法人税法三六条(過大な役員退職給与の損金不算入)及び同施行令七二条(過大な役員退職給与の額)の規 | 法律大好きのブログ(弁護士村田英幸)

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法人税法三六条(過大な役員退職給与の損金不算入)及び同施行令七二条(過大な役員退職給与の額)の規定の趣旨(原審判決引用)

 

 

法人税更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分取消請求控訴事件

【事件番号】      名古屋高等裁判所判決/平成2年(行コ)第12号

【判決日付】      平成4年6月18日

【判示事項】      (1) 法人税法三六条(過大な役員退職給与の損金不算入)及び同施行令七二条(過大な役員退職給与の額)の規定の趣旨(原審判決引用)

             (2) 役員退職給与の適正額の判定に当たり、同業種・類似規模法人(比較法人)の平均功績倍率を基準とすることの合理性(原審判決引用)

             (3) 法人税法施行令七二条(過大な役員退職給与の額)の規定にいう「同種の事業を営む法人」の意義(原審判決引用)

             (4) 比較法人の抽出における類似規模基準(原審判決引用)

             (5) 役員退職給与の適正額算定の比較法人の調査対象地域を、判定法人の本店所在地を管轄する税務署及びその近隣官署内に限定することの合理性(原審判決引用)

             (6) 適正な退職給与の額の算定に当たって、比較法人の功績倍率の平均値によることの合理性(原審判決引用)

             (7) 退職役員の最終報酬月額は著しく低額であるから、適正な退職給与の額の算定方式としては平均功績倍率法ではなく、一年当たり平均額法によるべきであるとの控訴人会社の主張が、著しく低額とはいえないとして排斥された事例(原審判決引用)

             (8) 法人税法三六条(過大な役員退職給与の損金不算入)、同施行令七二条(過大な役員退職給与の額)の規定内容はいずれも抽象的であって、具体的な課税基準を定めていないことから、同法条に基づく本件更正は憲法八四条の租税法律主義に違反する旨の控訴人会社の主張が、単に抽象的であるとか、細部まできめられていないというだけでただちに租税法律主義に反するものということはできないとして、排斥された事例

             (9) 法人税法三六条(過大な役員退職給与の損金不算入)、同法施行令七二条(過大な役員退職給与の額)の規定は退職給与額の相当性判断の基準について首肯できる程度に具体的、客観的に定めているということができるから、同法条に基づく課税をもって憲法八四条に反するということはできないとされた事例

             (10) 会社の営業部門の一部が当該会社から分離独立して別の会社(分離会社)となった場合で、しかも分離前の会社(当初会社)の役員が分離後も引続き両会社の役員を兼任しているような場合においては、分離会社の退職役員に対して支給される退職給与額の相当性を功績倍率方式に従って審査・判定するに当たり、当該退職役員の当初会社における役員在職期間をも通算して考慮すべきであるとの控訴人会社の主張が、分離会社はその設立とともに、法律上当初会社とは全く別個の法人となることは当然のことであり、右主張はこの事理を無視するものであるとして排斥された事例

【判決要旨】      (1) 法人税法三六条(過大な役員退職給与の損金不算入)及び同施行令七二条(過大な役員退職給与の額)の規定の趣旨は、法人の役員に対する退職給与が法人の利益処分たる性質を有している場合があることから、業務従事期間、退職事情、比較法人の退職給与支給状況等に照らして一般に相当と認められる金額に限り必要経費として損金算入を認め、右金額を超える部分は利益処分として損金算入を認めないとすることによって、個々の退職給与の実体に即した適正な課税を行おうとするものであると解される。

             (2) 役員の最終報酬月額は、退職間際に当該役員の報酬が大幅に引き下げられたなどの特段の事情のない限り、役員在職中における法人に対する功績の程度を最もよく反映しているものであり、功績倍率は、最終報酬月額と在職期間以外の退職給与金額算定に影響を及ぼす一切の事情を総合評価した係数であると考えられるのであるから、平均功績倍率方式は、そのような最終報酬月額と功績倍率を用いて法人税法施行令七二条の所定の各要素を考慮し、判定法人の退職給与と比較法人の退職給与支給事例との適切な比較検討を行うことができるものであるということができ、比較法人の退職給与支給事例の抽出が合理的に行われている限り、法令の規定の趣旨に合致するものであるというべきである。

             (3) 法人税法施行令七二条の規定にいう「同種の事業を営む法人」とは業種業態が全く同一であることを要するものではなく、判定法人との間で退職給与の額の水準が同程度であると考えられる範囲内のものであれば足りるというべきである。

             (4) 比較法人の抽出基準が売上金額、所得金額、総資産価額及び資本金額において控訴人会社と類似の法人を抽出するように定められていることは、右各条項がいずれも事業規模を示す指標であることに照らすと、法人税法施行令七二条(過大な役員退職給与の額)の趣旨に沿うものであり、合理的であるというべきである。

             (5) 一般的に役員退職給与の適正額の判定法人の対象となるべき法人を選択するに当たっては、判定法人の所在地と近接した経済事情の類似する地域に存する法人を調査することが最も適当であるというべきであるから、課税庁が調査対象地域をまず控訴人会社の本店所在地を管轄する税務署及び近隣税務署管内に限定したことは合理的であり、それによって比較法人を得ることができた以上、控訴人会社主張のようにあえて他の国税局の管轄地域まで調査対象地域を広げる必要はないというべきである。

             (6) 適正な退職給与の額の算定にあたって、控訴人会社主張のように最高の功績倍率値をもって比準する方式によると、比較法人の中にたまたま不相当に過大な退職給与を支給しているものがあったときには明らかに不合理な結論となるし、抽出された比較法人の功績倍率の平均値を算出することによって、比較法人間に通常存在する諸要素の差異その個々の特殊性が捨象され、より平準化された数値が得られるのであるから、平均値を用いることは、法令の規定の趣旨に沿うものであり、合理的であるというべきである。

             (7) 省略

             (8) 租税法律主義の原則は、国民の経済生活における法的安定性と予測可能性を保障するために、租税にかかわる法律の規定ができるだけ的確かつ細部にわたって定められていることを要求するものではあるけれども、他面租税は、複雑多様な経済事象に対応して的確に課税の目的を果たすこと等の要請にも応じなければならないから、租税法規が租税法律主義の原則に背馳するか否かの判断・解釈はこれら異なる二つの要請をふまえて総合的にされなければならない。したがって、当該租税法規が単に抽象的であるとか、細部まできめられていないというだけでただちに租税法律主義に反するものということはできず、右のような判断の原則に則り当該法規の目的とするところを合理的に解釈し、その法規が課税の根拠・要件を規定したものとして一般的に是認できるものであれば、当該租税法規は租税法律主義に反しないものというべきである。

             (9)・(10) 省略

【掲載誌】        税務訴訟資料189号727頁

 

法人税法

(過大な使用人給与の損金不算入)

第三十六条 内国法人がその役員と政令で定める特殊の関係のある使用人に対して支給する給与(債務の免除による利益その他の経済的な利益を含む。)の額のうち不相当に高額な部分の金額として政令で定める金額は、その内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しない。

 

法人税法施行令

(特殊関係使用人の範囲)

第七十二条 法第三十六条(過大な使用人給与の損金不算入)に規定する政令で定める特殊の関係のある使用人は、次に掲げる者とする。

一 役員の親族

二 役員と事実上婚姻関係と同様の関係にある者

三 前二号に掲げる者以外の者で役員から生計の支援を受けているもの

四 前二号に掲げる者と生計を一にするこれらの者の親族