会社法の令和元年改正7-2 第2章 取締役に関する実務への影響 | 法律大好きのブログ(弁護士村田英幸)

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第2章 取締役に関する実務への影響

取締役に関する規律の変更が多く行われたため、この点についての実務的な影響を検討します。

 

今回の改正では取締役の報酬について、個人別の取締役報酬の決定方針を定める必要があるとされました。

決定方針として定めるべき範囲としては、会社法施行規則改正98条の4によると、以下の事項が含まれる予定です (このほか詳細は会社法施行規則改正案98条の4各号を参照してみてください)。

①取締役の個人別の報酬等の額又はその算定方法の決定に関する方針

②取締役の個人別の報酬等のうち、利益の状況を示す指標、株式の市場価格の状況を示す指標、 その他の当該株式会社又はその関係会社の業績を示す指標を基礎としてその額又は数が算定される報酬等(「業績連動報酬等」)がある場合には、 当該業績連動報酬等に係る業績指標の内容及び当該業績連動報酬等の額又は数の算定方法の決定に関する方針

③取締役の個人別の報酬等のうち、金銭でないものがある場合には、当該非金銭報酬等の内容及び当該非金銭報酬等の額若しくは数又はその算定方法の決定に関する方針

 

会社法改正以前も、有価証券報告書において、報酬額・算定方法の決定に関する方針の内容およびその決定方法について開示が求められていました。

したがって、報酬の決定方針について一定の指針がある会社は多く存在するものと思われますが、現在の決定方針の内容が今後会社法施行規則により定められる決定方針の内容と合致することになるのか、という点について検討することが必要です。

 

次に、取締役の報酬関連の改正として、株式等を報酬とする場合の規律の変化がありました。

旧法下の実務においては、取締役の報酬債権を現物出資する運用や、取締役が会社から受領した金銭を払い込み、株式等を受け取るような運用が行われていました。

今後は、取締役の報酬について株式・新株予約権を付与する場合には、払い込みが不要となるのでこれまでのような迂遠な処理は不要となります。

 

上場会社においては、株式や新株予約権を報酬の内容とする業績連動型報酬の採用についてより簡単に採用することができ、これまで以上の業績連動型報酬の導入が進むとともに、株主にとっても旧法のような金銭を形式的にと取締役に交付することによる取締役の報酬の内容の分かりにくさを解消することができ、双方にとって有益な、簡便な制度となりました。

 

職務執行の対価として払い込みなしに株式が発行される場合、労務出資禁止の原則に、なお抵触するのではないかという懸念も考えられますが、会計処理についてこれまでのストック・オプション等に関する会計基準にならった処理をすることで、債権者利益が害されることのないような処理がなされる予定です。

 

取締役に関連して、ここで補償契約・D&O保険契約の改正における実務的な影響についても検討します。

補償契約・D&O保険契約については、法務省の法的論点に関する解釈指針(脚注2)にも示されているような要件の下、これを締結している会社も存在していました。

今回、制度が明文化され新設されたことを踏まえ、自社の締結していた補償契約・D&O保険契約についてその内容を見直し、新制度におけるものと内容が適合するかを検討する必要があります。

 

社外取締役の活用についてです。

改正により、社外取締役設置の義務付けが行われましたが、社外取締役の設置自体は、上場会社のほとんどが行っているものであり、特に対処の必要はないものと考えられます。

 

社外取締役の業務執行への委託制度については、取引構造上利益相反関係の生まれるMBOを行うような場面での利用が期待されます。この際、都度取締役会決議により委託をすることが必要なので、注意が必要です。

今後は、社外性要件との関係で、社外取締役のどこまでの関与が許されるのか、といった点も検討課題となってくることになります。