関連法人に対する額面金額(発行価額)を超えた新株払込みについて,当該超過部分は,対価がなく,後に生ずる有価証券売却益に見合う株式売却損を発生させ,法人税の課税を回避することを目的としたものであり,経済取引として十分に首肯し得る合理的理由もないから,「資産又は経済的利益の無償の供与」として,法人税法37条の寄附金に当たるとされた事例
法人税更正処分等取消請求事件
【事件番号】 福井地方裁判所/平成10年(行ウ)第12号
【判決日付】 平成13年1月17日
【判示事項】 関連法人に対する額面金額(発行価額)を超えた新株払込みについて,当該超過部分は,対価がなく,後に生ずる有価証券売却益に見合う株式売却損を発生させ,法人税の課税を回避することを目的としたものであり,経済取引として十分に首肯し得る合理的理由もないから,「資産又は経済的利益の無償の供与」として,法人税法37条の寄附金に当たるとされた事例
【判決要旨】 (1) 法人税法37条に定める寄附金の損金不算入制度の趣旨は、寄附金もまた法人の純資産の減少ではあるが、法人が支出した寄附金の金額が無条件で損金となるものとすると、その寄附金に対応する分だけ当該法人の納付すべき法人税額が減少し、その寄附金は国において負担したのと同様な結果になることから、これを排除することにあると解される。
(2) 寄附金の意義について、法人税法37条6項は、「寄附金、拠出金、見舞金その他『いずれの名義をもってするかを問わず』、内国法人が金銭その他の資産又は経済的な利益の贈与又は無償の供与」と規定しており、また同条7項は、「『実質的に』贈与又は無償の供与」と規定していることからすると、同条6項にいう「贈与又は無償の供与」とは、民法上の贈与である必要はなく、資産又は経済的利益を対価なく他に移転する行為であれば足りるというべきであるが、右「対価」の有無は、移転された資産又は経済的利益との金額的な評価、価額のみによって決するべきものではなく、当該取引に経済取引として十分に首肯し得る合理的理由がある場合には、実質的に右「対価」はあるというべきである。
(3)~(9) 省略
【参照条文】 法人税法22-3
法人税法37-2
法人税法37-6
法人税法37-7
【掲載誌】 訟務月報48巻6号1560頁
税務訴訟資料250号順号8815
法人税法
第二款 各事業年度の所得の金額の計算の通則
第二十二条 内国法人の各事業年度の所得の金額は、当該事業年度の益金の額から当該事業年度の損金の額を控除した金額とする。
2 内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の益金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、資産の販売、有償又は無償による資産の譲渡又は役務の提供、無償による資産の譲受けその他の取引で資本等取引以外のものに係る当該事業年度の収益の額とする。
3 内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の損金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、次に掲げる額とする。
一 当該事業年度の収益に係る売上原価、完成工事原価その他これらに準ずる原価の額
二 前号に掲げるもののほか、当該事業年度の販売費、一般管理費その他の費用(償却費以外の費用で当該事業年度終了の日までに債務の確定しないものを除く。)の額
三 当該事業年度の損失の額で資本等取引以外の取引に係るもの
4 第二項に規定する当該事業年度の収益の額及び前項各号に掲げる額は、別段の定めがあるものを除き、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従つて計算されるものとする。
5 第二項又は第三項に規定する資本等取引とは、法人の資本金等の額の増加又は減少を生ずる取引並びに法人が行う利益又は剰余金の分配(資産の流動化に関する法律第百十五条第一項(中間配当)に規定する金銭の分配を含む。)及び残余財産の分配又は引渡しをいう。
第四目 寄附金
(寄附金の損金不算入)
第三十七条 内国法人が各事業年度において支出した寄附金の額(次項の規定の適用を受ける寄附金の額を除く。)の合計額のうち、その内国法人の当該事業年度終了の時の資本金の額及び資本準備金の額の合計額若しくは出資金の額又は当該事業年度の所得の金額を基礎として政令で定めるところにより計算した金額を超える部分の金額は、当該内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しない。
2 内国法人が各事業年度において当該内国法人との間に完全支配関係(法人による完全支配関係に限る。)がある他の内国法人に対して支出した寄附金の額(第二十五条の二(受贈益)の規定の適用がないものとした場合に当該他の内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上益金の額に算入される同条第二項に規定する受贈益の額に対応するものに限る。)は、当該内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しない。
3 第一項の場合において、同項に規定する寄附金の額のうちに次の各号に掲げる寄附金の額があるときは、当該各号に掲げる寄附金の額の合計額は、同項に規定する寄附金の額の合計額に算入しない。
一 国又は地方公共団体(港湾法(昭和二十五年法律第二百十八号)の規定による港務局を含む。)に対する寄附金(その寄附をした者がその寄附によつて設けられた設備を専属的に利用することその他特別の利益がその寄附をした者に及ぶと認められるものを除く。)の額
二 公益社団法人、公益財団法人その他公益を目的とする事業を行う法人又は団体に対する寄附金(当該法人の設立のためにされる寄附金その他の当該法人の設立前においてされる寄附金で政令で定めるものを含む。)のうち、次に掲げる要件を満たすと認められるものとして政令で定めるところにより財務大臣が指定したものの額
イ 広く一般に募集されること。
ロ 教育又は科学の振興、文化の向上、社会福祉への貢献その他公益の増進に寄与するための支出で緊急を要するものに充てられることが確実であること。
4 第一項の場合において、同項に規定する寄附金の額のうちに、公共法人、公益法人等(別表第二に掲げる一般社団法人、一般財団法人及び労働者協同組合を除く。以下この項及び次項において同じ。)その他特別の法律により設立された法人のうち、教育又は科学の振興、文化の向上、社会福祉への貢献その他公益の増進に著しく寄与するものとして政令で定めるものに対する当該法人の主たる目的である業務に関連する寄附金(出資に関する業務に充てられることが明らかなもの及び前項各号に規定する寄附金に該当するものを除く。)の額があるときは、当該寄附金の額の合計額(当該合計額が当該事業年度終了の時の資本金の額及び資本準備金の額の合計額若しくは出資金の額又は当該事業年度の所得の金額を基礎として政令で定めるところにより計算した金額を超える場合には、当該計算した金額に相当する金額)は、第一項に規定する寄附金の額の合計額に算入しない。ただし、公益法人等が支出した寄附金の額については、この限りでない。
5 公益法人等がその収益事業に属する資産のうちからその収益事業以外の事業のために支出した金額(公益社団法人又は公益財団法人にあつては、その収益事業に属する資産のうちからその収益事業以外の事業で公益に関する事業として政令で定める事業に該当するもののために支出した金額)は、その収益事業に係る寄附金の額とみなして、第一項の規定を適用する。ただし、事実を隠蔽し、又は仮装して経理をすることにより支出した金額については、この限りでない。
6 内国法人が特定公益信託(公益信託ニ関スル法律(大正十一年法律第六十二号)第一条(公益信託)に規定する公益信託で信託の終了の時における信託財産がその信託財産に係る信託の委託者に帰属しないこと及びその信託事務の実施につき政令で定める要件を満たすものであることについて政令で定めるところにより証明がされたものをいう。)の信託財産とするために支出した金銭の額は、寄附金の額とみなして第一項、第四項、第九項及び第十項の規定を適用する。この場合において、第四項中「)の額」とあるのは、「)の額(第六項に規定する特定公益信託のうち、その目的が教育又は科学の振興、文化の向上、社会福祉への貢献その他公益の増進に著しく寄与するものとして政令で定めるものの信託財産とするために支出した金銭の額を含む。)」とするほか、この項の規定の適用を受けるための手続に関し必要な事項は、政令で定める。
7 前各項に規定する寄附金の額は、寄附金、拠出金、見舞金その他いずれの名義をもつてするかを問わず、内国法人が金銭その他の資産又は経済的な利益の贈与又は無償の供与(広告宣伝及び見本品の費用その他これらに類する費用並びに交際費、接待費及び福利厚生費とされるべきものを除く。次項において同じ。)をした場合における当該金銭の額若しくは金銭以外の資産のその贈与の時における価額又は当該経済的な利益のその供与の時における価額によるものとする。
8 内国法人が資産の譲渡又は経済的な利益の供与をした場合において、その譲渡又は供与の対価の額が当該資産のその譲渡の時における価額又は当該経済的な利益のその供与の時における価額に比して低いときは、当該対価の額と当該価額との差額のうち実質的に贈与又は無償の供与をしたと認められる金額は、前項の寄附金の額に含まれるものとする。
9 第三項の規定は、確定申告書、修正申告書又は更正請求書に第一項に規定する寄附金の額の合計額に算入されない第三項各号に掲げる寄附金の額及び当該寄附金の明細を記載した書類の添付がある場合に限り、第四項の規定は、確定申告書、修正申告書又は更正請求書に第一項に規定する寄附金の額の合計額に算入されない第四項に規定する寄附金の額及び当該寄附金の明細を記載した書類の添付があり、かつ、当該書類に記載された寄附金が同項に規定する寄附金に該当することを証する書類として財務省令で定める書類を保存している場合に限り、適用する。この場合において、第三項又は第四項の規定により第一項に規定する寄附金の額の合計額に算入されない金額は、当該金額として記載された金額を限度とする。
10 税務署長は、第四項の規定により第一項に規定する寄附金の額の合計額に算入されないこととなる金額の全部又は一部につき前項に規定する財務省令で定める書類の保存がない場合においても、その書類の保存がなかつたことについてやむを得ない事情があると認めるときは、その書類の保存がなかつた金額につき第四項の規定を適用することができる。
11 財務大臣は、第三項第二号の指定をしたときは、これを告示する。
12 第五項から前項までに定めるもののほか、第一項から第四項までの規定の適用に関し必要な事項は、政令で定める。
【評釈論文】 訟務月報48巻6号182頁
税務事例33巻8号9頁
税理45巻13号224頁
別冊ジュリスト178号116頁
法人税更正処分等取消請求控訴
【事件番号】 名古屋高等裁判所金沢支部/平成13年(行コ)第4号
【判決日付】 平成14年5月15日
【判示事項】 1 控訴人が,法人税の確定申告に対する法人税更正処分には判断を誤った違法があり,同更正処分を前提とする過少申告加算税賦課処分及び重加算税賦課処分も違法であるとして,各処分の取消を請求した事案であり,原審は,控訴人の請求をいずれも棄却した。
2 本件更正処分は適法であり,同処分を前提とする本件重加算税賦課処分及び本件過少申告加算税賦課処分も適法であって,控訴人の請求はいずれも理由がないとして,本件控訴を棄却した。
【判決要旨】 (1) 省略
(2) 法人税法37条に定める寄附金の損金不算入制度の趣旨は、寄附金もまた法人の純資産の減少ではあるが、法人が支出した寄附金の金額が無条件で損金となるものとすると、その寄附金に対応する分だけ当該法人の納付すべき法人税額が減少し、その寄附金は国において負担したのと同様な結果になることから、これを排除することにあると解される。
(3) 寄附金の意義について、法人税法37条6項は、「寄附金、拠出金、見舞金その他『いずれの名義をもってするかを問わず』、内国法人が金銭その他の資産又は経済的な利益の贈与又は無償の供与」と規定しており、また同条7項は、「『実質的に』贈与又は無償の供与」と規定していることからすると、同条6項にいう「贈与又は無償の供与」とは、民法上の贈与である必要はなく、資産又は経済的利益を対価なく他に移転する行為であれば足りるというべきであるが、右「対価」の有無は、移転された資産又は経済的利益との金額的な評価、価額のみによって決するべきものではなく、当該取引に経済取引として十分に首肯し得る合理的理由がある場合には、実質的に右「対価」はあるというべきである。
(4)~(10) 省略
(11) 寄附金の損金不算入制度の趣旨並びに法人税法37条の規定の内容からすれば、法人税法37条の「寄附金」は、民法上の贈与に限らず、経済的にみて贈与と同視し得る資産の譲渡又は利益の供与であれば足りるというべきである。そして、ここにいう「経済的にみて贈与と同視し得る資産の譲渡又は利益の供与」とは、資産又は経済的利益を対価なく他に移転する場合であって、その行為について通常の経済取引として是認できる合理的理由が存在しないものを指すと解するのが相当である。
(12)・(13) 省略
【掲載誌】 税務訴訟資料252号順号9121
LLI/DB 判例秘書登載