本件土地建物の売買につき、当初締結された第一契約書には売買代金を一億七〇〇〇万円とする旨記載され | 法律大好きのブログ(弁護士村田英幸)

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本件土地建物の売買につき、当初締結された第一契約書には売買代金を一億七〇〇〇万円とする旨記載されているが、買主が代替土地建物の取得契約の手付金流しをしてまで解約していることなどからすれば、第一契約は白紙撤回されたものと認められ、納税者としてはその後に締結された第二契約書に記載された九〇〇〇万円で本件土地建物を売却することに応じたものと解すべきであるとされた事例


    所得税の更正の請求に対する更正すべき理由がない旨の通知処分等取消請求控訴事件
【事件番号】    東京高等裁判所判決/平成6年(行コ)第92号
【判決日付】    平成8年5月13日
【判示事項】    (1) 本件土地建物の売買につき、当初締結された第一契約書には売買代金を一億七〇〇〇万円とする旨記載されているが、買主が代替土地建物の取得契約の手付金流しをしてまで解約していることなどからすれば、第一契約は白紙撤回されたものと認められ、納税者としてはその後に締結された第二契約書に記載された九〇〇〇万円で本件土地建物を売却することに応じたものと解すべきであるとされた事例
          (2) 本件土地建物の売買に係る取引は、通常の売買と異なり、売却代金の支払に代えて代替物件を同額で譲渡するという実質上の交換取引であり、収入が金銭以外の物等である場合は、所得時における当該物件の当時の取引価額でその額を評価するのが適切であるから、本件土地建物の譲渡代金は、契約書に記載された九〇〇〇万円ではなく納税者が実質上交換取得した代替物件の価額と納税者の税金の補填のため買主から給付された金員の合計額一億六四九〇万円であるとされた事例
          (3) 本件土地建物の売買価額は、当初締結された第一契約書記載の一億七〇〇〇万円であるにもかかわらず、売買価額を九〇〇〇万円とする第二契約書を作成して所得金額を過少に申告したことは仮装・隠ぺいに当たるとの課税庁の主張が、第一契約は白紙撤回されたものであり、納税者は本件土地建物の売買代金を、代替物件の納税者なりの評価額である九〇〇〇万円と認識していたと認められるから、税金分として現金で取得した部分を除き、事実の仮装・隠ぺいをしたことには該当しないとして重加算税賦課決定処分の一部が取り消された事例
          (4) 本件土地建物の譲渡につき、納税者は契約書記載金額の外に買主から納税者に課される税金の補填のために給付された金員を取得し、当該金員を契約書記載金額に加算して申告すべきであったにもかかわらず、当該金員をことさらに売買契約書に記載せず隠ぺいしたことが明らであり(納税者の人柄にかんがみると、故意に隠ぺいし脱税を試みたとまでは認められないが、この部分については相応の行為責任を負うべきである。)その部分については重加算税を課すことが相当であるとされた事例
          (5) 重加算税と過少申告加算税の関係
          (6) 本件重加算税賦課決定処分の対象とされた八〇〇〇万円の脱漏所得のうち五二五〇万円については仮装・隠ぺいの事実は認められないが、当該部分については過少申告加算税を賦課する限度においてはなお効力を有するとして、当該部分に係る重加算税賦課決定処分のうち過少申告加算税額部分については適法であるとされた事例
【判決要旨】    (1)~(4) 省略
          (5) 重加算税賦課処分は、過少申告加算税の賦課処分をも包含する関係にあるので、重加算税賦課処分がその要件を欠き効力を有しない場合でも、過少申告加算税賦課の要件が存在する場合には、その限度において、なお処分の効力を有するものと解すべきである。
          (6) 省略
【掲載誌】     税務訴訟資料216号355頁

       主   文

 1 原判決を次のとおり変更する。
 2 被控訴人が平成二年一二月二八日付けでした控訴人の平成元年分の所得税に係る更正の請求に対する更正すべき理由がない旨の通知処分を取り消す。
   控訴人が平成二年六月二九日付けで被控訴人に対してした平成元年度所得税の修正申告の「申告し又は処分の通知を受けた額」中、分離短期譲渡所得を一億二三五五万円に、課税される所得金額を一億二二三五万三〇〇〇円に、税額、申告納税額及び第三期分の税額をそれぞれ六二七二万九一〇〇円に更正する。
 3 被控訴人が平成二年七月三一日付けでした控訴人の平成元年分の所得税に係る重加算税賦課決定処分(ただし、平成四年九月二二日付けの国税不服審判所長の裁決により一部取り消された後のもの)は、八一九万二〇〇〇円を超える金額の部分を取り消す。
 4 控訴人のその余の請求を棄却する。
 5 訴訟費用は、第一、二審を通じ、これを五分し、その四を控訴人の、その余を被控訴人の各負担とする。

       事実及び理由

第一 当事者の求めた裁判
 一 控訴の趣旨
  1 原判決を取り消す。
  2 被控訴人が平成二年一二月二八日付けでした控訴人の平成元年分の所得税に係る更正の請求に対する更正すべき理由がない旨の通知処分を取り消す。
  3 被控訴人が平成二年七月三一日付けでした控訴人の平成元年分の所得税に係る重加算税賦課決定処分(ただし、平成四年九月二二日付けの国税不服審判所長の裁決により一部取り消された後のもの)を取り消す。
  4 訴訟費用は第一、二審を通じ被控訴人の負担とする。
 二 控訴の趣旨に対する答弁
  1 本件控訴を棄却する。
  2 控訴費用は控訴人の負担とする。
第二 当事者の主張
   次のとおり訂正するほかは、原判決事実及び理由「第二 事案の概要」記載のとおりであるから、これを引用する。
   原判決三枚目表三行目から九行目までを次のとおり改める。
  「4 控訴人と株式会社星和ドムス(以下「星和ドムス」という。)は、平成元年一月一三日、控訴人が星和ドムスに対し本件物件を売買代金九〇〇〇万円で売り渡す旨の同日付けの契約書を作成するとともに、星和ドムスが別紙物件目録三記載の土地(以下「代替土地」という。)上に同目録記載の建物(以下「代替建物」といい、代替土地と併せて「代替物件」という。)を建築した上、控訴人に対し、代替物件を売り渡し、かつ、二七五〇万円を支払う旨の合意をした。」