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法律大好きのブログ(弁護士村田英幸)

役に立つ裁判例の紹介、法律の本の書評です。弁護士経験32年。第二東京弁護士会所属21770

愛知県小牧市・岩倉市ごみ焼却場事件

 

 

              建設工事禁止仮処分申請控訴事件

【事件番号】      名古屋高等裁判所判決/昭和59年(ネ)第268号

【判決日付】      昭和61年2月27日

【判示事項】      ごみ処理施設の操業差止めを求める仮処分申請が受忍限度を超える健康被害等の生活利益の侵害がないとして却下された事例

【参照条文】      民法709

             民事訴訟法760

【掲載誌】        判例タイムズ591号38頁

             判例時報1195号24頁

 

 

事案の概要

 本件は、小牧市野口地区内に居住するX(申請人、被控訴人)らが、愛知県小牧市と岩倉市が公共団体の事務を共同処理するため、地方自治法284条1項に基づいて設立された組合Y(被申請人、控訴人)が昭和57年2月ころから小牧市大野にごみ処理施設の建設工事を開始したことに対し、右ごみ処理施設の操業が開始されると、有害物質が排出されるほか、騒音、振動、悪臭によって悪影響を受けること、右ごみ処理施設の公害防止対策が極めて不十分であること、環境アセスメントがほとんど実施されていないか実施されているとしても極めて不十分であることなどを主張し、人格権、環境権、財産権などを根拠として、右ごみ処理施設の建設工事禁止と操業の差止めを求めて仮処分を申請した事案である。

 

 

民法

(不法行為による損害賠償)

第七百九条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

 

 

民事保全法

(仮処分命令の必要性等)

第二十三条 係争物に関する仮処分命令は、その現状の変更により、債権者が権利を実行することができなくなるおそれがあるとき、又は権利を実行するのに著しい困難を生ずるおそれがあるときに発することができる。

2 仮の地位を定める仮処分命令は、争いがある権利関係について債権者に生ずる著しい損害又は急迫の危険を避けるためこれを必要とするときに発することができる。

3 第二十条第二項の規定は、仮処分命令について準用する。

4 第二項の仮処分命令は、口頭弁論又は債務者が立ち会うことができる審尋の期日を経なければ、これを発することができない。ただし、その期日を経ることにより仮処分命令の申立ての目的を達することができない事情があるときは、この限りでない。

 

見せ金による株式払込の効力

 

 

売掛代金請求事件

【事件番号】      最高裁判所第2小法廷判決/昭和35年(オ)第1154号

【判決日付】      昭和38年12月6日

【判示事項】      いわゆる見せ金による株式払込の効力

【判決要旨】      当初から真実の株式の払込として会社資金を確保するの意図なく、一時的の借入金を以て単に払込の外形を整え、株式会社成立の手続後直ちに右払込金を払い戻してこれを借入先に返済したような場合には、有効な株式払込がなされたとはいえない。

【参照条文】      商法177

             商法192

【掲載誌】        最高裁判所民事判例集17巻12号1633頁

 

 

見せ金(みせがね)とは、会社の発起人または取締役が、払込取扱金融機関以外の者から借入をして、これを払込金として現実に払込取扱金融機関に払い込み、設立登記後または新株発行の変更登記を終了すると直ちに払込金を引き出して借入金に返済する行為のこと。

 

したがって、そのような架空の増資を登記すれば公正証書原本不実記載罪(刑法157条1項)・同行使罪(刑法158条1項)に問われる。(最高裁判決昭和40・6・24,最高裁平成3・2・28)

税務的には、貸付金に返済される見込みがなく、いつまで回収されないようであれば、出資者に対する賞与として認定され、課税される可能性がある。

 

 

会社法

(出資の履行を仮装した場合の責任等)

第五十二条の二 発起人は、次の各号に掲げる場合には、株式会社に対し、当該各号に定める行為をする義務を負う。

一 第三十四条第一項の規定による払込みを仮装した場合 払込みを仮装した出資に係る金銭の全額の支払

二 第三十四条第一項の規定による給付を仮装した場合 給付を仮装した出資に係る金銭以外の財産の全部の給付(株式会社が当該給付に代えて当該財産の価額に相当する金銭の支払を請求した場合にあっては、当該金銭の全額の支払)

2 前項各号に掲げる場合には、発起人がその出資の履行を仮装することに関与した発起人又は設立時取締役として法務省令で定める者は、株式会社に対し、当該各号に規定する支払をする義務を負う。ただし、その者(当該出資の履行を仮装したものを除く。)がその職務を行うについて注意を怠らなかったことを証明した場合は、この限りでない。

3 発起人が第一項各号に規定する支払をする義務を負う場合において、前項に規定する者が同項の義務を負うときは、これらの者は、連帯債務者とする。

4 発起人は、第一項各号に掲げる場合には、当該各号に定める支払若しくは給付又は第二項の規定による支払がされた後でなければ、出資の履行を仮装した設立時発行株式について、設立時株主(第六十五条第一項に規定する設立時株主をいう。次項において同じ。)及び株主の権利を行使することができない。

5 前項の設立時発行株式又はその株主となる権利を譲り受けた者は、当該設立時発行株式についての設立時株主及び株主の権利を行使することができる。ただし、その者に悪意又は重大な過失があるときは、この限りでない。

 

 

ビジネス法務2023年11月号【特集2】消費者契約法改正後の実務点検

 

 

中央経済社

定価(紙 版):1,800円(税込)

発行日:2023/09/21

 

 

【特集2】

消費者契約法改正後の実務点検

 

令和4(2022)年に消費者契約法が改正され,本年6月1日に施行されました。今般の改正では,8条3項の新設により「サルベージ条項」が無効とされるなど,実務上の見直しを要する点が少なくありません。また,事業者の各種対応におけるいわゆる努力義務が拡充されましたが,そもそも努力義務はどこまで遵守すればよいか,という疑問が浮かぶのではないでしょうか。

オンラインビジネスにおける注意点も解説した本特集で,令和4年改正の点検を行いましょう!

 

 

コメント

複数の論文による丁寧な解説でしたが、重複が多かったようです。

 

 

ステマ告示

 

 

 

SNSは、現在では多くの企業がマーケティング手法として活用しています。

しかし、「ステマ(ステルスマーケティング)」、いわゆる消費者をだますマーケティング手法が問題視されるようになりました。

 

景表法5条3号、ステマ告示により、2023年10月1日から、規制の対象となりました。

 

 

不当景品類及び不当表示防止法

(不当な表示の禁止)

第五条 事業者は、自己の供給する商品又は役務の取引について、次の各号のいずれかに該当する表示をしてはならない。

一 商品又は役務の品質、規格その他の内容について、一般消費者に対し、実際のものよりも著しく優良であると示し、又は事実に相違して当該事業者と同種若しくは類似の商品若しくは役務を供給している他の事業者に係るものよりも著しく優良であると示す表示であつて、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認められるもの

二 商品又は役務の価格その他の取引条件について、実際のもの又は当該事業者と同種若しくは類似の商品若しくは役務を供給している他の事業者に係るものよりも取引の相手方に著しく有利であると一般消費者に誤認される表示であつて、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認められるもの

三 前二号に掲げるもののほか、商品又は役務の取引に関する事項について一般消費者に誤認されるおそれがある表示であつて、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認めて内閣総理大臣が指定するもの

 

 

 

一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示

(令和5年3月28日内閣府告示第19号)

不当景品類及び不当表示防止法(昭和三十七年法律第百三十四号)第五条第三号の規定に

基づき、一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示を次のよ

うに指定し、令和五年十月一日から施行する。

 

一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示

事業者が自己の供給する商品又は役務の取引について行う表示であって、一般消費者が

当該表示であることを判別することが困難であると認められるもの

 

 

ビジネス法務2023年11月号【特集1】生成AIの法的ポイントと内部規約を検討する

 

 

中央経済社

定価(紙 版):1,800円(税込)

発行日:2023/09/21

 

【特集1】

生成AIの法的ポイントと内部規約を検討する

 

技術の急速な発展に伴い,AIも実用に堪え得る性能を持つようになってきました。特に,プロンプトを入力することで文章や画像を生成できる「ChatGPT」「Midjourney」をはじめとする「生成AI」はさまざまな用途への活用が可能であり,今後の業務の効率化等にあたり避けて通ることができない技術といえます。

一方で,生成AIに関係する法的問題の検討はまだまだこれからであり,使用にあたっての内部規約の検討もその前例の少なさから困難であろうと思われます。

そこで,本特集では生成AIの法的問題と内部規約について事例ごとに検討します。

 

 

コメント

AIに関する論点は、比較的明らかである。

ただし、データを大量に取り込むときの仕分けが大変だろう。

 

 

第19章 契約解除の要件に関する見直し

第1節 はじめに

契約の解除とは?

契約の解除とは、契約当事者の一方の意思表示によって、契約の効力をさかのぼって消滅させることをいいます。 解除権には、解除の発生原因が、契約と法律のいずれに定められているものであるかによって、「約定解除権」と「法定解除権」の2種類に分けることができます。

 

解除権の種類

約定解除権とは

 契約当事者が、契約で解除の発生原因を定めておくことで、与えられる解除権

 

法定解除権とは

 法律上、定められた発生原因によって与えられる解除権

 

契約が解除されると、まだ履行されていない債務は、履行する必要がなくなります。 また、既に履行された債務について、原状回復の義務(元に戻す義務)が生じます。 さらに、一方当事者が解除することによって、相手方に損害が生じた場合には、損害賠償責任が生じることもあります。

 

第2節 解除の要件から「債務者の帰責性」が削除された。

契約解除の要件に関する見直し①

解除の要件から「債務者の帰責性」が削除された。

債務者の帰責事由の要否

旧法543条(履行不能による解除権)は、債務者に帰責事由がない場合には解除が認められないと定めている。そして、伝統的学説は、同条に基づく解除だけでなく解除一般について帰責事由が必要であると解している。

【参照条文(参照条文)】

(履行不能による解除権)

第543条 履行の全部または一部が不能となったときは、債権者は、契約の解除をすることができる。ただし、その債務の不履行が債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りではない。

 

しかし、例えば次のような事例で、解除が認められないのは不当ではないか。

買主Aは売主Bからパソコンを仕入れる契約を結んだが、売主Bの工場が落雷による火災(=売主Bに帰責事由がない火災)で焼失し、納期を過ぎても復旧の見込みも立たなくなった。

買主Aとしては、パソコンが納品されないと事業に支障が生ずるので、売主Bとの契約を解除し、同業他社のCと同様の契約を結びたい。

改正法の内容

債務不履行による解除一般について、債務者の責めに帰することができない事由によるものであっても解除を可能なものとする。【新§541、542】

 

(催告による解除)

第541条 当事者の一方がその債務を履行しない場合において、相手方が相当の期間を定めてその履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、相手方は、契約の解除をすることができる。ただし、その期間を経過した時における債務の不履行がその契約および取引上の社会通念に照らして軽微であるときは、この限りでない。

 

不履行が債権者の責めに帰すべき事由による場合には、解除を認めるのは不公平であるので、解除はできないとしている。【新§543】

 

(債権者の責めに帰すべき事由による場合)

第543条 債務の不履行が債権者の責めに帰すべき事由によるものであるときは、債権者は、前二条の規定による契約の解除をすることができない。

 

第3節 催告解除の要件が明確になった

契約解除の要件に関する見直し②

催告解除の要件が明確になった。

問題の所在

旧民法では、催告解除について、「当事者の一方がその債務を履行しない場合において」と定めるのみでした(旧民法541条)。 しかし、判例では、 相当期間経過時の不履行の部分が数量的にわずかである場合や、付随的な債務の不履行に過ぎない場合については、 契約解除を認めない と示されていました(たとえば最判昭和36年11月21日民集15巻10号2507号)。

催告解除の要件に関して、判例を踏まえ、契約および取引通念に照らして不履行が軽微であるときは解除をすることができない旨を明文化する。【新§541】

無催告解除の要件に関して、履行拒絶の意思の明示、(一部の履行はできる場合でも)契約をした目的を達するのに足りる履行の見込みがないこと等の事情があれば解除が可能であることを明文化する。【新§542】

契約解除の可否をめぐるトラブルは、裁判実務における代表的な紛争類型の一つであり、重要な判例が積み重ねられているが、それは旧法の条文からは読み取れない。

改正法の内容

旧法541条の催告解除(履行の催告をしても履行がない場合に認められる解除)と旧法542条・543条の無催告解除(履行の催告を要しない解除)について、判例を踏まえ、それぞれ要件を明文化すべきではないか。

検討課題①(催告解除が制限される要件の明文化)

旧法541条(履行遅滞等による解除権)の文言上は、あらゆる債務不履行について催告解除が認められるように読めるが、

判例は、付随的な債務の不履行や、不履行の程度が必ずしも重要でない場合については、催告をしても解除が認められないとする。このことを適切に明文化すべきではないか。

①付随的な債務の不履行の例

・「長時間連続して使用すると本体に熱がこもり、破損するおそれがある」という使用上の注意を付すことを怠った。

②不履行の程度が必ずしも重要でない場合の例

買主 売主 ・パソコン本体に、目立たない程度の引っ掻き傷がついていた。

無催告解除ができる場合について、現542条・543条は、①ある時期までに履行がなければ契約の目的が達せられない場合において、履行遅滞があったとき(旧法§542)、②履行不能となったとき(旧法§543)を規定。

このほか、③履行を拒絶する意思を明示したときや、④契約の目的を達するのに充分な履行が見込めないときにも、無催告解除が可能であると解されている。

 

第4節 無催告解除の要件を整理した

検討課題②(無催告解除の要件の明文化)

無催告解除の要件を整理した

無催告解除の要件に関して、履行拒絶の意思の明示、(一部の履行はできる場合でも)契約をした目的を達するのに足りる履行の見込みがないこと等の事情があれば解除が可能であることを明文化する。【新§542】

契約解除の可否をめぐるトラブルは、裁判実務における代表的な紛争類型の一つであり、重要な判例が積み重ねられているが、それは現在の条文からは読み取れない。

改正法の内容

現541条の催告解除(履行の催告をしても履行がない場合に認められる解除)と現542条・543条の無催告解除(履行の催告を要しない解除)について、判例を踏まえ、それぞれ要件を明文化すべきではないか。

検討課題①(催告解除が制限される要件の明文化)

旧法541条(履行遅滞等による解除権)の文言上は、あらゆる債務不履行について催告解除が認められるように読めるが、判例は、付随的な債務の不履行や、不履行の程度が必ずしも重要でない場合については、催告をしても解除が認められ

ないとする。このことを適切に明文化すべきではないか。

①付随的な債務の不履行の例

・「長時間連続して使用すると本体に熱がこもり、破損するおそれがある」という使用上の注意を付すことを怠った。

②不履行の程度が必ずしも重要でない場合の例

・パソコン本体に、目立たない程度の引っ掻き傷がついていた。

無催告解除ができる場合について、現542条・543条は、①ある時期までに履行がなければ契約の目的が達せられない場合において、履行遅滞があったとき(旧法§542)、②履行不能となったとき(旧法§543)を規定。

このほか、③履行を拒絶する意思を明示したときや、④契約の目的を達するのに充分な履行が見込めないときにも、無催告解除が可能であると解されている。

 

そこで、改正により、これらを明確にするために、次のように、無催告解除の要件を場面ごとに整理しました。

 

債務の全部または一部の履行不能の関係を明確化

①債務の履行が全部不能となった場合

 

契約全部の無催告解除可

(542条1項1号)

②債務の一部が不能となった場合

 

契約の一部の無催告解除可

(542条2項1号)

②債務の一部が不能となった場合

 

残存部分では契約の目的を達することができなければ、

契約全部の無催告解除可

(542条2項3号)

債務者が債務の履行を拒絶する意思を明確にした場合を明確化

①債務の全部を履行拒絶している場合

 

契約全部の無催告解除可

(542条1項2号)

②債務の一部の履行を拒絶している場合

 

契約の一部の無催告解除可

(542条2項2号)

これらに加えて、 「債務者がその債務の履行をせず、債権者が前条の催告をしても契約をした目的を達するのに足りる履行がされる見込みがないことが 明らかであるとき」に無催告で解除することができます(民法542条1項5号)。

 

(催告によらない解除)

第542条 次に掲げる場合には、債権者は、前条の催告をすることなく、直ちに契約の解除をすることができる。

⑴~⑷ (略)

⑸ 前各号に掲げる場合のほか、債務者がその債務の履行をせず、債権者が前条の催告をしても契約をした目的を達するのに足りる履行がされる見込みがないことが明らかであるとき

 

もっとも、同条号については、適用対象が必ずしも明確とはいえません。 今後の判例や学界における議論の動向を確認する必要があるでしょう。

 

改正された民法では、債務不履行を理由として契約を解除するために、相手方の帰責性(責任)は不要となりました(民法541~542条)。

 

譲渡担保権者から譲渡担保権消滅後に目的不動産を譲り受けた者と民法177条の第三者

 

 

土地建物所有権移転登記抹消登記手続等請求事件

【事件番号】      最高裁判所第1小法廷判決/昭和59年(オ)第691号

【判決日付】      昭和62年11月12日

【判示事項】      譲渡担保権者から譲渡担保権消滅後に目的不動産を譲り受けた者と民法177条の第三者

【判決要旨】      不動産が譲渡担保の目的とされ、設定者甲から譲渡担保権者乙への所有権移転登記が経由された場合において、被担保債務の弁済等により譲渡担保権が消滅した後に乙から目的不動産を譲り受けた丙は、民法177条にいう第三者に当たる。

【参照条文】      民法177

             民法369

【掲載誌】        最高裁判所裁判集民事152号177頁

             判例タイムズ655号106頁

             金融・商事判例787号3頁

             判例時報1261号71頁

             金融法務事情1181号37頁

 

 

民法

(不動産に関する物権の変動の対抗要件)

第百七十七条 不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法(平成十六年法律第百二十三号)その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ、第三者に対抗することができない。

 

(抵当権の内容)

第三百六十九条 抵当権者は、債務者又は第三者が占有を移転しないで債務の担保に供した不動産について、他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受ける権利を有する。

2 地上権及び永小作権も、抵当権の目的とすることができる。この場合においては、この章の規定を準用する。

 

 

信楽高原鉄道列車事故刑事事件判決

 

 

              業務上過失往来危険、業務上過失致死傷被告事件

【事件番号】      大津地方裁判所判決/平成4年(わ)第400号

【判決日付】      平成12年3月24日

【判示事項】      信号設備の故障のまま、所定の措置を採ることなく漫然列車を出発させたため、上り列車と下り列車が単線軌道上において正面衝突し、死者四二名、負傷者五一九名を出した列車事故において、事故当時駅長として勤務していた運転主任及び施設管理責任者らが業務上過失致死傷罪等で起訴された事案において、有罪判決が言い渡された事例 

             ―信楽高原鉄道列車事故事件判決

【参照条文】      刑法129

             刑法211

【掲載誌】        判例時報1717号25頁

【評釈論文】      判例評論511号54頁

 

 

刑法

(過失往来危険)

第百二十九条 過失により、汽車、電車若しくは艦船の往来の危険を生じさせ、又は汽車若しくは電車を転覆させ、若しくは破壊し、若しくは艦船を転覆させ、沈没させ、若しくは破壊した者は、三十万円以下の罰金に処する。

2 その業務に従事する者が前項の罪を犯したときは、三年以下の禁錮又は五十万円以下の罰金に処する。

 

(業務上過失致死傷等)

第二百十一条 業務上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、五年以下の懲役若しくは禁錮又は百万円以下の罰金に処する。重大な過失により人を死傷させた者も、同様とする。

 

 

 

       主   文

 

 被告人Aを禁錮二年六月に、被告人Bを禁錮二年二月に、被告人Cを禁錮二年にそれぞれ処する。

 被告人三名に対し、この裁判が確定した日から三年間、それぞれその刑の執行を猶予する。

 

       理   由

 

(罪となるべき事実)

 被告人Aは、滋賀県甲賀郡水口町大字虫生野八七五番地所在の貴生川駅から同郡信楽町大字長野一九二番地所在の信楽駅までの間に鉄道による単線軌道を設け、常用閉そく方式として単線特殊自動閉そく方式を採用し、第一種鉄道事業を営む信楽高原鐵道株式会社(以下単にSKRと略称する。)の信楽駅の運転主任として駅長が行う業務である信号取扱・列車出発合図等運転に関する一切の業務に従事していたもの、被告人Bは、SKR施設課長として信号その他保安設備の保守及び施工に関する業務を掌理するとともに後記被告人Cを指揮・監督するなどの業務に従事していたもの、被告人Cは、SKRと信号設備点検・修理の委託契約を締結していた乙山電業株式会社(以下単に乙山電業と略称する。)の大阪営業所係長で、同社からSKRに派遣され同社に常駐し、被告人Bの指揮の下でSKRの信号装置の点検・修理の業務に従事していたものであるが、平成三年五月一四日午前一〇時一四分ころ、前記信楽駅駅務室において、被告人Aが、同駅備え付けの制御盤のでこ操作により、F運転の信楽駅発責生川駅行(上り)五三四D列車(内燃動車・四両編成)を出発させるに際し、同駅一番線(上り)出発信号機○三L)に緑色を現示させようとしたところ、同制御盤上に下り方向表示灯が点灯し、かつ同出発信号機に緑色が現示されず、赤色現示のままであったため同信号機を制御する継電連動装置の故障と思い、被告人Bと共に被告人Cに同装置の点検・修理方を指示・依頼し、被告人Cにおいて、同日午前一〇時一五分ころから、同駅構内に設けられた継電連動室において、被告人Bの指揮・監督の下で同装置を点検・修理していた上、同日午前一〇時一六分ころ、西日本旅客鉄道株式会社(以下単にJRと略称する。)所属のE運転に係る貴生川駅発信楽駅行(下り)五〇一D列車(内燃動車・三両編成)が前記貴生川駅を出発し信楽駅に向け進行してくることがダイヤ上予定されていたのであるから

第一 被告人Aは、前記五三四D列車を右出発信号機が赤色現示のまま出発させるに当たっては、信号設備が故障し、使用不能となっていることを認識したのであるから、列車行き違い場所として設置された同郡水口町大字牛飼字小野谷八〇一番地の九所在の小野谷信号場に先着した下り列車が、行き違い予定の上り列車未到着のまま、小野谷信号場下り出発信号機(一三R)の緑色誤表示に従い通過することもあり得ることを予見し、被告人Bと連絡を密にとって、信号を制御する継電連動装置の使用停止前、すなわち信号の全面的使用停止措置がとられるまではその修理を中止するよう強く要請して列車の安全を確認し、かつ、小野谷信号場まで要員を派遣し、信楽駅・小野谷信号場までの区間開通とその安全を確認し、上り列車に指導者を同乗させるなどSKR運転取扱心得及び代用閉そく施行手順に規定された代用閉そく方式である指導通信式の所定の手続をとり、その上で、上り列車を出発させるべき業務上の注意義務があるのに、これを怠り、同列車の出発を急ぐ余り、被告人Bと連絡を密にとり、継電連動装置の使用停止前の修理を中止させて同列車の運行の安全を確認することも、同信号場に要員を派遣し、同駅及び同信号場間の区間の開通及び安全の確認をすることもなく、指導者を乗車させただけで漫然出発合図を出し、同日午前一〇時二五分ころ、同駅から同列車を出発させた過失により

第二 被告人Bは、被告人Cに継電連動装置の点検・修理を指示するについては、信号の誤表示による列車事故を防止するため、直ちに継電連動装置の使用を停止し、すなわち信号の全面的使用停止措置をとり、仮に、継電連動装置の使用停止をせずに被告人Cに同装置の修理をさせるのであれば、右修理により同装置に関連する信号機に誤作動を生じさせないよう常時監督し、さらに、信号誤作動の可能性を考慮して被告人Aと連絡を密にとって、被告人Cが点検修理中は、被告人Aに列車の出発を見合わせるよう強く要請して列車の運行の安全を確認すべき業務上の注意義務があるのに、これを怠り、継電連動装置の使用停止措置をとることもなく、漫然被告人Cに継電連動装置の修理を継続させ、また、被告人Aと連絡をとり、同人に列車の出発を見合わせるように強く要請して列車の運行の安全を確認することもなく、漫然被告人Cをして同装置を正当な条件を経ない電源で動作させて小野谷信号場下り出発信号機に緑色を現示し得る状態を生ぜしめた過失により

第三 被告人Cは、継電連動装置を修理するに当たり、それが小野谷信号場の信号機等に誤信号を現示するおそれがあったのであるから、被告人Bと連絡を密にとって、継電連動装置の使用を停止させ、すなわち信号の全面的使用停止措置をとるよう要請してそれがなされたことを確認し、それが確認できないときは同装置の修理を中止し、正当な条件を経ない電源で動作させるなどの行為をしてはならない業務上の注意義務があるのに、これを怠り、被告人Bと連絡を密にとって、継電連動装置の使用を停止させるよう要請してそれがなされたことを確認することも、修理を中止することもなく、継電連動装置の方向回線端子とUZ回線端子とをジャンパー線で接続して同装置を正当な条件を経ない電源で動作させ、小野谷信号場下り出発信号機に緑色を誤表示し得る状態を生ぜしめた過失により同日午前一〇時三〇分ころ、前記E運転の五〇一D列車が同信号場にさしかかった際、同信号場下り出発信号機に緑色を現示させ、同列車をして、同信号現示に従い同信号場を通過させ、同日午前一〇時三五分ころ、同郡信楽町大字黄瀬九九三番地の三付近軌道上において、同列車と前記F運転に係る五三四D列車とを正面衝突させ、右五〇一D列車一両目及び右五三四D列車の一、二両目を大破させるなどして破壊し、よって、その衝撃により別表一記載のとおりG子他四一名を死亡させたほか、別表二記載のとおりH子ほか五一八名に対し、加療約三日間ないし約一年七か月間を要する各傷害を負わせたものである。

富士見産婦人科病院事件・保健婦助産婦看護婦法違反罪が成立するとされた事例

 

 

保健婦助産婦看護婦法違反被告事件

【事件番号】      東京高等裁判所判決/昭和63年(う)第746号

【判決日付】      平成元年2月23日

【判示事項】      保健婦助産婦看護婦法違反罪が成立するとされた事例

             一、同法四三条一項一号による処罰の対象は人の健康に害を及ぼすおそれのある診療補助業務に限られるか

             二、無資格者にどのような診療補助業務をさせることができるか

             三、本件の具体的診療補助行為は右の判断基準に照らし許された行為といえるか

【参照条文】      保健婦助産婦看護婦法

             保健婦助産婦看護婦法6

             保健婦助産婦看護婦法31-1

             保健婦助産婦看護婦法32

             保健婦助産婦看護婦法43-1

             保健婦助産婦看護婦法60-1

【掲載誌】        高等裁判所刑事裁判速報集平成1年48頁

             判例タイムズ691号152頁

 

 

事案の概要

 病院ぐるみで無資格診査が行なわれたばかりでなく、患者から必要のない手術が行なわれ出産のできない身体にされたと訴えられて大きな社会的関心をよんだいわゆる医療法人芙蓉会富士見産婦人科病院事件は、同病院の院長である本件被告人に対する保健婦助産婦看護婦法(以下「保助看法」と略称)違反事件及び同法人理事長の地位にあった被告人の夫Aに対する医師法違反事件として起訴され、昭和63・1・28浦和地裁川越支部において各別に判決が言い渡されたが、今回紹介するのは、そのうちの院長に対する保助看法違反事件の控訴審判決である。

 事案は、(一)医療法上何の資格も有しない前記Aと共謀のうえ、Aにおいて、患者134名に対し212回にわたり生理学的検査である超音波検査(ME検査)を実施した、(二)院長秘書Bと共謀のうえ、同秘書において、41名の患者に対する開腹手術における創部縫合に際して42回にわたり筋膜の縫合糸の結紮を行なった、(三)院長秘書Cと共謀のうえ、同秘書において、13名の患者に対し16回にわたり生理学的検査である心電図検査を行なった、といういずれも無免許で診療の補助をなすことを業とすることを禁じた保助看法43条1項1号の罪(31条1項、32条、60条1項違反)に問われたものである。

 

 

 

保健師助産師看護師法

第五条 この法律において「看護師」とは、厚生労働大臣の免許を受けて、傷病者若しくはじよく婦に対する療養上の世話又は診療の補助を行うことを業とする者をいう。

 

第六条 この法律において「准看護師」とは、都道府県知事の免許を受けて、医師、歯科医師又は看護師の指示を受けて、前条に規定することを行うことを業とする者をいう。

 

第三十一条 看護師でない者は、第五条に規定する業をしてはならない。ただし、医師法又は歯科医師法(昭和二十三年法律第二百二号)の規定に基づいて行う場合は、この限りでない。

2 保健師及び助産師は、前項の規定にかかわらず、第五条に規定する業を行うことができる。

 

第三十二条 准看護師でない者は、第六条に規定する業をしてはならない。ただし、医師法又は歯科医師法の規定に基づいて行う場合は、この限りでない。

 

第五章 罰則

第四十三条 次の各号のいずれかに該当する者は、二年以下の懲役若しくは五十万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。

一 第二十九条から第三十二条までの規定に違反した者

二 虚偽又は不正の事実に基づいて免許を受けた者

2 前項第一号の罪を犯した者が、助産師、看護師、准看護師又はこれに類似した名称を用いたものであるときは、二年以下の懲役若しくは百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。

 

第六十条 旧看護婦規則による看護人については、第五十三条の規定を準用する。

 

 

 

       主   文

 

 本件控訴を棄却する。

 

       理   由

 

 本件控訴の趣意は、弁護士西田健提出の控訴趣意書に、これに対する答弁は、検察官提出の答弁書にそれぞれ記載されたとおりであるから、これらを引用する。

 控訴趣意第一 (理由不備の主張)について

 所論は、要するに、原判決は、「無資格者を医師や法定の診療補助者の助手として使用するのであれば格別」と判示して、医師が助手として使用するのであれば、法定の診療補助者としての資格がない者でも診療補助業務に従事させることができるとしながら、そのような助手がどのような診療補助業務をすることが許されるのか、また、どうして右資格を必要としないのかについて、納得できる判断を示していないから、原判決には判決に理由を付さない違法がある、というのである。

 そこで、所論の当否について検討すると、原判決が「量刑の理由」中で、所論指摘のような摘示をしていることは明らかである。しかし、原判決は、「罪となるべき事実」において、医師である被告人が、法定の診療補助者の資格を有しないA(以下「A」という。)、B(以下「B」という。)及びC(以下「C」という。)とそれぞれ共謀の上、右のAら三名において原判決別表(一)ないし(三)記載の各行為に及び、いずれも被告人の診療の補助をなすことを業とした旨を認定摘示するとともに、「争点についての判断」において、Aら三名が適法に医師の手足として診療に関与したにすぎないとの弁護人の主張に対し、Aら三名の本件各診療補助行為について事実関係を詳細に検討して、右主張が理由のないものであることを説示しているにとどまるところ、それ以上に、一般に医師が診療を行うに際し、無資格者を助手として使用できる場合のあることについて、ことさらその理由を説明したり、そのような助手の使用できる場合を具体的に明示するなどしなければならないとすべき理由は見出し難い。

 したがって、原判決に所論のような理由不備の違法があるとはいえず、論旨は理由がない。

 控訴趣意第二(理由そごの主張)について

 所論は、要するに、原判決は、(一)「罪となるべき事実」において、本件各診療補助行為が被告人の指示に基づいて行われたど認定する一方、「争点についての判断」においては、いずれも医師の指揮監督の下に行われたものではない旨を判示し、口本件各診療補助行為のうち超音波検査(被告人が病院長をしていた原判示富士見産婦人科病院においては、「ME検査」と呼ばれ、原判決も「ME検査」と略称している。)及び心電図検査については、「それ自体が人体に害を及ぼすものでないこと、実際に本件により患者において事故が発生しなかったこと」を認定する一方、他方において、それらが無資格者によって行われたという理由で、患者の診断、治療に重大な結果を招来し、衛生上危害を生ずるおそれがあつた旨を判示しているから、これら各点において、原判決にはその理由にくいちがいがある、というのである。

 そこで、所論の点について順次検討を加える。

一 原判決は、「罪となるべき事実」第一において、被告人がAに対し各患者について超音波検査を指示した旨、同第三において、被告人がCに対し各患者について心電図検査を指示した旨をそれぞれ認定摘示するとともに、「争点についての判断」第二・四・2において、担当医師(主治医、以下同じ。)の被告人や超音波主任管理医師がAに対し指揮監督をしていたとはいえない旨、同第四・四・2において、担当医師の被告人や心電図管理担当医師がCに対し指揮監督をしていたとはいえない旨をそれぞれ摘示している(なお、原判決は、「罪となるベき事実」第二において、被告人がBに対し各患者の筋膜の縫合糸の結紮を指示した旨を認定摘示しているが、「争点についての判断」中には、Bが医師の指揮監督を受けなかったとするような摘示はなく、この点についての所論は前提において失当である。)。

 しかしながら、原判決が「罪なるべき事実」中で、被告人がAやCに対し指示したというのは、これに基づきAらが超音波検査又は心電図検査を実施することになる、被告人とAらとの共謀の過程ないしは犯行の経過を示す文言にすぎないことが判文上優に看取でき、このことは、原判決が「争点についての判断」において、担当医師の指示は単なる超音波検査又は心電図検査の依頼にとどまると説示していることからも明らかである。これに対し、原判決が「争点についての判断」中で、医師がAらに対し指揮監督をしなかったというのは、Aらが医師の手足として各検査に関与したにすぎないとの弁護人の主張を検討するに際し、医師が自己の手足として使ったといえるほど、Aらを指揮したり監督したりしていなかった旨を認定して、右主張が理由のないことを説明するために述べたものであると認められる。

 そうすると、被告人がAらに対し指示したとの摘示と、医師がAらに対し指揮監督をしなかったとの摘示との間に格別のくいちがいはない。

二 原判決は、「争点についての判断」第一・三・4において、所論のように、「本件ME検査及び心電図検査それ自体が人体に害を及ぼすものでないこと」などを摘示しているが、これは単に、超音波検査や心電図検査がそれ自体としては、エックス線照射のように人の身体や健康状態に対し直接に危害を加えるおそれを包含しておらず、現にそのような危害を発生させたことも認められないとの趣旨をいうだけのものである。

 他方、原判決は、「争点についての判断」第二・四・2において、超音波検査について、「本来医師が行うのでなければ衛生上危害を生ずるおそれのある行為である。」と摘示し、同第四・四・1において、心電図検査について、「少くとも看護婦、臨床検査技師等診療補助者としての資格を有するものが、医師の指示あるいは指導監督の下に行うのでなければ、患者の診断・治療に重大な結果を生ずるおそれがあることは明らかである。」と摘示しているが、これらは、その前後の記載をも考慮すると、検査過程における機器取扱いの過誤、不適切等によるものを含め、検査が的確に行われるのでなければ、結果として診断の正確性ないしは治療の適正を損ない、患者の身体や健康状態に悪影響をもたらすことになるとの趣旨をいうものと解されるから、前記の「検査それ自体が人体に害を及ぼすものでないこと」などをいう摘示との間に、くいちがいがあるとはいえない。

 したがって、原判決に所論のような理由のそごはなく、論旨は理由がない。

 控訴趣意第三(法令適用の誤りの主張)について

 所論は、要するに、(一)保健婦助産婦看護婦法(以下「保助看法」とい)つ。)四三条一項一号による処罰の対象は、人の健康に害を及ぼすおそれのある診療補助業務に限られるべきであるところ(あん摩師、はり師、きゅう師及び柔道整復師法所定の無資格者による医業類似行為の禁止に関する最高裁判所昭和三五年一月二七日大法廷判決・刑集一四巻一号三三頁参照)、本件各診療補助行為はいずれも患者に全く危害を与えるおそれのないものであり、(二)医師は、その指揮監督の下に、患者に対し危険を生ずるおそれのない事項について、無資格者を使って診療の補助をさせることが許されているところ(大審院大正二年一二月一八日第二刑事部判決・刑録一九輯一四五七頁、大審院昭和一一年一一月六日第四刑事部判決・刑集一五巻一三七八頁参照)、本件各診療補助行為はこれに当たるから、いずれにしても、被告人を有罪とする原判決には法令の解釈適用を誤った違法がある、というのである。

 そこで、所論の点について順次検討を加える。

一 原判決は、被告人がA、B、Cとそれぞれ共謀のうえ、いずれも法定の除外事由がないのに、看護士、准看護士の免許を受けていないAにおいて、超音波検査を実施し、看護婦、准看護婦の免許を受けていないBにおいて、筋膜の縫合糸の結紮を行い、同じくCにおいて、心電図検査を実施し、それぞれ診療の補助をなすことを業とした旨の事実を認定し、これが刑法六〇条、保助看法四三条一項一号、三一条一項、三二条(A関係で更に同法六〇条一項)に該当するとしているところ、保助看法四三条一項一号には、所定の違反行為により、人の健康に害を及ぼすおそれのあったことを要するとの趣旨の文言はないのみならず、例えば看護婦又は准看護婦、看護士又は准看護士の場合、その業務が傷病者若しくはじょく婦に対する療養上の世話又は診療の補助をなすことを内容とするものであることからもうかがれるように、同号所定の違反行為は、いずれも医療ないしは公衆衛生にかかわり、これを放置するときは、多くの場合人の健康によくない結果をもたらす危険性のあるものであって、法がそのような行為を一般的に禁止しようとしたと考えることにも、相当の根拠があることなどからすると、同号の罪は、所定の違反行為があれば直ちに成立し、その行為により現実に人の健康に害を及ぼすおそれのあったことを要しないと解される。もっとも、人の健康に害を及ぼすおそれのない場合には、右違反行為は違法性を欠いて、これを罪とするのが相当でないこともありえないではないが、被告人の関与した本件各診療補助行為は、のちに述べるとおり、いずれも法の予想する人の健康に対する危険を発生させるおそれ力ないものであったとは到底認められないものでもある。

二 医師は、診療を行うに当たり、常に看護婦、准看護婦、看護士、准看護士、その他の法定の診療補助者しか使えないものと断ずることはできず、各種の医療用機器を使用できるのと同様、人を、その資格の有無にかかわらず、自己の助手として適法に使うことかできる場合のあることは否定し難い。しかし、法力一定の有資格者に限って診療の補助を業とすることを許していることからすると(保助看法五条、六条、三一条、三二条、六0条、臨床検査技師、衛生検査技師等に関する法律二〇条の二、理学療法士及作業療法士法一五条、視能訓練士法一七条等)、医師力無資格者を助手として使える診療の範囲は、おのずから狭く限定されざるをえず、いわば医師の手足としてその監督監視の下に、医師の目が現実に届く限度の場所で、患者に危害の及ぶことがなく、かつ、判断作用を加える余地に乏しい機械的な作業を行わせる程度にとどめられるべきものと解される。

 そして、被告人の関与した本件各診療補助行為は、のちに述べるとおり、いずれも右の医師の助手として行うことができる範囲を明らかに超えるものであったから、これを適法視する余地はない。

 してみると、被告人の本件各所為を保助看法四三条一項一号に問擬した原判決に、所論のような法令の解釈適用を誤った違法はなく、論旨は理由がない。

 控訴趣意第四(事実誤認の主張)について

 所論は、要するに、保助看法四三条一項一号(三一条一項、三二条)の罪が成立するには、無資格者が業として行う診療補助行為が、人の健康に害を及ぼすおそれのあるものであることを要するとともに、無資格者も、医師の指導監督の下にその助手として、右法条に触れることなく診療の補助をすることができるとの見解の下に、(一)本件おいてAがした超音波検査及びCがした心電図検査は、いずれも患者の健康に害を及ぼすおそれが全くないうえ、医師の指導監督の下にその助手として適法に行ったものであり、(二)Bがした筋膜の縫合糸の結紮は、医師の指導監督の下に、その面前でその手足としてした機械的な手作業であって、適法に医師の助手として行ったものであるから、被告人を有罪とした原判決には、判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認がある、というのである。

 そこで検討すると、所論の点についての当裁判所の法解釈は前記のとおりであって、所論の法解釈は必ずしも全面的には採りえないものであるが、当裁判所の見解に立っても、およそ無資格者のする診療補助行為が、その具体的な内容や程度の如何にかかわらず、常に直ちに罪となるものとまではいえないので、関係証拠に基づき、所論のいう事実関係について更に考察することとする。

一 超音波検査(原判示第一の事実)について

 1超音波検査は、超音波を患者の身体に投射し、その反射波を検出し、体内組織の音響的性質の分布をブラウン管上に表示させることにより、体内組織の位置、状態、異常の有無等を読み取ろうとするものである力、Aは、数種の超音波検査装置(アロカ株式会社販売のアロカSSD-一二〇E形超音波診断装置、同アロカUIR-一形超音波影像録画再生装置、同アロカSSD-二五〇形電子走査超音波診断装置、旭メディカル株式会社販売のシステムUS-一〇一電子スキャン超音波診断装置、同オクトソン全自動超音波診断装置等)を使用して右検査を行い、患者の生殖器の位置や歌態、妊娠の有無、その正常性や胎児の状態、子宮筋腫、卵巣嚢腫、胞状奇胎の各病状等について、ブラウン管上の影像をポラロイドカメラで撮影し、その写真のコピーの余白に自己が観察し判定した所見や病名を記入するなどし、これを担当医師の診断、治療の参考に供していたことが明らかである。

 そうすると、Aがしていた本件超音波検査には、一般に医療用電気機器を人の身体に使用することに伴う電気的あるいは衛生的な危険も考えられないではないが、それはともかく、超音波検査は、機器を操作しつつ、人の身体やその異常、疾病等について、解剖学、生理学、病理学等の医学的な知識及び経験に基づき、ブラウン管上の影像を観察し、その意味するところを判定するものであって、無資格者が検査を実施する場合には、誤った観察や判定をする危険が常に多分に存在し、ひいては検査結果を医師の診断、治療の用に供することによって、その診断等を誤らせる危険性があるものといわざるをえない。

 したがって、Aが無資格でしていた本件超音波検査は、人の健康に害を及ぼすおそれのあるものであったと認められ、これに違法性がないということはできない。

 2 Aは、担当医師からの連絡票又はME指示表(昭和五三年一二月ころから後者となる。以下、合わせて「ME指示表」という。)が回されてくると、その患者について、女性秘書を手伝わせるだけで、自ら機器を操作して超音波検査を行い、その結果を前記のように取りまとめており、本件各超音波検査に際し、担当医師である被告人が立ち会ったうえ、Aに対し指導監督をしたようなことはなかったと認められる(原審証人Aは、被告人は難しい患者の場合に立ち会うなどして、少なくとも自己の患者の二割位について立ち会っていた旨供述しているが、この供述は、Aの検察官に対する昭和五五年九月二一日付供述調書謄本の記載に反するばかりでなく、被告人の捜査段階ないし原審公判における供述にもそわず、到底措信の限りではない。)。

 また、超音波検査については、被告人によって超音波主任管理医師が任命されていたが、当初同管理医師であったDは、事後にまとめてME指示表にサインするだけで、ほとんどAの超音波検査に立ち会っておらず、昭和五四年六月中旬ころから同管理医師となったEは、ME検査室に勤務してAの超音波検査に立ち会ってはいたが、Aに対し指導監督といえるようなことはしておらず(これに反する原審証人A、同F、同G、同Hらの各供述は、原審証人D、同E、同I、同Jらの各供述等に照らして、措信することができない。)、殊に本件各超音波検査に際し、D、E両医師がAに対し指導監督をしたとうかがわせる証拠は見当たらない。

 そうすると、Aは、本件各超音波検査に際し、担当医師の被告人から特定の患者について超音波検査を行うよう指示されると、その後は被告人や超音波主任管理医師らの指導監督を受けることなく、自己が主体となってその患者に超音波検査を実施していたと認められるから、Aが被告人ら医師の助手といえるような立場になかったことに疑問の余地はない。

二 心電図検査(原判示第三の事実)について

 1 心電図検査は、心電計を使用し、患者に四肢誘導電極及び胸部誘導電極を取り付け、これによって心臓の収縮に伴う活動電位の時間的変動をグラフ(心電図)に記録し、その波形の時間的関係の異常、大きさや形の変化等から心臓の機能状態、殊に疾患の有無や状況等を読み取ろうとするものであるところ、本件各心電図検査に際しCが使用していた五五二A心電図自動診断装置(フクダエム・イーエ業株式会社販売)は、検査結果を心電図に記録するほか、これをコンピュータで解析し、ミネソタコードと称する分類方法により、正常又はほぼ正常、異常の疑い、わずか異常、異常、病的等に判定して、その結果を自動的に紙片に打ち出してくる心電図計であることが明らかである。

 しかし、Cがしていた本件心電図検査には、超音波検査と同様、一般に医療用電気機器を人の身体に使用することに伴う電気的あるいは衛生的な危険も考えられないではないが、それはともかく、所論にもかかわらず、心電波形に交流が混入すると誤診の原因となるなど、機器の操作方法いかんによっては、誤った検査結果の出るおそれかあり(昭和六三年押第二五九号の二五〇「ミネソタコードによる心電図のコンピユータ解析」三四頁)、また、負荷心電図を作成するときは、患者にあらかじめ一定の運動をさせる必要があるほか、およそ検査の実施に際しては、患者の心身力検査に適した状態にあることを見極めてするのでなければ、同様誤った検査結果の出るおそれがあり(右「ミネソタコードによる心電図のコンピュータ解析」 一四頁ないし二五頁、前同押号の二五一 「五五二A心電図自動診断装置取扱説明書」四頁、二二頁ないし二四頁)、ひいては右のような検査結果を提供されることによって、医師が患者に対する診断、治療を誤る危険性があると認められる。

 したがって、Cが無資格でしていた本件心電図検査は、人の健康に害を及ぼすおそれのあるものであって、これに違法性がないということはできない。

 2 Cは、担当医師から、カルテの医師指示録欄に「術前A」と記載したり、 特殊検査伝票の心電図検査の項に印をつけるなどして、心電図検査を指示されると、心電図検査室に患者を入れ、自ら一人で機器を操作するなどして検査を行い、機器から得られた心電図や判定結果を印字した紙片を用紙に貼付し、これを心電図管理担当医師を介して担当医師に引き渡しており、被告人を含めて担当医師が右検査に立ち会ったことは全くなく、同管理担当医師であったE、Iがそれぞれ任命当初の僅かな期間右検査に立ち会ったことがあるとはいえ、本件前のCが機器の取扱いに習熟するまでの間を除き、立会時にもCに対し指導監督といえるほどのことはしていないだけでなく、右医師らが本件各心電図検査に立ち会いCを指導監督したことをうかがわせるに足りる証拠はない。

 そうすると、Cは、本件各心電図検査に際し、担当医師の被告人から特定の患者について心電図検査の依頼を受けると、その後は被告人や心電図管理担当医師らの指導監督を受けることなく、自己が主体となってその患者に心電図検査を実施していたと認められるから、Cが被告人ら医師の助手といえるような立場になかったことは明らかである。

三 筋膜の縫合糸の結紮(原判示第二の事実)について

 Bがしていた本件各筋膜の縫合糸の結紮の状況をみると、そのほとんどの場合において、被告人は、自己のする開腹手術に際し、あらかじめ手術予定表によりスタツフの一員として、自己の手術室退室後の第一助手にBを指名しておき、手術当日術者として手術を行い、腹膜の縫合を終えた段階で手術室から引き上げ、その後は、それまで第一助手をしていた医師が術者となって、筋肉、筋膜、表皮の各縫合にかかるが、右医師が結節縫合の方法により筋膜を創口に直角に一針ずつ縫合して行くとき、Bが第一助手としてその縫合の都度縫合糸を一本ずつ結紮していたことか明らかである。もっとも、原判決別表(二)記載の番号4の場合は、終始被告人が術者、Bが第一助手として手術を行い、被告人が縫合した筋膜の縫合糸をBが結紮したものであると認められる(被告人の司法警察員に対する昭和五五年一一月七日付供述調書(記録第八冊八七八丁以下のもの)、前同押号の一七九)。

 そうすると、本件各筋膜の縫合糸の結紮としてBがしていたことは、比較的単純な作業であるといえないでもないが、患者の腹部の手術創に直接手を触れたうえ、細密な縫合状況についての視認結果と指先の感触に基づき、自らの判断を加えなあがら、縫合糸を結ぶことによって創口を閉鎖することであり、それ自体として患者の身体や健康状態に重大な危害を及ぼすおそれがあるのはもとより、微妙な判断作用を伴う機械的とは到底いえないものであって、医師による監督監視の適否を論ずるまでもなく、無資格者が医師の助手として行うことができる行為の範囲をはるかに超えているといわなければならない。

 所論は、術者の1医師がBを十分監督していたので、患者の身体や健康状態に対し危害が及ぶおそれはなく、現に事故が発生したこともない旨を強調しているか、前記の原判決別表(二)記載の番号4の場合を含め、同番号3、10、12、17、19、21、22、24、38の際における術者は、同医師ではなかったとうかがわれるだけでなく(前同押号の一七八、一八五、一八七、一九二、一九四、一九六、一九七、一九九、二一三)、開腹手術における筋膜の縫合糸の結紮は前記のようなものであり、これに患者の身体や健康状態に対する危害発生のおそれ力あることは、疑いを入れる余地がない。

四 以上のとおりであるから、被告人と共謀のうえAら三名においてした本件各診療補助行為を罪とならないとすべき理由はなく、原判決の事実の認定に誤認とすべきところはない。論旨は理由がない。(なお、原判決本文二頁八行目に「所沢市二丁目」とあるのは「所沢市西所沢二丁目」に、同四頁二行目に「○○子」とあるのは「○×子」に、同五頁八行目に「整備課」とあるのは「医療整備課」に、同五頁九行目に「一一日」とあるのは「一七日」に、同五頁一〇行目及び一二行目に「捜査事項」とあるのは「捜査関係事項」に、同七頁一一行目に「第一一項」とあるのは「第一二項」に、同七頁一三行目に「第八」とあるのは「第一、第八」に、同八頁一行目に「供述調書」とあるのは「供述調書謄本」に、同九頁四行目に「三一通」とあるのは「三二通」に、同一〇頁一〇行目に「三〇綴」とあるのは「三一綴」に、同一〇頁一五行目に「二五日」とあるのは「一五日」に、同三六頁一〇行目に「執力医」とあるのは「執刀医」に、同五七頁番号15の患者氏名欄に「村山」とあるのは「村上」に、同六三頁番号73の患者生年月日欄に「七月」とあるのは「六月」に、同七九頁番号10及び同八一頁番号17の各患者生年月日欄に「二五年」とあるのは「二六年」にそれぞれ訂正されるべきである。)

 よって、刑訴法三九六条により、本件控訴を棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官柳瀬隆次 裁判官横田安弘 裁判官井上廣道)

 

強制執行を受けた債務者がその請求債権につき強制執行を行う権利の放棄又は不執行の合意があったことを主張して裁判所に強制執行の排除を求める場合に執るべき手続

 

 

              債権差押命令及び転付命令に対する執行抗告却下決定に対する執行抗告棄却決定に対する許可抗告事件

【事件番号】      最高裁判所第2小法廷決定/平成18年(許)第13号

【判決日付】      平成18年9月11日

【判示事項】      強制執行を受けた債務者がその請求債権につき強制執行を行う権利の放棄又は不執行の合意があったことを主張して裁判所に強制執行の排除を求める場合に執るべき手続

【判決要旨】      強制執行を受けた債務者が,その請求債権につき強制執行を行う権利の放棄又は不執行の合意があったことを主張して裁判所に強制執行の排除を求める場合には,執行抗告又は執行異議の方法によることはできず,請求異議の訴えによるべきである

【参照条文】      民事執行法10

             民事執行法11

             民事執行法35

【掲載誌】        最高裁判所民事判例集60巻7号2622頁

 

 

民事執行法

(請求異議の訴え)

第三十五条 債務名義(第二十二条第二号又は第三号の二から第四号までに掲げる債務名義で確定前のものを除く。以下この項において同じ。)に係る請求権の存在又は内容について異議のある債務者は、その債務名義による強制執行の不許を求めるために、請求異議の訴えを提起することができる。裁判以外の債務名義の成立について異議のある債務者も、同様とする。

2 確定判決についての異議の事由は、口頭弁論の終結後に生じたものに限る。

3 第三十三条第二項及び前条第二項の規定は、第一項の訴えについて準用する。

 

(執行抗告)

第十条 民事執行の手続に関する裁判に対しては、特別の定めがある場合に限り、執行抗告をすることができる。

2 執行抗告は、裁判の告知を受けた日から一週間の不変期間内に、抗告状を原裁判所に提出してしなければならない。

3 抗告状に執行抗告の理由の記載がないときは、抗告人は、抗告状を提出した日から一週間以内に、執行抗告の理由書を原裁判所に提出しなければならない。

4 執行抗告の理由は、最高裁判所規則で定めるところにより記載しなければならない。

5 次の各号に該当するときは、原裁判所は、執行抗告を却下しなければならない。

一 抗告人が第三項の規定による執行抗告の理由書の提出をしなかつたとき。

二 執行抗告の理由の記載が明らかに前項の規定に違反しているとき。

三 執行抗告が不適法であつてその不備を補正することができないことが明らかであるとき。

四 執行抗告が民事執行の手続を不当に遅延させることを目的としてされたものであるとき。

6 抗告裁判所は、執行抗告についての裁判が効力を生ずるまでの間、担保を立てさせ、若しくは立てさせないで原裁判の執行の停止若しくは民事執行の手続の全部若しくは一部の停止を命じ、又は担保を立てさせてこれらの続行を命ずることができる。事件の記録が原裁判所に存する間は、原裁判所も、これらの処分を命ずることができる。

7 抗告裁判所は、抗告状又は執行抗告の理由書に記載された理由に限り、調査する。ただし、原裁判に影響を及ぼすべき法令の違反又は事実の誤認の有無については、職権で調査することができる。

8 第五項の規定による決定に対しては、執行抗告をすることができる。

9 第六項の規定による決定に対しては、不服を申し立てることができない。

10 民事訴訟法(平成八年法律第百九号)第三百四十九条の規定は、執行抗告をすることができる裁判が確定した場合について準用する。

 

(執行異議)

第十一条 執行裁判所の執行処分で執行抗告をすることができないものに対しては、執行裁判所に執行異議を申し立てることができる。執行官の執行処分及びその遅怠に対しても、同様とする。

2 前条第六項前段及び第九項の規定は、前項の規定による申立てがあつた場合について準用する。

 

 

 

       主   文

 

 本件抗告を棄却する。

 抗告費用は抗告人らの負担とする。

 

       理   由

 

 抗告代理人尾□達夫の抗告理由について

 1 債務弁済契約公正証書の債権者である相手方の申立てにより,債務者の承継人である抗告人らに対し,同公正証書に基づく債権差押命令及び転付命令が発せられたところ,抗告人らは,請求債権について強制執行を行う権利の放棄又は不執行の合意(以下「不執行の合意等」という。)があったことを主張して執行抗告をした。

 2 抗告人らの主張する不執行の合意等は,債権の効力のうち請求権の内容を強制執行手続で実現できる効力(いわゆる強制執行力)を排除又は制限する法律行為と解されるので,これが存在すれば,その債権を請求債権とする強制執行は実体法上不当なものとなるというべきである。しかし,不執行の合意等は,実体法上,債権者に強制執行の申立てをしないという不作為義務を負わせるにとどまり,執行機関を直接拘束するものではないから,不執行の合意等のされた債権を請求債権として実施された強制執行が民事執行法規に照らして直ちに違法になるということはできない。そして,民事執行法には,実体上の事由に基づいて強制執行を阻止する手続として,請求異議の訴えの制度が設けられており,不執行の合意等は,上記のとおり,債権の効力の一部である強制執行力を排除又は制限するものであって,請求債権の効力を停止又は限定するような請求異議の事由と実質を同じくするものということができるから,その存否は,執行抗告の手続ではなく,請求異議の訴えの訴訟手続によって判断されるべきものというべきである。

 抗告人らは,執行抗告によって不執行の合意等の存在を主張することができるというが,執行抗告は,強制執行手続においては,その執行手続が違法であることを理由とする民事執行の手続内における不服申立ての制度であるから,実体上の事由は執行抗告の理由とはならないというべきである。なお,不執行の合意等の存否が執行異議の手続で判断されるべきでないことは,上記検討によって明らかである。

 以上によれば,強制執行を受けた債務者が,その請求債権につき強制執行を行う権利の放棄又は不執行の合意があったことを主張して裁判所に強制執行の排除を求める場合には,執行抗告又は執行異議の方法によることはできず,請求異議の訴えによるべきものと解するのが相当である。これと見解を異にする大審院の判例(大審院大正14年(オ)第970号同15年2月24日判決・民集5巻235頁,大審院大正15年(オ)第1122号昭和2年3月16日判決・民集6巻187頁,大審院昭和10年(オ)第952号同年7月9日判決・法律新聞3869号12頁)は,変更すべきである。

 3 以上と同旨の原審の判断は,正当として是認することができる。論旨は採用することができない。

 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり決定する。