するものを除く。)

イ 当該一方の者(当該一方の者と前号に規定する関係のある者を含む。以下この号において同じ。)が他の法人を支配している場合における当該他の法人

ロ 当該一方の者及び当該一方の者と特殊の関係(この項(イに係る部分に限る。)に規定する特殊の関係をいう。)のある法人が他の法人を支配している場合における当該他の法人

ハ 当該一方の者及び当該一方の者と特殊の関係(この項(イ及びロに係る部分に限る。)に規定する特殊の関係をいう。)のある法人が他の法人を支配している場合における当該他の法人

三 二の法人のいずれか一方の法人が他方の法人の発行済株式等の百分の五十を超える数又は金額の株式等を直接又は間接に有する関係

四 二の法人が同一の者(当該者が個人である場合には、当該個人及びこれと法人税法第二条第十号に規定する政令で定める特殊の関係のある個人)によつてそれぞれその発行済株式等の百分の五十を超える数又は金額の株式等を直接又は間接に保有される場合における当該二の法人の関係(前号に掲げる関係に該当するものを除く。)

 

 

 

 

 

       主   文

 

 1 原判決を取り消す。

 2 Z税務署長が控訴人に対し平成29年11月7日付けでした平成27年4月1日から平成28年3月31日までの事業年度の法人税に係る更正処分(ただし、令和元年7月29日付け減額更正による一部減額後のもの)のうち所得の金額4935億1557万9742円を超える部分及び納付すべき法人税額628億8628万7000円を超える部分並びに上記更正処分に伴う過少申告加算税の賦課決定処分(ただし、同日付け変更決定による一部減額後のもの)をいずれも取り消す。

 3 Z税務署長が控訴人に対し平成29年11月7日付けでした平成27年4月1日から平成28年3月31日までの課税事業年度の地方法人税に係る更正処分(ただし、令和元年7月29日付け減額更正による一部減額後のもの)のうち課税標準法人税額1177億8873万3000円を超える部分及び納付すべき地方法人税額38億2783万9600円を超える部分並びに上記更正処分に伴う過少申告加算税の賦課決定処分(ただし、同日付け変更決定による一部減額後のもの)をいずれも取り消す。

 4 本件訴えのうちZ税務署長が控訴人に対し令和3年4月26日付けでした法人税及び地方法人税に係る各更正の請求に対する更正をすべき理由がない旨の各通知処分の取消しを求める部分を却下する。

 5 訴訟費用は、第1、2審とも被控訴人の負担とする。

 

給与ファクタリングは、貸金業法・出資法に違反する

 

 

              貸金業法違反、出資の受入れ、預り金及び金利等の取締りに関する法律違反被告事件

【事件番号】      最高裁判所第3小法廷決定/令和4年(あ)第288号

【判決日付】      令和5年2月20日

【判示事項】      債権譲渡の対価としてされた金銭の交付が貸金業法2条1項と出資の受入れ、預り金及び金利等の取締りに関する法律5条3項にいう「貸付け」に当たるとされた事例

【掲載誌】        LLI/DB 判例秘書登載

 

 

貸金業法

(定義)

第二条 この法律において「貸金業」とは、金銭の貸付け又は金銭の貸借の媒介(手形の割引、売渡担保その他これらに類する方法によつてする金銭の交付又は当該方法によつてする金銭の授受の媒介を含む。以下これらを総称して単に「貸付け」という。)で業として行うものをいう。ただし、次に掲げるものを除く。

一 国又は地方公共団体が行うもの

二 貸付けを業として行うにつき他の法律に特別の規定のある者が行うもの

三 物品の売買、運送、保管又は売買の媒介を業とする者がその取引に付随して行うもの

四 事業者がその従業者に対して行うもの

五 前各号に掲げるもののほか、資金需要者等の利益を損なうおそれがないと認められる貸付けを行う者で政令で定めるものが行うもの

2 この法律において「貸金業者」とは、次条第一項の登録を受けた者をいう。

 

 

出資の受入れ、預り金及び金利等の取締りに関する法律

(高金利の処罰)

第五条 金銭の貸付けを行う者が、年百九・五パーセント(二月二十九日を含む一年については年百九・八パーセントとし、一日当たりについては〇・三パーセントとする。)を超える割合による利息(債務の不履行について予定される賠償額を含む。以下同じ。)の契約をしたときは、五年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。当該割合を超える割合による利息を受領し、又はその支払を要求した者も、同様とする。

2 前項の規定にかかわらず、金銭の貸付けを行う者が業として金銭の貸付けを行う場合において、年二十パーセントを超える割合による利息の契約をしたときは、五年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。その貸付けに関し、当該割合を超える割合による利息を受領し、又はその支払を要求した者も、同様とする。

3 前二項の規定にかかわらず、金銭の貸付けを行う者が業として金銭の貸付けを行う場合において、年百九・五パーセント(二月二十九日を含む一年については年百九・八パーセントとし、一日当たりについては〇・三パーセントとする。)を超える割合による利息の契約をしたときは、十年以下の懲役若しくは三千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。その貸付けに関し、当該割合を超える割合による利息を受領し、又はその支払を要求した者も、同様とする。

 

 

 

       主   文

 

 本件上告を棄却する。

 

       理   由

 

 弁護人今井秀智の上告趣意は、憲法違反をいう点を含め、実質は単なる法令違反、事実誤認、量刑不当の主張であり、弁護人蒲谷博昭の上告趣意は、憲法違反、判例違反をいう点を含め、実質は単なる法令違反、事実誤認の主張であって、いずれも刑訴法405条の上告理由に当たらない。

 所論に鑑み、職権で判断する。

 1 本件は、東京都内に事務所を設け、株式会社Aの名称で、「給料ファクタリング」と称する取引を行っていた被告人が、(1)東京都知事の登録を受けないで、業として、令和2年3月13日から同年7月27日までの間、969回にわたり、合計504名の顧客に対し、口座に振込送金する方法により、貸付名目額合計2790万9500円(実交付額合計2734万2120円)を貸し付け、もって登録を受けないで貸金業を営んだという貸金業法違反(同法47条2号、11条1項、3条1項)、(2)業として金銭の貸付けを行うに当たり、同年3月31日から同年8月4日までの間、33回にわたり、前記株式会社A名義の普通預金口座に振込送金で受け取る方法により、前記顧客のうち8名から、法定の1日当たり0.3パーセントの割合による利息合計11万8074円を101万7816円超える合計113万5890円の利息を受領したという出資の受入れ、預り金及び金利等の取締りに関する法律(以下「出資法」という。)違反(同法5条3項後段)から成る事案である。

 2 原判決の認定及び記録によれば、本件の事実関係は、次のとおりである。

 被告人が、「給料ファクタリング」と称して、顧客との間で行っていた取引(以下「本件取引」という。)は、被告人が、労働者である顧客から、その使用者に対する賃金債権の一部を、額面額から4割程度割り引いた額で譲り受け、同額の金銭を顧客に交付するというものであった。本件取引では、契約上、使用者の不払の危険は被告人が負担するとされていたが、希望する顧客は譲渡した賃金債権を買戻し日に額面額で買い戻すことができること、被告人が、使用者に対する債権譲渡通知の委任を受けてその内容と時期を決定すること、顧客が買戻しを希望しない場合には使用者に債権譲渡通知をするが、顧客が希望する場合には買戻し日まで債権譲渡通知を留保することが定められていた。そして、全ての顧客との間で、買戻し日が定められ、債権譲渡通知が留保されていた。

 3 所論は、本件取引は債権譲渡であるから、その対価としての金銭の交付は貸金業法2条1項と出資法5条3項にいう「貸付け」に当たらないと主張する。

 4 そこで検討すると、本件取引で譲渡されたのは賃金債権であるところ、労働基準法24条1項の趣旨に徴すれば、労働者が賃金の支払を受ける前に賃金債権を他に譲渡した場合においても、その支払についてはなお同項が適用され、使用者は直接労働者に対して賃金を支払わなければならず、その賃金債権の譲受人は、自ら使用者に対してその支払を求めることは許されない(最高裁昭和40年(オ)第527号同43年3月12日第三小法廷判決・民集22巻3号562頁参照)ことから、被告人は、実際には、債権を買い戻させることなどにより顧客から資金を回収するほかなかったものと認められる。

 また、顧客は、賃金債権の譲渡を使用者に知られることのないよう、債権譲渡通知の留保を希望していたものであり、使用者に対する債権譲渡通知を避けるため、事実上、自ら債権を買い戻さざるを得なかったものと認められる。

 そうすると、本件取引に基づく金銭の交付は、それが、形式的には、債権譲渡の対価としてされたものであり、また、使用者の不払の危険は被告人が負担するとされていたとしても、実質的には、被告人と顧客の二者間における、返済合意がある金銭の交付と同様の機能を有するものと認められる。

 5 このような事情の下では、本件取引に基づく金銭の交付は、貸金業法2条1項と出資法5条3項にいう「貸付け」に当たる。したがって、被告人について、(1)貸金業法違反及び(2)出資法違反の各罪の成立を認めた第1審判決を是認した原判決の判断は相当である。

 よって、刑訴法414条、386条1項3号により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。

 

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逐条解説 特定商取引法 第II巻 (第2巻) 単行本 – 2022/6/8

阿部 高明 (著)

 

¥7,260

 

 

出版社 ‏ : ‎ 青林書院 (2022/6/8)

発売日 ‏ : ‎ 2022/6/8

単行本 ‏ : ‎ 490ページ

 

 

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特定商取引法の逐条解説。

 

殺人,死体遺棄の公訴事実について被告人が第1審公判の終盤において従前の供述を翻し全面的に否認する供述をするようになったが弁護人が被告人の従前の供述を前提にした有罪を基調とする最終弁論をして裁判所がそのまま審理を終結した第1審の訴訟手続に法令違反は存しないとされた事例

 

 

              逮捕監禁,営利略取,殺人,死体遺棄被告事件

【事件番号】      最高裁判所第3小法廷決定/平成16年(あ)第2172号

【判決日付】      平成17年11月29日

【判示事項】      殺人,死体遺棄の公訴事実について被告人が第1審公判の終盤において従前の供述を翻し全面的に否認する供述をするようになったが弁護人が被告人の従前の供述を前提にした有罪を基調とする最終弁論をして裁判所がそのまま審理を終結した第1審の訴訟手続に法令違反は存しないとされた事例

【判決要旨】      殺人,死体遺棄の公訴事実について,被告人が第1審公判の終盤において従前の供述を翻し全面的に否認する供述をするようになったが,弁護人が被告人の従前の供述を前提にした有罪を基調とする最終弁論をして,裁判所がそのまま審理を終結した第1審の訴訟手続には,上記弁論において弁護人が,証拠関係,審理経過を踏まえた上で被告人に最大限有利な認定がなされることを企図した主張をしたとみることができるなど判示の事情の下では,法令違反は存しない。

             (補足意見がある。)

【参照条文】      刑事訴訟法30

             刑事訴訟法293-2

             刑事訴訟法379

             刑事訴訟規則211

             憲法37-3

【掲載誌】        最高裁判所刑事判例集59巻9号1847頁

 

 

 

憲法

第三十七条 すべて刑事事件においては、被告人は、公平な裁判所の迅速な公開裁判を受ける権利を有する。

② 刑事被告人は、すべての証人に対して審問する機会を充分に与へられ、又、公費で自己のために強制的手続により証人を求める権利を有する。

③ 刑事被告人は、いかなる場合にも、資格を有する弁護人を依頼することができる。被告人が自らこれを依頼することができないときは、国でこれを附する。

 

 

刑事訴訟法

第三十条 被告人又は被疑者は、何時でも弁護人を選任することができる。

② 被告人又は被疑者の法定代理人、保佐人、配偶者、直系の親族及び兄弟姉妹は、独立して弁護人を選任することができる。

 

第二百九十三条 証拠調が終つた後、検察官は、事実及び法律の適用について意見を陳述しなければならない。

② 被告人及び弁護人は、意見を陳述することができる。

 

第三百七十六条 控訴申立人は、裁判所の規則で定める期間内に控訴趣意書を控訴裁判所に差し出さなければならない。

② 控訴趣意書には、この法律又は裁判所の規則の定めるところにより、必要な疎明資料又は検察官若しくは弁護人の保証書を添附しなければならない。

 

構成部分の変動する集合動産を目的とする集合物譲渡担保権の対抗要件と構成部分の変動した後の集合物に対する効力

 

 

第三者異議事件

【事件番号】      最高裁判所第3小法廷判決/昭和57年(オ)第1408号

【判決日付】      昭和62年11月10日

【判示事項】      一、構成部分の変動する集合動産を目的とする集合物譲渡担保権の対抗要件と構成部分の変動した後の集合物に対する効力

             二、構成部分の変動する集合動産を目的とする集合物譲渡担保権と動産売買先取特権に基づいてされた動産競売の不許を求める第三者異議の訴え

             三、構成部分の変動する集合動産を目的とする集合物譲渡担保権設定契約において目的物の範囲が特定されているとされた事例

【判決要旨】      一、構成部分の変動する集合動産を目的とする集合物譲渡担保権の設定者がその構成部分である動産の占有を取得したときは譲渡担保権者が占有改定の方法によって占有権を取得する旨の合意があり、担保権設定者がその構成部分として現に存在する動産の占有を取得した場合には、譲渡担保権者は、右譲渡担保権につき対抗要件を具備するに至り、右対抗要件具備の効力は、新たにその構成部分となった動産を包含する集合物に及ぶ。

             二、構成部分の変動する集合動産を目的とする集合物譲渡担保権者は、特段の事情のない限り、第三者異議の訴えによって、動産売買先取特権者が右集合物の構成部分となった動産についてした競売の不許を求めることができる。

             三、構成部分の変動する集合動産を目的とする集合物譲渡担保権設定契約において、目的動産の種類及び量的範囲が普通棒鋼、異形棒鋼等一切の在庫商品と、その所在場所が譲渡担保権設定者の倉庫内及び同敷地・ヤード内と指定されているときは、目的物の範囲が特定されているものというべきである。

【参照条文】      民法85

             民法369

             民法178

             民法181

             民法183

             民法333

             競売法3

             民事訴訟法(昭和54年法律第4号による改正前のもの)549-1

【掲載誌】        最高裁判所民事判例集41巻8号1559頁

 

 

 

民法

(定義)

第八十五条 この法律において「物」とは、有体物をいう。

 

(抵当権の内容)

第三百六十九条 抵当権者は、債務者又は第三者が占有を移転しないで債務の担保に供した不動産について、他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受ける権利を有する。

2 地上権及び永小作権も、抵当権の目的とすることができる。この場合においては、この章の規定を準用する。

 

(動産に関する物権の譲渡の対抗要件)

第百七十八条 動産に関する物権の譲渡は、その動産の引渡しがなければ、第三者に対抗することができない。

 

(代理占有)

第百八十一条 占有権は、代理人によって取得することができる。

 

(占有改定)

第百八十三条 代理人が自己の占有物を以後本人のために占有する意思を表示したときは、本人は、これによって占有権を取得する。

 

(先取特権と第三取得者)

第三百三十三条 先取特権は、債務者がその目的である動産をその第三取得者に引き渡した後は、その動産について行使することができない。

 

 

民事執行法

(請求異議の訴え)

第三十五条 債務名義(第二十二条第二号又は第三号の二から第四号までに掲げる債務名義で確定前のものを除く。以下この項において同じ。)に係る請求権の存在又は内容について異議のある債務者は、その債務名義による強制執行の不許を求めるために、請求異議の訴えを提起することができる。裁判以外の債務名義の成立について異議のある債務者も、同様とする。

2 確定判決についての異議の事由は、口頭弁論の終結後に生じたものに限る。

3 第三十三条第二項及び前条第二項の規定は、第一項の訴えについて準用する。

 

株式会社の代表取締役の違法行為に対する社外取締役の監視義務と常勤監査役の監査義務について違反がないとされた事例

 

 

損害賠償等請求事件

【事件番号】      東京地方裁判所判決/平成27年(ワ)第2829号

【判決日付】      平成28年7月14日

【判示事項】      株式会社の代表取締役の違法行為に対する社外取締役の監視義務と常勤監査役の監査義務について違反がないとされた事例

【参照条文】      会社法423

【掲載誌】        判例時報2351号69頁

【評釈論文】      ジュリスト1534号114頁

             金融・商事判例1596号2頁

             法学研究(慶応大)92巻6号69頁

 

 

会社法

(役員等の株式会社に対する損害賠償責任)

第四百二十三条 取締役、会計参与、監査役、執行役又は会計監査人(以下この章において「役員等」という。)は、その任務を怠ったときは、株式会社に対し、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

2 取締役又は執行役が第三百五十六条第一項(第四百十九条第二項において準用する場合を含む。以下この項において同じ。)の規定に違反して第三百五十六条第一項第一号の取引をしたときは、当該取引によって取締役、執行役又は第三者が得た利益の額は、前項の損害の額と推定する。

3 第三百五十六条第一項第二号又は第三号(これらの規定を第四百十九条第二項において準用する場合を含む。)の取引によって株式会社に損害が生じたときは、次に掲げる取締役又は執行役は、その任務を怠ったものと推定する。

一 第三百五十六条第一項(第四百十九条第二項において準用する場合を含む。)の取締役又は執行役

二 株式会社が当該取引をすることを決定した取締役又は執行役

三 当該取引に関する取締役会の承認の決議に賛成した取締役(指名委員会等設置会社においては、当該取引が指名委員会等設置会社と取締役との間の取引又は指名委員会等設置会社と取締役との利益が相反する取引である場合に限る。)

4 前項の規定は、第三百五十六条第一項第二号又は第三号に掲げる場合において、同項の取締役(監査等委員であるものを除く。)が当該取引につき監査等委員会の承認を受けたときは、適用しない。

 

 

       主   文

 

 一 原告の請求をいずれも棄却する。

 二 訴訟費用は原告の負担とする。

 

       事実及び理由

 

第一 請求

 被告らは、原告に対し、連帯して、一億円及びこれに対する被告Y1は平成二七年二月一六日から、被告Y2は同月一五日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二 事案の概要

 本件は、破産者A株式会社(以下「破産会社」という。)の破産管財人である原告が、破産会社が外国投資信託である「Cファンド」(以下「本件ファンド」という。)の受益証券を販売するに当たり、破産会社の代表取締役であったB(以下「B社長」という。)においてその一口当たりの純資産の額を偽るなどしたため、本件ファンドを購入した年金基金等に対して合計二三五億二二〇〇万七八〇九円の損害賠償義務を負担するという損害を被ったところ、破産会社の社外取締役であった被告Y1に代表取締役の職務執行に対する監視義務違反が、常勤監査役であった被告Y2(以下、被告Y1と併せて「被告ら」という。)には同職務執行に対する監査義務違反があるなどと主張して、会社法四二三条一項に基づき、被告らに対し、連帯して、上記損害の一部である一億円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から各支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。

 一 前提事実(証拠等によって認定した事実は、末尾に証拠等を掲げた。その余は、当事者間に争いがない。)

   〈編注・本誌では証拠の表示は省略ないし割愛します〉

 (1) 当事者等

 ア 破産会社は、有価証券の売買、投資信託の受益証券に係る収益金、償還金又は解約金の支払に係る業務の代理等を目的とする株式会社である。

 B社長は、平成一〇年六月五日の破産会社の設立時から同社の取締役であり、同日から平成二四年八月八日に辞任するまでの間、同社の代表取締役の地位にあった。東京地方裁判所は、平成二五年六月二八日、破産会社につき破産手続開始決定をし、破産管財人として原告を選任した。

 イ AIJ投資顧問株式会社(以下「AIJ」という。)は、内外の有価証券等に係る投資顧問業務等を目的とする株式会社であったが、平成二五年五月二九日、商号及び目的を変更した。

 D(以下「D社長」という。)は、平成一六年六月三〇日から平成二五年五月二九日までの間、AIJの代表取締役の地位にあった。

 ウ 被告Y1は、平成一六年五月七日に破産会社の非常勤取締役に就任し、平成一九年六月二二日に社外取締役に就任した。また、被告Y1は、平成一六年六月三〇日から平成二四年五月七日までの間、AIJの監査役を務めていた。

 エ 被告Y2は、平成一〇年六月五日の破産会社の設立時から同社の常勤監査役を務めていた。

 (2) 破産会社による外国投資信託の販売

 破産会社は、信託銀行を介して本件ファンド(その中には、大別して三つのシリーズがあり、各シリーズを構成する合計一四のサブファンドがある。)の受益証券を顧客である年金基金等に販売していたが、その概要は次のとおりである。

 ア 顧客となる年金基金等は、一方で、信託銀行との間で年金特定金銭信託契約を締結して、同銀行に対し、自らが選任する投資顧問業者の指図に従って信託財産を運用することを委託し、他方で、AIJとの間で投資一任契約を締結して、AIJに対し、信託財産の運用を一任するとともに必要な権限の行使を委託し、AIJが同銀行に対して運用指図を行う。

 イ 本件ファンドは、ケイマン諸島法に基づき、管理会社であるE社と、受託銀行であるF(信託の登録事務代行会社を兼ねている。以下「F銀行」という。)との間で締結された信託契約(信託約款)に基づいて設定された外国投資信託である。G社は、F銀行から委託を受け、受託銀行の代理人兼登録事務代行会社の代理人となった。

 E社は、AIJとの間で投資一任契約を締結して、AIJに対し、信託財産の運用を一任するとともに必要な権限の行使を委託し、AIJは、これに基づいてF銀行又はG社に対し運用指図を行う。

 本件ファンドは、H会計事務所を監査人、破産会社を受益証券の販売会社としていた。

 (3) D社長及びB社長による違法行為

 ア D社長は、本件ファンドにつき、デリバティブ取引等に投資するなどしてその大半を自ら運用し、しばしば運用損を出していたが、毎月末、G社等から報告される本件ファンドを構成する各サブファンドの一口当たりの純資産額(Net Asset Valueper unit。以下「NAV」という。)を公表しないばかりか(以下、G社等から報告されるNAVを「実態NAV」ということがある。)、実態NAVと異なり大半が水増しされた虚偽のNAV(以下「公表NAV」ということがある。)を作成し、AIJ社内に周知するとともに破産会社に伝達するようになった。

 本件ファンドの価値は、NAVにより把握することができるところ、平成二一年三月末には、公表NAVに基づく純資産総額は約一七八六億円であるのに対し、実態NAVに基づく純資産総額は約七八〇億円であり、平成二二年三月以降は、公表NAVに基づく純資産総額が約二〇〇〇億円前後であるのに対し、実態NAVに基づく純資産総額は約二五〇億円であった。

 イ また、AIJが作成し公表していた「ご購入時からの運用実績」と題する書面中の「基準価格推移表」には、①本件ファンドについて、平成一九年度から平成二三年度までの間の年次の期間収益率が五・六〇%から八・五七%であり、平成二一年度から平成二三年度までの間において、月次の期間収益率がマイナスになったのは平成二二年六月のみであって、平成一七年度から平成二三年度まで間の累積収益率は四六・〇二%から九五・四二%である、②TOPIXを用いた日本株の期間騰落率は、平成一九年度がマイナス二八・〇五%、平成二〇年度がマイナス三四・七八%、平成二一年度が二八・四七%、平成二二年度がマイナス九・二三%、平成二三年度がマイナス一五・一五%であり、平成一七年度から平成二三年度まで間の累積収益率はマイナス二四・五一%であるなどと記載されていた。

 ウ このようにして、B社長は、D社長らとともに、あたかも本件ファンドの運用実績が好調でありその価値も順調に増加しているかのような虚偽の運用実績を記載した資料を年金基金等の担当者などに提示するなどして本件ファンドへの投資を勧誘し、別紙《略》の「基金」欄記載の年金基金等をして、AIJとの投資一任契約を締結させ、又は既に締結していた投資一任契約に基づき、平成二二年三月頃から平成二四年一月頃までの間に、二六回にわたり本件ファンドの受益証券を買い付けさせ、別紙《略》「金額」欄の額の金員を支払わせた。

 (4) 業界誌「年金情報」への記事の掲載

 年金基金等の担当者及びその関係者を主たる購読層とする業界誌である「年金情報」は、平成二一年二月一六日号において、平成二〇年一二月に米国で発覚した、米ナスダック株式市場のバーナード・マドフ元会長が関与したとされる巨額詐欺事件について、「運用が好調であるかのように長年偽装し続けた事件で、被害総額は五〇〇億ドルにも上るとみられている。」などと紹介した上で、これに続けて、「国内でもマドフ氏案件に類似する事例が規模の差はあれ今後発生しないとは限らない。例えば、ある新興ヘッジファンドについては、急激な下落相場の中で不自然なほどに安定したリターンを出し続けているとして、金融庁や証券取引等監視委員会が強い関心を示している。」との記事(以下「本件記事」という。)を掲載した。

 (5) 平成二一年三月一七日の定例取締役会におけるB社長の発言

 B社長は、平成二一年三月一七日に開催された破産会社の定例取締役会(以下「平成二一年三月一七日取締役会」という。)において、本件記事について取り上げ、年金情報誌において、マドフ氏の詐欺ファンド事件における日本の年金基金への影響に関する記事が紹介され、日本にも同様の詐欺ファンドが存在する旨の憶測記事が掲載されたこと、一部の信託銀行等が、上記の詐欺ファンドは破産会社が販売するファンドであると年金基金等に説明したため、解約の申入れが増えてきて、約一四〇億円・七基金の解約となったが、そのうち約三五億円・一基金については、基金の厳しい財務状況によりやむなく解約をせざるを得なかったものであること、同月は募集期間が過ぎてしまい、募集できるファンドはなかったが、解約分を買い取るファンドが数件現れてきたこと、今後は、詐欺ファンドの疑いを払拭するように、運用会社であるAIJから適切な情報開示を行うようにする、特に四半期報告書の見直しを行うことなどを報告して、取締役会の了承を受けた。

 (6) 平成二一年七月の解約請求

 平成二一年七月には、約一〇〇億円・四基金の本件ファンドにつき解約請求があり、B社長は、同月二一日開催された破産会社の取締役会において、その旨を報告した。

 (7) 信託報酬の引下げ

 ア E社は、本件ファンドの純資産総額の年率一・五%の割合による額を本件ファンドの管理報酬として受領しており、破産会社は、本件ファンドの信託報酬(破産会社が事業報告書中の収入項目において「受益証券信託・管理報酬」として計上しているものの全部又は一部。以下「本件信託報酬」という。)として、上記管理報酬の三分の一に当たる〇・五%を受領していた。

 イ B社長は、平成二二年四月二〇日に開催された破産会社の定例取締役会において、E社から、同社の受領する管理報酬が年率〇・七五%となるので、破産会社の受領する本件信託報酬も、第一三期(平成二二年四月一日~平成二三年三月三一日)から、年率〇・二五%に引き下げたいとの申出があった旨を報告し、審議の結果、上記申出は承認された。

 ウ さらに、B社長は、平成二三年四月一九日に開催された破産会社の定例取締役会において、AIJから、同月以降の本件信託報酬をゼロとする代わりに、破産会社がAIJに対して支払っている業務委託費もゼロとするとの申出があった旨を報告し、審議の結果、上記申出は承認された。

 (8) 破産会社のE社に対する金銭の貸付け等

 破産会社は、平成二三年六月二四日、E社に対し、八億円を無担保で貸し付けた(以下「本件貸付け」という。)が、同年七月二六日、E社から、同貸付けに係る元利金の弁済を受けた。

 B社長は、平成二三年八月九日に開催された破産会社の定例取締役会(以下「平成二三年八月九日取締役会」という。)において、破産会社がE社に対し、本件貸付けをしたが、その後、弁済を受けたことを報告した。

 (9) D社長及びB社長に対する刑事判決

 D社長及びB社長は、別紙《略》記載の全取引を含む本件ファンドの販売に関する詐欺罪並びに別紙《略》番号二、三、四、七、一〇、一五、一八、二〇及び二一の各取引に関する金融商品取引法違反(偽計を用いた投資一任契約の締結)の罪により、東京地方裁判所に起訴された。東京地方裁判所は、平成二五年一二月一八日、上記詐欺罪及び金融商品取引法違反の罪を認め、D社長を懲役一五年に、B社長を懲役七年にそれぞれ処するなどの判決を言い渡した。

 二 争点及びこれに関する当事者の主張

 (1) 被告らの善管注意義務違反の有無

 (原告の主張)

 ア 注意義務の水準等

  (ア) 金融商品取引業者である会社の役員の注意義務

 破産会社は、金融商品取引業者であるところ、その業務の運営を公益及び投資者保護(金融商品取引法一条)に欠けることがないよう行うことは証券業に携わる者の最低限の義務であり、破産会社の役員は、自らが取り扱っている商品に疑義がある場合は、直ちにそれを晴らすべく検証を行う義務がある上、本件ファンドの公益性・重要性に鑑みれば、本件ファンドを販売する破産会社の役員には極めて高い水準の注意義務が課されているというべきである。

  (イ) 被告Y1の注意義務

 被告Y1は、AIJの監査役を兼任していたばかりか投資法人の監督役員も兼務していた上、公認会計士として三〇年以上の経験を有し、国際税理士法人の代表役員も務めていたのであるから、被告Y1が社外取締役であることを考慮したとしても、被告Y1の注意義務の水準を他の取締役に比して低く考えるべきではない。

  (ウ) 被告Y2の注意義務

 被告Y2は、破産会社の常勤監査役であり、取締役会への出席に加えて週三回程度出勤していた上、長年にわたりI証券株式会社に勤務し、国際的な証券業務について深い知見を有していたのであるから、被告Y2の注意義務の水準を他の取締役に比して低く考えるべきではない。

 イ 平成二一年三月一七日取締役会において、本件ファンドのNAVに関する客観的かつ合理的な調査を行うよう上程すべき義務

  (ア) 被告らの善管注意義務の発生根拠

  a 本件ファンドの運用成績

 本件ファンドは、①平成一九年度から平成二三年度までの年次の期間収益率が五・六〇%から八・五七%となっており、月次ベースで見ても収益率がマイナスとなった月はわずかしかなく、②サブプライムローン問題を端緒とした世界金融危機が顕在化した平成一九年や、いわゆるリーマンショックが発生した平成二〇年には、マーケット指標が軒並み二桁のマイナスであったにもかかわらず、本件ファンドの運用実績は現状を維持したままであるなど、異例なほど安定した収益を計上していた。のみならず、破産会社の運用実績は、四捨五入したわけでないにもかかわらず、小数点以下二桁目が〇や五等の切りのよい数字が大半を占めており、先物やオプション取引の運用結果としては不自然であった。

  b 本件記事

 本件記事は、本件ファンドの具体的名称を名指ししてはいないものの、業界関係者が読めば、「ある新興ヘッジファンド」がAIJを、国内での「マドフ氏案件に類似する事例」とは本件ファンドを指していることはほぼ把握できた。そのため、破産会社は、年金基金等から本件記事に関する多数の問い合わせを受け、本件ファンドにつき、平成二一年三月末基準価格で約一〇〇億円(六基金)に上る解約請求を受けた。

  (イ) 被告らの善管注意義務の内容及び同義務の違反行為

 このような事情の下では、破産会社の役員である被告らには、B社長ら業務執行取締役に対し、本件ファンドが公表されている価値と同一の価値を有するか、すなわち本件ファンドのNAVが真実であるかどうかについて速やかに調査をするよう要請する義務があった。

 そして、本件ファンドに詐欺の疑いがあるとすれば、それは本件ファンドを運用するAIJによる違法行為の可能性が高いのであるから、当該調査は、AIJ以外の客観的かつ正確な情報を有する第三者から取得した情報に基づくものである必要があり、被告らには、B社長らの業務執行取締役に対し、違法行為への関与が疑われる当事者からの情報に依存しない、客観的かつ合理的な方法による調査をするよう要請する義務があった。

 それにもかかわらず、被告らは上記善管注意義務の履行を怠り、平成二一年三月一七日取締役会において、今後はAIJから適切な情報開示を行うようにするなどとするB社長の説明を了承するにとどまり、これに基づいてどのような作業が実施され、どのように情報開示の在り方が変わったかを検証していないばかりか、何らの報告をも求めておらず、本件記事による疑念や反響を認識しながら、現状を放置した。

 ウ 平成二一年七月頃、本件ファンドのNAVに関して外部の第三者に対し調査を行うべき義務

  (ア) 被告らの善管注意義務の発生根拠

  a 平成二一年七月の解約請求

 本件記事の影響は平成二一年三月以降も継続し、破産会社は、本件ファンドにつき、同年七月末の基準価格で再び、約一〇〇億円(四基金)の解約請求を受けた。

  b 相対取引の常態化

 顧客がファンドの解約を希望する場合には、希望する口数のファンドを解約し、その時点の基準価格をもって、当該ファンド資産から解約口数に該当する金額を顧客に対して払い戻す方法がとられるのが通常である。しかし、破産会社においては、顧客である年金基金等が解約を希望したファンドを解約することなく、これを別の年金基金等に販売するか又はE社が一旦買い受けた上で他の年金基金等に売却する方法(相対取引)を採用していた。そして、破産会社は、平成二一年二月二〇日以降の年金基金等からの解約申入れに対しては、全て相対取引による払戻しをもって対応した。

 本件ファンドは、いわゆるオープンエンド型のファンドであるところ、オープンエンド型のファンド取引において、解約請求に対して全て相対取引による払戻しをもって対応することは極めて特殊であった。破産会社がこのような相対取引による払戻しの方法を採用したのは、正規の解約手続を行うと、年金基金等に対しては公表NAVによって計算される金額を払い戻す必要が生じるものの、本件ファンドのNAV算出者であるG社からは実態NAVに基づく払戻ししか受けることができないこととなる上、実態NAVを含む解約に関する情報が記載された取引報告書が信託銀行や年金基金等に対して送付されるので、そうした事態を避ける必要があったためである。

  c E社の在庫金額が巨大になっていたこと

 本件記事により、本件ファンドの解約請求が増加したため、E社が保有する本件ファンドの在庫金額は急激に増加し、平成二一年七月頃には合計二〇〇億円近くに達していた。そして、被告らも、取締役会における報告により、このことを認識していた。

  (イ) 被告らの善管注意義務の内容及び同義務の違反行為

 このような事情の下では、被告らには、破産会社が相対取引に固執することの不自然さを疑い、相次ぐ解約請求によりE社の有する本件ファンドの在庫が合計二〇〇億円近くに達した平成二一年七月頃、G社等の外部の第三者に対し、本件ファンドのNAVについて調査を行うべき義務があった。

 それにもかかわらず、被告らは、G社等の外部者に対し、具体的な調査や確認を一切行わなかった。

 エ 平成二三年八月九日取締役会において、相対取引の継続に関する客観的かつ合理的な調査を行うよう上程すべき義務

  (ア) 被告らの善管注意義務の発生根拠

  a 信託報酬の引下げ

 破産会社が受領する本件信託報酬は、平成二二年四月に〇・五%から〇・二五%に引き下げられ、平成二三年四月以降はゼロとされた。

 このような引下げの目的は、E社に対する財務支援にあったが、E社が資金繰りに困難を来した理由は相対取引により本件ファンドを買い取っていたことに尽きる。被告らは、本件信託報酬をゼロとして破産会社の利益を失うことを容認するという経営判断をするに当たっては、なぜこのような判断をしてまでE社の資金繰りを支えなければならないのかといった点や相対取引の目的について、検証すべきであった。

  b 本件貸付け

 破産会社は、取締役会において上程することなく、平成二三年六月二四日E社に対し、本件貸付けを行ったが、これは、E社が解約請求を受けた本件ファンドの買付資金に窮していたため、E社が相対取引を継続することを可能にするための資金援助であることが明らかであった。

 被告らは、平成二三年八月九日取締役会において、本件貸付け及びその弁済についての報告を受け、本件貸付けの存在を認識した。

  (イ) 被告らの善管注意義務の内容及び同義務の違反行為

 このような事情の下では、平成二三年八月九日取締役会において本件貸付けを認識した被告らには、相対取引の継続が破産会社の利益を害する何らの合理性のない取引であることにかんがみ、B社長ら業務執行役員に対し、相対取引の必要性につき客観的かつ合理的な説明を求める義務があった。

 それにもかかわらず、被告らは、漫然と相対取引による本件ファンドの売却を容認し続け、具体的な調査や確認を全く行わなかった。

 (被告Y1の主張)

 ア 注意義務の水準等

  (ア) 金融商品取引業者である会社の役員の注意義務について

 争う。

  (イ) 被告Y1の注意義務について

 被告Y1は、破産会社の社外取締役であり、業務執行自体に携わっていなかった。また、破産会社においては、金融庁等の検査によっても何ら問題を指摘されていない内部統制システムが構築・運用されていたから、被告Y1は、取締役の役割分担を前提として、社外取締役としての監視義務を果たせば、それをもって善管注意義務を履行したといえる。

 イ 平成二一年三月一七日取締役会において、本件ファンドのNAVに関する客観的かつ合理的な調査を行うよう上程すべき義務について

  (ア)a 本件ファンドの運用成績について

 本件ファンドは、株式市場や債券市場といった市場相場の下落等の動きとは関係を持たず、ローリスクで毎月コツコツと利益を積み重ねていくという運用哲学及び運用方針であり、株式や債券市場の相場が上がっている場合にはそれらの商品で構成されるファンドに比べて相対的に利益を得られないが、他方で、相場が下がっている場合にも相対的に利益を得られる性質を有していた。また、本件ファンドと同様の運用方針である他の絶対収益追求型のファンドの中には、平成二〇年から平成二一年までの収益率が一一・六%であり、本件ファンドと同じような運用実績を残しているものがあったばかりか、他にも本件ファンドより運用実績が優れているファンドが存在した。

 また、本件ファンドは、平成一八年六月に運用損失を出したが、AIJ及び破産会社はそれを年金基金等に開示していた。

  b 本件記事について

 B社長は、平成二一年三月一七日取締役会において、本件記事について、当該記事は憶測記事である上、当該記事自体が問題となるファンドを特定しておらず、競業者の一部が、年金基金等に対し、当該ファンドは本件ファンドであると伝えたようであること、風評被害で売却請求が増加したが、本件ファンドの買付けの申込みもあるので、これ以上問題にならないこと、金融庁の委託を受けた関東財務局が破産会社に対する検査をしたが、その結果、軽微な事項(クローズド期間のファンド売却)について指摘を受けただけで、全体的には、前回の指摘事項は改善され、管理もしっかりしているとの評価であったことを説明したので、被告Y1は、本件記事が本件ファンドについてのものとは考えなかった。

 平成二一年二月に年金基金等から約一四五億円の売却請求がされたが、当該解約額は、当時の本件ファンドの規模(平成二一年三月末の公表純資産額は約一七八六億円であった。)からすると、その八%程度にすぎないものであった。

  (イ) したがって、被告Y1においては、本件ファンドに疑念を生じさせるような事情は何ら存在せず、NAVに関する客観的かつ合理的な調査を上程すべき義務を生じさせる事情もなかったから、被告Y1がそのような義務を負っていたということはできない。

 ウ 平成二一年七月頃、本件ファンドのNAVに関して外部の第三者に対し調査を行うべき義務について

  (ア)a 平成二一年七月の解約請求について

 平成二一年七月末の解約請求は、兵庫県及び奈良県に所在する複数の年金基金等によるものが大半を占めているところ、これらの年金基金等は横のつながりが強く、本件ファンドの導入を決めた有力な運用担当常務理事が退職するため、各年金基金等の理事が自己の責任を明確にするために運用の結果を明らかにしておきたいと考えて解約請求に至ったことが原因であり、本件記事とは関係がない。

  b 相対取引の常態化について

 本件ファンドの解約に代えて相対取引の方法によると、ファンドの発行口数自体は減少せず、かつ、ファンドの規模に比例して計算される本件信託報酬もそのまま受領できるが、本件ファンドの解約の方法によると、これらのメリットがなくなってしまうため、破産会社が相対取引の方法を選択することには合理的な理由がある。

 そして、相対取引は、破産会社において平成一六年度から行われており、破産会社にとって通常の取引であった。平成二一年二月以降、全ての取引が相対取引になったのは、単純に、本件ファンドが同月時点で募集終了となり、AIJが新規のファンドを募集することがなくなったためである。

  c E社の在庫金額が巨大になっていたことについて

 E社がどの程度在庫を抱えるかはE社自身が決定することであり、破産会社の役員にすぎない被告Y1はこれを把握していない。また、年金基金等の本件ファンドの購入額は、年金基金等ごとに五億円分ないし一〇億円分であるのが通常であり、二〇〇億円の在庫が過大であるとはいえない。

  (イ) したがって、被告Y1においては、本件ファンドに疑念を生じさせるような事情は何ら存をせず、本件ファンドのNAVに関して外部の第三者に対し調査を行うべき義務を生じさせる事情もなかったのであるから、被告Y1がそのような義務を負っていたということはできない。

 エ 平成二三年八月九日取締役会において、相対取引の継続に関する客観的かつ合理的な調査を行うよう上程すべき義務について

  (ア)a 信託報酬の引下げについて

 破産会社は、平成二二年四月以降、本件信託報酬をそれまでの半分である〇・二五%に引き下げられたとしても、十分に経費を賄うことができた。

 また、平成二三年四月の信託報酬のゼロへの引下げについて、被告Y1は、B社長から、破産会社は上場を目指しているところ、特定顧客からの収益が偏りすぎると上場基準に抵触するおそれがあると聞いており、破産会社の取締役会においても、E社以外にも収益源泉の拡大を図るとの説明を受けていたため、被告Y1としては疑念を挟む余地はなかった。

  b 本件貸付けについて

 被告Y1は、平成二三年七月二一日に開催された取締役会において、本件貸付けについての報告を受けた。被告Y1は、E社の借入れの目的は、同年六月にJ年金基金等がE社に対して本件ファンドを売却し、翌七月に買い戻す間の短期的な資金の逼迫への対応であり、本件貸付けが短期間の融資であると理解しており、実際、平成二三年八月九日取締役会においては、本件貸付けにつき弁済があったことが報告された。

 また、被告Y1は、①本件貸付けが超優良企業であるE社に対するものであること、②金融庁が定める自己資本比率規制上も問題となる点がなかったこと、③破産会社の平成二三年七月末時点の預金残高は約七億円であり、破産会社の経費(販売管理費及び一般管理費)は平成二三年三月期で年間約四億円程度であって、破産会社には経費を十分に賄っていける程度の資産があったことなどから、何ら問題のない貸付けであると判断していた。

  (イ) 以上の事情に加え、平成二三年八月九日取締役会の時点で本件記事が掲載されてから二年以上が経過しており、その間、本件ファンドに何らの問題も生じていなかったことからすると、被告Y1においては、相対取引に疑念を生じさせるような事情は何ら存在せず、同取締役会において、相対取引の必要性について客観的かつ合理的な説明を行うように要請すべき事情もなかったのであるから、被告Y1がそのような義務を負っていたということはできない。