営造物の通常の用法に即しない行動の結果生じた事故と営造物の設置管理の瑕疵 最高裁判所第3小法廷 | 法律大好きのブログ(弁護士村田英幸)

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営造物の通常の用法に即しない行動の結果生じた事故と営造物の設置管理の瑕疵

最高裁判所第3小法廷判決/昭和53年(オ)第76号

昭和53年7月4日

損害賠償請求事件

【判示事項】    営造物の通常の用法に即しない行動の結果生じた事故と営造物の設置管理の瑕疵

【判決要旨】    営造物の通常の用法に即しない行動の結果事故が生じた場合において、その営造物として本来具有すべき安全性に欠けるところがなく、右行動が設置管理者において通常予測することのできないものであるときは、右事故が営造物の設置又は管理の瑕疵によるものであるということはできない。

【参照条文】    国家賠償法2-1

【掲載誌】     最高裁判所民事判例集32巻5号809頁

 

国家賠償法

第二条 道路、河川その他の公の営造物の設置又は管理に瑕疵があつたために他人に損害を生じたときは、国又は公共団体は、これを賠償する責に任ずる。

② 前項の場合において、他に損害の原因について責に任ずべき者があるときは、国又は公共団体は、これに対して求償権を有する。

 

       主   文

 本件上告を棄却する。

 上告費用は上告人の負担とする。

       理   由

 上告代理人浜田耕一、同原田豊の上告理由書及び上申書記載の各上告理由並びに同原田豊の補充上告理由について

 原審の確定したところによると、(1) 上告人(当時満6歳)は、昭和44年8月4日午前8時ころ被上告人の管理する神戸市a区b町c丁目d番地先道路(以下「本件道路」という。)南側端に設置してある防護柵(以下「本件防護柵」という。)を越えて約4メートル下の夢野合高等学校の校庭に転落し、頭蓋骨陥没骨折等の傷害を負った、(2) 本件道路は、昭和35年ころには右校庭から路面までの高さが約2メートルにすぎなかったが、その後の土砂の流入や道路舗装工事等により次第に路面が高くなり、前記事故当時にはその高さが約4メートルに達し、子どもの転落事故が数件発生したなどの事情により住民の声もあって被上告人が昭和40年本件防護柵を設置した、(3) 本件防護柵は、2メートル間隔に立てられた高さ80センチメートルのコンクリート柱に上下2本の鉄パイプを通して手摺とし、路面からの高さが上段手摺まで65センチメートル、下段手摺まで40センチメートルであり(神戸市内において1・5ないし6メートルの高低差のある場所における道路の防護柵は、路面から手摺までの高さが52ないし65センチメートルである。)、右鉄パイプは、この種の柵に通常用いられる丸棒状のものであって、幼児がこれを遊び道具とするのに好適なものではなかった、(4) 本件道路付近は、住宅地で昼間車両の通行量が少なく、付近に適当な遊び場所がないため、本件道路が子どもらの遊び場所となっており、親は転落の危険をおそれて子どもに本件防護柵で遊ばないよう注意を与えていた、(5) 上告人は、本件防護柵の上段手摺に後ろ向きに腰かけて遊ぶうち誤って転落したものと推認されるが、右防護柵設置の後他に子どもの転落事故が発生したとか、住民が被上告人に対し事故防止措置をとるよう陳情したとかいう事実はいずれも認められない、というのであり、右事実認定は、原判決挙示の証拠関係に照らし、是認することができる。

 ところで、国家賠償法2条1項にいう営造物の設置又は管理に瑕疵があったとみられるかどうかは、当該営造物の構造、用法、場所的環境及び利用状況等諸般の事情を総合考慮して具体的個別的に判断すべきものであるところ、前記事実関係に照らすと、本件防護柵は、本件道路を通行する人や車が誤って転落するのを防止するために被上告人によって設置されたものであり、その材質、高さその他その構造に徴し、通行時における転落防止の目的からみればその安全性に欠けるところがないものというべく、上告人の転落事故は、同人が当時危険性の判断能力に乏しい6歳の幼児であったとしても、本件道路及び防護柵の設置管理者である被上告人において通常予測することのできない行動に起因するものであったということができる。したがって、右営造物につき本来それが具有すべき安全性に欠けるところがあったとはいえず、上告人のしたような通常の用法に即しない行動の結果生じた事故につき、被上告人はその設置管理者としての責任を負うべき理由はないものというべきである。本件道路の設置又は管理に所論の瑕疵はないとした原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。

 よって、民訴法401条、95条、89条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

    最高裁判所第3小法廷