債務引受と財産引受との関係 不当利得返還請求事件 最高裁判所第3小法廷判決 | 法律大好きのブログ(弁護士村田英幸)

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債務引受と財産引受との関係

 

 

              不当利得返還請求事件

【事件番号】      最高裁判所第3小法廷判決/昭和35年(オ)第675号

【判決日付】      昭和38年12月24日

【判示事項】      1、債務引受と財産引受との関係

             2、開業準備行為と発起人の権限

【判決要旨】      1、発起人が会社の成立を条件としてなした法律行為のうち、単純な債務引受のごときは財産引受にあたらないが、積極消極両財産を含む営業財産を一括して譲り受ける契約は、財産引受にあたる。

             2、発起人は、会社設立自体に必要な行為のほかは、開業準備行為といえども原則としてこれをなしえず、ただ、原始定款に記載されその他法定要件を充たした財産引受のみを例外的になしうるものと解すべきである。

【参照条文】      商法168-1

【掲載誌】        最高裁判所民事判例集17巻12号1744頁

 

会社法

第二十八条 株式会社を設立する場合には、次に掲げる事項は、第二十六条第一項の定款に記載し、又は記録しなければ、その効力を生じない。

一 金銭以外の財産を出資する者の氏名又は名称、当該財産及びその価額並びにその者に対して割り当てる設立時発行株式の数(設立しようとする株式会社が種類株式発行会社である場合にあっては、設立時発行株式の種類及び種類ごとの数。第三十二条第一項第一号において同じ。)

二 株式会社の成立後に譲り受けることを約した財産及びその価額並びにその譲渡人の氏名又は名称

三 株式会社の成立により発起人が受ける報酬その他の特別の利益及びその発起人の氏名又は名称

四 株式会社の負担する設立に関する費用(定款の認証の手数料その他株式会社に損害を与えるおそれがないものとして法務省令で定めるものを除く。)

 

(定款の記載又は記録事項に関する検査役の選任)

第三十三条1項 発起人は、定款に第二十八条各号に掲げる事項についての記載又は記録があるときは、第三十条第一項の公証人の認証の後遅滞なく、当該事項を調査させるため、裁判所に対し、検査役の選任の申立てをしなければならない。

 

債務引受とは、債務の契約による引受け。

ある人が負っている債務を別の人(引受人)が債権者との合意によって承継することをいう。

 

開業準備行為

「会社設立自体に必要な行為」は、成立後の会社との関係でも有効であると判示されています。「会社設立自体に必要な行為」とは、例えば、定款の作成や設立の登記手続を指します。

 

次に、上記判例は、「開業準備行為」は会社との関係では無効であると判示しています。「開業準備行為」とは、成立後に予定する事業を円滑に開始するための準備行為を指します。例えば、会社の成立前に、会社の事業のための従業員を雇い入れるとか、会社の宣伝広告活動をするなどのことです。したがって、判例に照らすと、会社成立前に従業員を雇い入れたり、宣伝広告活動をしたりしても、その契約は「開業準備行為」に該当するため、成立後の会社との関係では無効(つまり、契約の相手方は代金等を会社に請求できない)ということになります。

 

ただ、上記判例は、「開業準備行為」に該当するものであっても、「財産引受け」(会社成立を条件として財産を購入するという契約)は、会社法上の厳格な要件(定款への記載及び検査役の調査)を満たすから、成立後の会社との関係でも有効であると判示しています。