相続財産についての情報と個人情報保護法2条1項(定義)にいう「個人に関する情報」 最高裁 | 法律大好きのブログ(弁護士村田英幸)

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相続財産についての情報と個人情報保護法2条1項(定義)にいう「個人に関する情報」

 

最1小判平成31年3月18日裁判所時報1720号4頁  金融・商事判例1569号8頁

【判決要旨】 相続財産についての情報が被相続人に関するものとしてその生前に個人情報保護法2条1項にいう「個人に関する情報」に当たるものであったとしても、そのことから直ちに、当該情報が当該相続財産を取得した相続人または受遺者に関するものとして上記「個人に関する情報」に当たるということはできない。

【参照条文】 個人情報の保護に関する法律2-1(定義)

個人情報の保護に関する法律

(定義)

第二条 この法律において「個人情報」とは、生存する個人に関する情報であって、次の各号のいずれかに該当するものをいう。

一 当該情報に含まれる氏名、生年月日その他の記述等(文書、図画若しくは電磁的記録(電磁的方式(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式をいう。次項第二号において同じ。)で作られる記録をいう。以下同じ。)に記載され、若しくは記録され、又は音声、動作その他の方法を用いて表された一切の事項(個人識別符号を除く。)をいう。以下同じ。)により特定の個人を識別することができるもの(他の情報と容易に照合することができ、それにより特定の個人を識別することができることとなるものを含む。)

二 個人識別符号が含まれるもの

2 この法律において「個人識別符号」とは、次の各号のいずれかに該当する文字、番号、記号その他の符号のうち、政令で定めるものをいう。

一 特定の個人の身体の一部の特徴を電子計算機の用に供するために変換した文字、番号、記号その他の符号であって、当該特定の個人を識別することができるもの

二 個人に提供される役務の利用若しくは個人に販売される商品の購入に関し割り当てられ、又は個人に発行されるカードその他の書類に記載され、若しくは電磁的方式により記録された文字、番号、記号その他の符号であって、その利用者若しくは購入者又は発行を受ける者ごとに異なるものとなるように割り当てられ、又は記載され、若しくは記録されることにより、特定の利用者若しくは購入者又は発行を受ける者を識別することができるもの

3 この法律において「要配慮個人情報」とは、本人の人種、信条、社会的身分、病歴、犯罪の経歴、犯罪により害を被った事実その他本人に対する不当な差別、偏見その他の不利益が生じないようにその取扱いに特に配慮を要するものとして政令で定める記述等が含まれる個人情報をいう。

4 この法律において個人情報について「本人」とは、個人情報によって識別される特定の個人をいう。

5 この法律において「仮名加工情報」とは、次の各号に掲げる個人情報の区分に応じて当該各号に定める措置を講じて他の情報と照合しない限り特定の個人を識別することができないように個人情報を加工して得られる個人に関する情報をいう。

一 第一項第一号に該当する個人情報 当該個人情報に含まれる記述等の一部を削除すること(当該一部の記述等を復元することのできる規則性を有しない方法により他の記述等に置き換えることを含む。)。

二 第一項第二号に該当する個人情報 当該個人情報に含まれる個人識別符号の全部を削除すること(当該個人識別符号を復元することのできる規則性を有しない方法により他の記述等に置き換えることを含む。)。

6 この法律において「匿名加工情報」とは、次の各号に掲げる個人情報の区分に応じて当該各号に定める措置を講じて特定の個人を識別することができないように個人情報を加工して得られる個人に関する情報であって、当該個人情報を復元することができないようにしたものをいう。

一 第一項第一号に該当する個人情報 当該個人情報に含まれる記述等の一部を削除すること(当該一部の記述等を復元することのできる規則性を有しない方法により他の記述等に置き換えることを含む。)。

二 第一項第二号に該当する個人情報 当該個人情報に含まれる個人識別符号の全部を削除すること(当該個人識別符号を復元することのできる規則性を有しない方法により他の記述等に置き換えることを含む。)。

7 この法律において「個人関連情報」とは、生存する個人に関する情報であって、個人情報、仮名加工情報及び匿名加工情報のいずれにも該当しないものをいう。

8 この法律において「行政機関」とは、次に掲げる機関をいう。

一 法律の規定に基づき内閣に置かれる機関(内閣府を除く。)及び内閣の所轄の下に置かれる機関

二 内閣府、宮内庁並びに内閣府設置法(平成十一年法律第八十九号)第四十九条第一項及び第二項に規定する機関(これらの機関のうち第四号の政令で定める機関が置かれる機関にあっては、当該政令で定める機関を除く。)

三 国家行政組織法(昭和二十三年法律第百二十号)第三条第二項に規定する機関(第五号の政令で定める機関が置かれる機関にあっては、当該政令で定める機関を除く。)

四 内閣府設置法第三十九条及び第五十五条並びに宮内庁法(昭和二十二年法律第七十号)第十六条第二項の機関並びに内閣府設置法第四十条及び第五十六条(宮内庁法第十八条第一項において準用する場合を含む。)の特別の機関で、政令で定めるもの

五 国家行政組織法第八条の二の施設等機関及び同法第八条の三の特別の機関で、政令で定めるもの

六 会計検査院

9 この法律において「独立行政法人等」とは、独立行政法人通則法(平成十一年法律第百三号)第二条第一項に規定する独立行政法人及び別表第一に掲げる法人をいう。

10 この法律において「地方独立行政法人」とは、地方独立行政法人法(平成十五年法律第百十八号)第二条第一項に規定する地方独立行政法人をいう。

11 この法律において「行政機関等」とは、次に掲げる機関をいう。

一 行政機関

二 地方公共団体の機関(議会を除く。次章、第三章及び第六十九条第二項第三号を除き、以下同じ。)

三 独立行政法人等(別表第二に掲げる法人を除く。第十六条第二項第三号、第六十三条、第七十八条第一項第七号イ及びロ、第八十九条第四項から第六項まで、第百十九条第五項から第七項まで並びに第百二十五条第二項において同じ。)

四 地方独立行政法人(地方独立行政法人法第二十一条第一号に掲げる業務を主たる目的とするもの又は同条第二号若しくは第三号(チに係る部分に限る。)に掲げる業務を目的とするものを除く。第十六条第二項第四号、第六十三条、第七十八条第一項第七号イ及びロ、第八十九条第七項から第九項まで、第百十九条第八項から第十項まで並びに第百二十五条第二項において同じ。)

 

 

1 事案の概要

  (1) 本件は、Xが、銀行であるYに対し、個人情報の保護に関する法律(以下、「個人情報保護法」という)28条1項に定める保有個人データの開示請求権に基づき、Xの死亡した母がYに提出していた印鑑届書の写しの交付を求めた事案である。

  (2) 事実関係の概要は次のとおりである。

  Xの母は、平成15年にYの支店に普通預金口座を開設した際、自らの氏名、住所、生年月日等の記載と銀行印による押印のある印鑑届書(以下、「本件印鑑届書」という)をYに提出した。Xの母は、平成16年に死亡し、Xは、母の自筆証書遺言により、上記の普通預金口座の預金債権の一部を取得した。Xは、上記預金口座の開設と同日付けの上記自筆証書遺言の作成の真正等に疑問を持ち、その真偽を確認するために、Yに対して本件印鑑届書の写しの開示を求める本件訴訟を提起した。

  (3) 原審は、本件印鑑届書について、Xの母の生前において同人の預金口座についての個人情報であったから、同預金の相続人等であるXの個人に関する情報に当たるなどと判示して、Xの請求を認容した。

  本判決は、判決要旨のとおり判示して、原判決を破棄し、Xの請求を棄却した。

 2 個人情報保護法と死者に関する情報

  個人情報保護法は、事業者における個人情報の適正な取扱いを担保するためには個人本人が自己の情報をチェックすることができるようにすることが重要であるとの観点から、保有個人データについて、開示請求権(28条1項)、訂正請求権(29条1項)、利用停止請求権(30条1項)を規定している。ある情報が開示請求者の保有個人データ(2条7項)に当たるというためには、少なくとも当該情報が開示請求者本人の「個人に関する情報」に該当することが必要である。

  個人情報保護法は、保護の対象を生存する個人に関する情報に限っており(個人情報保護法2条1項)、開示請求権についても、自己に関する保有個人データのみが対象とされており、遺族において死者に関する情報の開示を求めることは予定されていない。もっとも、死者に関する情報であっても、それが同時に遺族等の生存する個人の「個人に関する情報」に当たる場合には、当該生存する個人の保有個人データとして開示請求の対象となり得る。どのような場合に、死者に関する情報が生存する個人に関する情報に当たるといえるかは、立法時の国会審議においても議論がされたものの、その基準は明らかではなく、実態を踏まえながら検討していくこととされた(右崎正博=多賀谷一照ほか編『新基本法コンメンタール 情報公開法・個人情報保護法・公文書管理法』173頁)。

  園部逸夫=藤原靜雄編『個人情報保護法の解説〔第二次改訂版〕』60頁は、「相続財産に関する情報は、被相続人である死者に関する情報であるが、これは同時に相続人に関する情報でもある場合が少なくない。しかし、相続財産に関する情報が、相続人についての『個人情報』として本法の対象となるためには、当該情報により特定の相続人を識別できることが求められ、相続財産に関する情報に相続人の氏名が含まれている場合などは、生存する個人を識別できるものとして、当然に本法の対象となる」としている。

 3 本判決

  原審は、被相続人が死亡時に有していた財産についての情報は、当該財産が相続人等に移転することにより、当該情報も相続人等に帰属することになるとして、被相続人の財産についての個人情報であった情報は当該財産を取得した相続人の個人情報に当たると判断した。しかし、財産の移転に伴って情報も移転するかのような考え方は採り得ず、また、ある個人がどのような財産を保有しているかという情報については当該個人の「個人に関する情報」であるといえるとしても、財産についての情報が必ずしも当該財産を保有する者の「個人に関する情報」に当たるものでもない。個人情報保護法の目的や開示請求権等の趣旨に照らせば、ある情報が特定の個人にとっての「個人に関する情報」に当たるか否かは、当該個人との関係を離れて判断することはできず、当該情報の内容と当該個人との関係を個別に検討して判断すべきものと考えられる。

  本判決は、このような観点から、相続財産についての情報が被相続人の生前に「個人に関する情報」に当たるものであったとしても、そのことから直ちに、当該情報が当該相続財産を取得した相続人等の「個人に関する情報」に当たるということはできないとしたものと解される。その上で、本件印鑑届書に含まれる氏名、住所、銀行印の印影といった情報の内容とXとの関係を検討し、これらの情報はいずれもXに関わりのあるものとはいえないことからXの「個人に関する情報」に当たらないとして、Xの開示請求を棄却したものである。