意匠法の令和元年改正16 第16章 施行日 | 法律大好きのブログ(弁護士村田英幸)

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第16章 施行日

・ 令和元年改正意匠法のほとんどの規定は令和2年4月に施行済み。

・ 複数意匠一括出願手続の導入(第7条)、物品区分の扱いの見直し(第7条)、手続救済規定の拡充(第15条第1項、第60条の10第2項及び第68条第1項)についての規定は、令和3年4月に施行。

複数意匠一括出願手続の導入

・ 意匠登録出願は、意匠ごとに出願しなければならず、一つの出願に一つの意匠しか含めることができない。

・ 近年、製品に一貫したデザインコンセプトを用いてブランド価値を高める企業が増えている中、出願手続の負担が生じている。

・ 複数の意匠登録出願を一の願書により一括して行う手続について省令で規定した。

改正法第7条

意匠登録出願は、経済産業省令で定める物品の区分ところにより、意匠ごとにしなければならない。 複数の意匠登録出願を一の願書により一括して行う手続について意匠法施行規則第2条の2等で規定した。

改正後(現行の出願方法も維持)

(1意匠ごとに1つの意匠権を発生させるという原則は維持)

・ 出願手続後、手続番号が通知され、方式審査が行われる。

・ 方式審査完了等の要件を満たした後、個別の意匠登録出願に出願番号が通知される。

・ 実体審査や意匠登録は、現行制度と同様に個別の意匠登録出願について行う。 複数意匠一括出願手続 手続番号通知 方式審査手続補正等

手続補正等

・ 一括可能な出願数上限:100

・ 一括可能な意匠の範囲:無制限

・ 出願手数料:16,000円×出願数

・ オンラインによる手続可

・ DAS利用可

証明書の提出

(法定期間内)

複数意匠一括出願手続の終了

※新規性喪失の例外適用を受けようとする場合は、提出可能期間が経過するまで、優先権を主張する場合は、証明書が提出されるか証明書の提出可能期間が経過するまでは複数意匠一括出願手続は

終了しない。

・ 複数意匠一括出願手続の願書は、様式第二の二により作成しなければならない。

・ 願書の一部の記載は、含まれる全ての意匠登録出願について、当該事項と同一の内容の事項が記載された願書によりされたものとみなされる。

・ 意匠に係る物品、創作者情報、意匠に係る物品の説明、意匠の説明の欄は、意匠ごとに設けなければならない。

手続書作成例(様式第二の二)

• 意匠登録出願人の氏名又は名称及び住所又は居所

• 代理人の氏名又は名称及び住所又は居所

• 秘密意匠を請求するための記載事項(必要書面提出省

略時)

• 出願人が意匠登録を受ける権利の信託の受託者である場合の記載事項

• 共同出願において出願人の権利について持分の定めがあるなどの場合の持分割合

• 新規性喪失の例外適用を受けようとする場合の記載事項(必要書面提出省略時)

• パリ条約に基づく優先権を主張する場合の記載事項(必要書面提出省略時)

• 共同出願において手続をするための代表者を定める届出を特許庁にしたときの記載事項

全ての意匠登録出願が、これらを記載した願書によりされたものとみなされる。

願書とともに提出された書類の扱い

・ 複数意匠一括出願手続において提出された一部の書類は、その提出日に、含まれる全ての意匠登録出願に対し提出されたものとみなされる。

• 新規性喪失の例外適用を受けようとする旨を記載した書面

• 新規性喪失の例外適用証明書

• 秘密を請求するための必要事項を記載した書面

• 優先権を主張するための出願番号記載書面

• 優先権証明書又はアクセスコード等を記載した書面

全ての意匠登録出願に対し提出されたものとみなされる。

複数意匠一括出願手続の

願書・図面 その他の提出書類

複数意匠一括出願手続に含めることができない出願等

・ 分割出願や変更出願などの一部の出願については、複数意匠一括出願手続に含めるこ

とはできない。

・ 特徴記載書等の一部の書類は、複数意匠一括出願手続について提出することができな

い。

• 特徴記載書

• 出願放棄書

• 出願取下書

• 複数意匠一括出願手続に含まれる意匠登録出願の数を変更する手続補正書

複数意匠一括出願手続に含めることができない出願

複数意匠一括出願手続において提出することができない書類

• 分割出願

• 変更出願

• 補正却下決定後の新出願

• 国際意匠登録出願

※特徴記載書、出願放棄書及び出願取下書は、複数意匠一括出願手続終了後に個別の意匠登録出願について提出することができる。

優先権証明書の交付等の請求

・ 優先権証明書の交付、意匠登録に関する書類の謄本等の交付及び閲覧の請求は、複数意匠一括出願手続番号によって請求することで、当該手続に含まれる複数の意匠登録出願について一括請求することが可能。(出願番号通知後も請求可能)

・ 従来どおり、出願番号によって請求することで、個別の意匠登録出願について請求することも可能。

優先権証明書の交付、意匠登録に関する書類の謄本の交付及び閲覧請求

複数意匠一括出願手続番号で請求

出願番号で請求

物品の区分の扱いの見直し

物品の区分の廃止

・ 物品区分表の機動的な改定が困難であり、どの物品の区分にもあてはまらないという

不都合を回避するため、願書に記載すべき物品の粒度を定めている「物品区分表」を

廃止し、経済産業省令に「一意匠」の対象となる基準を設けることとした。

現行の「意匠に係る物品の区分」が記載された

意匠法施行規則別表第一(7条関係)

出願や審査の便宜という観点から願書に記載すべき物品の粒度を揃えるために、経済産業省令で「物品の区分」を定めることとしていた。

改正後

意匠法第7条の「経済産業省令で定める物品の区分により」の部分を削除するとともに、「意匠ごと」と規定される客体である「一意匠」の対象が不明確となる恐れがあるため、「一意匠」の対象となる「一物品」、「一建築物」、「一画像」の基準について、経済産業省令で定めることとした。

改正前

「一意匠」の粒度

・ 意匠に係る物品等の用途及び機能を明確に認識できる場合に、一意匠として適切な粒度で出願されたものと判断される。

・ 意匠に係る物品等の用途及び機能を明確に認識できるか否かについては、願書の「意匠に係る物品」の欄の記載のみならず、願書のその他の欄の記載及び願書に添付された図面等から総合的に判断される。

改正意匠法施行規則第7条

意匠法第7条の規定により意匠登録出願をするときは、意匠登録を受けようとする意匠ごとに、意匠に係る物品若しくは意匠に係る建築物若しくは画像の用途、組物又は内装が明確となるように記載するものとする。

意匠審査基準 第Ⅱ部第2章1.

審査官は、出願された意匠が、この要件を満たしているか否かを判断するにあたり、願書の「意匠に係る物品」の欄の記載のみならず、願書のその他の欄の記載及び願書に添付された図面等を総合的に判断し、意匠登録を受けようとする意匠の意匠に係る物品等の用途及び機能を明確に認識できる場合は、この要件を満たしたものと判断する。

(1)願書の「意匠に係る物品」の欄の記載として適切なものの例

「意匠登録出願の願書及び図面等の記載の手引き」別添の一覧表「意匠に係る物

品等の例」参照

(2)願書の「意匠に係る物品」の欄の記載のみでは、出願された意匠の意匠に係る物品等の用途及び機能を明確に認定することができないものの、願書の記載及び願書に添付した図面等を総合的に判断すれば、用途及び機能を明確に認定することができるものの例

意匠に係る物品等の用途及び機能が明確なものの例

(意匠審査基準第Ⅱ部 第2章 3.3 )

意匠に係る物品等の用途及び機能が不明確なものの例①

(1)願書の「意匠に係る物品」の欄の記載が、以下に該当するもの

① 意匠の属する分野において、日本語(国際意匠登録出願の場合は英語)の

一般的な名称として使用されていないもの

(例:日本語(国際意匠登録出願の場合は英語)以外の言語によるもの、一般的な名称として広く認識されるに至っていない省略名称、商標や商品名等の固有名詞を付したもの。ただし、日本語の場合、アルファベットによる略称表記

(例、「LED」、「DVD」等)を含むものであっても、一般的な名称として使用されているものである場合には、問題のないものとして扱う。)

② 用途及び機能を何ら認定することができないもの

(例:「物品」、「もの」)

(意匠審査基準第Ⅱ部 第2章 3.2 )

意匠に係る物品等の用途及び機能が不明確なものの例②

意匠に係る物品 「産業用部品」

意匠に係る物品 「装飾部品」

意匠に係る物品の説明(記載なし)

【斜視図】

本事例では、「意匠に係る物品」の欄の記載が不明確であり、図面の記載を考慮しても、何を装飾するものであるのか等、用途及び機能が明らかでなく、この意匠の意匠に係る物品等を明確に認定することができない。

(意匠審査基準第Ⅱ部 第2章 3.2(2) )

(2)願書の記載及び願書に添付した図面等を総合的に判断しても、出願された意匠の意匠に係る物品等の用途及び機能を明確に認定することができないもの

意匠に係る物品等を例示した一覧表「意匠に係る物品等の例」

・ ユーザーが出願する際、願書の「意匠に係る物品」の欄の記載の指針となるよう、意匠に係る物品等を例示した一覧表「意匠に係る物品等の例」(日・英)を作成し、特許庁ウェブサイト上に「意匠登録出願の願書及び図面等の記載の手引き」の別添として公表予定。

・ 「意匠に係る物品等の例」は、従来の意匠法施行規則別表第一を基としつつ、近年の登録実績を元にした追加・削除、掲載順や古い表記の見直し等の修正を行っている。

手続救済規定の拡充

拡充される手続救済

・ 出願人に対する救済措置を充実させるべく、特許法を準用し、指定期間経過後の請求による指定期間の延長、優先期間経過後の優先権主張を伴う意匠登録出願(正当な理由があるときに限る)、優先権書類の未提出通知を受けた後の優先権書類の提出を認めることとした。

指定期間経過後の請求による指定期間の延長

優先期間経過後の優先権主張を伴う意匠登録出願

(期間内に出願できない正当な理由があるときに限る)

優先権書類の未提出通知を受けた後の優先権書類の提出

特許法の準用によって拡充される手続救済

意匠法第六十八条第一項で準用する特許法第五条第三項

意匠法第十五条第一項で準用する特許法第四十三条の二

意匠法第十五条第一項及び第六十条の十第二項で準用する特許法第四十三条第六項及び第7項

指定期間経過後の請求による指定期間の延長

・ 補正指令や拒絶理由通知等に記載された、特許庁長官等の指定する期間(指定期間)

を、当該指定期間経過後2か月以内であれば、出願人の請求により2か月間延長することができる。(1手続につき1回限り)

・ 手数料は4,200円(拒絶理由通知に記載された指定期間の延長は7,200円)。

・ 指定期間内に拒絶理由通知に対する応答をしたときは、延長請求することはできない。

〔特許庁〕

〔出願人等〕

指定期間 2か月

補正指令・拒絶理由通知等 期間延長請求書+手数料

指定期間を2か月間延長できる。

※期間延長請求は1回限り

(4,200円。拒絶理由通知に記載された指定期間を延長する場合は7,200円)

※拒絶査定不服審判請求後の拒絶理由通知等については、対象外

指定期間内の請求による指定期間の延長

・ 指定期間経過後の請求による指定期間の延長を可能としたことに伴い、これまで認められていなかった、国内居住者による指定期間内の延長請求も可能とする。

・ 国内居住者、在外者ともに、指定期間内の請求によって延長される期間は2か月。

・ 手数料は2,100円。

・ 指定期間内の請求により延長された指定期間について、指定期間内・指定期間経過後にかかわらず、再度の延長は請求できない。

〔特許庁〕

〔出願人等〕

指定期間 2か月

補正指令・拒絶理由通知等

期間延長請求書+手数料

指定期間を2か月間

延長できる。

※期間延長請求は1回限り

出願人 従来 R3.4~

国内居住者 不可 2か月

在外者 1か月 2か月

指定期間内の請求によって

延長される期間

(2,100円)

※拒絶査定不服審判請求後の拒絶理由通知等については、現行のまま

出願

優先期間経過後の優先権主張を伴う意匠登録出願

・ 優先期間内に出願できなかったことについて正当な理由があるときは、優先期間経過

後2か月以内にした意匠登録出願について優先権を主張することができる。

〔特許庁〕

〔出願人等〕

優先期間(6か月) 2か月

• 優先権主張を伴う意匠登録出願

• 回復理由書及び証拠書類

〔第一国官庁〕

優先期間内に出願できなかったことについて正当な理由があるときは、優先権を主張できる。

・ 期間徒過の原因となった事象が予測可能であるといえる場合(例えば、計画的な入院による代理人の不在、計画停電によるオンライン手続不能等)は、出願人等の講じた措置の如何を問わず、原則として「正当な理由」に該当しないと判断される。

・ 期間徒過の原因となった事象が予測可能であるといえない場合は、回復理由書の記載に基づき、出願人等が手続をするために事象の発生前・後に講じた措置が相応の措置といえるか否かの観点、及び措置を講ずべき者(出願人等及び代理人)の観点を含めて、「正当な理由」であるか否かについて判断される。

「正当な理由」について

※詳細は特許庁HP「期間徒過後の救済規定に係るガイドライン(四法共通)」参照

優先権書類の未提出通知を受けた後の優先権書類の提出

・ 優先権書類の提出期間(3か月)内に優先権書類の提出がなかったときは、特許庁長官は注意喚起のための通知をし、通知を受けた者は通知から2か月以内に優先権書類を提出することができる。

〔特許庁〕

〔出願人等〕

優先権証明書提出期間(3か月)

2か月

注意喚起のための通知

優先権証明書又はアクセスコード等を記載した書面

提出期間内に提出なし。

優先権証明書又はアクセスコード等を記載した書面

通知の日から2か月以内に提出できる

優先権主張を伴う意匠登録出願提出期間内に証明書の提出がなかったときに通知される

経過措置

(1)複数意匠一括出願手続の導入、物品区分の扱いの見直し、

手続救済規定の拡充(優先期間経過後の優先権主張を伴う意匠登録出願)

令和3年4月1日以後に出願された意匠登録出願に適用

(2)手続救済規定の拡充(優先期間経過後の優先権主張を伴う意匠登録出願を除く)

令和3年4月1日以後に指定期間・優先権書類提出期間を経過する意匠登録出願に適用

令和3年4月1日

法定・指定期間

救済規定の適用可

拒絶理由通知等