個人情報の保護に関する法律25条1項に基づき個人情報の開示を裁判手続により請求することの可否 | 法律大好きのブログ(弁護士村田英幸)

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個人情報の保護に関する法律25条1項に基づき個人情報の開示を裁判手続により請求することの可否(消極)

 

東京地判平成19年6月27日判タ1275号323頁 判時1978号27頁 

【参照条文】 個人情報の保護に関する法律25(第三者提供に係る記録の作成等)

 

個人情報の保護に関する法律

(第三者提供の制限)

第二十七条 個人情報取扱事業者は、次に掲げる場合を除くほか、あらかじめ本人の同意を得ないで、個人データを第三者に提供してはならない。

一 法令に基づく場合

二 人の生命、身体又は財産の保護のために必要がある場合であって、本人の同意を得ることが困難であるとき。

三 公衆衛生の向上又は児童の健全な育成の推進のために特に必要がある場合であって、本人の同意を得ることが困難であるとき。

四 国の機関若しくは地方公共団体又はその委託を受けた者が法令の定める事務を遂行することに対して協力する必要がある場合であって、本人の同意を得ることにより当該事務の遂行に支障を及ぼすおそれがあるとき。

五 当該個人情報取扱事業者が学術研究機関等である場合であって、当該個人データの提供が学術研究の成果の公表又は教授のためやむを得ないとき(個人の権利利益を不当に侵害するおそれがある場合を除く。)。

六 当該個人情報取扱事業者が学術研究機関等である場合であって、当該個人データを学術研究目的で提供する必要があるとき(当該個人データを提供する目的の一部が学術研究目的である場合を含み、個人の権利利益を不当に侵害するおそれがある場合を除く。)(当該個人情報取扱事業者と当該第三者が共同して学術研究を行う場合に限る。)。

七 当該第三者が学術研究機関等である場合であって、当該第三者が当該個人データを学術研究目的で取り扱う必要があるとき(当該個人データを取り扱う目的の一部が学術研究目的である場合を含み、個人の権利利益を不当に侵害するおそれがある場合を除く。)。

2 個人情報取扱事業者は、第三者に提供される個人データについて、本人の求めに応じて当該本人が識別される個人データの第三者への提供を停止することとしている場合であって、次に掲げる事項について、個人情報保護委員会規則で定めるところにより、あらかじめ、本人に通知し、又は本人が容易に知り得る状態に置くとともに、個人情報保護委員会に届け出たときは、前項の規定にかかわらず、当該個人データを第三者に提供することができる。ただし、第三者に提供される個人データが要配慮個人情報又は第二十条第一項の規定に違反して取得されたもの若しくは他の個人情報取扱事業者からこの項本文の規定により提供されたもの(その全部又は一部を複製し、又は加工したものを含む。)である場合は、この限りでない。

一 第三者への提供を行う個人情報取扱事業者の氏名又は名称及び住所並びに法人にあっては、その代表者(法人でない団体で代表者又は管理人の定めのあるものにあっては、その代表者又は管理人。以下この条、第三十条第一項第一号及び第三十二条第一項第一号において同じ。)の氏名

二 第三者への提供を利用目的とすること。

三 第三者に提供される個人データの項目

四 第三者に提供される個人データの取得の方法

五 第三者への提供の方法

六 本人の求めに応じて当該本人が識別される個人データの第三者への提供を停止すること。

七 本人の求めを受け付ける方法

八 その他個人の権利利益を保護するために必要なものとして個人情報保護委員会規則で定める事項

3 個人情報取扱事業者は、前項第一号に掲げる事項に変更があったとき又は同項の規定による個人データの提供をやめたときは遅滞なく、同項第三号から第五号まで、第七号又は第八号に掲げる事項を変更しようとするときはあらかじめ、その旨について、個人情報保護委員会規則で定めるところにより、本人に通知し、又は本人が容易に知り得る状態に置くとともに、個人情報保護委員会に届け出なければならない。

4 個人情報保護委員会は、第二項の規定による届出があったときは、個人情報保護委員会規則で定めるところにより、当該届出に係る事項を公表しなければならない。前項の規定による届出があったときも、同様とする。

5 次に掲げる場合において、当該個人データの提供を受ける者は、前各項の規定の適用については、第三者に該当しないものとする。

一 個人情報取扱事業者が利用目的の達成に必要な範囲内において個人データの取扱いの全部又は一部を委託することに伴って当該個人データが提供される場合

二 合併その他の事由による事業の承継に伴って個人データが提供される場合

三 特定の者との間で共同して利用される個人データが当該特定の者に提供される場合であって、その旨並びに共同して利用される個人データの項目、共同して利用する者の範囲、利用する者の利用目的並びに当該個人データの管理について責任を有する者の氏名又は名称及び住所並びに法人にあっては、その代表者の氏名について、あらかじめ、本人に通知し、又は本人が容易に知り得る状態に置いているとき。

6 個人情報取扱事業者は、前項第三号に規定する個人データの管理について責任を有する者の氏名、名称若しくは住所又は法人にあっては、その代表者の氏名に変更があったときは遅滞なく、同号に規定する利用する者の利用目的又は当該責任を有する者を変更しようとするときはあらかじめ、その旨について、本人に通知し、又は本人が容易に知り得る状態に置かなければならない。

 

 1 本件は、医療法人である被告の開設する診療所で診療を受けた原告らが、被告に対し、個人情報の保護に関する法律(以下「法」という。)25条1項に基づき、それぞれ自己の診療録の開示を求めるとともに、被告が上記各診療録を開示しない旨の決定をしたことを原告らに対して遅滞なく通知する義務(法25条2項)の履行を怠ったことにより精神的苦痛を受けたと主張して、それぞれ損害賠償を求めた事案である。

  2 本判決は、①法は、25条1項による開示の求め等に関する苦情の処理については、個人情報取扱事業者、業界団体による自主的な紛争解決を期待しており、そのために、本人(法2条6項)が裁判外の各種の方法によって苦情の解決を求められる仕組みを設けるとともに、そのような自主的解決が期待できない場合の主務大臣による関与の仕組みを設けているものといえること、②仮に、本人が、法25条1項に基づき個人情報取扱事業者に対する保有個人データの開示を裁判手続により請求することができると解すると、法が定めた当事者間における自主的紛争解決手段や主務大臣による紛争解決手段によるよりも裁判上の請求の方が直截であるとして、法の定めた紛争解決手段によることなく、直接裁判上の開示請求がされることになり、紛争解決手段に関する法の規定が空文化することにもなりかねないこと、③個人情報取扱事業者は、法25条1項の開示の求め等に関し、その求めを受け付ける方法を定めることができる(法29条1項)上、当該開示の実施に関し、手数料を徴収することもできる(法30条)が、本人が法25条1項に基づき個人情報取扱事業者に対して保有個人データの開示を裁判手続により請求することができるとなると、このような規定も適用の余地がなくなるが、法は、このような事態が生ずることを予定していないというベきであること、④法25条1項は、その標題が「開示」とされ、個人情報の開示を専ら個人情報取扱事業者の義務として規定し、本人の開示請求権を正面からは規定していないことからすると、同項は、文言上も、行政機関(主務大臣)に対する義務として個人情報取扱事業者の開示義務を規定しているものであって、本人が開示請求権を有する旨を規定しているものではないと解されることから、法25条1項は本人に保有個人データの開示請求権を付与した規定であると解することは困難であって、本人は、同項の規定に基づき、個人情報取扱事業者に対し、保有個人データの開示を裁判手続により請求することはできないと判示して、原告らの診療録開示請求を棄却した。

  また、原告らの損害賠償請求については、原告らに金銭をもって慰謝されなければならないような精神的損害が生じたとは認めることができないとして、これを棄却した。