宅地建物取引業者の説明義務7 第7章 法令上の制限 | 法律大好きのブログ(弁護士村田英幸)

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役に立つ裁判例の紹介、法律の本の書評です。弁護士経験32年。第二東京弁護士会所属

第7章 法令上の制限

 

1 都市計画法

 

東京地判昭和48年3月23日判タ295号279頁

宅地建物取引業者が目的物件に都市計画法上の制限あることを調査説明しなかったため、債務不履行ありとして、その報酬請求が棄却された事例

 大橋は宅地建物取引業者(日商)に土地の買受あっせん方を依頼したところ、業者の調査不充分のため、当該土地の一部が都市計画上道路用地として買収され、交通量がある程度増加をみるべきことを知らず、その土地を買い受けた。

 大橋は買受後右土地にさような制限あることを知りこれを転売してしまった。

 大橋にしてみれば日商が調査説明をしてくれればこの制限を知りえて土地を買い受けなかったであろうとして仲立報酬の支払を拒み、かつ調査義務不履行による損害賠償として登録免許税、農地転用許可申請、国定資産税、不動産取得税相当額を請求した。

  宅地建物売買仲立業者は行政取締法上目的物件につき都市計画上の制限を書面で説明する義務を負っている(宅地建物取引業法35条、旧法では14号の3)。

この説明義務不履行により売買成立し、もし履行があれば売買不成立という事案であるから、このような場合、仲立報酬債権は成立しないと判定された。

 

東京地判昭和54年10月30日金判587号40頁

宅地建物取引業者は、委託者(買主)が買受農地を宅地化し転売する目的であることを知って売買の仲介をするにあたっては、特段の事情のないかぎり、右土地が市街化調整区域に含まれる可能性の有無を調査し、これを委託者に告知する業務上の義務があるのに、過失によってこれを怠り、そのため委託者が損害を被ったとき、その損害を賠償する義務がある。

Xは、宅地建物取引業者Yらの仲介により、Aから農地(田)を宅地化し転売する目的で、農地法5条の許可を条件として買い受けた。ところが、その後、右土地が市街化調整区域に含まれることになり、開発行為はもとより建築物の新築等についても都市計画法による制限が加えられ、Xが右土地を宅地化し転売するという買受目的を達成することは事実上不可能となった。そこで、Xは、Aとの売買契約を合意解除するとともに、Yらは、仲介当時、右土地が市街化調整区域に指定される可能性があるという重要な事項について、故意または過失により調査報告しなかったため、Xが不測の損害を被ったと主張し、Yらを相手方として、売買代金を他から借受けたため支払った利息相当額の損害賠償を求める本訴を提起した。本判決は、宅地建物取引業者であるYらは、Xの土地買受けの意図を十分承知していたのであるから、売買の仲介を行うにあたっては、その土地が市街化調整区域に含まれる可能性があるか否かを事前に調査し、その可能性があるときは委託者たるXに報告する義務があり、その調査は容易に行えたのに、Yらが過失によりこれを怠り、その可能性の事実を調査・報告しなかったためXが損害を被ったのであるから、その損害を賠償する義務がある、と判示してXの主張を肯認した。

 

東京地判平成19年11月6日LLI/DB 判例秘書登載

契約の履行が原始的に不能のため契約が無効とされる場合、当事者の一方は、契約締結上、相手方の意思決定に影響を及ぼす事項に関する情報について、契約準備段階に入った当事者間に生じる信義誠実の原則に基づく説明、報告義務違反があるときは、契約締結上の過失として、これによって相手方が契約の効力が生ずるものと信じてなした、履行準備などに要した損害を賠償すべき義務があるとした事例

 ウ(ア) 原告は、平成13年6月27日、被告会社との間で、本件各土地が宅地造成建売分譲地として開発可能であることを前提として、仲介人をG及び株式会社Lとして、次の内容の本件売買契約書(甲4)に記名・押印した。なお、同契約書には、茨城県知事作成の平成3年9月11日付け本件開発許可書の写しが添付されている。

     ③ 本件約定  (特記事項、開発行為許可 条件)

               本件開発許可は被告会社名義で取得されているが、原告がこれを継承し権利者とする。

    (エ) 本件各土地の開発許可を所轄するN事務所は、現在に至るまで、本件指定以前に本件開発許可に基づく開発行為の着手があったことの確認ができていない。

     (オ) 本件各土地は、本件開発許可に基づく開発行為を前提にしなければ市場価値は乏しく、あえて現状で価格設定すると、約926万円ないし約1234万円程度と評価され、本件売買契約の代金5000万円とはかけ離れている。

       なお、本件各土地のうち、別紙物件目録6及び14並びに23ないし25の各土地については、現在も農地法5条所定の許可は得られてはいない。

  (3) 以上の諸事情を総合すると、被告会社は、平成6年3月10日までに本件各土地の開発行為に着手していなかったため、本件指定により、本件開発許可に基づいて開発行為をすることは不可能となり、また、被告会社から第三者に対する本件開発許可の継承も不可能に至ったから、平成13年6月27日の本件売買契約締結当時、既に本件約定を履行することは不能であり、社会の取引観念上も本件各土地を宅地造成建売分譲地として開発することは客観的に不能であったので、本件売買契約は原始的不能であったというべきである。

  3 さらに、AがBに対し、平成13年5月24日、本件各土地は都市計画法に基づく開発許可を受けており宅地造成建売分譲地として開発でき、また、本件開発許可は今でも有効であると説明したことは、原告と被告会社との間では争いがない。

   (1) ところで、原告は、被告会社が、被告会社及びE名義の上記平成13年6月29日付け土地売買契約書(乙1)を作成して被告銀行に提示し、本件根抵当権設定登記の抹消登記手続をさせているので、本件売買契約の代金5000万円との差額3000万円を取得するために、本件各土地の価格が5000万円ではないことを知りながら、換言すれば、本件開発許可が失効していることを知りながら、本件売買契約を締結させたことが裏付けられる旨主張する。

    しかしながら、ア 被告銀行が本件各土地の任意売却に同意するか検討するに際して作成した平成13年6月15日付け事前協議書(乙11)には、本件各土地につき、「平成3年5月に宅地造成地として開発許可を取得しているが、開発計画が進展しない為、県より開発の取り下げを指導されている状況にある。当社の現状より開発工事を行うことは資金的にも困難であり、第三者への継承も認められないとのことから考え本件1括売却にて対応としたい。」との記載があること、イ 本件各土地の取引を原告に対し持ちかけたF及びAは、線引によって、それ以前に取得した県の開発許可が失効することはないのであるから、本件指定以前に本件開発許可に基づく開発行為に着手したか否かにかかわらず、本件開発許可が失効することはないはずであるとの理解をしていたこと、ウ 被告会社やF及びAが、本件指定による本件開発許可の失効を知っていたとすれば、本件各土地に対する本件根抵当権設定登記の抹消登記手続のための費用としてより低額にするため、本件開発許可が失効していることを被告銀行に説明した上、被告会社及びE名義の平成13年6月29日付け土地売買契約書(乙1)の代金額を更に低額に設定して提示をすることができたにもかかわらず、少なくとも被告会社やF及びAにおいては、本件各土地について開発行為を行うことが可能であるとの説明及び報告をなしていることが認められる。

     そうすると、被告会社ないしAにおいて本件開発許可が失効していることを認識していたとする原告の詐欺の主張は、その前提を欠くものであるから、上記甲16及び17の各記載部分並びに証人D及び原告代表者Bの各供述部分は、いずれも不自然であって採用することができない。他に、請求原因イ(オ)を認めるに足りる的確な証拠はない。

  

2 建築基準法

 

(1)建築基準法上の接道義務

 

東京地判昭和57年2月22日判タ482号112頁

不動産仲介業者の仲介により一旦売買契約が成立したが業者に重要事項告知義務違反がありこれに基因して売買契約が解除された場合に仲介報酬請求権を否定した事例

 本件は、不動産仲介業者であるXがY1(売主)Y2(買主)双方と報酬額の定めのある不動産仲介契約を締結し、Xの仲介によってY1Y2間に本件土地の売買契約が成立したとして仲介手数料の請求をした事案であるが、判示認定事実によれば、本件土地は道路側の擁壁に瑕疵があったり、その他手続上の問題から現状では直ちに住宅用建物を建築することは許可されず、これを整備するには莫大な費用を要するものであったところ、Y1はXに対しこれを現況のままで売却するよう依頼したのにもかかわらず、Xにおいて本件土地には建築基準法上の一般的な制限のほか特段の制限はないものと軽信し、住宅用土地としてこれをY2に紹介したうえ、本件土地には建ペい率のほか特段の制限はないから直ちにY2の望む建物の建築が可能である旨説明したため、これを信用したY2はXの仲介によりY1と売買契約を締結したが、その後、本件土地の右欠陥が判明し、所期の目的を達成することができないとして右売買契約を解除した(もつともその後のY1Y2間の交渉により合意解除としたうえ売買条件を異にして再度契約が締結された)というものである。

  本判決は、建物建築目的の宅地売買において仲介業者は、当該土地についての建築制限等の契約締結の際ネックとなる重要事項について調査し当事者に告知すべき義務があり、仲介業者に対する報酬は本来仲介業務の履行行為とその成果に対する対価であるから、右義務の不履行により売買契約に当初から内在する瑕疵を生じこれを理由に契約が解除されたような場合には右報酬請求権は発生しないと判示して、Xの請求をしりぞけた。

不動産仲介報酬請求権の発生要件は通常、(イ)業者が不動産仲介請求に基づき、(ロ)媒介行為をなし、(ハ)その媒介行為によって希望された契約が成立することといわれており(海老塚「宅地建物取引業者の不動産仲介による報酬請求権(上)」判タ272号46頁)、原則として売買等の契約成立後に売買当事者間の債務不履行あるいは手付放棄等による解除があっても仲介報酬請求権は消滅しないと解されている(最高1小判昭和45年2月26日民集24巻2号89頁、大阪高判昭和56年10月30日判タ457号99頁)。

しかしながら右(ロ)の要件は本判旨も言うように仲介契約の本旨に基づいた義務履行としての媒介行為でなければならないことは当然であり、軽微な義務違反はともかく、本件のように仲介業者の義務不履行があってはじめて売買契約が成立したと認められるような場合(義務不履行と契約成立との間に因果関係のある場合)にはそもそも右(ロ)(ハ)の要件が満たされていないと言うべきであって、本件のように右義務不履行を理由に契約が解除された場合はもちろん、さらにその後の事情変更等によりたまたま契約が維持されたような場合にもなお報酬請求権を否定すべきではなかろうか(東京地判昭和48年3月23日判タ295号279頁、東京地判昭和38年8月15日判タ154号70頁参照)。

そのように考えれば、本件でXを排除してY1Y2間のみにおいて成立した2度目の契約が仮に最初の契約と同一性あるものとしても同様の結論が導かれよう。

 

東京高判昭和57年4月28日判タ476号98頁

宅地建物取引業者の媒介にかかる土地売買取引において、目的土地が宅地達成等親制法による宅地達成工事規制区域に指定された土地であるに拘らず、宅地達成工事の完了、その検査済証の交付等がなされず、また、自的土地への進入路となっている公道が建築基準法42条1項所定の幅員基準に充たないものであり、右公道につき同条2項道路の指定がない場合、右取引業者がその従業員である取引主任者をして買主に対して、目的土地に関し、宅地達成等規制法及び建築基準法に基づく制限事項につきなんら説明させなかったときは、右業者は、過失をおかしたものであり、右過失によって買主が被った損害を賠償すべき不法行為責任を負う。

 

東京地判昭和59年12月26日判時1152号148頁

不動産仲介業者が、不動産の売買の仲介にあたり宅地造成に関する規制等についての調査義務を怠ったとしたが、依頼者たる買主が買受目的を達成できなかったのは買主の自招行為によるものとして、右仲介業者の損害賠償責任を認めなかった事例

 1 Xは、昭和54年12月、Y1会社の仲介により、訴外会社から、本件土地を建売住宅用地とする目的で買い受けたが、本件土地は建築基準法所定の接道義務を満たしておらず、また、宅地造成について町長の承認を受けることができなかったため、本件土地を造成したうえ、他に分譲、転売することができなくなった。

  そこで、Xは、不動産仲介者であるY1が善良な管理者の注意義務をもって接道義務を満たしているか否かを調査せず、かつ、宅地造成について町長の承認が必要であるなどの説明義務を尽さなかったとし、しかも代表者Y2にも代表取締役として職務を行うにつき重大な過失があったとして、Y1に対しては債務不履行に基づき、Y2に対しては商法266条の3に基づき、1400万円の損害賠償を請求したものである。

  2 これに対し、本判決は、本件土地は、接道義務の点においても、造成工事に関する行政指導の点からみても、宅地造成を完了して建売住宅用の建築確認を得ることができたかどうか疑問があったとしたうえ、Y1会社は、具体的に本件土地が行政指導の対象になるかどうかについて調査せず、かつ、本件土地が建築基準法所定の接道義務を満すものかどうかについて十分調査しなかったことを認めたが、不動産仲介業を営むX会社の代表者が町役場の職員に面接して、本件土地が行政指導の対象となること、1棟の家だけの建築であれば建築基準法の接道義務を満たすものであることの説明を受けながら、本件土地を7区画に造成したため、建築確認を得ることができなくなったのであるから、Y1会社の調査義務違反とXの被った損害との間に因果関係は認められないとし、Xの請求を棄却した。

本件では、不動産仲介業者に調査義務の懈怠があり、また、依頼者にも過失があったから、不動産仲介業者の損害賠償責任を認めたうえ、過失相殺により損害の公平な分担を図るという解決方法もとり得たようにも思われるが、本判決が不動産仲介業者の損害賠償責任を否定したのは、依頼者自身不動産仲介業を営んでいるということを重視したことによるものであろう。

 

東京地判平6年9月1日判時1533号60頁

建築基準法上の接道義務を満たさない宅地の売買につき、売主及び仲介業者の不法行為責任が認められた事例

(1) 仲介人被告杉坂建築事務所の代表取締役である被告本位田は、仲介人被告杉坂建築事務所の担当者として、原告に本件土地の説明をなすにあたり、信義誠実を旨とし、予め本件土地の範囲やその接道状況等について十分に調査し、本件土地に本件赤色部分が含まれていないこと、したがって本件土地の公道に接する幅(間口)は一・二三メートルであること、本件土地と本件赤色部分とを一体としてみても本件路地状部分の最狭部分は約一・五七メートルないし約一・六五メートルにすぎないこと、したがって、本件土地のみを申請敷地とした場合はもちろんのこと、本件土地と本件九六八番四三の土地とを申請敷地としたとしても本件土地上に適法に建物を建てることはかなり困難であること、等の真実を原告に説明すべき業務上の注意義務があったのに(けだし、仲介人が会社組織である場合には、依頼者はその担当者個人に対して信頼をおくものだからである。)、これを怠り、原告に、本件土地の範囲が本件斜線部分と本件赤色部分とであり、したがってその公道に接する幅(間口)は1・83メートルであること、本件路地状部分の最狭部分も1・8メートルであること、本件土地上に建物を適法に建てることは可能であること、等の誤った説明をして、原告をしてその旨誤信させ、その誤信に基づいて本件売買契約を締結させるに至らしめたものであるから、被告本位田には右注意義務に違反する過失行為(不法行為)があったことは明らかであり、被告本位田は、民法七〇九条により、本件売買契約の締結により原告が被った損害を賠償すべき義務がある。

  (2) また、被告杉坂建築事務所は、被告本位田の右不法行為が被告杉坂建築事務所の職務の執行につきなされたものであるから、民法四四条により、原告の被った損害を賠償すべき義務がある。

  (二) 被告臼井及び被告ケーディエスの責任

   (1) 売主被告ケーディエスの代表取締役であった被告臼井は、たとえ、被告杉坂建築事務所に本件土地の売却の仲介を依頼しており、本件土地に本件赤色部分が含まれていないことを示す地積測量図や公図の各写等を被告杉坂建築事務所に交付していたとしても、本件土地はその公道に接する部分がわずかに一・二三メートルであり、本件土地のみを申請敷地とした場合には本件土地上に適法に建物を建てることはほとんど不可能であったのであるから、しかも、原告に交付された前記重要事項説明書にはその「敷地等と道路との関係」欄になんらの記載もなく、図面の添付もなく、前記西川豊和もなんら説明をしなかったのであるから、本件売買契約に立ち合った売主の担当者として、本件売買契約の締結に先立ち、右のような土地をあえて買おうとする原告に対して、果たしてその認識に誤りがないかどうかを自ら確認すべき注意義務があったものというべきである。

 しかるに、被告臼井は、これを怠り、前記認定のとおり、被告本位田または被告杉坂建築事務所から原告に対して、本件土地に本件赤色部分が含まれていないこと、したがって本件土地の公道に接する幅(間口)が一・二三メートルであること、本件土地のみを申請敷地とすれば本件土地上に建物を適法に建築することはほとんど不可能であるが、本件土地と本件九六八番四三の土地とを一体として申請敷地とすれば本件土地上に建物を適法に建築することは可能であろうこと、等は既に説明されているものと考え、本件売買契約締結の際に原告に対してなんら説明及び確認をしなかったのであるから、被告臼井には右注意義務に違反した過失行為(不法行為)があったものといわざるを得ず、被告臼井は、民法709条により、本件売買契約の締結により原告が被った損害を賠償すべき義務があるものというべきである。

  (2) 被告ケーディエスも、被告臼井の右不法行為が被告ケーディエスの職務の執行につきなされたものであるから、民法四四条により、原告の被った損害を賠償すべき義務がある。

 

東京地判平成6年9月25日判時1533号64頁

不動産仲介業者の媒介により売買契約が成立した業者の義務不履行に基因して売買契約が解除された場合に、一般論として仲介報酬は請求しえないとしながら、義務不履行の事実がないとして請求が認容された事例

 なるほど、本件売買の対象土地は、旧6871番50の土地の一部約281平方メートルとされており、被告に所有権移転登記をするためには分筆することが必要であり、《証拠略》によれば、当初の分筆による6871番122の土地は、一見するとあたかも袋地であるかのようにみえる。しかしながら《証拠略》によれば、本件売買は、井上が現に建物を建てて居住していた土地を現地で見分し、本件道路に接する敷地部分を買ったものであり、本件道路との境には目印として私石があったこと、そして、本件土地については昭和58年12月2日付で現況測量図も作成されていること、そこで、これらを参考にして本件契約書添付の図面による本件土地を分筆すると、6871番122の土地のように分筆すべきこととなることがそれぞれ認められる。右のように分筆すると、その西辺との間に土地が余り、図面上は一見すると袋地のようにみえ、《証拠略》によれば、被告は右分筆図面を見て、これでは袋地になるとして問題にしたため、伊東は、右分筆をした立林土地家屋調査士と相談し、井上と交渉してさらに旧6871番50の土地の西辺1杯までを同番123の土地として分筆し、無償で被告に譲渡することとし、その旨8月20日に被告に報告したことが認められるが、本件土地付近はもともと公図が現況と1致していないのであり、道路自体が表示されていないのであるから、分筆図面をみただけで袋地云々をいうことはできないものであり(《証拠略》によれば、旧6871番50の土地は6803番305、同66の土地と接して表示されており、《証拠略》によれば、これらは民有地であることが認められるから、これらに接するように分筆したからといって公図上公の道路に接することとなるものではない。)、本件土地を6871番122の土地としてした分筆は誤りとはいいがたく、土地引渡の期限である8月31日までに6871番123の土地が分筆されていなかったからといって、誤った分筆しかできていなかったとは断じがたい。のみならず、仮に被告が主張するように、6871番123の土地の分筆が必要であったとしても、《証拠略》によれば、伊東は前記のように無償譲渡を受けたことを被告に対して報告して、仮に登記が8月31日までに間に合わなくても必ず分筆、移転登記する旨確約し、現に右分筆は9月3日には完了していることが認められ(なお、被告は、これら6871番123、同番123の土地の分筆は、本件土地に接する本件道路の所有者である藤沢市の立会いを経ない違法なものであると主張するが、《証拠略》によれば、これらの分筆は現に受け付けられ、その後登記所は、右分筆を前提にして公図の訂正の申立てをさせたことが認められ、登記所や藤沢市でもことさらこれを問題としようとはしていないことが窺われるから、右手続の適法性自体を本件で問題にする必要はない。)、さらに、《証拠略》によれば、伊東は、被告の要望により本件道路が藤沢市の認定道路であることの証明を8月29日及び9月6日に得ていることが認められるのである。右分筆及び認定道路の証明の日の一部は確かに支払期限である8月31日を過ぎてはいるが、《証拠略》によれば、被告は、同じく本件道路に面した谷口方で建築確認を得ることができたことを知らされていたこと、井上と被告との間で残代金の請求等のやりとりがされ、本件合意解除に至ったのは、平成3年10月以降であり、それまで被告において右分筆登記の遅れ等を問題にしたことはなかったことが認められることを総合すると、前記分筆の遅れ等が本件の合意解除につながったものとは考えがたい。

  (3) 被告は、右接道義務に関し、伊東は、本件道路の法的性格、所有関係、地番等につき説明せず、これが、接道義務の充足の有無、分筆手続の要否、官民査定の要否についての紛争を発生させた大きな要因となったもので重要事項説明義務に違反していると主張する。

 しかしながら、《証拠略》によれば、伊東は、本件売買成立前に被告を現地に案内し、現に本件土地に接している本件道路は、「市道277号線」で建築基準法42条2項道路であり、セットバックすれば建物は問題なく建てられることを説明したことが認められるし、また、《証拠略》によれば、伊東は、本件売買成立後ではあるが、残代金決済に至る間も、被告の問い合わせに対し、本件道路は公図上は現れていないので地番はないこと、本件道路は「藤沢市道277号線」で市道であること、近隣の家も公図上は接道していないが建築確認上本件道路を使用していることを説明したことが認められ、重要事項の説明義務違反があったとは認められない。

 (4) 被告は、また、伊東は官民未査定のまま代金決済をするか否か説明せず、重要事項説明義務に違反したと主張する。

 しかしながら、右事項が宅地建物取引業法35条により説明することが法律上要求される重要事項であるとは解しがたいのみならず、《証拠略》によれば、本件売買契約書では、売主は残代金支払い期日までに資格ある者の測量による図面を交付しなければならないこととされ、その図面は、「現況測量図(官民未査定)とされていること、この点も売買契約締結時に伊東から被告に対し説明し、官民査定をすることなく代金決済することを説明していることがそれぞれ認められるから、被告の主張は理由がない。

3(1) 次に、被告は、本件土地付近は公図と現況の不1致があり、土地自体瑕疵があり、さらに伊東は、本件道路が公図に載っていないことなどにつき具体的に説明をしなかった説明義務違反があると主張する。

  (2) 土地の売買その他の場面において公図ができるだけ現地に1致していることが望ましいことは確かである。しかしながら、公図と現況が1致していないことはままあることであり、それ自体土地の瑕疵であって、当該土地取引を仲介することが許されないということにならないことはむしろ当然といえよう。

  (3) また、《証拠略》によれば、伊東は、平成3年3月3日被告に対し現地で本件土地の説明をしたときや、同年4月26日被告宅に売買契約書案、重要事項説明書案、本件土地付近の公図等を持っていった際に、本件土地付近では公図と現況が異なっており、公図には本件道路は表示されていないが、売買は、実際の測量図に基づいてすることなどを説明したことが認められるから、具体的な説明をしなかったとの被告の主張は失当である。

 

東京地判平成9年12月25日判タ988号200頁

土地建物の売買契約において接面道路が私道であり、道路敷地所有者全員の承諾に基づく道路協定が成立していなかったとしても、それが隠れた瑕疵に当たらず、売主側に売買契約の付随義務としての告知義務もあるとはいえないとされた事例

 Xら2名はY1及びY2から土地と建物(但し、Xらにおいて取り壊す予定)を6480万円で買い受ける契約を締結し、手付金として600万円を支払った。

 同契約を締結するについて買主側の仲介業者としてY3、売主側の仲介業者としてY4が関与した。

 XらはYらに対する訴状により本件売買契約には隠れた瑕疵があったと主張して契約解除の意思表示をし、Y1及びY2に対して手付金返還及びこれと同額の違約金の支払を求めた。

 Xらは、隠れた瑕疵として、本件契約においては本件土地に自動車2台分の地下車庫が築造可能であり、南側に緑を1望できるとの条件が付されていたのにこの条件を満たしていないこと、本件土地には除去解体に多額の費用のかかる浄化槽が埋設されていたこと、本件建物が建築確認を得ていなかったこと、本件土地の接面道路は私道であり、道路となる敷地の所有者全員の承諾に基づく通路協定が成立していなかったことをいうものである。

 XらのY3に対する請求は、媒介契約上の債務不履行ないし不法行為に基づき、Y4に対する請求は不法行為に基づき、いずれも手数料及び手付金相当金の支払を求めたものである。

  本判決は、Xらの主張をすべて排斥し、請求をすべて棄却した。

すなわち、本件土地は区画整理地区として計画決定された区域内にあるが、本件契約において地下に車庫が建築可能であることまたは南側に緑が1望できることが契約の内容になっていたとは認められないこと、浄化槽についてXらは埋設の事実を知っており、撤去費用をY1らに負担させたこと、本件建物が違法建築であるとは断定できないのみならず、Xらにおいて解体撤去する予定であったこと、道路となる敷地の所有者全員の承諾に基づく通路協定が成立していなくても、建築基準法43条1項但書の適用を受けられること(現にXらは1戸建ての住宅を新築するための建築確認を得た)から、本件契約に隠れた瑕疵はなく、Xら主張の債務不履行ないし不法行為は成り立たないというのである。

  本件は、土地建物の売買契約に隠れた瑕疵があった否かの事実認定が争われた事案であるが、私道について通路協定がなくても建築基準法43条1項但書の適用の認められる場合として5つの条件が示されている。

 

大阪高判平成11年9月30日判タ1042号168頁

適法な建築確認を受けておらず、建築基準法上の接道義務を満たさない土地建物の売買につき、本件建物は建築基準法違反の瑕疵があり、売主及び仲介業者の不法行為等の責任が認められた事例

 

奈良地葛城支判平成14年9月20日LLI/DB 判例秘書登載

建築基準法上の接道義務を満たしていないことは、本件土地建物の隠れたる瑕疵に該当するとして、原告は、売主の瑕疵担保責任(民法570条、566条1項)に基づき、売主に対し損害賠償の請求にとどまらず、解除も許されるとし、また、仲介業者に対しては、接道義務違反についての説明義務違反が仲介契約の債務不履行に当たるとして、損害賠償請求をみとめることができるとした事例

 

(2)建築基準法のほかの規制

 

東京高判昭和52年3月31日判タ355号283頁、

宅建業者を売主とする土地の売買契約につき、売主が宅建業法35条の説明義務をつくさなかった理由として、買主に、債務不履行による契約解除を認めた事例

X(原告、控訴人)は、建売住宅販売会社であるが、昭和48年2月10日宅建業者であるY1(被告、被控訴人)から、本件土地を、代金2200万円で、そのうち手附金は150万円とし、中間金250万円は同月21日に支払い、残金を同年3月20日登記手続及び引渡と引換に支払う約で買受ける契約を締結し、即日手附金150万円を支払った。

ところで、本件売買契約は、Y1会社の代表者であるY2(被告、被控訴人)が本件土地は3筆に分れているが所有者が1人であって問題なく、今日契約しないと他に売ってしまうなどと強引に誘引するのでY2の言を信用し、事前調査することなく締結したものであるが、その後調査してみると、本件土地には川崎市の市道部分が含まれていたり、他人所有の土地が含まれ、かつ他人所有の土地に根抵当権が設定されかつ処分禁止の仮処分がなされていることが判明した。

そこで、Xは、Y2に対し市有地の問題や仮処分の件など重要な事項について説明を求めたが、納得のゆくような誠実な説明が得られず、このような状態では、中間金を支払ったとしても、売買契約の履行に関し確実な履行を得られかどうか強く不信の念を持つに至ったので、Y1に宅建業法35条に規定する重要事項説明義務違反、不信行為があったとして、中間金の支払の提供することなく本件売買契約を解除し、Y1に対し違約金等の支払い、Y2に対し有限会社法30条ノ3による損害賠償、契約の際本件土地の実際上の所有者として立会ったY3(被告、被控訴人)に対して不法行為による損害賠償を請求したが、原審で敗訴したので、これを不服として控訴したのが、本件の事案である。

 

大阪高判昭和58年7月19日判時1099号59頁

宅地建物取引業者が、その媒介に係る土地売買の買主に対し、当該土地が建築規制を受ける土地であることを取引主任者をして説明させる義務を尽さなかった違法があり不法行為責任を負うとした事例

 

横浜地判平成9年5月26日判タ958号189頁

マンションの売買契約においてその一部が木造であったことが要素の錯誤に当たらないとしつつ、仲介業者に対し告知業務違反を理由に慰藉料50万円の損害賠償を命じた事例

 Xは、平成3年11月、Y3、Y4ほか1名から3DKの本件マンション(53・47平方メートル)を代金2750万円で買い受けた。

その際、仲介業者として買主側にY1、売主側にY2が立ち会った。

 本件マンションのうち洋室5・5畳は、ルーフバルコニーを利用して木造により増築されたものであり、Xもこれを見分の上買い入れ、増築登記も存在していた。

しかし、Xは本件増築部分が違法建築であることを知らずに契約したものであるから、右契約は要素の錯誤により無効であり、Yらの詐欺による意思表示として取り消し、共同不法行為として売買代金のほか、契約諸費用等の損害賠償を求めるとの訴えを提起し、予備的請求として、本件売買契約が有効であることを前提とし、不法行為に基づき本件売買代金と違法建築部分を除却した場合の現在の価格との差額の損害賠償等を求めた。

  本判決は、要素の錯誤の有無について、違法建築部分は些少とはいえないが、Xは木造の増築部分の存在を知って契約し、しかも、間取り、面積、交通の至便さに比して本件物件の価額が安いと判断して購入したこと、本件マンションは耐久性や使用上に問題はなく、引き続き3DKの住居として使用することができること、本件程度の違法部分があるからといって転売することができないとはいえないことを理由に、本件違法建築部分についてXの認識に齟齬があったとしても、これをもって本件売買契約を錯誤無効とすることはできないとし、詐欺の主張及び契約の無効を理由とする不法行為の主張を排斥した。

しかし、予備的請求の原因であるYらの告知義務については、そのうち買主側の仲介業者Y1について、木造増築部分は、当時の宅建業法上、重要事項説明の対象として法定されていないが、列挙事項以外のものでも当該取引において重要であると認められる事項については説明が義務付けられており、違法建築であることを告知しなかった点で不法行為となるとして、慰謝料として50万円の損害賠償のみを認め、その余のYらに対する請求は全部棄却した。

 

東京高判平成12年10月26日判時1739号53頁

不動産仲介業者は、建物建築を目的とした土地の売買を仲介する場合、建築基準法、県条例及び指導方針に基づく規制があることを買主に告知する義務があり、その説明を十分せず、また、一部にがけ地があるために買主の所期する土地利用ができないのにこれができるかのような誤解を生じさせる見積書を交付するなどして、買主に損害を与えたときは、善管注意義務違反に基づいて、買主に対し、その損害を賠償する義務を負う

 すなわち、前記認定のとおり、輝明は、本件売買契約の際の重要事項の説明に当たり、控訴人に対し、盛り土をする場合、宅地造成等規制法、同法施行令及び指導方針による規制がある旨の告知はしたものの、その具体的な説明を行わなかった。また、被控訴人らは、控訴人に対し、本件土地につき建築基準法、県条例及び指導方針に基づく規制があることを告知せず、本件土地にがけ部分があることによって、本件土地の東側部分の利用が大幅に制限されるか、東側境界付近に大規模で多額の費用を要する擁壁築造工事を施工する必要がある旨、また、盛り土をする場合の擁壁築造工事の必要性について具体的な説明をしなかった。かえって、被控訴人らは、擁壁設計案としては不完全で、かつ、誤解を与えるような本件概算見積書を格別の説明を加えることもなく交付して、控訴人に対し、本件土地東側の境界近くに擁壁を築造することができ、これによって本件土地の全体的な利用が可能であるかのような誤解を生じさせたものというべきである。

 したがって、被控訴人らには、本件仲介契約に基づく善管注意義務に違反する行為があったわけであるから、債務不履行により、控訴人が被った損害を賠償すべき義務があるというべきである。

 

3 自然公園法

 

東京地判昭和53年10月16日判時937号51頁

別荘建築を目的とする土地の売買につき、売主である宅地建物取引業者が右土地は自然公園法による国立公園内の特別地域及び文化財保護法による名勝に指定され、建築について制限がある事実を知りながらこれを買主に告知しなかったのは、民法96条の「詐欺」に当たるとされた事例

 

4 文化財保護法

 

大阪地判昭和43年6月3日判タ226号172頁

1、売買物件にかくれたる瑕疵(文化財保護法第57条の2所定の周知の埋蔵文化財包蔵地)が存した場合と、宅地建物取引業者がその業務遂行上つくすべき注意義務の範囲

しかして、本件山林の昭和四〇年五月二六日当時の写真であることに争いのない検甲第一号証によれば、羽曳野市には、清寧天皇陵、応神天皇陵、日本武尊白鳥陵等、有名な大規模の古墳が散在していることは明らかであるが、一方、〈証拠〉を総合すれば、本件山林は、約三七〇〇平方米(約一一○○坪)程度の広さを持つ雑木の密生した小高い丘の如き観を呈し、その周囲の半分は小さい池(周壕)によって取り囲まれ、残りの半分は、以前は本件山林を取り巻いていた周壕の一部であったものが、かなり以前に埋め立てられて、すでに田畑と化し、本件山林の周辺はすべて田畑であって、近くに人家も点在し、附近には舗装道路も通じており、本件山林は、規模も大きく、かつ、周壕もほぼ完全な形で残存している前記各古墳に比し、規模も小さく、周壕も半分しか残っておらず、古墳であることの標識もなく、その形状は前記のとおり小高い丘の如き観を呈していて、全体としてごくありふれた自然な地形と認められるのである。右認定の事実によれば、本件山林が古墳を包蔵していることは専門家でないかぎり、本件山林を目して、古墳ではないかとの疑いを抱くことは困難な地形であると認められるから、専門家でない被告大沢が、本件山林を古墳であると見抜けず、そのため大阪府教育委員会に対して、本件山林が古墳であるか否かの確認の措置をとらなかったとしても、業務上の注意義務の範囲を超えたものとして、それはやむを得なかったといわざるを得ず、従って被告大沢には、業務上の注意義務を怠った過失があるということはできない。

 

大阪高判平成7年11月21日判タ915号118頁

宅建業者には、取引対象土地が文化財保護法57条の2所定の周知の埋蔵文化財包蔵地に該当するか否かを調査説明する義務はないとされた事例

 そのうえ、本判決は(一)周知の埋蔵文化財包蔵地は、宅地建物取引業法35条1項2号、同法施行令3条28号の文言及びこれらの列挙条項の趣旨から明らかである。

 (二)Yとしては、宅地建物取引業者としての業務上、本件土地が埋蔵文化財包蔵地であることを予見せず、これを予見することも困難であった、(三)平成元年4月当時、取引対象土地が周知の埋蔵文化財包蔵地であるというだけで、宅地建物取引業者であるYに、調査説明義務があったとみるのは相当でない、と判断し、Yの損害賠償責任を否定して本訴請求を棄却した一審判決を支持して、控訴を棄却した。

 

5 森林法

 

最判昭和55年6月5日裁判集民事130号1頁

売主の委託を受けた宅地建物取引業者が宅地造成の目的でする山林の売買を仲介する場合において、買主に対して交付すべき物件説明書に森林法その他の法令に基づく制限の記載欄があり、かつ、目的たる山林が山間地に位置していて森林法による保安林の指定が推測されるなど、原判示の事実関係のもとでは、右山林の地目が保安林でなく、また現地に保安林指定の標識がないときであっても、右業者が所轄機関に照会して保安林指定の有無を調査しなかったことは、その過失であって、買主に対する不法行為責任を免れることができない。

1、Xは、昭和47年3月6日、売主の委託を受けた宅地建物取引業者Yの仲介により、山林2筆を宅地造成のうえ分譲する目的で買受け、造成工事を行い、分筆登記を経て分譲を開始した。

ところが一部を分譲が完了したのちである昭和48年12月ころ、1筆の山林の約半分が森林法25条によって保安林に指定されていることが判明し、県当局からも同法34条違反を理由にして造成地の原状回復を指示されたことから、Xは、造成した宅地を取壊し植林するなどの原状回復工事を行うとともに、譲受人に対しても売買代金を返還せざるをえなくなり、少なからぬ損害を被った。

  なお、前記山林は、山間地に位置しているが、登記簿上に保安林の表示がなく、また、現地にも保安林の標識はなかった。

  2、本件は、右のような事実関係のもとで、宅地建物取引業者であるYには、仲介物件たる山林について保安林指定の有無を県市等の機関に照会してまで調査する義務があるか、そして、右義務を怠ったことによってXに生じた損害の賠償責任があるか、をめぐって争われたものであるが、1、2審ともこれを積極に解し、本判決もこれを支持したものである。

  2審判決がYの調査義務ないし過失を認める根拠としたのは、Yは、免許を受けた宅地建物取引業者として取引の相手であるXに対して自己の過失により不測の損害を被らせないようにすべき業務上の注意義務があるところ、(イ)YがXに交付した物件説明書には都市計画法その他法令(森林法を含む)の制限内容を記入すべき余白空欄が設けられているのに右空欄には何らの記入もされていない、(ロ)本件山林は山間地に位置していて砂防法や森林法による指定の推測される土地である、(ハ)保安林指定の有無を確認するには所轄機関に照会することが確実かつ容易な手段であって、かかることは不動産取引業者として業務上一般に認識すべき事柄である、などの事情に鑑みれば、Yには業務上要求される注意義務を怠った過失があり、登記簿や現地の調査をしただけでは足りない、というのである。

 

6 行政指導

 

大阪高判昭和58年7月19日判タ512号137頁

宅地建物取引業者が、その媒介に係る土地売買の買主に対し、当該土地が建築規制を受ける土地であることを取引主任者をして説明させる義務を尽さなかった違法があり不法行為責任を負うとした事例

 

東京地判平成3年2月28日判時1405号60頁

本件建築規制は、本件土地の内約3分の1の範囲にまで及んでいたのであるから、原告の本件土地の買受目的からすれば、その存在は、売買契約を締結するについて重大な関わりを有することがらであったというべきである。

 他方、右買受目的を承知していた被告久峰は、本件建築規制の存在と内容を具体的に知り、関係図面も入手していたのであるから、売買契約の締結までに仲介の相手方である原告に対し右情報を提供することは極めて容易であったと認められる。しかるに、同被告は、原告へ関係図面が全て渡っていて、原告は本件建築規制を承知しているものと軽信し、少なくとも売買契約締結のため一同が参集した際、取引主任者をして原告に対し、これを説明することを怠った。

 また、原告の買受目的を承知していた被告岡一商事は、本件土地に河川拡幅計画が存在することを知っていたのであるから、その内谷及び建築に与える影響を自らあるいは、業者を通じる等して調査することはさほど困難ではなかったと認められる。しかるに、同被告は、これらは建物建築にさしたる支障のないものと軽信し、その内谷等を正確に調査することを怠り、その結果、取引主任者をして原告に対し、本件建築規制を説明することを怠った。

 被告らの右懈怠の結果、原告へ実際に伝えられた情報は、重要事項説明書の「補足資料参照のこと」「1級河川改修計画有り(拡幅)」との記載のみであって、原告の買受目的からすれば、契約締結の際の重要な事項に関する情報の提供としては極めて不十分なものとなった。

 もっとも、本件では買主である原告も宅建業者であるが、このことから直ちに、仲介業者のなすべき情報提供の程度が右の程度で足りるとか、それ以上を要求することが取引上無理であるとは認めることはできない。

 してみると、被告久峰は宅建業者として仲介の相手方に対し信義則上要求される説明義務に違反し、被告岡一商事は宅建業者が仲介の依頼者に対して仲介契約上要求される調査説明義務に違反したというべきである。

 なお、本件建築規制は法令上のものではなく行政指導による事実上のものではあったが、被告らは原告の本件土地取得の目的が3階建共同住宅の建築にあることを知っていたのであるから、これが行政指導による事実上のものであるというだけで右各議務を免れるものではないというべきである。

 また、本件建築規制によっても本件土地上にラフプランと同程度の規模の建物を建築すること自体は可能ではあったが、右建築規制はそれがない場合と比較し建物の建築位置、形状、間取り等に制約を加えるものであり、原告はこれが判明していれば本件売買契約を結ばなかったと認められるから、同程度の規模の建物の建築が可能であるというだけで被告らが右各義務を免れるものではないというべきである。従って、被告らは右各義務違反により原告が受けた損害を賠償すべきである。

 

東京地判平成9年1月28日判時1619号93頁

1 建替え目的の土地建物の売買契約において、売主側の不動産仲介業者が宅地の細分化防止に関する区の指導要綱の内容を説明しなかったこと等につき、売主の買主に対する説明義務違反が肯定された事例

2 右説明義務違反を理由とする売買契約の解除による手付金の返還、違約金の損害賠償請求が認められた事例