国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関する法律に基づき子の返還を命じた終局決定が同 | 法律大好きのブログ(弁護士村田英幸)

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国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関する法律に基づき子の返還を命じた終局決定が同法117条1項の規定により変更された事例

最高裁判所第1小法廷決定/平成29年(許)第9号
平成29年12月21日
終局決定の変更決定に対する許可抗告事件
【判示事項】    国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関する法律に基づき子の返還を命じた終局決定が同法117条1項の規定により変更された事例
【判決要旨】    国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関する法律に基づくXの申立てによりその子であるA,B,C及びDを米国に返還するよう命ずる終局決定が確定した場合において,次の(1)~(4)などの事情の下では,A及びBについては同法28条1項ただし書の規定を適用すべきであるとはいえず,C及びDについては同項4号の返還拒否事由があるものとして,上記決定の確定後の事情の変更によってこれを維持することが不当となるに至ったと認め,同法117条1項の規定によりこれを変更し,上記申立てを却下するのが相当である。
          (1) 上記決定は,A及びBについては,同法28条1項5号の返還拒否事由があると認めながら,米国に返還することが子の利益に資すると認めて同項ただし書の規定を適用すべきものとし,C及びDについては,返還拒否事由があるとは認められないことなどを理由とするものであった。
          (2) Xは,子らを適切に監護するための経済的基盤を欠いており,その監護養育について親族等から継続的な支援を受けることも見込まれない状況にあったところ,上記決定の確定後,居住していた自宅を明け渡し,それ以降,子らのために安定した住居を確保することができなくなった結果,子らが米国に返還された場合のXによる監護養育態勢が看過し得ない程度に悪化した。
          (3) A及びBは,米国に返還されることを一貫して拒絶している。
          (4) C及びDのみを米国に返還すると,密接な関係にある兄弟姉妹を日本と米国とに分離する結果を生ずる。
(補足意見がある。)
【参照条文】    国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関する法律28-1
          国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関する法律117-1
【掲載誌】     最高裁判所裁判集民事257号63頁

国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関する法律
(子の返還拒否事由等)
第二十八条 裁判所は、前条の規定にかかわらず、次の各号に掲げる事由のいずれかがあると認めるときは、子の返還を命じてはならない。ただし、第一号から第三号まで又は第五号に掲げる事由がある場合であっても、一切の事情を考慮して常居所地国に子を返還することが子の利益に資すると認めるときは、子の返還を命ずることができる。
一 子の返還の申立てが当該連れ去りの時又は当該留置の開始の時から一年を経過した後にされたものであり、かつ、子が新たな環境に適応していること。
二 申立人が当該連れ去りの時又は当該留置の開始の時に子に対して現実に監護の権利を行使していなかったこと(当該連れ去り又は留置がなければ申立人が子に対して現実に監護の権利を行使していたと認められる場合を除く。)。
三 申立人が当該連れ去りの前若しくは当該留置の開始の前にこれに同意し、又は当該連れ去りの後若しくは当該留置の開始の後にこれを承諾したこと。
四 常居所地国に子を返還することによって、子の心身に害悪を及ぼすことその他子を耐え難い状況に置くこととなる重大な危険があること。
五 子の年齢及び発達の程度に照らして子の意見を考慮することが適当である場合において、子が常居所地国に返還されることを拒んでいること。
六 常居所地国に子を返還することが日本国における人権及び基本的自由の保護に関する基本原則により認められないものであること。
2 裁判所は、前項第四号に掲げる事由の有無を判断するに当たっては、次に掲げる事情その他の一切の事情を考慮するものとする。
一 常居所地国において子が申立人から身体に対する暴力その他の心身に有害な影響を及ぼす言動(次号において「暴力等」という。)を受けるおそれの有無
二 相手方及び子が常居所地国に入国した場合に相手方が申立人から子に心理的外傷を与えることとなる暴力等を受けるおそれの有無
三 申立人又は相手方が常居所地国において子を監護することが困難な事情の有無
3 裁判所は、日本国において子の監護に関する裁判があったこと又は外国においてされた子の監護に関する裁判が日本国で効力を有する可能性があることのみを理由として、子の返還の申立てを却下する裁判をしてはならない。ただし、これらの子の監護に関する裁判の理由を子の返還の申立てについての裁判において考慮することを妨げない。

(終局決定の変更)
第百十七条 子の返還を命ずる終局決定をした裁判所(その決定に対して即時抗告があった場合において、抗告裁判所が当該即時抗告を棄却する終局決定(第百七条第二項の規定による決定を除く。以下この項において同じ。)をしたときは、当該抗告裁判所)は、子の返還を命ずる終局決定が確定した後に、事情の変更によりその決定を維持することを不当と認めるに至ったときは、当事者の申立てにより、その決定(当該抗告裁判所が当該即時抗告を棄却する終局決定をした場合にあっては、当該終局決定)を変更することができる。ただし、子が常居所地国に返還された後は、この限りでない。
2 前項の規定による終局決定の変更の申立書には、次に掲げる事項を記載しなければならない。
一 当事者及び法定代理人
二 変更を求める終局決定の表示及びその決定に対して変更を求める旨
三 終局決定の変更を求める理由
3 裁判所は、第一項の規定により終局決定を変更するときは、当事者(同項の申立てをした者を除く。)の陳述を聴かなければならない。
4 第一項の申立てを却下する終局決定に対しては、当該申立てをした者は、即時抗告をすることができる。
5 第一項の規定により終局決定を変更する決定に対しては、即時抗告をすることができる。
6 前各項に規定するもののほか、第一項の規定による終局決定の変更の手続には、その性質に反しない限り、各審級における手続に関する規定を準用する。